今日は生徒会の仕事で早めに登校しなくてはいけないのだが、少し寝過ごしてしまった……時間的にはまだ余裕はあるが、朝食を食べている時間は無さそうだ。
「悪いコトミ、俺は先に出るから片付け頼む」
「まだ時間あるよ?」
「生徒会の仕事があるんだ。ゆっくり食べてる余裕は無いから俺はパンだけで良いから」
トーストを咥えコトミに後片付けを任せて家を出ようとしたらコトミがテーブルを叩いて立ち上がった。
「まってタカ兄ぃ!」
「何だよ?」
「男がパンを咥えて登校って邪道じゃない?」
「いや、意味分からないから……」
朝からコトミの相手をしている余裕も無いので、テキトーに流して家から出る。恐らく何かの知識なのだろうが、そんな事を気にする事は無いだろうが……
朝の仕事には何とか間に合って怒られる事無く放課後を迎えた。今日は横島先生も暴走する事無く授業が進んだので良かったなぁ……
「おはようございます?」
生徒会室に入ると、何時もとは違う場所に座った会長と七条先輩が居た。何か深刻そうな顔をした七条先輩と、何かを待っている感じの会長だった。
「あの、何かあったんですか?」
「いや、お悩み相談だ!」
「あぁ……って! 七条先輩が今日の相談者なんですか?」
「そうだ! だがアリア、改まって相談とは何だ?」
会長もまだ用件は聞いてなかったんだ……
「実は私、この学園に気になるコが居るの」
「「………」」
まさかの爆弾発言だった……
「アリア! 我が校の校則を忘れたか!!」
「会長」
「何だ?」
少し興奮気味の会長の隣にしゃがみ、耳打ちをするように小声で俺の意見を伝える。
「『校内恋愛』は禁止ですが、場所を弁えれば別に良いのではないのでしょうか」
「津田!」
「は、はい?」
俺、何かおかしな事言ったかな……急に大声を出して立ち上がった会長に驚き、自分が何か失言をしたのではないかとちょっと脅えた。
だが……
「私は耳が性感帯なのだから耳元で話すな!」
「………」
そんな事で大声をだすなよ……
会長の提案を受け入れ、改めて会長に耳打ちをする。紙を筒状にして十分な距離を取って……
アリアの相談は、私にとって衝撃的なものだった。てっきりアリアは津田の事が好きなのだと思っていたが、如何やら私の勘違いだったようだな。
「でも相手はなかなか私の気持ちに気付いてくれないんだ~」
「そうなのか」
生徒会長としては恋愛を認める訳にはいかないが、1人の友人として何とかアリアの力になりたい。
私も色恋沙汰はさっぱりだが、此処は的確なアドバイスをするのが友人として私が出来る事だろうな。
「そうだな、そんな時は攻め方を変えてみたら如何だ?」
「変えるって如何やって?」
「俗に言うだろ。押して駄目なら……押し倒せ!!」
「わお!!」
「それ、俗に言わない……」
津田のツッコミが入ったが、じゃあ俗に言うのは何だと言うんだ。
「会長が言いたいのは押して駄目なら引いてみろじゃ無いんですか?」
「だが、引いたら負けだろ」
「何の勝ち負けなんだよ……」
津田は呆れているが、恋愛は勝ち負けの勝負だろうが!
さっきからガヤガヤと五月蝿いわねー、人が寝てるの分かってるのにそんなに騒ぐ事無いでしょうが。
「それで、名前は何て言うんですか?」
「ん? しらなーい」
「知らないんですか」
「うん」
「じゃあ何組ですか?」
「何組とか無いんじゃないかなー」
「? それじゃあどんなヤツなんですか?」
「毛深いよー」
「ナニがー!?」
……多分会長が言った『ナニ』は私が思ってる『何』とは違うのだろうが、此処で起き上がってツッコミを入れると私まで会長と同じ思考だと津田に思われちゃうだろうから此処は我慢だ。
「それじゃあ何処に行けば会えますか?」
「んー? それじゃあ今から見に行く?」
「そんな簡単に会えるんですか?」
「うん! それじゃあ寝たふりしてるスズちゃんも一緒に見に行こうか」
バレてる!? 七条先輩の発言に驚いた感じで私を見てくる会長……津田は特に気にした様子が無いって事は気付いてたんでしょうね。
「萩村ー行くぞー」
「あ、うん……」
やっぱり気付いてた津田は、普通に私が動きやすいように呼んでくれた。もしこの場で気まずい雰囲気になったら、七条先輩の思い人を見に行くって気分じゃ無くなってたでしょうから、結果的に津田はフォローしてくれたのだ、全員を……
アリアの気になるヤツを見に行くために、全員で外に出た。もしかして部活をやってるヤツなのだろうか……だが男子が出来る運動部などあったかな?
「最近住み着いた野良なんだー」
「「「うわぁー微笑ましいー」」」
気になってるヤツは人間では無く野良猫だったのか……それならそうと最初から言ってくれれば良いものを。まったくアリアのヤツはこう言ったお茶目が偶にあるから困る……
「津田」
「はい?」
「お前のおかげでアリアの気持ちを踏みにじる事無く済んだ、ありがとう」
「まぁ、猫だったんですけどね……」
「だが、私は融通のきかない石頭だからな。あの時津田の意見を聞かなかったら校則に則って頭ごなしに否定していただろう」
「そんな事は無いと思いますけど……」
「いや、きっと同じ事を相談されてもまた否定してしまうだろう。だからその……」
「何です?」
「これからも君の柔軟な――」
「はい?」
「
「勝手に言葉を作るな!」
津田のツッコミは相変わらずの切れの良さだった。
翌日、今日は生徒会の仕事も無いしゆっくりと出来るな。
「寝過ごした~!!」
「まだ平気だろ?」
「今日日直なんだよ~!」
相変わらずおっちょこちょいな妹だな……どうせ日直なのを考えて早めに寝ようとしたがゲームに夢中になって遅くなったから寝坊したってとこだろう。
「こうなったら!」
「何だよ?」
「私も、パンを咥えて登校しなきゃ!」
「今日はコッペパンだぞ?」
俺には余裕があるのでコトミの趣味に付き合ってあげる事にした。意味は良く分からないけど、確か食パンじゃなきゃいけないんじゃないのか?
「大丈夫、タカ兄ぃ!」
「何が?」
「コッペパンなら遠目から見ればお○ん○ん咥えてるように……」
「遅刻するからさっさと行った方が良いぞ」
「せめて最後まで聞いてよ~!」
訳の分からない事を言い出した妹を追い出し、俺はゆっくりとコーヒーを飲んだ。何処を如何間違えたらあんな妹が育ってしまったんだろう……
何処でウオミーを登場させようか悩みどころです……