年が明けて、我が家では義姉さん主催の着付け教室が開かれている。
「まさかカナが着付けまで出来るとは思ってなかったぞ」
「まぁ、このくらいなら平気ですから」
そう言って義姉さんは着物を持って客間へと消えていく。さすがに俺は混じるわけにはいかないので、人数分の昼飯を用意する事になっている。
「サクラさんは参加しないんですか?」
「私はこっちのお手伝いをしてから参加する事になってますので」
「そうですか」
わざわざ申し訳ない気持ちだが、恐らく断っても大人しく客間に行ってくれないだろうし、ここは大人しく手伝ってもらおう。
「まぁ、簡単なものなので、二人でやればすぐに終わるでしょうけどもね」
「何時もご馳走になって申し訳ありません」
「気にしなくていいですよ。ちゃんと食費は出してもらってますし」
毎回気持ち頂いているから、ここまで謙遜する必要は無いんだけどな……まぁ、そこがサクラさんらしいと言えばらしいのだが。
「ところで、タカトシさんは着物を着るんですか?」
「さすがに着ませんよ。動きにくいですし、皆さんだけで良いんじゃないですかね」
そもそも、家事をするので着物なんて着たらやり難くてしょうがない。ミスはしないだろうけども、コトミとかが汚しそうだからな……
「さて、後はこれを煮込めば終わりですので、サクラさんも客間へどうぞ」
「分かりました。では、後はお願いしますね」
サクラさんを客間に見送って、俺は仕上げをさっさと済ませる事にした。
お義姉ちゃんに着付けてもらったお陰で、私たちは晴れ着姿へと変身を遂げた。
「お義姉ちゃんは何でも出来るんだね~」
「やり方を覚えれば誰だって出来るよ。コトミちゃんだって頑張れば――」
「私は着付けの前に勉強を頑張らないといけないので」
「自覚してるだけ成長したね」
前はタカ兄に怒られるまで絶対に勉強などしなかった私だが、最近では怒られる前には勉強をするようになったのだ。それでも、理解力は伸びていないから、タカ兄とお義姉ちゃんに精一杯教えてもらっているのだけど……
「カナ、こっちも頼む」
「シノっちはそのままで可愛いと思います」
「何処見て言ってるんだ?」
「それはもちろん――あっ、いえ……着付けさせていただきます」
お義姉ちゃんがシノ会長の胸を見て何かを言いかけたが、すぐに謝って着付けを再開した。
「アリアっちは自分で出来るって言ってましたが、さすがはお嬢様という感じなのでしょうか」
「アリアの場合は、出島さんに頼むとえらい目に遭うからだと思うぞ」
「どういう意味です?」
「前に聞いた話では『着付けは出来ないが脱がすのは得意』とか言っていたから」
「なるほど……実に出島さんらしいですね」
あの人もタカ兄には敵わないようで、最近は少し大人しくなったってアリア先輩が言ってたなぁ~……我が兄ながらどれだけの女性を撃墜すればいいのだろう。
「さて、これで後はサクラっちだけになりました」
「お願いします」
「それじゃあ私たちは先にリビングに行ってるな」
「行きましょう、スズ先輩」
シノ会長とスズ先輩を引きつれ、私たちはタカ兄が待つリビングへ向かったのだった。
自宅で着付けてきたアリアが先にリビングで待っていたが、タカトシがまだキッチンにいたので抜け駆けにはならないだろう。
「それにしても、相変わらず豪華だな、アリアが着物を着ていると」
「そうかな~? シノちゃんだって似合ってるけど」
「私たちは自分で着られないからな。物珍しさもあるんじゃないか?」
容姿にはそれなりに自信はあるが、アリアを前にするとその自信も霞んでしまう……まぁ、あの見た目だしな、仕方ないか。
「タカ兄、ご飯まだ~?」
『少し待ってろ。てか、暇なら運ぶの手伝え』
「着物だから無理~」
少し離れたところで兄妹の会話が聞こえたが、コトミは相変わらずだな……まぁ、無理に手伝って着物を汚したら大変だしな。
「スズちゃんも可愛らしいね」
「ありがとうございます」
「着物っていいよね。結婚式も和風にしようかな」
「アリアが結婚とか言うと、なんだかまたお見合いでもあるのかと勘ぐってしまうぞ」
「最近は無いかな~。でも、いずれは結婚しなきゃいけないだろうし、その時はドレスも良いけど着物もいいかなって思っただけだよ」
「白無垢とか憧れるよな」
「結婚ですか~。子供の頃、タカ兄と結婚の約束をしました」
「微笑ましいな」
特に仲が良い兄妹だからな。そのくらいのエピソードがあってもおかしくはないだろう。
「あの時は昼ドラに影響されたんだっけか」
「……微笑ましさ皆無だな」
「今では世間に認められずともタカ兄と一緒に! とか考えたりしますね」
「相変わらずぶっ飛んでるわね……」
「だって、このままいけばタカ兄は立派に成長して稼ぎも良く家事も出来る万能夫になりそうですし、私は家事とか出来ないですからね……一生養ってもらおうかと」
「少しは自分で何とかしようとしろよ」
タカトシがため息を吐きながらお雑煮とおせちを持ってきた。何処から聞いていたのか分からないが、そのツッコミに私たちは安堵し、英稜の二人もリビングにやってきたのでタカトシが作ってくれたものを食べる事にしたのだった。
コトミは相変わらずダメっ子だなぁ……