十一月になり、少しずつではあるが厚着をしている生徒が目立ってきた。確かにハロウィンを過ぎて、あっというまに寒くなってきたから、厚着をするのも仕方ないだろう。
「男子にとっては残念な時期だな」
「何でです?」
「厚着されたら、ブラチラや脇チラがなくなるだろ?」
「何の話をしてるんですか、いったい……」
しまった。こいつは平均的な男子高校生の思考を持ち合わせていなかったんだ……何言ってるのこの人みたいな目で見られてしまってるぞ……いや、これはこれで興奮するな!
「でもシノちゃん。多く着てるって事は、その分脱がす楽しみが増えるって事じゃない? 悪い事ばかりじゃないと思うんだけど」
「そうなのか? 脱がす喜びというのを体験した事ないからな……実際どうなんだろう?」
「あの、校門で話す事じゃないと思うのですが」
我々は今、校門前で服装チェックをしているのだが、時刻は午前七時三十分。登校してくる生徒など殆どおらず、こうして暇つぶしをしているのだ。
「風紀委員も一緒にチェックすると聞いていたが、五十嵐は来ていないのか?」
「ああ、五十嵐さんならコーラス部の朝練があるからと、既に校内ですよ」
「何故タカトシがそんなことを知っているんだ!」
「何故って、五十嵐さんからメールが着ましたし……シノ先輩にも行ってるはずですよ?」
「何っ?」
私は慌てて携帯を取り出して、メールが届いているか確認した。
「あっ……充電忘れて電池切れてる」
「………」
「ま、まぁこういう日もあるさ!」
タカトシに半目で睨まれ、誤魔化すように笑った。それにしても、五十嵐もタカトシのアドレスを知っているのか……前回のイメージ調査でタカトシとお似合いなのは誰かで、私より上位にいたからな。油断ならないぞ。
「ところでタカトシ君。寒くなってきたから、そろそろ下着穿いた方が良いかな~?」
「穿いてください。てか、常に穿いているのが普通です」
「そうなのかな~? でも、校則には載ってないよね?」
「載せるまでも無く、一般常識としてです」
「でもでも、穿かない方が便利だと思うんだよね~? お手洗いの時とか青○の時とか」
「バカな事言ってないで、明日からちゃんと穿いてください。スズに確認させますので」
「何で私っ!? って、タカトシが確認するわけにもいかないわよね……」
普通の男子生徒なら、自分が確認しますくらい言うんじゃないのか? てか、こいつに性欲があるのかどうか疑わしくなってきたな……ちゃんと処理しているのだろうか……
放課後、生徒会室で書類整理をしていると、シノ先輩とアリア先輩がようやくやって来た。どうやら体育だったらしく、着替えやらで遅れたらしい。
「今日の体育はなかなかハードだったな」
「そうだね~。まさかあんなに白熱した試合になるとは思ってなかったよ~」
「何をしたんですか?」
既にお喋りモードに入っているのか、スズも先輩たちとの会話に加わった。まぁ、残ってる仕事の殆どは俺が処理しなければいけないものだし、スズがお喋りに加わっても問題は無いんだが、せめてもう少しボリュームを抑えてほしいと思うのは、俺の心が狭いのだろうか。
「サッカーだ!」
「三年生は男子がいないから、そういった競技もするんですね」
「シノちゃんが一人で活躍してたイメージしか残ってないけど、結果は五対四だったんだよね~」
「そうなんですか」
サッカーで五点も入るとは、ディフェンスが笊だな……てか、合計九点って凄いな。
「あっ、会長。そこ血が出てますよ」
「何っ!?」
スズの指摘に、シノ先輩が反応したのだろう。なんだか嫌な予感がしたので、視線を更に書類に向け、意識を集中して声を聞こえ辛くする。
「別に血なんて出てないぞ?」
「あの、もう少し下なんですが……」
「ん? あぁ、膝を擦りむいたのか」
お喋りも終わったようで、シノ先輩は席に着き、アリア先輩がコーヒーを淹れてくれた。
「シノちゃん、幾つ?」
「十八だが」
「違う違う、お砂糖の数だよ」
「ああ、定番の間違いをしてしまったな。二つで頼む」
「了解。スズちゃんは幾つ?」
「幾つに見えます?」
「んー……十歳?」
「よっし、喧嘩だ!」
斬新な切り返しをしたスズだったが、アリア先輩に真顔で返されてしまったようだ。てか先輩も何でスズの神経を逆なでするようなことを……
「冗談だよ~。本当は九歳に見える」
「フォローになってないんだよー!」
「落ち着けって。先輩もスズをからかって遊ばないでください」
「ごめんごめん。ところで、タカトシ君は幾つ?」
「俺はブラックで結構です」
アリア先輩からコーヒーを受け取り、そのまま口に運んだ。やはりブラックが一番だな。
「タカトシは砂糖もミルクも使わないよな? 何時からブラックが大丈夫になったんだ?」
「そうですね……中学の頃にはもう大丈夫だったはずですね。正確な時期は覚えてないです」
「そうなのか……大人なんだな」
「……何故下半身を凝視しながら言う?」
恐らく先輩の事だから、何か含みがあるのだろう。だがそれに付き合って面倒な事になるのは御免だから、とりあえずスルーすることにした。
「てか、二人は何時までやってるんですか……ほこりが舞いますよ」
きちんと掃除はしているが、それでもほこりはあるだろう。せっかく淹れたコーヒーにほこりが入ったら、ちょっと嫌な気分になるだろうし、何よりいい加減五月蠅いので、そろそろ止めておこう。
「……タカトシが言うならこの辺で止めておくわ」
「スズちゃん、ちょっとした冗談だよ~」
「笑えないわ!」
スズの今日一の声が、生徒会室に木霊したのだった。
ふざけあえる仲は微笑ましいです