今日は桜才学園と英稜学園でソフトボールの試合が行われる。我々生徒会は応援としてグラウンドを訪れると、見知った人がユニホームを着てグラウンドに立っていた。
「カナじゃないか!」
「おや、シノっちではありませんか。それにタカ君にスズポン、アリアっちも」
「こんにちは。カナさんって部活をやりながら生徒会とバイトをしてたんですか?」
タカトシの質問に、カナは笑顔で首を横に振った。
「今日は代理です。メンバーが一人、風邪を引いてしまったらしいので」
「ですが、急に言われて出来るものなんですか?」
萩村が当然の疑問をぶつけると、カナは胸を張って答えた。
「昔少しやっていたんですよ。これでも、不動の八番と言われていましたので!」
「……どう賞賛を送ればいいんです?」
なんとも微妙な二つ名に、萩村は困ったような顔でカナを見上げる。
「そう言えば、萩村さんは帰国子女でしたね。欧米風の挨拶を」
「いえ、もう日本も長いので……」
「まぁまぁ、そう言わずに……っ!」
萩村にハグをしたカナが、ビクッと身体を震わせる。なんだ? いったのか?
「今『えっ、ブラしてるの』って反応しただろ……てか、してるの見た事あるだろうが!」
「そそそ、そんな事ないですよー」
カナが誤魔化しきれずに視線を私たちに向け、親指を立ててグラウンドに戻っていった。
カナ会長の応援で桜才学園を訪れたら、タカトシさんたちも来ていた。私は桜才生徒会メンバーの方々と合流して、会長の試合を見学する事にした。
「サクラさんは、カナさんがソフトボールをやってるとこ、見た事ないんですか?」
「そうですね。会長が運動神経が良いと言う事は知っているんですが、実際に何かをしてるところを見たことは多くないですね……」
水泳などは見たことありますが、球技をやってるとこを見たことは無いような気がします……
「おっ、良い当たり」
桜才の選手が痛烈なセンター返しを打つと、カナ会長が回り込んで一塁に送球した。
「凄い反応でしたね」
「守備範囲が広いんですね」
タカトシさんとカナ会長の今のプレーを振り返っていると、会長が何か恥ずかしさを隠してるような表情でこっちを見ている。その目を見て、会長が何を考えているのかを見透かそうとすると――
『何故今のプレーで、私にショタ属性があると分かったのだろう』
――と書いてあった。
「どうやら、何か勘違いしてるようですね」
「そのようですね」
私は会長の目を見て何を考えているのかを見透かしたのだが、タカトシさんは特に目を見たわけでもないのに、分かっている様子だった。
会長の活躍で桜才の攻撃をゼロ点で抑え、今度は英稜の攻撃。打席にはカナ会長が立っている。
「不動の八番と言われていたと言っていましたが、打撃は微妙だったのでしょうか?」
「どうなんでしょう……小技とかが得意なら、二番に入るでしょうし……」
そんな話をタカトシさんとしていると、若干ボール球にも見える球を強引に打ち返し、その打球はぐんぐん伸びていき――
「ホームラン、ですか」
「そうですね」
――見事スタンドまで運んでいった。
「良くあんな球を打ちましたよね」
「きっと、ストライクゾーンが広いんですよ、会長は」
普通なら見送るような球を打ち返し、そしてホームランにしたのだから、会長にとってあそこはストライクゾーンだったのだろう。
「?」
「何故カナさんがこちらを見てるんでしょう……」
先ほどの守備の時同様、カナ会長が私たちの方を見て焦っているように見える。
『やはり、私のショタ属性があるとバレている!?』
「また勘違いしてますね」
「カナさんの思考回路はどうなってるんですか……」
呆れたように呟き、タカトシさんはカナ会長から視線を外した。そのまま試合は進み、会長の活躍虚しく英稜の敗北となったのだった。
試合が終わり、私はシノっちたちと合流した。
「後でメールしてもいいか?」
「もちろんです!」
「会長たちはプライベートでもお付き合いがあるんですね」
「まぁな。私たちは色々と似ているからな」
「似ている? まぁ、生徒会長同士ですし、勉強も出来ますからね」
スズポンが常識的な共通点を挙げたが、私たちは頷きあってもう一つの共通点を教えることにした。
「「発情のスイッチも同じだったし」」
「嫌な共通点ですね……」
タカ君のツッコミが入り、私とシノっちは満足して手を振り別れた。
「サクラっちに質問です」
「はい?」
「何故試合中のプレーを見ただけで、私にショタ属性があると分かったのですか?」
「そんな話は一切してないんですが……」
「え?」
だって「守備範囲が広い」とか「ストライクゾーンが広い」とか言ってたのは、私がショタもいけると見抜いたからじゃなかったのでしょうか。
「あれは普通に、会長の守備に対する賞賛と、バッティングに対する賞賛ですよ。難しい打球を処理したり、ボール球を打ち返したり」
「じゃあ、タカ君にもバレてなかったんですか?」
「どうなんでしょう……タカトシさん、心の裡を見透かしたような顔をしてましたから」
サクラっちの言葉に、私は今更ながらにタカ君のスペックの高さを思い出した。タカ君は読心術が使えるんだから、あんなことを考えていたら一瞬でバレるじゃないですか……
「どうしましょう……タカ君に変態だと思われてしまいます……」
「えっ?」
「え?」
サクラっちが驚いたような声を上げたので、私はそれに反応して声を出した。サクラっちが何に驚いたのか、その事は教えてくれなかったのでした。
凄い事は凄いんですが、考えてる事が残念……