今日は午後に予算会議があるのだが、少しふらふらするし食欲がない……ちゃんと体調管理してたはずなんだけどな……
「萩村、さっきから食が進んでないが、大丈夫か?」
「もしかして具合悪いの?」
会長と七条先輩が心配して私の顔を覗き込んでくる。この年になってこんなに至近距離で人に見られるなんて思わなかったな……
「やっぱり熱があるんじゃないか? 少し顔が赤いぞ」
「確かに少し赤いね」
二人に覗きこまれ、私は恥ずかしい思いでいっぱいだったが、横から伸びてきた手にそれ以上に驚いてしまった。
「少し熱いな……スズ、ちゃんと髪の毛を乾かしてから寝た?」
「子供扱いすんな! そんなの当然――あっ……」
「急に騒ぐから眩暈がするんだよ」
タカトシの言葉に反論しようとしたら、急に目が回り椅子から落ちそうになった。それをタカトシに支えてもらい、私は別の意味で顔が赤くなっていった。
「シノ会長、俺はスズを保健室まで連れて行ってから教室に戻りますので、生徒会室の戸締りお願いします」
「それは構わないが、萩村、早退した方が良いんじゃないか?」
「いえ、放課後に予算会議がありますし、私が帰るわけには……」
「萩村がいなくても何とかするさ」
「私、いらない子……?」
「あっ、いや……やっぱりいてくれないと困るな」
「風邪ひいて弱ってるんだな……とりあえず寝かしてきますので」
タカトシに背負われて保健室へ向かう。こうやってタカトシに運ばれるのは久しぶりなような……
「ゴメン、迷惑かけてるよね……」
「気にするな。誰だって風邪ひいたり弱ったりすることがあるんだし、無理して休まれたりしたら、そっちの方が大変だからな」
「最近は大人しいじゃない」
「まぁ、あの人たちだけじゃないから」
タカトシの周りにいるボケは、確かに会長たちだけではない。
「おんや~? 津田副会長がロリっ子を担いで保健室に向かってる……これは捏造して取り上げなければ!」
「畑さん……放課後の予算会議、覚悟しててくださいね?」
「い、嫌ですね~冗談ですよ……ですのでその……勘弁してくれませんかね」
「まったく……そのメモとカメラのデータを確認させてもらっても?」
「こ、これはその……」
タカトシが畑さんに詰め寄ろうとしたタイミングで、畑さんの背後に五十嵐先輩がやってきた。
「ちょっと畑さん! さっき私がトイレにいる時に写真撮ったでしょ!」
「そ、そんなことしてませんよ? ちょっと扉越しに盗聴しただけでして……あっ」
「はい、消去っと」
「せっかく録音したのに~」
畑さんの始末は五十嵐先輩に任せ、タカトシはそのまま保健室まで私を運んでくれた。
「それじゃあ、ゆっくり休むんだな」
「うん……ありがとう」
運んでくれたお礼と、心配してくれた事への感謝を述べてすぐ、私は眠ってしまった。どうやら自分でも分からないくらい無理してたんだな……
放課後になり、スズの様子を見に保健室を訪れると、何故かスズの隣でたばこ型のチョコを咥えたシノ会長と、妙に楽しそうなアリア先輩がいた。
「何してるんです?」
「いや、ちょっと早く授業が終わってな。萩村の様子を見に来たのと、少しやってみたかった事を……」
「まぁいいですけど……スズ、大丈夫か?」
「大丈夫だけど、寝てたから汗掻いちゃった……」
熱があったから仕方ないが、まぁ寝汗は見られたくないよな……
「スズちゃん、私が用意してくるから、もう少し寝ててね」
「じゃあこれ、差し入れ。体調戻ったなら少し腹に入れておいた方が良いぞ」
「ありがと」
スズに買ってきたスポーツドリンクとパンを渡して保健室の外に出る。
「さすがタカトシ君だね~」
「いえ、まぁこれくらいは」
「普通の男の子は差し入れなんてしてくれないと思うけどな~」
「まぁ、付き合いが無いでしょうからね」
スズとそれなりに付き合いのある男子は、俺を除けば誰がいるかというレベルだ。差し入れするような間柄の相手はまずいない。
「それじゃあ、私はスズちゃんの汗を拭いてくるから」
「何故それを俺に言う……」
何だか含みのある言い方だったが、まぁ特に掘り下げる気もないのでスルーした。
「貴方は気になったりしないの~?」
「またいきなり現れましたね……」
「何だかスクープの匂いがしたので」
「どんな匂いだよ……」
ジャーナリストの勘なのだろうか、またしても畑さんが現れ、扉越しに聞き耳を立てている。
「はい、大人しくしましょうね」
「こ、怖いのでその笑顔は止めていただけないでしょうか……」
「止めてほしかったら、大人しく扉から耳を離して先に会議室に行っててください」
「はーい……」
少し残念そうな感じがするが、大人しく保健室から離れて行った畑さんを見送り、中から出てきた三人を出迎えた。
「もう大丈夫か?」
「おかげさまで。あーあ、寝てたからタカトシに差を付けられちゃったかもしれないわね」
「これくらいで離せるような成績してないだろ……こっちは毎回苦労してるってのに」
「私だってそれなりに苦労してるわよ?」
「毎回楽しそうに問題解いてる姿を見せられる身にもなってくれよな……」
すらすらと問題を解いているスズの隣に座ってる俺は、無言のプレッシャーに耐えながら問題を解いているのだ。まぁ、分からない問題もたまにあるんだが、それでも何とかスズに負けないようにと答えを絞り出してようやく同点なんだから、少しくらい差を付けさせてくれるならありがたかったんだけどな……午後の二時間の授業だけじゃ、スズを離す事なんて出来やしないだろう……
皆様も体調管理はしっかりとしてください