とりあえずタカトシの家に寄った私たちは、カナの申し出を受けて軽く休ませてもらう事になった。
「着替えを用意しますので、ちょっと待っててくださいね」
「タカトシ、済まないがタオルを貸してもらえるだろうか? カナと二人で使っていたから、ちょっと濡れてしまった」
「別にそれは構いませんが、何故義姉さんは折り畳み傘を使わなかったんですか?」
タカトシが気にしてるように、カナは自分の折り畳み傘を使わずに、森の置き傘であるこの傘を私と二人で使ったのだ。お陰で私もカナも、少しずつ濡れてしまったのだ。
「だって、せっかくシノっちと友好を深めるチャンスだったので」
「傘を二人で使って、どうやって友好を深めるんですか」
タカトシは呆れながらタオルを差し出し、すぐにキッチンへ消えていった。
「ところで、何故森まで来てるんだ?」
「えぇ……さすがに一人であの場から帰るのは寂しかったので」
「そうか」
確かにあの場で「はいさようなら」と私が言われたとしたら、寂しい気持ちになるだろうな。とりあえず嘘を吐いている様子は無いし、タカトシが気にしてないなら別にいいか。
「はい、シノっち」
「悪いな……って、何故下着なのだ?」
「えっ? だって全部濡れたでしょ?」
「私にカナのサイズのブラを着けろというのか……」
同じ会長で発情スイッチも同じ、その他にも似ている私たちだが、決定的に違う部分があるのだ。それを分かっていてカナは自分の下着を私に渡してきたんだろうな。
「でも、後はコトミちゃんのしかないよ?」
「濡れてないからそのままで構わん!」
カナに下着を投げ返して、私はリビングへ向かう。私たちのやり取りを見ていた森も、苦笑いを浮かべながらリビングへやってきた。
「コーヒーと紅茶、どっちが良いですか?」
「ではコーヒーを」
「私も同じで構いません」
リビングに顔を出した途端に、タカトシが飲み物の希望を聞いてきた。こいつは本当にマメだな……畑が嫁に欲しい男子ナンバーワンだと言っていたが、あながち大袈裟でもないかもしれないな。
タカ兄から折り畳み傘をもたされたおかげで、私はそれ程濡れなかったけど、トッキーとマキはびしょぬれになってしまったので、とりあえずウチに避難してもらう事になった。
「ただいまー! タカ兄、タオル頂戴」
「コトミ、お前傘……あぁ、そういう事。すぐに持ってくるから、ちょっと待っててね」
タカ兄は私に小言を言う勢いで玄関に顔を見せ、すぐにマキとトッキーに姿を見て納得したようにタオルを取りに行った。
「こんな事言うと津田先輩に失礼だけど、今の完全にお母さんっぽかったね」
「タカ兄はお兄ちゃん兼お母さん、時々お父さんだからね~」
「お前が自立してくれれば、そんなことしなくてもいいんだがな」
「げっ、タカ兄」
タカ兄がいないから言えた事だったのに、聞かれていたとは……
「二人も上がっていって。すぐに暖かいものを用意するから」
「お構いなく」
「遠慮しなくて良いって。タカ兄だって好きでやってるんだし」
「そうかもしれないけど、コトミが言う事じゃねぇと思うぞ」
トッキーのツッコミに、マキも頷いて同意する。タカ兄は苦笑いを浮かべてるのを見ると、どうやら私は三人にツッコまれたようだ。
「コーヒーと紅茶、どっちが良い?」
「すみません、それじゃあ紅茶で」
「私も」
「了解。コトミ、お前はとっとと宿題を終わらせろ」
私には用意してくれないのかというツッコミを入れようとしたけど、先に怒られちゃった……というか、本当にお母さんみたいだよね、タカ兄って……
タカトシさんの家で雨宿りをしていたけど、結局雨は止まなかった。人数分の傘を貸してくれたタカトシさんに、私たちはお礼を告げる。
「済まないな、タカトシ。この傘は綺麗にして返すから」
「ビニール傘ですから、そこまで気にしなくてもいいですよ」
「お茶までご馳走になって、本当にありがとうございました」
「気にしなくて良いって。それに、時さんは宿題、分からなかったみたいだしね」
「申し訳ないっす……」
コトミちゃんが宿題をするついでに、時さんはタカトシさんに分からない部分を教わっていたのだ。その説明を横でコトミちゃんが盗み聞きしてたように思えたけど、タカトシさんは気づかないふりをして見逃したのだった。
「それじゃあサクラっち、明日また会いましょう」
「あれ? 会長は帰らないのですか?」
しれっと部屋の奥にいるカナ会長に声をかけると、会長は自慢げに胸を張って答えた。
「私はこのままタカ君の家に泊まって、コトミちゃんの勉強を見てあげなければいけませんので。このままだと良くて留年ですからね」
「そ、そこまで酷くないですよ~。遅刻の回数も減ってるし、何とか無事に進級できると思いますよ」
「何とかじゃ困るんです。確実に進級出来るように、私がしっかりとコトミちゃんの面倒を見てあげますので」
「そんな~!? シノ会長、助けてください!」
「何だったら私も泊まってコトミの面倒を見てやってもいいが?」
「……お義姉ちゃんだけで間に合ってます」
さすがに二人がかりは困るのか、コトミちゃんは疲れ果てたように答えた。そのやり取りをタカトシさんは、呆れた様子で眺めていたのが印象的でした。
反省したかと思ったらまた……