タカ君はエッセイの続きを作るために部屋に、サクラっちは客間なので、コトミちゃんの面倒は私が視る事になりました。
「ほら、また同じ間違いをしてるよ」
「うぅぅ……」
「……ちょっと休憩しようか」
夕飯から数えて、既に二時間以上は勉強しているので、コトミちゃんの頭は限界を迎えていた。
「お義姉ちゃんは平気そうですね」
「まぁこれくらいは。それに、私は教えているだけですから」
「サクラ先輩も特に気にした様子も無かったですし、私がおかしいんですかね……」
「コトミちゃんはちょっと頑張れば出来るようになると思うんだけどな」
タカ君の妹なわけですし、全く出来ないという事はあり得ないと思うんだけど、どうにかしてやる気を起こさせないと駄目なのが難点なんですよね……
「コトミちゃんは卒業したらどうするかとか考えてるの?」
「まだ何をしたいかすら分からないですねー。とりあえず大学に行こうかなとは考えてますけど、具体的に何処とかは全く」
「進学するつもりがあるなら、もうちょっと勉強を頑張らないとね。タカ君だってその時にこの家にいるか分からないんだから」
「タカ兄ならレベルの高い大学にいけそうですしね」
そうなればタカ君はこの家を出て一人暮らしを始めるだろう。そうなるとコトミちゃんがこの家に一人という事になるのでしょうか……それとも、お義母さんたちが帰ってくるのでしょうか?
「コトミちゃんが得意な事って何ですか?」
「保健体育の保健ですかね~。それならタカ兄にも勝てると思います」
「あんまり役に立ちそうにないですけどね」
「じゃあ何にもないです! ゲームも得意と胸を張れるレベルじゃないですし」
「そんな事で胸を張られても困るんですけど」
そんな話をしていると、廊下から扉をノックしたタカ君が声を掛けてきた。
『コトミ、さっさと風呂に入れ』
「はーい。お義姉ちゃん、一緒に入りませんか?」
「そうですね。義姉妹のスキンシップと行きましょうか」
ちょうど休憩中でしたし、タカ君がコトミちゃんにふろに入るように言ったのですから、この時間はゆっくりとコトミちゃんとの絆を深める事にしましょうか。
客間で勉強していたのですが、どうしても分からない箇所が出てきてしまい、私はどうしようかと頭を悩ませ、タカトシさんにメールで部屋を訪ねていいか確認しました。
「すみません、サクラです」
『開いてますからどうぞ』
メールで構わないといわれたので、私はタカトシさんの部屋を訪れました。エッセイの製作中でPCを使っているので、タカトシさんは眼鏡をかけていました。
「その眼鏡は?」
「ん? あぁ。ブルーライト対策で買ったやつです。度は入ってません」
そう言ってタカトシさんは眼鏡を外して私が持っていた参考書に目を通し始めました。
「この問題ですか?」
「はい。どうしても分からなくて」
タカトシさんは机からシャーペンを取り、ノートに分かりやすく解説を書いてくれました。
「これで分かると思いますが」
「ちょっとやってみます」
タカトシさんに書いてもらった解説を見ながら問題を解くと、さっきまで分からなかったのがウソみたいに簡単に解くことが出来ました。
「ありがとうございます。やっぱりタカトシさんは凄いですね」
「そんなこと無いですよ。実を言うと、この問題は前に解いたことがあったので、それで解き方を知っていただけです。俺も最初は苦労しましたけどね」
「でも、自力で解いたんですよね?」
「本当に苦労しましたがね」
タカトシさんはその時の苦労を思い出しているのか、苦々し気に微笑んでシャーペンを置きました。
「他になにか分からない問題はありますか?」
「今のところは大丈夫です。ゴメンなさい、タカトシさんも忙しいのに」
「いえいえ、ちょっと煮詰まってたところなので、丁度良い息抜きになりましたよ」
「煮詰まってたんですか?」
ちょっと覗き込んだだけですが、エッセイの出来はかなり高い物だと感じたのですが、タカトシさん的には納得いっていないようです。
「なんかイマイチ上手く行ってないような気がするんですよ……ちょっと読んでくれます?」
「良いんですか?」
「まだ完成してませんし、途中までの感想を貰えるとヒントになるかなって」
そういいながらタカトシさんはPCの前を譲ってくれました。
「……これでどれくらいなんですか?」
「まだ半分も行ってないくらいですかね。どうですか?」
「普段のエッセイも十分凄いのに、これは今までのどのエッセイよりも凄い気がします」
「そうですか? それじゃあ、もうちょっと頑張ってみます」
「完成を楽しみにしてますね」
タカトシさんに適度なプレッシャーを掛けて、私はタカトシさんの部屋から客間に戻る事にしました。途中でカナ会長とコトミさんと遭遇し、タカトシさんの部屋に何の用で言っていたのかを問い詰められましたが、私が参考書を持っていたのを見つけ、そういう事かと納得してくれました。
「やっぱりカナ会長もタカトシさんの事が好きなんでしょうね……義姉弟になっても、そういう気持ちは変わらないんでしょうね」
部屋で一人呟きながら、私はタカトシさんに負けないように参考書の問題を解き続けたのでした。
やらないから一生出来ないのか……