桜才学園での生活   作:猫林13世

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応援したいのかからかいたいのか……


カエデの恋路

 正式なテスト結果が貼りだされて、私は一年の補習者にコトミさんの名前がない事を確認してホッと一息ついた。

 

「おんや~? 何故風紀委員長が一年の結果を見てホッとしているのですかね~?」

 

「神出鬼没にもほどがあるわよ、畑さん」

 

 

 背後から現れた畑さんにツッコミを入れるが、果たして効果はあっただろうか……とりあえず反省のポーズを取った畑さんに視線を向け、私はホッとした理由を告げる。

 

「補習者にコトミさんの名前が無かったので」

 

「そういえば津田副会長の家でお泊りして、妹さんに勉強を教えていたんですね」

 

「私だけが泊ってたわけじゃないですが」

 

「もちろん知ってますよ~。でも、貴女が津田副会長の部屋に泊まったのも知っているので、何かなかったか聞きに来たんです」

 

「何もないですよ……というか、何かあると思ってたんですか?」

 

「正直に申しますと、貴女が裸で迫ったとしても、津田副会長は冷静に貴女に服を着させ、それからお説教すると思ってます」

 

「ありえそうですね」

 

 

 タカトシさんは女性に興味がないわけではないでしょうが、裸を見ても興奮するよりも先に呆れて、そして冷静にお説教してくるイメージが強いのよね……

 

「せっかくの夏休みですし、何処かに二人きりで出かけたりしてみてはいかがでしょう?」

 

「何で私がタカトシさんと二人きりで?」

 

「別に私は『誰と』だなんて言ってませんが?」

 

 

 畑さんに嵌められた感じになってしまったが、今のは完全に私の自爆でしょうね……確かに畑さんは、誰とだなんて言ってなかったもの。

 

「これでも貴女の友人として、貴女の恋路を応援しているんですよ」

 

「畑さん」

 

「まぁ、貴女の場合は好きになる以前の問題でしたから、こんな展開になるなんて思ってもいなかったんですけどね」

 

「男性恐怖症、治ってきてると思うんだけど」

 

「では、おもむろに男子生徒の身体に触ったり出来ますか? もちろん、津田副会長ではない男子生徒です」

 

「それは……」

 

 

 想像しただけで身の毛がよだつような思いをする……なんだか以前よりも悪化してるんじゃないかしら……

 

「その反応で分かる通り、貴女は津田副会長以外の男子生徒に触れる事はおろか、話しかけるのも嫌だと感じているのではありませんか? 職務上、後輩風紀委員男子は仕方ないとしても、それでも積極的に話す事はしませんよね?」

 

「確かに……言われてみればそうかもしれない」

 

 

 後輩だって分かってるのに、それでも逃げ出したい気持ちになってるわ……これって、治るどころか悪化してるって事よね……

 

「こうなるともう、貴女が結婚するなら津田副会長しかいない、という事になってしまいます」

 

「けっ!?」

 

「あっ……」

 

 

 畑さんが驚いた声を上げたのは聞こえたけど、それ以降何を言っていたのか私には分からない……だって、気絶したんだもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畑さんに呼び出されて嫌な予感はしていたが、案の定気を失ったカエデさんを保健室に運んでほしいと頼まれたのだった。

 

「今回は何をして気絶させたんですか?」

 

「大したことはしてませんよ。ただ津田副会長と結婚と言ったら気を失ってしまいまして……」

 

「何でそんな話題になったのか、詳しく聞かせてもらっても構わないですよね?」

 

 

 満面の笑みで畑さんを問い詰めると、意外な事にあっさりと白状し始めた。

 

「――というわけです」

 

「俺以外にも大丈夫な相手が現れるかもしれないのに、何で決めつけてるんでしょうか?」

 

「現状、貴方以外の男子生徒と話す事はおろか、近づく事すら出来ない彼女が、これから先貴方以上の男性と出会える確率がどれほどあるのでしょうか?」

 

「ゼロではないと思いますが」

 

「でも、限りなくゼロに等しいと私は思ってます。五十嵐さんの友人として、貴方との関係を成就させるのが一番だと思っただけです」

 

「そうですか、友達思いですね、畑さんは。それで、本音は?」

 

「な、何のことでしょう……」

 

 

 今のが百パーセント畑さんの本音とは思えなかったので問い詰めると、案の定畑さんは挙動不審になる。

 

「大方、カエデさんが慌てふためく姿や、照れたりした姿を隠し撮りして商売するつもりだったんでしょうが、そんなこと許しませんからね」

 

「それ以外にも、修羅場になってくれればとか思ってました、すみませんでした」

 

「正直に白状したので、気持ち制裁を緩めてあげますよ」

 

「こ、こんなやり取りしてる場合ではありませんよ。早いところ五十嵐さんを保健室に運ばなければ! さっきから他の男子生徒が気を失った風紀委員長の事を、獣の如く狙っていますので」

 

「貴女の思考回路が心配になってきましたが、確かに何時までも廊下に寝かしておくわけにもいきませんね」

 

 

 畑さんの思惑に乗るのもあれだったが、何時までもこんな所で寝かせておくわけにもいかないのも確かなので、俺はカエデさんを抱き上げて保健室まで運ぶことにした。

 

「お姫様抱っこをするのが様になってますね」

 

「甚だ不本意ではありますが、ここ最近こういう事をする回数が増えてきている気がするので」

 

「名のある男子生徒が貴方くらいしかいませんからね~」

 

 

 畑さんの発言は、かなり危ない感じがしたので、俺は取り合わずに保健室まで急ぐことにしたのだった。




気絶してたら進展しないだろ……

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