五月も終わり、衣替えを済ませたので、そろそろ新しい水着でも買いに行こうかな。
「シノちゃん、今度のお休み、お買い物に行かない?」
「ナイスタイミングだ、アリア! ちょうど新しい水着が欲しいなと思っていたところなのだ」
新しいものを買う事は決めているのだが、色はどうしたものか……前と同じで赤でいくか、それとも別の色でいくか……
「白は膨張色で、他のより大きく見えるのよ。だから碁石も白の方が黒より小さく作られているの」
「そういえば、そんなこと聞いたことあるな」
「よし、色は白に決まりだな!」
「「えっ? 何の話ですか」」
私たちの会話を聞いていなかったタカトシと萩村は、そろって首を傾げた。
「こちらの話だ。しかし、助かったぞ」
「はぁ……」
「ところで、アリア先輩は手相の本なんて見て何をするつもりですか?」
「私ってあまり趣味が無いから、手相でも勉強しようかなって。タカトシ君、手相見せてくれる?」
そう言ってアリアがタカトシの手を取り、じっくりとタカトシの手相を見始める。
「先輩、私のも見てもらえますか?」
「いいよ~」
嫉妬したのかどうかは分からないが、萩村がアリアとタカトシの間に入って手を差し出した。
「スズちゃん、生命線長いね~」
「それは知能線です」
「あれ~?」
「ちなみに、生命線が短くても知能線が長ければ長寿でいられます」
「そうなんだ~」
「どっちが見てるんですか……」
タカトシがツッコミを入れたように、これでは萩村がアリアの手相を見てるようじゃないか。
「七条先輩、そんな本何処から持ってきたんですか?」
「物置から出てきたんだ~。読んでみたら面白くって、それでかじってみたんだ~」
「そうなんですか」
かじってみたか……
「タカトシ」
「何ですか?」
「『尺八をかじる』って言うと、妄想が膨らむな」
「何の話ですか?」
そうだった、こいつは淫語に疎いんだったな……普通の男子高校生なら興奮したに違いないのに……
「それで、スズは何時まで手相の説明をしてるんだ?」
「思ってたより七条先輩が本気だったから」
「スズちゃんに教わったから、もっとちゃんと勉強しようと思ったんだ~」
「そうですか。頑張ってくださいね」
「うん! もう少し上達したら、また見せてね」
「お願いします」
アリアが上達したら、私も見てもらおうかな。
もうすぐ高総体と言う事で、私は応援も兼ねて柔道部を訪れていた。
「スズちゃん、いらっしゃい」
「かなり気合が入ってるわね」
「英稜の柔道部がかなり強いみたいだから、こっちも負けてられないんだ~」
「そうなんだ。頑張ってね」
「うん! 当日も応援、お願いね」
ムツミたちを激励して、私は生徒会室へと向かう事にした。
「あれ、会長とタカトシだ」
生徒会室に向かう途中で、私は会長とタカトシの姿を見つけ、咄嗟に隠れてしまった。
「(何で隠れてるんだろう、私……別に会長とタカトシは付き合ってるわけじゃないんだから、気を遣う必要は無いじゃない)」
そう決心して私は二人に声を掛けようとした。
「あっ、生徒会の皆さん。何時もご苦労様でーす!」
「コトミ、目上の人に対しては『お疲れ様』よ。『ご苦労様』は失礼に当たるわよ」
もっと言うのであれば、目上の人を労う事自体失礼なんだけどね。
「へー……下界ではそうなんですね」
「あんたも生粋の下界人だろ」
コトミに注意しながら、私はしれっと二人に合流して生徒会室へやって来た。
「いよいよ来週から高総体が始まるな」
「今回も柔道部に期待だね~」
会長と七条先輩が話してる柔道部から聞いた情報を、私は二人に教えてあげる事にした。
「それがですね、英稜の柔道部もかなり力を入れているようでして、ムツミたちもかなり苦戦するかもしれないとの情報が」
「そうなのか? まぁ、三葉たちもかなり研究されているんだろうな」
「そのようですね。まぁ、ムツミなら研究されても勝てそうですけどね」
「応援する側が油断してちゃ駄目なんじゃないか?」
「そうね。さっきも激励してきたんだから、私たちもムツミならって考えは捨てましょう」
タカトシにツッコまれて、私はムツミに対する期待を高める事にした。
「ところで、さっきなんで隠れてたの?」
「特に意味は無かったけど、なんとなく話しかけにくかったのよ」
「そんなことあるの?」
「あんたと他の女子がいる所に遭遇すると、そう感じる事があるってだけよ」
「ふーん……」
なんとなく疑われてる気もするけど、タカトシはそれ以上ツッコミを入れて来る事は無く、そのまま書類に集中していた。
「萩村、この領収書の整理を頼む」
「分かりました」
会長から領収書を受け取り、私は自分の仕事をすることにした。
「高総体には我々生徒会も応援に参加するから、溜まっている仕事は今のうちに終わらせるぞ」
「おー!」
「気合いを入れるのは良いですけど、会長とアリア先輩も仕事してください」
「おぉ、すまんな。えっと、これは私が処理する書類だな」
「それじゃあ私はお茶を淹れるね~」
七条先輩、それは仕事じゃないと思うんですけど……まぁ、七条先輩が淹れてくれたお茶は美味しいから、別に良いかな。
明晰夢でタカトシを開発……は趣味じゃないだろうし