桜才学園での生活   作:猫林13世

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未経験でも相当な実力ですからね……


実力者の狙い

 タカトシさんにボールを触らせないためなのか、先ほどから七条さんも天草さんも私を狙ってきています。そりゃ私を狙った方が勝ち目が高いというのは私にだって分かりますけども、これほどまでに狙われるとどうにかしてタカトシさんの方に打たせたくなるのも仕方のない事だと思います。

 

「くっ!」

 

 

 天草さんの着地する方の足元を狙い、こちらに打つだけの余裕を無くさせて、私はタカトシさんに後を任せました。

 

「させない!」

 

 

 七条さんが何とかしてタカトシさんのショットに食らいつきましたが、リターンは緩いものとなり、私があっさりとスマッシュを叩き込める程でした。

 

「ゲームセットですね」

 

 

 審判の出島さんが試合終了を告げ、私たちは握手を交わします。

 

「さぁタカトシ君、敗者である私たちに命令して」

 

「命令とか言われましても……特にしてほしい事は無いんですが」

 

「そんなこと言わずに! 私たちはお前のいう事を何でも聞くぞ」

 

 

 どことなく卑猥に思えるのは、私の心がすさんでるからじゃなく、この二人の表情がちょっとアレだからでしょうね……最近は控えてるとか聞いてましたが、根本的には変わってないんですね。

 

「それじゃあ、煩悩が消えるまでコート周りを走って来てください」

 

「……それだけ?」

 

「なんなら、座禅でも構いませんが」

 

 

 少し残念そうに俯いた二人でしたが、タカトシさんから流れて来る怒りのオーラに弾かれたのか、すぐにコート周りを走りに行きました。

 

「サクラさん、お疲れ様でした」

 

「やっぱりタカトシさんは運動神経が良いですね。手加減してたとはいえあの速度は返せませんよ」

 

「威力を制限されている以上、角度や速度で隙を作るしかないですからね」

 

 

 そんなことが出来るのは、タカトシさんがテニスにおいても優れているからでしょうが、勝ったのでとりあえずは善としましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前の試合でタカトシ君のサーブを脚に当てた所為か、魚見さんの動きにキレが無く、私と出島さんペアがあっさりと勝ってしまいました。

 

「無理しない方がよろしいのではありませんか?」

 

「大丈夫です、タカ君がアイシングしてくれたので、それほど腫れてませんし」

 

「ですが、ここで無理をして後々にダメージを残すのは得策ではないと思うのですが」

 

 

 まだもう一試合残っているので、出島さんが魚見さんの脚を心配しています。魚見さんもその事は分かっているようで、少し考えてから萩村さんに視線を向けました。

 

「スズポンは、無条件降伏でも受け入れられますか?」

 

「その脚では仕方ないですね」

 

 

 萩村さんの了承を得て、魚見さんは次の天草さん・七条さんペアに棄権を宣告し、罰ゲームを聞き入れる事にしました。

 

「カナちゃんが出来る事は限られちゃってるから、代わりにスズちゃんに二倍の罰を受けてもらおうかしら」

 

「何故っ!?」

 

「脚を痛めているカナに罰ゲームをさせるわけにはいかんだろ。だから、萩村が二人分の罰を消化する事で許してやるんだ」

 

「分かりました……」

 

「スズポン、ゴメンなさい」

 

 

 魚見さんが申し訳なさそうに頭を下げ、萩村さんは二人分の罰ゲームを受ける事になりました。

 

「それでは、最後はタカトシ様のペアと私たちの試合ですね」

 

「足を引っ張らないように気を付けます」

 

 

 勝てるとは思いませんが、せめて無様に負けないようにしようと思い、私は出島さんの指示に従ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さすがに経験者というだけあって、出島さんのショットは的確に狙われたくないところを突いてきた。だがこちらも簡単に負けるつもりは無く、少し動きが鈍いカエデさんを中心に狙い、出島さんのリズムを崩していくことにした。

 

「さすがですね、タカトシ様! ですが、その程度で私を止められると思ったら大間違いです!」

 

「わ、私だって足手纏いじゃないんですからね」

 

 

 狙いがバレたのか、カエデさんはわざと打たずに出島さんに任せる戦法に出てきた。こうなってくると本気で打てない分こっちが不利だな……

 

「ラリー中に考え事とは余裕ですね。ですが、これは返せますか!」

 

 

 コーナーを狙った一撃を、ギリギリで返す。もちろん、こちらは加減して打たなければいけないので、どうしても出島さんにとってはチャンスボールになってしまうのだが。

 

「これなら、タカトシ様に勝てる! そして、下剋上をしてみせる!」

 

「性的欲求は禁止ですからね」

 

 

 煩悩の塊のような出島さんに、一応のツッコミを入れたが、果たして聞こえたかどうか……それにして、アリア先輩とはまた違う実力者だから、サクラさんには厳しいんだよな……

 

「ボーっとしててよろしいのですか? これはダブルスなんですよ」

 

「そんなこと、分かってます!」

 

 

 出島さんが視線でカエデさんに任せるのは分かっていたので、俺はギリギリでそのボールを返す。下手に返すと出島さんに決められてしまうので、あえてネットに当てて手前に落とした。

 

「なっ!? そんなことが狙って出来るのですか」

 

「これくらいしなきゃ貴女を止められませんからね」

 

 

 完全に予想外だったのか、出島さんもカエデさんも反応出来なくて、そのまま試合の流れを引き寄せてギリギリで勝つことが出来た。

 

「お疲れ様です。ゴメンなさい、何も出来なくて……」

 

「いえ、ちゃんとサクラさんも決めていたから、問題ありませんよ」

 

 

 リズムが崩れた出島さんのショットなら返せると、いいタイミングでサクラさんが決めてくれたので、何とか煩悩の塊を退ける事が出来たのだ。俺はもう一度サクラさんにお礼を言ってからコートの外に出たのだった。




スズがちょっとかわいそう……

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