カナお義姉ちゃんが家に来る回数が増えたお陰か、タカ兄とカナお義姉ちゃんとの距離は明らかに縮まっていた。
「タカ君、お醤油取ってくれる?」
「どうぞ。カナ義姉さん、無理に夕飯作りに来る必要は無いのですが」
「タカ君だって大変だろうし、これくらいはお義姉ちゃんとして当然」
「うーん……なんだか悪い気がするんですよね」
「報酬はタカ君のお弁当で間に合ってますから」
「……わざわざ取りに来なくてもご自分で作ればいいのに」
このようにタカ兄とカナお義姉ちゃんが交互にご飯を作ってくれるので、私は毎日おいしいご飯にありつけるのだった。
「コトミちゃんも少しは出来るようにならないとね」
「でもお義姉ちゃん。私が料理するより二人がした方が早いし、それに美味しいんだよ? その状況で私が頑張ろうと思うと思う?」
「思いませんね。コトミちゃんはぐーたらなところがありますから」
「私は効率が悪いと思う事はしない主義なんです!」
「威張っていう事か! 要するにやりたくないだけだろ」
「身もふたもない事を言わないでよ、タカ兄」
タカ兄にバッサリと切り捨てられ、私はその場に崩れ落ちる。こんな冗談にも付き合ってくれるんだから、カナお義姉ちゃんが家に来てくれるのは本当にありがたいよね。
今朝もタカ君の家から学校に通う。特に近所というわけではないのだが、親戚同士の結婚が縁でこういう関係になったので、出来る限りタカ君たちと一緒にいたいと思う一心でお手伝いをしているのだ。
「おはようございます、会長」
「サクラっち、おはようございます」
「今日は服装チェックがあるから早めに来てくださいと言っていたのに、何でその会長が遅れるんですか」
「タカ君の家に寄っていたから」
「またですか」
遠縁になった事はサクラっちも知っているので、私がタカ君の家に通っていると言ってもあまり焦ったりはしません。これがシノっちだったら大慌てするのでしょうが、サクラっちはタカ君と二回もキスしているだけあって余裕が感じられます。
「それにしても、毎日タカトシさんにお弁当を作ってもらうのは申し訳ないのではありませんか?」
「そのお返しに、二日に一回夕ご飯を作りに行っています」
「お互いに大変そうですし、週一回とかにしたらどうでしょうか? そうすればタカトシさんもカナ会長に気を遣わずに済むでしょうし」
「そんなものですかね?」
タカ君が私に気を遣っているのは、なんとなく私も気づいている。コトミちゃんのように全面的に私に任せるのは忍びないとでも思っているのでしょうか。だとしたらもう少し甘えてほしいものです。
「とにかく、こういう日は寄り道せずに学校に来てくださいね」
「サクラっちはタカ君のお弁当が食べたいだけなのではありませんか?」
「そんなことは言ってませんし、そういう理由で言っているわけでもありません!」
校門前で副会長に怒られる会長の図というのは、会長の威厳を落とすような気もしますが、まだ生徒たちは疎らというか殆どいないので問題は無いですね。ですが、これからは気を付けなければいけないですね。
カナさんからのメールで、これからは週一回のペースで家に来ることにすると伝えられ、俺はホッと一息ついた。
「タカトシ、どうかしたのか?」
「いえ、カナさんが週一回のペースにすると言ってきたので、ちょっとホッとしただけです」
「そう言えば、カナちゃん最近毎日タカトシ君の家に来てるんだっけ?」
「さすがに毎日ではありませんが、結構なペースで来てますね」
親戚同士の結婚が縁で「義姉さん」と呼ぶようになったが、俺の中でその呼び方は定着しなかった。殆どカナさんと呼ぶことが多く、コトミのように普通に使う呼称ではない。
「それにしても、カナがタカトシの義姉的立場になるとはな。これでカナは別ルートになったと思っていいのか?」
「それはどうだろう? 血の繋がらない義姉弟って関係は、カナちゃん的には燃える展開だと思うんだよね」
「いったい何の話をしているんですか、先輩たちは……」
良く分からない会話が始まったので、俺は話題を切り上げて仕事に戻る事にした。
「すみませーん!」
「コトミ、ノックぐらいしろ」
「あっ、ゴメンなさい、会長」
いきなり扉を開けて生徒会室に入ってきたコトミに、会長が注意をする。あまり反省しているようではないが、コトミは一応の謝罪を述べて本題に入った。
「傘を紛失してしまったんですけど、届いていませんか?」
「傘の忘れ物か。ちょっと待て」
会長が紛失物をメモしたノートを取り出し、ページをぱらぱらとめくる。
「何本が届けられているが、何か特徴は無いか?」
「えっと、名前が書いてあります」
「コトミ、お前傘に名前なんて書いてたっけ?」
俺の記憶では、コトミの傘に名前なんて書いてないんだが……
「書いてあるよ。エクスカリバーって」
「はっ?」
「……ある」
「はぁ!?」
コトミが変な事を書いていた事に驚き、そしてその傘が届けられていた事にさらに驚いてしまった。てか、高校生にもなってそんなことを傘に書くなよな……てか、忘れ物をするなよ。
「良かった~。私の聖剣は他の人には装備出来ませんから、盗られることは無いと思ってたんですが、万が一という事もあり得ますからね」
「いい加減厨二も卒業したらどうだ?」
俺の切実な願いは、コトミには届くことは無かった。どうしてこんなになっちゃったんだか……
聖剣がただの傘なわけないだろ……