生徒会室に畑さんがやってきて、インタビューを開始した。毎回よく聞くことが無くならないな……
「本日もありがとうございました」
「何回受けても緊張するものだな、インタビューと言うのは」
「そうなんですか? いつも平常心を保ってるように見えますが」
シノ先輩のコメントに、畑さんが見たままのコメントを返した。確かにシノ先輩は平常心を保ってるように見えるけどな……
「いや、緊張でビチョビチョなんだ」
「そうだったんですか。ではその場所を一枚……」
「二人とも、あまりふざけてると容赦しませんよ?」
ふざけ始めたので、俺は少し脅して大人しくさせた。最近はこうすれば大人しくするから楽が出来るんだよな。
「では、さっそく今日インタビューした事を記事にしたいと思います。見出しは『生徒会の夫婦コンビに迫る』でどうでしょう」
「なっ! 誰が夫婦だ! 考え直せ!」
「なんかちょっと嬉しそうじゃないですか?」
シノ先輩の表情は、どことなく嬉しそうに感じたので、俺は率直に聞いてみたが、答えてはくれなかった。まぁ、答えられても反応に困るだけなんだが。
「駄目ですか……じゃあ主従コンビで。もちろん、会長が従で」
「うむ、それなら構わない」
「いや、構うよ」
変な噂を流されても困るし、何故俺が主なのかもツッコミたい気分だ。地雷臭がするからツッコまないが……
「先輩とタカトシって、何かと噂されてるわよね」
「殆ど根も葉もない噂だけどな」
「まぁ、人の噂も七十五日って言うし、ほっとけば良いんじゃない?」
「殆ど信じてないみたいだし、気にし過ぎるだけ無駄だって」
むしろシノ先輩との噂より、カナさんやサクラさんとの関係を聞かれることが多い。
「とりあえず、畑さんの記事は確認した方がよさそうなので、シノ先輩も確認してくださいね」
「ああ、任せろ」
シノ先輩も手伝ってくれるなら、多少は楽が出来るかな。まぁ、検閲の手は緩めないけどな。
昨日夜更かしした所為で眠いわね……授業中は何とか我慢できたけど、これから生徒会の業務があるし、顔でも洗おうかしら……
「スズ先輩、この眠気が覚めるガムをどうぞ」
「あら、悪いわねコトミちゃん」
タカトシの妹、コトミちゃんから眠気が覚めるガムを貰い噛み始める。これは中々大人の味ね……
「すーすーするわね」
「ですよね。タカ兄がスズ先輩に渡せって言ってたんで持ってきたんですけど、なかなかおいしいですよね」
タカトシに心配されてたのか……それにしても、本当によく周りを見てるわね。
「もしかして、スズちゃんもこっちの世界に目覚めたのー?」
「アリア先輩……こっちの世界って」
「ノーパンだよ~」
「違います。絶対に違います」
私がアリア先輩の勘違いを正してる間、コトミちゃんはガムを風船のように膨らましていた。
「膨らますの上手いわね。私、全然出来ないのよね」
「そうですか? 小さくて可愛いですよ、おしゃぶりみたいで」
「悪気が無くても許さん」
誰がおしゃぶりだ! これでも私はお前の先輩なんだぞ!
「……何やってるんだ、さっきから」
「あっ、タカ兄。スズ先輩にガムを渡してたんだよ」
「それで何でスズがあんなに怒ってるんだ?」
「それが、よくわからないんだよね~」
津田兄妹が揃って首を傾げたが、コトミちゃんは分かってるでしょうが!
この間の文化祭の感想が届いたので、私はさっそくサクラっちに報告する事にした。
「桜才学園生徒会メンバーから、文化祭の感想が届いたんですか? それで、どんな反応だったんですか」
「えっとまずシノっちは『お笑いを見て来てしまったのかと思ったが、なかなか楽しめた』との事」
「相変わらずぶっ飛んでますね……」
「次にアリアっちからは『保健室に期待した出し物が無かったのが不満』だそうです」
「あの人は何を期待してたんでしょう……」
「そしてスズぽんですが『やたらと子供扱いされたけど、出し物自体は楽しかった。だが子供扱いされた事だけは許せない』と、二回も文句を入れ込んでますね」
「萩村さん……」
スズぽんのコメントを聞いて、サクラっちが涙ぐんでいる。まぁ、あの容姿じゃ子供扱いされても仕方ないとは思うけどね。
「そしてお待ちかね、タカ君からのコメントです」
「会長がもったいぶると言う事は、結構厳しいコメントだったんですか?」
「そんなこと無いですよ」
別に私は、最後に厳しいコメントを残したわけではないのです。それがタカ君のコメントだったから最後にしただけで、罵倒されたいドMと言うわけではないのです。
「それじゃあ言いますね。『全体的に盛り上がっていたが、ところどころ寂しい場所があった。ゴミ箱の設置が徹底してなかったのか、その場所にゴミを置いていく人間が目立ったので、その辺りは改善した方が良いと思いました。出し物については、文句のつけようのないくらい楽しかったですが、調理室で囲まれたのは勘弁してほしかったです』との事です。さすがタカ君、目の付け所が違いますね」
「確かに。ゴミの問題は私も気になりました。指定のゴミ箱を増やすように、来年から学校に申請しましょう」
「タカ君は他の学校だからといって、評価をいい加減にしないから良いですよね」
まぁ、桜才学園の皆さんはしっかりとコメントしてくれるので、私たちも更なる高みを目指せるので、このコメントは大事に保管しておきましょう。そう思い、私は四人のアンケート用紙を、重要書類がファイルされている場所にしまい、サクラっちと一緒に生徒会室を後にしたのでした。
風船ガムか……久しく食べてないな