桜才学園での生活   作:猫林13世

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たまには頑張れ……


努力のスズ

 七条家の別荘から帰ってきてから数日後、年末年始に帰って来ていた両親が再び出張に出かけた。タカ兄と二人きりになるのは何時もの事だけど、私よりタカ兄の方がお年玉が多かった気がするのは気のせいだろうか……

 

「タカ兄、いくらもらったの?」

 

「何だいきなり……全額返したに決まってるだろ」

 

「えっ、もったいない」

 

「何だ、コトミはもらったままなのか?」

 

「当然だよ! 前から欲しかったあれやこれを買おうと考えてるんだから」

 

 

 普段のお小遣いではちょっと手が出せないが、こういった臨時収入があった時くらいはぱーっと使いたいものだよね。

 

「……まぁ、お前はバイトもしてないし、去年は勉強も頑張ったからいいか。ほら、お年玉」

 

 

 そう言ってタカ兄は、私にお年玉をくれた。

 

「えっ、いいの?」

 

「いらないのか?」

 

「いえいえ、ありがたく頂戴いたします」

 

 

 頭を下げ、大事に受け取った私の姿を見て、タカ兄がちょっと笑った気がした。

 

「それじゃあ、俺はバイトだから」

 

「あれ? 今日シフト入ってたんだ」

 

「年末年始に抜けてたから、その代わりだ」

 

「ああ。サクラ先輩やカナ会長も抜けてたもんね~」

 

 

 一緒にいたのだから当然だが、三人もシフトから抜けて大丈夫だったのだろうか? まぁ、この時期は臨時のバイトを雇ったりしてるのかな。

 

「飯の支度はしてあるから、温め直すなりして食べてくれ」

 

「了解だよ! あっ、トッキーとマキを呼んでもいいかな?」

 

「好きにしろ。二人が何か食べるんなら、冷凍庫に作り置きがあるし、まだおせちの残りがあるだろ」

 

 

 タカ兄が両親の為に作ったおせち料理は、七条家の別荘で食べたおせち料理に負けずとも劣らない味をしているので、食べるのが楽しみだな。

 

「それじゃあ、洗濯物だけ取り込んどいてくれよな」

 

「はーい、いってらっしゃーい」

 

 

 タカ兄を見送り、私はトッキーとマキに電話をし、家で遊ぶことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コトミに誘われて、私はコトミの家に向かっている。途中でトッキーと合流して向かうので、まずはトッキーの最寄り駅で待ち合わせをした。

 

「悪いな、何時も」

 

「仕方ないよ。トッキーはドジっ子だって言われてるんだし」

 

 

 何度遊びに行っても、トッキーは未だに一人で津田家へと時間通りにたどり着けない。これはもうドジで済まされないのではないかとも思うが、そう言う人はいるって聞くし、トッキーもそう言う事なんだろうなと納得する事にした。

 

「そう言えば、去年は兄貴にもお世話になったから、ちゃんと挨拶しておかないとな」

 

「津田先輩ならバイトだって、コトミから聞いてるけど」

 

「あの人は何時休んでるんだ?」

 

 

 トッキーの疑問に、私も少し考えてしまった。学校では生徒会の仕事やツッコミ、家では家事や勉強、エッセイの執筆やコトミの相手、さらにはバイトや運動までして、休む時間などあるのだろうか。

 

「そう言えばトッキー」

 

「何だ?」

 

「宿題は終わってるの?」

 

「……あと少しだよ」

 

 

 今、ちょっと間があったのは何だったんだろう……まぁ、コトミもやってないだろうし、追い込みでまた集まったりするんだろうな。

 そんなことを考えながら津田家への道を進むと、なんだか見覚えのある集団が私たちの前に現れた。

 

「天草会長、それに七条先輩と萩村先輩」

 

「ん? おお、八月一日にトッキーか。お前たちも津田の家に行くのか?」

 

「そうですけど……津田先輩はバイトですよ?」

 

 

 私がそう告げると、天草会長と七条先輩は驚いたように私に詰め寄ってきた。

 

「何故お前がタカトシの予定を知っている?」

 

「もしかして、タカトシ君から直接聞いたの?」

 

「い、いえ……私たちはコトミから誘われて、そのメールの中に書いてありました」

 

 

 正直に告げると、二人はホッと胸をなでおろして私から離れてくれた。

 

「だから言ったじゃないですか。タカトシが家にいる確率は低いんじゃないですかって」

 

「そんなこと言ってもな……年末年始一緒にいたのに、ちゃんと挨拶してなかったと思ってな」

 

「先輩たちは年越し、一緒だったんですか?」

 

「家の別荘で過ごしたんだよ~。来年は二人も誘うね~」

 

「来年って、先輩たちは卒業じゃないんすか?」

 

 

 今まで黙っていたトッキーが口を開いたが、別に卒業したからって関係が終わるわけじゃないし、そこは気にしなくてもいいんじゃないのかな……

 

「問題は無い! 宇宙意思でそういう概念は存在しないからな」

 

「シノちゃん、あまりメタ発言をすると読者さんが混乱しちゃうわよ」

 

「いや、アリア先輩も大概です……」

 

 

 何だか私たちには分からない会話を始めた先輩たちだが、とりあえず問題は無いらしい。

 

「タカトシがいないんじゃ仕方ないな……バイト先に行き先を変更だ」

 

「迷惑じゃないですか? ましてや先輩たちはジャンクフード食べないんですし」

 

「お茶だけでも十分だと思うぞ。それに、たまにはジャンク扱いも悪くない……」

 

「発想が斜め上過ぎんだろ……」

 

 

 津田先輩不在の為、萩村先輩が何とかツッコミを頑張っているようだが、どうもキレが今一つのようだった。最近では津田先輩にツッコミをまかせっきりだったと反省していたのを見た気がするので、それが原因なんだろうな。

 

「それじゃあ、私たちはコトミと遊びますので」

 

「そうか。じゃあ、また学校で。くれぐれも新学期早々遅刻、などと言う事の無いように」

 

 

 最後は生徒会長らしいところを見せ、天草会長たちは津田先輩のバイト先へ本当に向かって行ってしまった。

 

「あれ、迷惑な客になるんじゃね?」

 

「……その時は、津田先輩が対処するよ、きっと」

 

 

 三人を見送って、私たちは津田家へと歩を進めたのだった。




タカトシ不在はスズにとって絶望でしかないだろうな……

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