今度のマラソン大会に向けて、私はトッキーとマキと一緒にランニングを始める事にした。
「お前がこんな行事に気合いを入れるなんて珍しいな」
「昨日お母さんに『家でゴロゴロしてるんなら部活でもするか、勉強するかしろ』って言われたからさ……形だけでも学校行事に向けて頑張ってるってところを見せないと……」
「お母さん今いるんだ」
「またすぐ出張らしいけどね」
今度は本格的に海外進出を決めた会社の事情で長期間の出張らしいが、ウチのお母さんってどんな仕事してるんだか知らないんだよね……
「とりあえずお母さんが家にいる間は頑張らなきゃってさ」
「それで私たちを巻き込んだの?」
「私は部活の延長だと考えれば良いが、マキは完全にとばっちりだよな」
「そうかなー? マキ、最近丸くなってるような気がするからちょうどいいんじゃない?」
「ま、丸くなってないわよ!」
そういいながらもお腹回りをさするマキを見て、これは気合を入れすぎたかなと少し反省してみる。
「おや、コトミたちじゃないか」
「何してるんだ?」
「あっ、タカ兄にシノ会長。今度のマラソン大会に向けてちょっと練習を」
「目標は?」
「残像残せるくらい!」
「阿呆な事言ってないで真面目に走れ」
タカ兄の容赦ない一言に、私は結構本気で言った意気込みを考え直す事にした。
「じゃあ、上位入賞したらお小遣いUPをお願いします」
「学年十位以内なら考えてやる。その代わり半分以下だった場合は小遣いも半分以下にするが、それでも――」
「ほら、トッキーにマキ! 頑張って練習するよ!」
「なんとも分かりやすいヤツだな……」
「まぁ、理由はともあれやる気になったんだからいいんじゃない?」
私の背後でトッキーとマキがお喋りしているが、この二人は元々のポテンシャルが高いから羨ましいな……何で私は凡人に生まれたんだろう……
体力がないネネと、体力バカのムツミと一緒にマラソンの練習をしていたら、向こう側にコトミたちの姿を見つけた。
「ほらネネ。一年生たちも頑張ってるんだから、ネネも頑張りなさい」
「で、でも……これ以上走ったら死んじゃう……」
「だらしないな~、たかが十キロくらいで。そうだ! 体力をつけるために重り付きで走るのはどうかな?」
「ゴメン、私も嫌だわ……」
私のペースに合わせてくれたからまだ平気だけども、ムツミのペースで走らされ、尚且つ重りを背負わされて走るのはなんとしても避けたい。そんなことさせられて平気なのは、恐らくタカトシくらいでしょうし……
「じゃあ、後五分だけ休んだら学校に戻ろう」
「わ、私は後で追いつくから、ムツミちゃんは先に戻ってていいよ……」
「大丈夫! 最後までネネたちに付き合うから!」
「うん、気持ちだけ貰っとくね……だから、ムツミちゃんは先に戻ってて……」
「ネネ、ほんとに大丈夫? 何なら私がおぶって学校まで連れて行ってあげるよ」
「お願い! もう一歩も動けないし」
急に立ち上がったネネは、本当にムツミに背負われて学校まで戻っていった。
「てか、一歩以上動いてたんだけど……」
ムツミの背中に乗るためにネネは移動してたけど、ムツミはその事に気付いてる様子はなかった。
「……私も帰ろう」
ムツミのペースについて行くなんて不可能だから、私は自分のペースで学校に戻る事にした。それにしても、十キロ走ってまだ余裕とは……さすが体力バカよね……
見回りの途中でシノ会長は新聞部を追及するとか言ってどこかに行ってしまったので、俺は大人しく生徒会室に戻って仕事の続きをすることにした。
「遅れちゃった……あれ? タカトシ君一人だけ?」
「スズはクラスメイトと一緒にマラソン大会に向けての体力づくり、シノ会長は畑さんを問い詰めると新聞部に行きました」
「そうなんだ~。タカトシ君はどっちにも付き合わなかったの?」
「生徒会室を空けておくわけにもいきませんし、スズは三葉と一緒らしいので」
「ムツミちゃん、こういうイベントなら張り切るだろうしね~」
「シノ会長について行こうとも思いましたが、今回は一人で大丈夫だと言って頑なに同行を認めてくれませんでしたので」
何か知られたくないことを畑さんに知られたのだろうが、油断してるからそうなるんだよな……てか、畑さんも何でシノ会長に張り付いてるのか分からないが。
「あっ、私お茶淹れるね~」
「ありがとうございます」
アリア先輩は慣れた手つきでお茶を二人分淹れ、俺の正面に腰を下ろした。
「タカトシ君にばっか仕事押し付けちゃってる気がするよ~、ごめんなさいね」
「いえ、やらなかった分は後で自分に戻って来てるわけですし、俺はそこまで大変だと思ってませんので」
細かい作業は好きだし、ふざけられて仕事を遅らせるのは他の人に迷惑が掛かるからやってるだけなのだ。
「何かお礼したいんだけど、今何も持ってないんだよね」
「別にいいですよ。美味しいお茶を淹れてもらいましたし、それで十分です」
「タカトシ君は欲がないな~。それとも、私ってそんなに魅力ないかな~?」
「十分魅力的ですよ」
何かしたかったのは分かったが、そこはかとなく地雷臭がしたので回避する事にした。これ以上の面倒事は勘弁願いたいし、何かしたタイミングで誰かが戻って来るなんてお約束は使い古されて面白くないからな。
下ネタ言わなくなったので、若干ですが距離が詰まりつつありますね