タカトシ君にチョコを渡したいんだけど、彼の周りには男子がいるのよね……せっかく七条さんのお家で一生懸命作ったんだから、義理チョコの体で渡すのもあれだし……かといって男子がいる前でタカトシ君に渡す勇気は無いしな……
「お困りですか?」
「つ、津田さん……」
「さっきからカエデ先輩から雌の匂いがプンプンしてますよ?」
「し、してないわよ!」
だいたい雌の匂いって何よ……
「私がタカ兄を呼び出してあげましょうか?」
「……何かまた怒られるようなことをしたんですか?」
「そ、そんなことありませんよ。私はただ、未来のお義姉ちゃん候補の手助けをしてあげようと思ってるだけですから」
「お、お義姉ちゃん!?」
それってつまり、私がタカトシ君と……って事よね? そりゃタカトシ君となら嬉しいけど……
「さっきから何をやってるんですか?」
「た、タカトシ君!?」
「あっ、カエデ先輩が妄想してる間に呼んできました」
「いや、気配で分かってたけど……それで、何でカエデさんとコトミが一緒にいるんだ?」
「タカ兄にチョコを渡したいけど、周りの目が気になって渡せなくなっていたカエデ先輩の手助けをしただけだよ」
「で?」
「はい?」
「何をしたんだ?」
「……小テストで赤点を取ってしまいました」
やっぱり後ろめたいことがあったみたいで、コトミさんはタカトシ君に睨まれて小さくなってしまいました。
「あの、これチョコです。タカトシ君ならもうたくさんもらってるでしょうけど、私からも」
「ありがとうございます」
渡す時に少しタカトシ君の手に触れてしまい、私は一瞬で顔を真っ赤に染め上げた。このくらいで恥ずかしがってたら何時まで経っても踏み込めないと分かっているのだけど、こればっかりは急に治せない。
「その顔いただき!」
「畑さん!?」
「今度の一面は『風紀委員長もただの雌!? 津田副会長に触れられて絶頂!』に決定ですね……あっ……冗談ですからその顔止めてください」
速攻でタカトシ君に捕まり、畑さんは今さっき撮った写真のデータをタカトシ君に没収された。
「何撮ってるんですか、貴女は……」
「日夜スクープを探すのが私の使命ですので!」
「最近無断欠席が多いと報告を受けていますが、なにを企んでいるんですか?」
「津田副会長は知っているでしょう? 河童ですよ」
「あぁ、まだ探してるんですか……」
畑さんを持ち上げたまま去っていったタカトシ君を見送りながら、私は渡せたことに対する達成感と、告白出来なかった残念な気持ちが合わさって、ちょっと複雑な気分になった。
タカトシが一人になるタイミングを狙っているのだけど、今日に限ってタカトシは中々一人にならない。恐らく他の男子がタカトシに本命チョコを渡そうとしている女子の邪魔をしているのだろう。
「スズちゃん、さっきからそわそわしてるけど、何かあったの?」
「な、何でもないわよ」
「トイレ?」
「そんなわけあるか!」
「もしかして特殊プレイの最中とか?」
「あんたと同じ扱いされるのは不本意よ」
既に渡しているムツミと、義理チョコだとはっきり伝えているネネが私の態度を見て不審がっている。ムツミは兎も角、ネネは分かってて言ってるんでしょうね……
「それにしても、津田君のモテっぷりは凄いね」
「タカトシ君、いろいろと手伝ってたりしてるしね。後輩からも感謝の気持ちを伝えられてるみたいだし」
「ムツミちゃんは? 津田君にチョコ渡したんでしょ?」
「うん。タカトシ君にはテスト前に予想問題集を貰ってるから。まぁ、答えが分からないから時間を見つけて聞いたりしてるんだけど」
「答えを見てわかったふりをするよりはいいと思うわよ」
前はムツミも勉強会に参加してたりしてたけど、最近はタカトシがムツミに問題集と答えを渡して、自分で採点させたりしてる。さすがのタカトシも、コトミと時さん、そしてムツミの相手を同時にするのは厳しいみたい。
「てか、あれだけタカトシの問題集とテスト問題が類似しているっていうのに、何でムツミは平均に届かないのよ」
「勉強は嫌いなんだよー」
「あっ、スズちゃん。津田君が一人になるっぽいよ」
ネネにそう言われて慌ててタカトシの姿を確認すると、男子たちに断りを入れて廊下に向かっていく。
「ちょっと行ってくる」
「頑張ってね」
ネネが人の悪い笑みを浮かべていたが、そんなことに付き合ってる暇はない。私は鞄の中に入っているチョコを取り出し、タカトシの後に続く。
「……何か用事?」
「やっぱり気づいてた?」
「隠れてるつもりなんてないだろ」
あっさり見つかってしまったので、私はタカトシにチョコを手渡した。
「一応手作り。食べたくなかったら捨てて良いから」
「捨てるわけないだろ。ちゃんと食べるさ」
「そう……」
「てか、さっきからチラチラと見てたのは、これを渡す為?」
「そ、そうよ」
「生徒会作業の後でいくらでも渡せたんじゃないか?」
「だ、ダメよ!」
「何で?」
「な、何でも! とにかく、あんたはまだ貰う相手がいるだろうけど、私のチョコ忘れないでよ!」
急に恥ずかしくなってきて、私は早足でこの場から逃げ出し、教室に戻った。戻ってきた私を見て、案の定ネネがにやにやしながら私になにかを聞きたそうにしてたけど、なにも進展していないので、私はネネの視線に気付かないふりをした。
ムズムズするのは何故だ……