桜才学園での生活   作:猫林13世

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人数分作ったとなると、かなり大変そうだ……


タカトシのお返し

 ホワイトデーが近づいて来ているからなのか、教室でタカトシが悩んでる姿をよく見かける。別にお返しが欲しくてあげたわけじゃないけども、貰えるかもしれないと思ってしまうあたり、私も気が乱れてる証拠なんだろうな……

 

「はぁ……」

 

「どうしたのよ、あんたがため息なんて珍しく……もないわね」

 

「なんだよそれ」

 

 

 タカトシのため息を珍しいと思ったけども、途中でそうでもなかったと思い直したので素直に言ったら、タカトシが苦笑いを浮かべてツッコミを入れてきた。

 

「だって、あんたしょっちゅうため息吐いてるじゃない。もう幸せ残ってないんじゃない?」

 

「嫌な事言うなよ」

 

「それで、何でため息吐いてたのよ」

 

 

 少しくらいなら相談に乗れる、ということをアピールしようと、私はタカトシのため息の原因を聞くことにした。

 

「ほら、お返しをどうしようか考えててさ。さっき柳本にどうしたらいいか聞いたら『そんなこと知るか!』って怒られたんだよな……何も怒ることないじゃないかと思って」

 

「それは……」

 

 

 聞かれた柳本に同情するしかないわね……恐らく貰えなかったであろう彼に、お返しの事を聞くなんて、タカトシも考え無しというかなんというか……

 

「相談に乗るって言うから聞いたのに、答えないでいなくなるなんて」

 

「………」

 

 

 ただ単に柳本が自爆しただけだったのね……少しでもあんたを疑った私が悪かったわ。

 

「もう少し考えてみるよ」

 

「え、えぇ……頑張って」

 

 

 気のない返事をして見送った私だったが、それ以上何も言えなかったんだから仕方ないと自分に言い訳をして席へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホワイトデーコーナーを軽く見て回ったが、どれも微妙というかなんというか……あれだったら自分で作った方がよさそうな感じだったな……

 

「だけど、人数分作るとなると、ウチのキッチンでスペース足りるかな……」

 

 

 何回かに分ければ問題ないのだろうが、日持ちしないし何より時間もないしな……

 

「あら?」

 

「ん?」

 

 

 考え事をしながら歩いていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえたような気がした……たぶん気のせいだろう。

 

「津田さんではないですか。何をしているのです?」

 

「……出島さん、貴女こそ何をしてるのですか?」

 

 

 七条家専属メイドである出島さんが、鼻を抑えながら近づいてきた。

 

「いえ、先ほど公園で盛ってるカップルを見つけまして……ついつい興奮して鼻血が」

 

「へぇ……では、俺はこれで」

 

 

 この人と知り合いだと思われたくないと思った俺は、早急にこの場を離れようとした。

 

「逃げる事ないじゃないですか。ちなみに、今日はお嬢様はお稽古事で不在ですので、広いキッチンをご所望でしたらお貸出来ますよ?」

 

「何処から聞いてたんだ……」

 

 

 さすが、変態という面に目を瞑れば有能なメイドさんだ。しっかりと聞かれてたらしい……

 

「この時期にあのようなコーナーで腕を組みながらブツブツ言っているのを見れば、ある程度何の悩みかは想像出来ますよ」

 

「参りました」

 

 

 どうも考え事に集中し過ぎた所為で、出島さんの接近に気付かなかったようだな……俺は素直に頭を下げ、広いキッチンを貸してもらう事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホワイトデー当日、私とサクラっちはそわそわした気分でバイトへと向かう。シノっちからタカ君のお返しは手作りクッキーだと言う事は聞かされているのだが、味については何も教えてくれなかった。

 

「タカ君の事ですから、物凄く不味い、なんてことは無いのでしょうけども……」

 

「天草さんもそこを教えてくれない辺りSなんでしょうね」

 

「シノっちはタカ君にだけMだからね、私みたいに」

 

 

 普段Sっ気が強い私やシノっちだけども、タカ君の前ではMっ気を発揮するのだ。

 

「おはようございます」

 

「はい、おはよう。津田君ももう来てるし、魚見さんと森さんも急いで着替えちゃって」

 

 

 スタッフルームに入ると、店長が売り上げ計算をしているところだったらしく、挨拶を返されて急ぎ着替えるよう指示される。

 

「そんなに忙しいんですか?」

 

「ほら、ホワイトデーでしょ? 津田君にチョコを渡した女子高生たちが来てるんだよ。津田君も律儀にお返しを渡してるから、二人にはレジをやってもらいたいんだ」

 

「さすがタカトシさんですね。名前も知らない相手でも手抜きしないなんて」

 

 

 そうなのだ。お客さんとして顔は知っているが、この店でタカ君にチョコを渡した女子たちの名前は、タカ君はおろか私たちも知らない。それでもタカ君はその子たちへのお返しも用意したらしいのだ。

 

「これは、勘違いされても仕方ありませんね」

 

「というか、勘違いしない方がおかしいですよ」

 

 

 私が彼女たちの立場だったら、絶対に勘違いしただろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイトも終わり、私とカナ会長とタカトシさんの三人で、お決まりのカフェへと足を運んだ。

 

「これ、二人の分です」

 

 

 そう言ってタカトシさんが取り出したのは、綺麗にラッピングされたクッキーでした。良く見ると、お店で渡していたものと少し違うようにも見えます。

 

「あの子たちのとは違うんですね?」

 

「普通に付き合いのある皆さんと、顔だけしか知らないあの人たちとを同列に扱うのは失礼かなと思いまして」

 

 

 良く見ると私のクッキーとカナ会長のクッキーも、少し違うように見えました。

 

「全部同じじゃつまらないですから」

 

 

 そう言いながら、タカトシさんは視線を私から逸らした――ように見えました。それはつまり……勘違いしても良いと言う事なのでしょうか?




市販ではなく手作りなのが、ますます好意を加速させそうだ……

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