最近部費を不当に請求している部活がある、という噂を耳にした。我が校の部活動でそんなことがあるとは思いたくないが、噂が流れている以上調べなければならない。
「――というわけで、本日は部費が適切に使われているか調査するため、各部に領収書を提出してもらおうと思う」
「疑わしいのは新聞部の畑さんですが、あの人自分で稼いだ分も部費に組み込んでいるようなので、今度の予算会議で新聞部の分の部費は削ってもよさそうですね」
「その辺りはこの調査が終わったら萩村と話し合ってくれ」
「そうですね。スズは会計ですし、俺と二人で再分配の話し合いは必要でしょう」
タカトシと萩村の二人きりで話し合いをさせるのは、私たちが卒業した後の生徒会の事を考えれば当然なのだが、なんだか気に入らないと思ってしまうのもまた、仕方がない事なのだ。
「まずはコーラス部だな」
「はい。こちらが領収書になります」
五十嵐が提出した領収書を精査し、問題ない事を確認する。
「コーラス部は問題なさそうだな」
「当然です。我が部はクリーンさが売りですからね!」
「あ、この領収書はNGですね。部活動以外の買い物ですし」
「あっ、それは個人的な領収書でした。何処に行ったのか探していたんですが、まさか部活の領収書の中に混じっていたとは」
「ということは、これは部費で落としたわけじゃないんだな?」
「当然です!」
「ならば良し!」
コーラス部の領収書をまとめ、全員が問題なしと判断して領収書を返す。
「次はロボット研究部だな」
「ウチの領収書の殆どは部品代です」
領収書を提出する轟は、何処か自信に満ち溢れている。この態度から察するに、部費の不正利用などしていないだろう。
「これがアクチェーター代で、そっちが電子デバイス代。ホイール代にセンサーボード、ACバッテリー――」
「横文字ばかりで分からん……」
英語は得意だが、機械に疎い私は、それが本当にロボット研究に必要なのか分からないが、タカトシや萩村が口を挿まないのを見れば、必要な物なのだろうという事は分かる。
「――って! バイブ代とオ〇ホ代って何だ! どう考えてもロボットと関係ないだろ!」
「今回のロボットはふ〇なりベースなので」
「そっか。それならOKだ」
「「OKなわけないだろうが!」」
私が納得したタイミングでタカトシと萩村のツッコミが入る。
「この領収書は認められませんので、部費は返還していただきます」
「津田君とスズちゃんがそう言うなら仕方ないね。後で返還しておきます」
轟も素直に諦めてくれたので、これでロボット研究部も問題なし。
「次は柔道部だ」
「よろしくお願いします」
「この交通費や食事代って、遠征試合のもの?」
「うん!」
「ならOKだ」
「でも、三葉にしては飲食代が安い気が……」
「もー、タカトシ君ったら。大盛チャレンジで何時もクリアしてるだけ!」
「赤面するほど内容に可憐さは無いよ」
その後も各部活に提出してもらった領収書を精査し、問題のある領収書に関しては返還請求をし、残るは新聞部だけになった。
「やっ!」
「今回この調査は新聞部の為に開いたと言っても過言ではないからな。早速領収書を提出してもらおう」
「いいですよ」
やけにあっさりと提出した畑だったが、タカトシが疑わしい目を畑に向けている。もしかして何か隠しているのだろうか。
「このスパリゾート代は認められません」
「これって、この間私たちが行った場所よね?」
「えー、あれは取材の為だったんだから、正当な請求ですよ~」
「個人的ストーカーの間違いではありませんか?」
「……申し訳ございませんでした」
タカトシが一睨みすると、畑はあっさりと非を認め部費の返還請求を受け入れた。
「その他諸々、精査の結果部費利用の正当性が認められないものが複数ありましたので、生徒会として返還請求をします」
「こんなにですか~? 何個かはちゃんと桜才新聞に掲載したものの取材ですし、部費として認めてくれても良いんじゃないですかね~?」
「トイレットペーパー代やカップラーメン代というのは、例のアパートでの張り込み取材の為ですよね? あれはまだ結果が出ていないので部費として認められません」
「では、結果が出て新聞に掲載出来れば、部費として認めてくださると?」
「それが捏造とかでは無ければですがね」
「分かりました。我々新聞部は例の河川敷のUMAの正体を追求します!」
部費として認めさせるためだけに頑張るのは違うと思うが、新聞部全体にやる気が入ったのならそれはそれで良いのかもしれないな。
「――あっ、それから畑さん個人の帳簿も提出してもらいますので」
「な、何のことですか?」
「恍けても無駄です。桜才新聞を裏で販売しているのは知っています。本当に学園と新聞部に入れているのかどうかの調査も必要ですから」
「ちゃんと必要経費+α以外は入れてますよ」
「その+αが何なのか調査する必要があると思いますので」
「持ってくるの大変なので、津田副会長が部室に来ていただけますか?」
「提出していただけるのでしたら、それで構いません。では会長、俺は新聞部部室に行ってきます」
我々はタカトシを見送り、調査が終わった打ち上げとしてお茶で乾杯して、タカトシを待つことにしたのだった。
裏帳簿は見たくないな……