無人島から戻って来てからしばらくの間、スズ先輩の飼い犬であるボアを預かることになりました。
「タカ兄、スズ先輩からの信頼も半端ないね」
「誤魔化そうとしても無駄だ。お前はさっさと宿題を片付けろ」
「はい……」
煽てて逃げ出そうとしたのがバレて、私は玄関から部屋に戻るために階段を昇ろうとして、来客に気が付いた。
「あっ、お義姉ちゃん!」
「こんにちは。残暑見舞いに来たよ」
「こんにちは」
タカ兄はお義姉ちゃんに軽く挨拶をして、部屋の掃除に戻っていきました。
「タカ君は相変わらず主夫をしてるんですね」
「両親不在でコトミに任したら余計に散らかりますから」
「ここはお義姉ちゃんに任せて、タカ君はゆっくりして」
「義姉さんには家事ではなく、コトミの監視をお願いしたいんですが」
「コトミちゃんの?」
お義姉ちゃんが首を傾げながら私に視線を向けてきた。
「ほっとくとまた宿題を溜め込むので、今から片付けさせてるんですが、どうもダレて逃げ出そうとしているので監視が必要になってきたので」
「なるほど。それじゃあ、私が立派な女にしてあげるね! あっ、別に貫通式するわけじゃないよ?」
「それが何かは聞きませんので、お願いしますね」
タカ兄が鋭い視線を私とお義姉ちゃんに向けて、今度こそリビングの掃除に戻っていった。
「相変わらずタカ君は下ネタに厳しいですね」
「タカ兄はそこらの男子高校生とは違いますからね」
お義姉ちゃんと二人で部屋に向かい、私は大人しく宿題を開始しようとして――
「おろ?」
――シノ先輩からのメールに気付いた。
「お義姉ちゃん、シノ先輩にメールしたんですか?」
「えぇ、さっき。タカ君の家に来てますって」
「そうだったんですか。シノ先輩も心配性ですね」
どうやらシノ先輩はお義姉ちゃんが抜け駆けするんじゃないかと疑っているようだった。
「今何してるか聞かれてるんですが」
「素直に答えれば良いじゃないですか」
「そうですね」
私はシノ先輩にカナお義姉ちゃんと宿題に取り組んでいると返信して、携帯を置いて本当に宿題に取り掛かった。
義姉さんのお陰で、コトミの宿題は順調に進んでいるようだった。俺は三人分の昼食を用意し、義姉さんにメールで昼食にしようと提案した。
「お疲れ様です」
「タカ君、コトミちゃんの面倒を今まで一人で見てたの?」
「まぁ、身内ですから」
「偉いですね。義姉さん、感動しました」
「あ、ありがとうございます……」
義姉さんのテンションに若干ついて行けなかったが、とりあえず褒めてくれているようなので素直に受け入れよう。
「タカ兄、アリア先輩から残暑見舞いが届いたよー」
「アリアさんはあの後避暑で海外に行ってるんだっけか?」
普段忘れがちだが、あの人はお嬢様なのだ。海外くらい普通なんだろうな……
「海外か~、行ってみたいな~」
「お前、英語だってろくに話せないのに、海外に行きたいのか?」
「ヨーロッパら辺ならたぶん大丈夫だと思うよ~」
「その根拠は?」
「RPGで鍛えてるから!」
「……諦めろ」
そんな事だろうとは思ってたが、まさか本気でそう思っていたとは……こいつは一人で海外に行ったら危ない目に遭うだろうな……
「タカ君は英語は完璧なんでしたっけ?」
「完璧かは分かりませんが、必要最低限は出来ます」
「スズポンと一緒にフランス語を勉強してるとも聞きましたが」
「最近は出来てないですけどね」
家事とバイト、生徒会業務に加えてエッセイまでやることになってしまったので、学校の勉強以外の事に時間を割く余裕がなくなってしまったのだ。まぁ、時間を見つけて勉強はしてるのだが、スズに差をつけられる一方なんだよな……
「コトミちゃん、タカ君の邪魔ばっかしちゃ駄目だよ?」
「何で私が原因だって決めつけるんですか!? タカ兄が忙しいのは私だけの所為じゃないと思います!」
「まぁ、確かにコトミの言う通りではあるが、大抵はお前の所為だ」
この間担任の先生に呼び出されたしな……保護者として同席してほしいって。
「お前が遅刻の回数を減らせば、それだけ他の事に時間が割けるようになるんだ。夜更かしは控えろよな」
「せっかくの夏休みなんだから、普段出来ないことをするに決まってるじゃん!」
「なら、少しは家事を手伝ってみたりしろよな……俺が家にいる時なら教えられるから」
「お義姉ちゃんも手伝いますよ。さっきも言いましたが、コトミちゃんを立派な女にしてみせます!」
何だか変なスイッチが入ってるようだが、とりあえず放っておこう……
「さぁコトミちゃん! 今日中に宿題を終わらせて、明日からは立派な女になるための特訓です!」
「えっー! お義姉ちゃんだって忙しいんでしょー? 私の事は気にしないでいいですよ~」
「いえ、タカ君の自由時間の為、ひいては私たちとタカ君の時間の為にも、コトミちゃんには立派に家事が出来るようになってもらわないといけませんので!」
「不純な動機……」
結局は自分の為なのだが、確かにコトミには家事が出来るようになってもらいたいし、義姉さんが手伝ってくれるならありがたい。
「そういうわけでタカ君、明日から私はこの家で生活します」
「はぁ……まぁ義姉さんなら問題ないですかね」
両親からもコトミの事を頼まれているようだし、騒がしくしないのであれば俺も助かるからな。
ウオミー義姉さんの家族感が半端なくなってきたな……