生徒会OGである古谷先輩に誘われ、我々現役生徒会役員はワカサギ釣りにやってきた。
「それにしても、氷の上はやはり寒いな」
「サクラが必要だと聞いてたんですが、それなりに人数はいるみたいですね」
確かに辺りを見回せば、それなりに人数はいる感じだが、これが全員サクラだったら何だか虚しい気持ちになるんだろうな……
『さぁ始まります。第一回ワカサギ釣り大会! 今回優勝したチームには賞品があります』
「賞品があるんですね」
タカトシが興味薄な感じで呟く。まぁ、サクラとして参加するのだから、優勝したらまずいのかもしれないな。
『先日の文化祭に来てもらったトリプルブッキング、彼女たちの歌を収録した、このレコードが送られます』
「再生できないじゃないか……」
古谷先輩は古い物趣味とはいえ、今の時代レコードを再生できる家がどれほどあると思ってるんだろうか……
「とりあえず穴を掘りましょうか……」
「そうだな……」
多少呆れながらも、我々はワカサギ釣りを開始すべく氷に穴を空けていく。
「シノ会長は何処に掘ります?」
「君の隣が良いな」
「はぁ」
特に追及してこなかったので、私は用意していたボケを諦めた。最近タカトシがボケに付き合ってくれなくなってしまったな……
「じゃあ私はタカトシ君の前が良いな~」
「私はその隣で良いわ」
「では私は先に始めさせてもらうぞ」
タカトシが明けてくれた穴に糸を垂らし、私は一足先にワカサギ釣りを開始する。
「そういえばタカトシ、コトミのヤツは大丈夫なのか?」
「今日は義姉さんが来てくれてますので、宿題を見てもらってるんじゃないですかね」
「補習は免れたとはいえ、コトミは問題児で間違いなからな……」
生徒会室にある問題児リストの中に、コトミの名前がバッチリと記載されているくらいだからな……ちなみに、要注意人物は畑である。
「タカトシ君、この前のエッセイオンリー新聞、凄い勢いで売れてるんだってね~」
「英稜だけでなく、近隣の高校から新聞部に連絡が入っているようで……畑さんには利益の六割は学園に入れるよう忠告はしました」
「タカトシの事だから、販売自体を禁止すると思ったけど、意外ね」
「学長がノリノリで許可したのを、俺の力でどうにか出来るわけないじゃないか……」
そうなのだ。あの桜才新聞販売は学長が許可しているので、いくらタカトシでもその決定を覆す事は難しい。ましてや利益の半分以上を学園に寄付しているのだから、尚更である。
「って、さっそく引いてますよ」
「ほんとだ~」
会話をしながらもしっかりと周りを見ていたタカトシは、アリアの竿が引いているのを見て素早く指示を出す。さすがは私の跡を継ぐ人間だな。常に周囲に気を配っているとは。
あのまま七条先輩をはじめ私たちは大量にワカサギを釣り、サクラとして参加しながら優勝してしまった。
「まさかあそこまで釣れるとは……」
「掘ったところが良かったのかもしれないね~」
合計五十八匹、その内私と会長が十匹で、七条先輩が十五匹、タカトシが二十三匹と、ここでもタカトシが一番だった。
「それにしても大漁だったな」
「二位のチームに十五匹差をつけての圧勝でしたからね」
「タカトシ君が釣り過ぎだったんじゃない?」
「そんなこと無いと思いますけど」
謙遜してるわけではないだろうが、私と会長から見てもタカトシは釣り過ぎである。何せ十三匹も私たちより多く釣っているのだから……
「それにしても、さっきまで氷の上にいた所為か、室内は熱いね~。上着を脱ごうっと」
そういいながら七条先輩はコートを脱ぐ。その仕草に周りの男性が七条先輩の胸に視線を固定する。
「おっ、津田君はあんまり見ないんだな」
「今更じっと見る事も無いと思いますし、露骨に見てはアリアさんに失礼だと思いますからね」
「モテる男は余裕なんだな」
古谷先輩の言葉に、タカトシは肩を竦めてコーヒーを啜る。その仕草に周りの女性がきゅんとした表情を浮かべている。これはなんとしても我々に視線を向けさせなければ。そう思って私は会長に目を向けると、会長も同じことを考えていたようで、私たちは同時に頷いて上着を脱ごうとする。
「ふう、室内は暑――くない!?」
「くそぅ! 脂肪の差か!」
「えぇ!?」
「てか、なにやってるんですか……」
タカトシが呆れたような目を私と会長に向ける。ちょっと情けないが、これでタカトシの興味は私たちに向けられるだろう。
「だって! アリアだけずるいじゃないか」
「はぁ? 何がずるいんですか?」
「それは……タカトシに意識してもらえるなんて」
「別に特別意識してるわけじゃないんですが……」
「そうなの?」
「自分がどれだけ注目されるのか分かってないのかと、呆れてはいましたが」
「君はこの子たちの保護者か何かなのか?」
「失礼な。シノ会長とアリアさんの方が年上ですよ」
「うん、知ってる……でも、雰囲気的に君が保護者で三人が引率されている感じだ」
「なんですか、それは……」
タカトシは古谷先輩との会話に意識を向けたため、私たちはゆっくりと脱いだ上着を羽織り直すのだった。
確かにタカトシが保護者っぽいですね……