桜才学園での生活   作:猫林13世

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確かに殆ど持ってないな


失われていくもの

 生徒会室で作業していると、珍しく横島先生がやってきた。この人、生徒会顧問だけど全然顔を出さないし、殆ど役に立たないんだよな……

 

「んー……」

 

「どうかしましたか?」

 

「天草、ちょっと太ったか?」

 

「なっ!?」

 

 

 めったに来ないくせに、来たら来たで失礼な事を……

 

「寒いから厚着してるだけで、体重はキープしています!」

 

「そうか、悪かったな」

 

 

 全然悪びれた様子もなく謝る横島先生に、私は本気で抗議してやろうかとも思ったが、タカトシから鋭い視線が向けられているので止めておくことにした。今は横島先生と遊んでる暇なんて無いしな……

 

「よく見れば津田も大きくなったよな。初めて見た時は、もう少し小さかった気がする」

 

「そうですかね? 別に背が伸びたという実感はありませんけど」

 

 

 横島先生の言葉を軽くあしらって、タカトシは作業を続ける。こいつみたいなあしらい方が私も出来ればなぁ……

 

「七条もデカくなったな」

 

「そうですか~? でも、言われてみれば確かに最近ブラが合わない気がしてるんですよね~」

 

「「くそっ!」」

 

 

 アリアの発言に舌打ちしたのは、私だけじゃなかった。タカトシの陰に隠れて気が付かなかったが、萩村もいたんだったな……

 

「じゃ頑張ってね」

 

「アンタ何しに来たんだよ。暇なら手伝え」

 

「私はほら、この後予定があるから」

 

「今日は職員会議も何もないでしょうが」

 

「個人的な予定よ。久しぶりに若い男が捕まったから」

 

「ろくな用事じゃねぇな……」

 

 

 付き合うの馬鹿らしくなったのか、タカトシはそのまま横島先生を生徒会室から追い出して、残りの作業を黙々と進めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会作業を終わらせて帰る頃には、降り始めていた雪が積もっていた。

 

「これは明日、雪かきをする必要があるな」

 

「それでしたら、早めに集合して生徒が通学してくる時間前に終わらせないといけませんね」

 

 

 会長とタカトシが真面目な話をしている横で、私は別の事を考えていた。

 

「子供の頃って雪を見るとはしゃいでいたけど、そう考えると今は億劫なものでしかないですね」

 

「確かにそうだな。そう考えると、この歳でも大分純真さが失われているのかもしれないな」

 

「アンタが言うと、説得力があって嫌ね」

 

「どういう意味?」

 

 

 タカトシがニッコリと笑みを浮かべながら私の顔を覗き込んできたので、私はゆっくりとタカトシから視線を逸らした。べ、別に怖くはないけど、なんとなくあの視線を受け続けられる自信が無かったのだ。

 

「だったら雪かきの負担を減らす為に、今の内から雪を消化しようではないか!」

 

 

 そう言って会長は雪を手に取り、軽く握ってから私に投げつけてきた。

 

「やりましたね!」

 

「わー雪合戦ですか~。トッキー、マキ、負けてられないね」

 

「私は別に……わっぷ!?」

 

「ハッハー、隙だらけだぞ八月一日!」

 

「やりましたね!」

 

「トッキーも背中がら空きだよ~」

 

「テメェ、コトミ! やりやがったな!」

 

 

 いつの間にかやってきたコトミちゃんたちも加えて、私たち五人は本気で雪合戦を始めたのだが、その光景をタカトシと七条先輩はしみじみと眺めていた。

 

「まだ純真さを失ってないようですね」

 

「タカトシ君はやらないの~?」

 

「俺は止めておきます。それと、ちょっとこの場を外しますね」

 

 

 私たちを残してタカトシはどこかに行ってしまったが、会長はそれに気づかない程雪合戦に熱中している。

 

「何処を見ている、萩村!」

 

「なっ、卑怯ですよ!」

 

 

 よそ見をしていた私に向かって本気で雪玉を投げてきた会長に反撃する為、私も意識を完全に雪合戦に向けた所為で、タカトシが何処に行ったか聞くのを忘れてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私以外の全員が雪合戦で体力を消費し、その場に倒れ込んでいると、何処かに行っていたタカトシ君が戻ってきた。

 

「あぁ、やっぱりこうなりましたか」

 

「お帰り~。何処に行ってたの~?」

 

「一度家に帰って、身体が温まるものを作って持ってきました」

 

 

 そう言ってタカトシ君は、全員にコップを渡して、温かい飲み物を配り始めた。

 

「タカ兄、これは?」

 

「生姜湯だ。風邪予防にも良いし、身体が温まるから」

 

「さっすがタカ兄。私たちが体力の限界まで遊び倒すのを読んでたんだね~」

 

「途中で止めるかどうするか悩んだんだが、多分止めても無駄だっただろうしな」

 

 

 そういいながら、全員に配り終えたタカトシ君は、私の許にやってきて、私にも生姜湯を注いでくれた。

 

「アリアさんも。寒い中突っ立ってたので」

 

「ありがと~」

 

 

 普通なら女子の私が用意したりするのかもしれないけど、タカトシ君は主夫だし敵わないよね~。

 

「うん、美味しい」

 

「タカ兄、おかわり!」

 

「お前は……飲み過ぎてトイレが近くなっても知らないからな」

 

「大丈夫だって。最悪、そこらへんですればいいんだし」

 

「……お前、少しは年頃の少女としての恥じらいを持てよな」

 

「緊急時に恥じらいも何も無いって。それに、ちゃんとトイレを探して見つからなかった時は仕方なくって感じだからさ」

 

「もういい……」

 

 

 コトミちゃんの発言に呆れたタカトシ君は、盛大にため息を吐いて首を数回左右に振ったのでした。




最初からなかったかもしれないけど

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