三者面談を終えて、家に帰ってきてからというもの、お義姉ちゃんの目が怖いのなんの……恐らくタカ兄から頼まれたんだろうけど、そんな顔しなくても逃げたりしないのに……
「さぁコトミちゃん。早いところ宿題を片付けましょう」
「そんなに急がなくても良いんじゃないですか~? とりあえず、お茶でも飲んで落ち着きましょうよ」
「そうやっていつも逃げるじゃないですか。今日という今日は逃がしません。タカ君の胃の痛い思いを解消させるためにも、コトミちゃんにはみっちりと勉強してもらって、少しでもまともになってもらわないといけませんので」
「最近は大人しくしてるじゃないですか~! 今日だって、まだ三エロしかしてませんし」
少し前の私は、一日十エロくらい当たり前だったのに、今はたったの三エロなのだ。私にとってこれはかなりの成長だと思うんだけどな。
「学校から帰ってきたばかりで三エロは多すぎです。とにかく、宿題を出して机に向かってください」
「今日は宿題なんて無いです」
「嘘はダメです。タカ君が先生から聞いているんですから」
「何故ラスボスにそれを教えてしまうんだ……」
そりゃ、タカ兄と私、どっちを信用するかと問われれば、私だって迷わずタカ兄と答えるだろう。だけども告げ口なんて先生も酷いことするな……
「この間のテストで証明したように、コトミちゃんはやれば出来る子なんですから、しっかりとやってください」
「でも、切羽詰まらないとやる気にならないんですよ~」
「なら、次生徒指導部に呼び出されたら、コトミちゃんのゲーム全てを捨てる、というのはどうでしょうか?」
「や、やめてくださいよっ!? そんなことされたら生きていけません!」
ゲームは私の生き甲斐なのだ。それを捨てられたらやる気になるどころか、全てにおいて無気力になってしまうだろう。
「そうされたくないのでしたら、しっかりと規則正しい生活を送って、少しでもタカ君の負担にならないように努めてください」
「はーい……」
タカ兄からはお小遣いを、お義姉ちゃんからはゲームを人質に取られてしまい、私は仕方なく鞄から宿題を取り出そうとしたが――
「あっ、学校に忘れてきた」
「………」
「まだタカ兄が学校にいるだろうし、持ってきてもらいます」
お義姉ちゃんが呆れた視線を向けてきたので、私は大慌てで携帯を操作してタカ兄に電話をかける。
『何か用か?』
「あっ、タカ兄! 宿題のプリントを忘れてきちゃったから、私の机の中から持ってきてくれないかな?」
『……それじゃあ俺が帰るまで、義姉さんに今度のテスト範囲の復習を見てもらってろ』
「えー! それじゃあ勉強時間が長くなるじゃん。少しくらい遊んでちゃ駄目なの?」
『駄目だ。お前の場合、少しじゃ済まないだろうからな。というわけで、義姉さんに代わってくれ』
タカ兄の威圧感が、電話越しから伝わってきたので、私は大人しくお義姉ちゃんに携帯を渡した。
「もしもしタカ君? ……うん、うん……はーい、分かった。それじゃあ、コトミちゃんを立派な女の子にする為に頑張るから」
お義姉ちゃんの言葉だけを聞いていると、なんだか卑猥にも聞こえなくはないけど、恐らく真剣に話してるんだろうな……というか、最近お義姉ちゃんも下ネタ言わなくなってきたし。
「というわけでコトミちゃん。次の試験の範囲を教えて」
「まだ全部終わってないから分かりませんが、この前はここまででした」
「ということは、恐らくここら辺までは確実に範囲に入るでしょうから、今終わってるところは完璧にしておきましょう」
「この前テストが終わったばかりなのに、もうテスト勉強しなければいけないのですか~?」
「コトミちゃんの場合、一週間やそこらの付け焼刃じゃ身につかないから、徹底的に予習復習をして、確実に身に着けてもらった方が後々楽が出来ますからね」
「学校の勉強なんて、世間に出たら殆ど役に立たないものばかりじゃないですかー!」
「コトミちゃんはそれ以前の問題なんですからね? このままじゃ、世間に出る前にドロップアウトです」
お義姉ちゃんの言葉に、私は自分の状況を改めて自覚させられた。留年にリーチ、更に下手をすれば退学にさせられるかもしれないのだ。確かにドロップアウト一直線だと言われても仕方がないな……
「タカ君だって、一生コトミちゃんの面倒を見てくれるわけではないのですから、家事が出来ない分、勉強はしっかりとしなければいけませんよ」
「家事が出来ないって言い切られるのも女としてどうなのかと思いますが、タカ兄から料理禁止令が出されてしまってる以上、勉強で成果を出すしかないですもんね」
私の料理は食材を無駄にするだけだと怒られ、タカ兄から料理禁止令を出されているのだ。同様に掃除しても散らかすだけ、洗濯しても洗剤を入れすぎて泡だらけにするなど、タカ兄の手間を増やすだけの結果に繋がっているので、そろそろそっちも禁止令が出されるだろう。そうなるといよいよ、勉強で評価を上げるしか、私に残された道は無いのだ。
「とりあえず英語からですね」
「私が苦手な教科ベストスリーに入る教科ですね」
「そのランキング、ほとんどが同率一位じゃないですか」
「そ、そんな事ないですよ~?」
お義姉ちゃんに見透かされたような気がして、私は視線を逸らして苦笑いを浮かべるのだった。
全教科同率一位のランキング……