桜才学園での生活   作:猫林13世

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まずはこの三人


桜才生徒会メンバーの場合

 同じクラスだから、渡そうと思えばいつでも渡せる。だけどその勇気が中々でない。私はタカトシの側を行ったり来たりと、明らかに挙動不審だと思われているような行動をしていた。

 

「タカトシ君、チョコあげる」

 

「ありがとう。お返しは期待してていいよ」

 

「別にそんなつもりじゃないから、無理しなくてもいいからね」

 

 

 あっさりとタカトシにチョコを渡したムツミに、私は羨望と嫉妬が入り混じった視線を送ったが、ムツミには通じなかった。そう言えばさっき、ネネや畑さんまで普通にチョコを渡してたからな……どれだけもらってるのかしら。

 

「タカトシ、ちょっといいかしら」

 

「ん? どうかしたか、スズ」

 

 

 私はタカトシに名前で呼んでもらっている。これはムツミよりリードしてる証拠だろう。だがタカトシが名前で呼んでいる相手は私だけではなく、そもそも私より先に森さんや魚見さんは名前で呼んでもらっている。そして森さんは二回もタカトシとキスをしている……完全に出遅れてるわよね。

 

「これ、バレンタインのチョコ」

 

 

 チョコをタカトシに差し出してから、私は七条先輩に聞いた必殺の文句を続ける。

 

「勘違いしないでよね。生徒会の好で仕方なく用意したんだからね」

 

 

 これが今人気の「ツンデレ」というやつらしい。どうも男はこういったツンツンされた態度を取られると嬉しいとかなんとか……

 

「スズ、無理してないか? またアリア先輩にでも入れ知恵されたのか?」

 

「………」

 

 

 バレてるし……しかもあまりときめいてない……

 

「チョコはありがとう。だけど、あまり無理しなくていいからな」

 

「何でお前はそうなんだよー!!」

 

「お、おい……廊下を走ると風紀委員に怒られるぞ」

 

 

 走り去ってやろうかとも思ったけど、タカトシのツッコミで思い止まった。

 

「……今はアンタの優しさが辛いわ」

 

「うん、よくわからないけどゴメン……」

 

 

 せっかくチョコを渡したというのに、何という気まずい空気……私は心の中で自分のバカさ加減に呆れてしまい、タカトシは私の演技にどう反応すればよかったのかと考えているようだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 萩村は撃沈したと聞かされ、私は内心ガッツポーズを取った。我々生徒会の中で、萩村が一番タカトシとの距離が近い。物理的な距離もだが、精神的な距離も、私やアリアと比べれば大分近いのだ。

 その萩村が自爆したと聞かされ、嬉しいと思ってしまうのは先輩として失格だろう。だが、一人の女子としては正しい反応だと思っている。

 

「お疲れ様です」

 

「おう、タカトシ。ちょっといいか?」

 

「なんです?」

 

 

 生徒会室にやって来たタカトシに、私は鞄に忍ばせたチョコを差し出す。

 

「これを君にあげよう」

 

 

 実は今日、生徒会の業務は無く休みなのだが、その事を私はタカトシには伝えていない。アリアもスズも、タカトシと二人の状態でチョコを渡したいと考えていたので、私の考えを理解してタカトシには伝えないでおいてくれたようだ。

 

「ありがとうございます」

 

「……反応が薄いな」

 

「いや、嬉しいんですけど……」

 

 

 そう言ってタカトシは、紙袋十個分のチョコを私に見せてきた。あぁ、こいつはこの学園で私以上に人気があるからな……ちなみに、私は紙袋五個分のチョコを貰った。女子なのに……女子からもらった。

 

「ちゃんと全員のチョコを食べると考えると、もう憂鬱になりそうなくらいだな……」

 

「いや、そんなことは無いですが、食べきる前にお返しを考えなければならなくなりそうですよ」

 

 

 そう言ってタカトシは、笑顔で私のチョコを受け取ってくれた。この笑顔だけで、今は満足しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室からタカトシ君が出てきたのを見計らって、私はゆっくりと彼の背中に声を掛けた。

 

「タカトシ君」

 

「あっ、アリア先輩……今日生徒会の業務が無いのなら教えてくれたって良かったでしょうに」

 

「今日が何の日か、この学園で一番分かってるくせに。女の子が二人きりになりたいって思ったんだから仕方ないって思わなくっちゃ」

 

 

 私が声を掛けた理由も、タカトシ君は理解してるだろう。自惚れが強い訳ではなく、それだけタカトシ君は女子に人気なのだ。

 

「私からも、はい」

 

「ありがとうございます。ちゃんと食べさせてもらいますね」

 

「無理しなくてもいいよ? 私は気持ちを渡せればそれで」

 

「気持ちは受け取れませんよ。俺はまだ、自分が誰の事が好きなのかよくわかりませんし」

 

「そうなの? 私が見た限り、タカトシ君はサクラちゃんの事が好きだと思ってたけど」

 

「人として好意は持ってますが、それがイコールで女性として好きなのかと聞かれたらちょっと……」

 

 

 タカトシ君は真面目なので、恋愛にも理屈を持ち込んでいるようだった。そういった考えをする人がいるというのは知っていたけど、まさかこんな身近にいるとは……

 

「タカトシ君、恋愛は理屈じゃないんだよ。この雌に突っ込みたいって雄の本能が感じれば、それはもう……」

 

「何を言ってるのか分かりませんが、そう言った発言は身の危険に繋がりますのでお気を付けくださいね」

 

 

 笑顔で拳を見せて来るタカトシ君に、私は戦慄と興奮を覚えた。あのS顔は何人の雌を興奮させるのだろう。

 

「全く……とりあえず、恋愛についてもう少し考えてみますよ」

 

「そうしてね。じゃないと、何人もの女子が、君に恋い焦がれて先に進めなくなるんだから」

 

「……なんか責任重大ですね」

 

 

 あまり理解していないようだったけど、それくらいタカトシ君は色々な女子から好かれているのだ。彼が誰か一人に決めてくれれば、他の女子たちも新しい恋を見つけることが出来るかもしれないしね。




すでに凄い戦果だな……

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