闇鍋パーティーも終わり、片付けを済ませ部屋割りのくじを引いた私たちは、それぞれの部屋に移動するべく立ち上がった。
「また森がタカトシの部屋か……」
「でも、今日はシノちゃんもそうじゃない? よかったじゃない」
「アリアが無条件で出島さんと一緒に客間だったから、確率が上がっただけだ」
私の背後で天草さんが恨みがましく私の背中を見つめているが、今回はあみだくじで決まったんだし恨みっこないだって自分で言ってたじゃないですか……
「コトミの部屋はカナとカエデか」
「スズちゃんがまさかの一人部屋だもんね。スズちゃん、怖くても誰も助けてくれないからね?」
「怖くないわ! てか、何で一人部屋なんて作ったんですか?」
「その方が面白いかと思ってな」
なら何でタカトシさんを一人にしてあげなかったのだろうか……まぁ、私もタカトシさんの部屋に泊まれてうれしいんですがね。
「それではアリア、また明日」
「うん、お休みシノちゃん」
七条さんたちの部屋の前で別れて、私と天草さんはタカトシさんの部屋へ向かう。
「しかし、森は本当にくじ運は良いんだな」
「どうなんでしょうか? おみくじとかはあまりいい結果じゃないことが多いのですがね」
実際凶を引いた事があるくらいだから、くじ運が良いと言って良いのか微妙なところだと思うんですがね……
「さて、タカトシの部屋に到着だ!」
「普通に階段上っただけなんですけどね」
「大人の?」
「家の!」
タカトシさんの前では控えていても、この人は元々こういう人だった……まぁ、カナ会長と似たような人種ですから、相手をするのは慣れているんですけどね。
「タカトシ、少し経ったら他の人の部屋を回るからな」
「はぁ……お好きにどうぞ。しかしなぜ?」
「今日は何の日だ?」
「闇鍋パーティーですが」
「それは私たちだけの行事だ! 世間様はクリスマスだろうが!」
「それがどうかしましたか? まさか、この歳になってサンタがどうこう言いませんよね?」
冷めた目でタカトシさんがそう告げると、天草さんの首筋に汗が流れだしたのが見えた。つまりはそう言う事なんでしょうね……
「まぁ、余計な事をしないのであれば、ご自由にどうぞ」
「何だよ! お前は私のサンタ姿を見たくないのか!?」
「だって、ここで着替えるつもりなんですよね? 着替える、と言っても服の上から着るんでしょうが」
「いや、一度全て脱いでから――」
そう言った途端、タカトシさんは今回萩村さんしか寝ないリビングへと駆け出して行った。普段異性の事を気にしてないのではないかと思わせるタカトシさんだが、着替えの際にはちゃんと席を外すのだ。
「天草さん、さすがに今のは無いと思ういますよ」
「私もすまなかったと反省している……」
普段自分が女として意識されていないと思っていたのか、天草さんは既に半分脱ぎかけており、タカトシさんは脱兎の如く逃げ出したのだ。それを見て満更でもなさそうな天草さんではあったが、後で怒られると思い出ししょんぼりと着替えだしたのだった。
シノ会長の奇行は何時もの事だが、今日はちょっと危なかった。普段は気を張って異性だと思わないようにしているから何とかなるのだが、自室で気が緩んでる時にあれは駄目だろう……
「会長たちは俺を何だと思ってるんだろうか……」
俺は枯れているわけでも、異性に興味が無いわけでもないのだが、どうもそういう風に思われていそうで何だか嫌だな……かといって、露骨に反応して距離を置かれるのも嫌だし……
「お茶でも飲んで落ち着くか」
「では、私の分もお願いします」
「サクラさん……」
逃げ出した俺にフォローを入れに来たのだろうサクラさんの分のお茶を用意して、俺は床に腰を下ろした。
「タカトシさんでもああいう反応をするんですね」
「サクラさんまで……俺を何だと思ってるんですか?」
「だって、普通に下着とか洗濯しますし」
「脱いであるものは洗濯物として認識しますから何とも思いませんが、着けてるものはちゃんと下着だって認識しますから」
コトミは兎も角として、他の人はさすがに下着姿でうろうろされたら困る……なんというか、いろいろと……
「普段から異性として認識されてないんじゃないかって思う事がありますからね」
「サクラさんの事はちゃんと意識してるつもりなのですが」
「嬉しいです。でも、他の人もちゃんと意識してあげてくださいね?」
「下ネタを言わなくなってきたので、少なからず異性として認識してるつもりなのですが……」
「少しじゃ駄目なんですよ。特に天草さんや萩村さんは、露骨に私を敵視してきますし」
「敵視って……」
何でそんなことをするのか、俺には良く分からないな……サクラさんを敵視する暇があるなら、自分たちがもう少し頑張ればいいのではないだろうか。
「だって私は、タカトシさんと二回キスしてますから」
「あんまりそう言う事は言わないでくれますか?」
「私だって照れますけど、これは変わりようのない事実ですから」
「こういう話やこういった事に慣れてないから、普段は意識して気にしないようにしてるんですが……」
「意外な弱点を見てしまいました」
何だか楽しそうなサクラさんに、俺はガックリと肩を落としてお茶を飲み干したのだった。別に弱みを握られたとは思わないが、知られた相手がサクラさんで良かった……
弱点というより、普通の反応ですけどね