登校してすぐに生徒会室で作業をしていたが、一時間目は体育なので、俺とスズは先に教室に帰る事にした。
「では、お先に失礼します」
「ああ、君たちは一時間目、体育だったな」
「何をするの~?」
アリア先輩の質問に、俺とスズは答える事にした。
「女子はバスケです」
「男子はサッカーです」
体育は二クラス混合なので、男子の数が足りない、と言う事も無いので安心だ。てか、学校側もそう言う事を考慮してクラス分けをしてるんだろうな。
「大分暖かくなってきたから、脱水症状には気を付けてね」
「はい」
アリア先輩の注意に、スズが答える。確かに最近暖かくなってきたからな……温暖化の影響だろうか。まぁ、その分洗濯物がよく乾いていいんだが……こんな事思ったら駄目か。
「男子は金的に気を付けろよ」
「そんな注意されるの初めてだし、サッカーでそんなに密着してる時に振り切るほど運動神経の良いヤツはいませんよ」
てか、そんな考え無しもいないと思うがな……
「シノちゃん、むしろご褒美になっちゃうかもしれないじゃない?」
「しかし、あれは美女に蹴られるからご褒美であって、同性に蹴られても嬉しくないんじゃないか?」
「どうなんだろ~? タカトシ君はどう思う? ……あれ?」
バカな話を始めたので、俺とスズは早々に生徒会室から逃げ出した。まったく、新学期になっても先輩たちはブレないな……
廊下の窓を開けて空を見て、私は今の心境を口にする。
「春眠暁を何とかだね~」
「正しく言えないのか、お前は」
「うげぇ、タカ兄!?」
一年のエリアなので気を抜いていたら、タカ兄にツッコまれた。
「いったい何の御用でしょうか……」
「母さんからメール貰ったんだが、お前、弁当忘れたらしいな」
「うっ……お母さんめ、何でタカ兄にメールしちゃうんだよ」
おまけに今日は財布も忘れて購買で何か食べ物を手に入れる事も出来ないから、昼飯抜きの覚悟をしてお弁当の事を頭から追いやってたのに……
「ほら、俺の分をやるから」
「えっ!? タカ兄、熱でもあるの? それともタカ兄の偽物!?」
「……お前の事だから、財布も忘れて昼飯抜きの覚悟をして弁当の事を頭から追いやってるんだろうと思って、せっかく持ってきてやったというのに……どうやらいらないようだな」
「一言一句あってるし!? 貰います! てか、欲しいです!!」
一瞬前に考えていた事を的確に言い当てられ、私は少し動揺した。だが、少し以上動じる事は無かった。何故かって? だってこの人は私の片割れだからだ!
「厨二禁止!」
「また心を覗かれた!?」
「相変わらずのやり取りをしてるのね、コトミ」
「あっ、八月一日さん、こんにちは」
「つ、津田先輩……こんにちは」
「マキに言われたくないよ~」
タカ兄の前では相変わらずの真紀に、成長してないとか言われたくないよ。
「それじゃあ、俺は教室に戻るから。ちゃんと食べて午後はしっかり勉強しろよ」
「午後はって?」
「一時間目か二時間目かは知らないが、お前寝てただろ」
「ナ、ナンノコトデスカ?」
「頬、痕になってるぞ」
慌てて手鏡を取り出してみると、確かに少し赤くなっていた。
「赤点なんて取ろうものなら……今度こそ塾に通わせることになるだろうな」
「が、頑張ります!」
ただでさえタカ兄には迷惑をかけっぱなしだし、これ以上甘える訳にもいかないよね……私が甘えてる所為で、タカ兄は彼女を作る余裕すらないのだから……
昼休み、私たちは今朝終わらせられなかった仕事をするために生徒会室へ集まった。もちろん、仕事の前にはお昼ご飯を食べる事になっている。
「スズ、悪いが先に行っててくれ、ちょっと購買に行ってくるから」
「分かった」
お茶でも買い忘れたのかしら? まぁ、タカトシの速度なら、ほぼ私と変わらないタイミングで生徒会室に到着するでしょうけどね。
「おや、萩村。一人か?」
「タカトシ君は~?」
「購買に行くと言っていましたので、そのうち来ると思いますよ」
私の予想とは裏腹に、タカトシは私と同じタイミングでは到着しなかった。だが、少し遅れた程度で生徒会室に姿を現した。
「遅かったな?」
「ちょっと予想外の買い物をしてましたので」
そう言ってタカトシは、私の隣に腰を下ろし、パンを取り出した。
「あれ? あんた今日、お弁当は?」
「ん? コトミが忘れたらしいから、俺の分をコトミにあげて、俺の昼飯はコレ」
「それでタカトシ君、予想外のお買い物って?」
私も気になっていた事を、アリア先輩が聞いた。
「コトミの分の飲み物です。アイツ、昼前までに水筒の中身全部飲んでしまったらしいので」
「コトミちゃんらしいね~」
タカトシの話では、コトミはお弁当を忘れ、更に財布も忘れたらしいのだ。でも、持っていても大して入ってないとのことで、財布の事はタカトシも気にしていなかったらしい。
「そうだったんだ……うっ」
お弁当を食べ進めようと思ったが、中に納豆巻きが入っていた。お母さんめ……苦手だって言ってるのに。
「何だ、スズは納豆嫌いなのか?」
「う、うん……」
「でもスズちゃん、好き嫌いしてたら大きくなれないよ~?」
「それは、分かってますが……」
栄養があるのは分かってるし、アリア先輩が言っている事も理解している。でも、納豆だけはどうしても駄目なのだ。
「むしろ萩村は、大きくならないと食べられないんじゃないか?」
「貧乳が何を言っているんですかね」
一瞬にして険悪なムードになったが、タカトシの一睨みで私も会長も頭を下げた。互いに身体的コンプレックスには触れないという約束を取り付けて……
嫌いなものは無理に食べる必要は無いと思うんですけどね……