桜才学園での生活   作:猫林13世

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出島さんはおまけです


本命組 アリア+α編

 カエデちゃんもスズちゃんも、シノちゃんもチョコを渡したから、今度は私の番。といっても、なかなか二人きりになれるタイミングが無いんだよね……

 

「アリア、後はお前だけだ」

 

「私たちは先に帰りますから、頑張ってくださいね」

 

「えっ? シノちゃん? スズちゃん?」

 

 

 タカトシ君が職員室に報告に行っている間に、シノちゃんとスズちゃんは気を利かせて先に帰ってしまった。

 

「戻りました……? シノ会長とスズは?」

 

「えっと……先に帰っちゃったかな」

 

「はぁ……」

 

 

 タカトシ君は不思議そうに首を傾げたけど、私だけが残っている理由が分かったのか、特に追及はしてこなかった。

 

「それじゃあ、俺たちも帰りますか」

 

「あっ……うん、そうだね」

 

 

 今ここで渡しちゃえばタカトシ君とは校門でお別れ……なんだかもったいない気がしてこの場では渡せなかった。

 

「あのね、この後少し時間あるかな?」

 

「バイトがありますから、あまり時間は取れませんが……それでもいいですか?」

 

「うん! 出島さんにタカトシ君の家まで送ってもらうよう頼むから、一緒に来てくれる?」

 

「はぁ……それなら問題ないですが」

 

 

 出島さんの名前を出した時、ちょっとだけタカトシ君が嫌そうな顔をしたけど、結局は私に同行してくれるみたい。

 

「それじゃあ行きましょう」

 

「前みたいに間違えて高速に乗る、とかいう事が無いようにお願いします」

 

「大丈夫だよ。出島さんだってそこまでドジっ子じゃないから」

 

 

 タカトシ君の予定が詰まっている事は想定の範囲内だから、出島さんだって間違えないに決まっているもの。というか、この前間違えて高速に乗ったのだって、少しでもタカトシ君と長い時間一緒にいたかったからだしね。

 

「お待ちしておりました、お嬢様」

 

「出島さん、ありがとー」

 

「タカトシ様も、どうぞお乗りください」

 

「ありがとうございます」

 

 

 少し警戒する素振りを見せたけど、タカトシ君は思っている事を胸の内にしまって車に乗り込む。

 

「それで、何か用があって誘ってくれたんですよね?」

 

「うん……タカトシ君はもう色々な子に貰ってるだろうけど、これ私からのチョコレート。貰ってくれるかな?」

 

 

 拒否されるとは思わないけど、この瞬間は身体が震えてしまう……差し出した手が小刻みに震えているのが、実際に見なくてもよく分かるもの……

 

「ありがとうございます」

 

「モテモテですね、タカトシ様」

 

「コトミが袋を持ってきてくれていて助かりました。というか、何で俺ばっかりに……元女子高とはいえ、他にも男子はいるはずですが」

 

「タカトシ君だって分かってるんじゃない? 他のモブ男子にあげても描写されないって」

 

「それが何を言っているのか追及しませんが、義理を貰う程接点が無い相手からも貰っているので、どう反応すればいいのかちょっと困りますよ」

 

「タカトシ君のファンの子たちだと思うよ? ほら、畑さんがエッセイに顔写真を付けたり、裏でタカトシ君の写真を販売していたりしてるから」

 

「あの人は……」

 

 

 盛大にため息を吐きながらも、タカトシ君は数度首を左右に振ってその話題は終わりにした。相変わらずの切り替えの早さだよね。

 

「アリアさんに誘ってもらった時、正直助かったと思ったんですよ。さすがにこの量を持って帰るのは大変ですから」

 

「うん。だから誘ったんだ。チョコを渡すって理由もあったけど、タカトシ君が大変そうだからね」

 

「チョコの量も大変ですが、今日一日男子の視線が鋭すぎたのも原因で疲れました」

 

「有名税だもん、しょうがないよ」

 

「他の奴らも、もう少し勉強なり運動なりを頑張れば貰えるんじゃないか、とは言ったんですが……」

 

「どっちでもタカトシ君に勝つのは難しいと思うよ?」

 

 

 勉強はスズちゃんと並んで全科目満点のぶっちぎりのトップだし、運動神経だって他の追随を許さない程優秀。それに加えて文才があり家事万能。何処のチートキャラだと、他の男子たちが文句を言っても仕方ないと思えるほどのスペックの高さ。それだけでもずるいのにこの見た目だ。戦う前から負けを認めたくなるのも分からなくはないわよね。

 

「タカトシ君って、これは勝てないなって思える相手っているの?」

 

「何ですか、急に」

 

「いや、ちょっと気になったから」

 

「そうですね……コトミには娯楽関係では勝てそうにないですかね」

 

「他には?」

 

「上げたらきりがないですよ。アリアさんにだって、勝てない分野はたくさんあると思いますし」

 

「それって――」

 

「到着しました」

 

 

 タカトシ君に質問しようとしたタイミングで、丁度タカトシ君の家の前に着いてしまった。

 

「ありがとうございました」

 

「あっ、タカトシ様。これ、私からのチョコです。どうぞお召し上がりくださいませ」

 

「……変なものは入ってませんよね?」

 

「ご安心を。精々唾液くらいです」

 

「絶対に食わん!」

 

「冗談です」

 

 

 出島さんが一礼して車を出発させる。私は無言でタカトシ君に手を振りながら、聞けなかったことを後悔していた。

 

「申し訳ございません、お嬢様。少し遠回りしようかとも思ったのですが、タカトシ様の予定を考えると……」

 

「出島さんは悪くないよ。勇気を出せなかった私が悪いんだから」

 

「まだ、タカトシ様は誰か一人に決めたわけではございませんので、諦めるには早いかと思います」

 

「ほぼサクラちゃんで決まりっぽいけどね」

 

 

 後はカナちゃんやカエデちゃんも結構いい感じに思える。こう考えると、私ってあんまりタカトシ君と親しくないのかなぁ……ちょっと不安だよ。




うん……食べたくないな、出島さんのチョコは……

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