もうすぐ夏休みという事で、学校中が浮かれている感じがする。かくいう私も、タカ兄たちが死守してくれた夏休みをどう過ごそうかで頭を悩ませているところだ。
「トッキーはやっぱり部活中心になっちゃうの?」
「だろうな。大会も近いわけだし、どうしてもそうなるだろうが、主将がいろいろと危ないらしいから、何時もよりかは休みが多いらしい」
「ムツミ先輩、今回も赤点ギリギリだったみたいだしね」
タカ兄から聞いた話だけど、ムツミ先輩はギリギリセーフで、柳本先輩は余裕でアウトだったらしい……下手をすれば柳本先輩ポジは私だったのかもしれないと思うと、これからはもう少し勉強頑張った方が良いなと思えてくる。
「コトミはどうするの?」
「私? とりあえず積みゲーを崩して、それから少しくらいはアルバイトした方が良いのかなって思ってる。夏休みなら、短期のバイトとかあるだろうし」
「勉強はどうするのよ? また津田先輩に泣きつくの?」
「たぶんお義姉ちゃんが毎日ってほどウチに来るだろうし、質問しながら進めるつもり」
「コトミにしては殊勝な考え方ね。漸く自分の成績のヤバさに気が付いたの?」
「今回赤点だったら、いろいろとヤバかったからね……」
まさかこの時期で留年リーチだったとは思わなかったし、下手をすれば退学と言われれば、さすがの私でも危機感を覚えるよ……
「それじゃあさっそく、短期のアルバイトが無いか探しに行こう!」
「学校でか?」
「学校が推薦してるアルバイトなら危険も少ないだろうし、何よりそこまで遠くに行かなくてもいいだろうしさ」
「電車賃が無いわけね……」
「今月も気になる新作が多くてさ……」
既にお小遣いも半分以上消費してしまってるし、これ以上タカ兄にお小遣いをねだるのも問題があるだろう……主に来月のお小遣いに響く恐れがあるのだ。
「とりあえず生徒会室に行けば何か分かるかもしれないし、さっそく出発だー!」
「悪いが私はパス。この後部活だからな」
「頑張ってね、トッキー」
「トッキーも赤点回避したからといって、油断してるとまたギリギリになっちゃうよ」
「コトミに言われたくねー」
トッキーと別れて、私とマキは生徒会室を目指す。たぶんマキはアルバイトしなくてもお小遣いがあるだろうし、純粋にタカ兄に会いたいだけなんだろうな……
一学期も残り数日になり、生徒会業務も減ってきた今日この頃、我々は生徒会室でお茶を飲みながら世間話をしていた。
「この間カエデちゃんが保健室に運ばれたのって、畑さんにからかわれたからなんでしょ?」
「そうみたいですね。何を言われたのかは分かりませんが、運んだのは俺ですから」
「アンタ、何時から搬送業なんて始めたのよ」
「お金貰ってないけどな」
「そういえば、夏休みの予定は皆どうなってるんだ?」
我々生徒会役員は、何日か学校に来なければいけない日があるが、それ以外は普通の生徒と変わらぬ夏休みを贈れるはずだ。そうなればまた、遊ぶ予定を立てなければいけなくなってくる。
「私はお稽古とかが無ければ大丈夫だよ~」
「私も特に問題はありません」
「俺もバイトが無ければ大丈夫ですよ」
「バイトか……」
そういえば夏休みの間、学校が紹介しているバイトをする生徒もいると聞くな……何かやってみるのも悪くないかもしれない。
「失礼しまーす」
「コトミ? 何かあったのか?」
「あっ、タカ兄。夏休みの短期バイトってどこで調べればいいの?」
「バイトするのか?」
「さすがに散財し過ぎまして……」
「丁度良いところに来た! 私たちも今確認しに行こうと思ってたところだ」
「そうなんですか?」
萩村が怪訝そうな目で尋ねてきたので、私は今さっき思いついたことを全員に話す。
「確かに、バイトをすることで社会経験を積むことが出来るかもしれませんね。学校が推薦するバイトなら、怪しいものも無いでしょうし」
「スズちゃんも学校の紹介なら、断られることも無いだろうしね~」
「断られることを前提で話すんじゃない!」
「まぁまぁスズ先輩、落ちついて落ち着いて。それじゃあ会長、一緒にその募集広告が掲載されている場所まで行きましょう!」
「それは構わないが、八月一日もバイトするのか?」
「コトミ一人じゃ不安だったんですが、先輩たちが一緒なら大丈夫だと思いますので、私は止めておきます。宿題も多そうですし」
まぁコイツはコトミと違って計画性がありそうだしな。まだ小遣いも残ってるんだろう。
「では、さっそく行くとしよう」
「はい!」
ノリノリでついてくるコトミと、その後ろから楽しそうなアリアの雰囲気が伝わってくる。さらにその後ろからは、疲れ果てたようなタカトシと萩村の雰囲気も何となく伝わってきた。
「ここがその掲示板だ! 学校の紹介だから、ブラックバイトなんて事はないぞ!」
「OGの紹介は、大丈夫なんですか?」
「ん?」
タカトシがそう言ったことで、私は漸く古谷先輩が掲示板に募集広告を貼ろうとしている事に気が付いた。
「なにやってるんですか?」
「いや~、知り合いの海の家でバイトを探してるんだが、大学生には相手されなかったからな。泊まり込みだし、車で迎えに来てくれるから、交通費も掛からないぞ? 良かったらどうだ?」
「それにしましょう!」
「えぇ……」
コトミがノリノリで決定したのを見たタカトシが、嫌そうな顔をしたが、私たちもそのバイトに興味があったので、それに決定したのだった。
というわけで、コトミのバイト決定