桜才学園での生活   作:猫林13世

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これで成績も部活補正が掛かって大丈夫に……


トッキー、柔道部へ

 インターハイの二回戦で敗退してしまい、全国のレベルを実感した私は、戦力アップの為に新しい部員を勧誘することにした。だけど、そんな即戦力な子が、この桜才学園にいるのかなぁ……

 

『そう言えば、時さんって強いらしいね』

 

『何でも、素手で熊を投げ飛ばすらしいね』

 

 

 時さんって、確かタカトシ君の妹さんのお友達だったっけ。まさかそんな逸材がいたなんて。早速勧誘に行かなくては!

 

「――ってわけで、入ってくれないかな?」

 

「嫌だよ、めんどくさい」

 

「どうしても駄目?」

 

「ああ。悪いが他を当たってくれ」

 

「しょうがないなぁ……」

 

 

 他を当たるにしたって、そんな簡単に次の候補者が見つかるわけがない。だから私は説得の方法を変えることにした。

 

「――で、生徒会室に来たの?」

 

「うん」

 

 

 一人で説得出来ないなら、大勢で説得すればいいんだと思って。

 

「理由は分かったから、そろそろ解放してあげたらどうだ? 時さん、苦しそうだぞ」

 

「だって、こうしておかないと逃げられちゃう」

 

 

 送り襟締めをしていたんだけど、タカトシ君に注意されちゃったから解放することにした。だって、タカトシ君が怒ったら学校が壊れるって、友達が友達から聞いたって言ってたし。

 

「それで、なんで時さんなんだ? 彼女がやってるのは空手だったはずだが」

 

「えっ、そうなの!? だって、熊も素手で投げ飛ばすって聞いたけど」

 

「誰から?」

 

「えっと、一年生が話してるのをたまたま聞きました」

 

「信憑性ゼロだな……」

 

 

 タカトシ君が呆れながら、時さんに何か話してるけど、私にはその何かが聞こえなかった。でも、タカトシ君の事だらか、きっと説得してくれてるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実力を見せるという名目で、私は何故か三葉先輩と勝負することになった。兄貴に頼まれたら断れねぇしな……

 

「それじゃあ、時間無制限一本勝負」

 

「私が勝ったら、柔道部に入ってもらうよ」

 

「……私が勝ったら?」

 

 

 まぁ、負けても入る気なんてさらさらねぇけどな。

 

「主将の座を譲るよ」

 

「逃げ道がねぇ!?」

 

「三葉、それじゃあ時さんが柔道部に入るのが確定してるみたいだぞ」

 

 

 兄貴がツッコミを入れてくれたお陰で、私が勝ったら勧誘を諦めてもらえることになった。それにしても。やはり兄貴がいてくれると助かるな……勉強面でもツッコミ面でも。

 

「道着って、あの紐をきつく縛ると気持ちよさそうだね~」

 

「アリア先輩、黙っててください」

 

「初め!」

 

 

 変なボケで気が削がれたタイミングで、会長が開始の合図を言いやがった。こうなったらテキトーに腕でも極めて終わらせるか。

 

「やるね、時さん。でも、それじゃあ私には勝てないよ」

 

「チッ、ちょこまかと!」

 

 

 腕を極めるつもりで飛び込もうとしたが、簡単に間合いから逃げられてしまった。やはりこの人は強い……だけど負けるつもりなんてねぇ!

 

「っ、やぁ!」

 

「!?」

 

 

 一瞬の隙を突かれ、私は腕ひしぎ十字固めを喰らってしまった。やっぱり、私じゃこの人には勝てなかったか。でも、なんだか悪くなかったな……

 

「そこまで! 勝者・三葉ムツミ!」

 

「惜しかったね」

 

「いや、完敗だったっす」

 

 

 三葉先輩に腕を引っ張ってもらって立ち上がり、私は一礼して握手した。ここ最近感じてなかった熱い気持ちが私の中にある。これは、柔道も悪くないかもしれないな。

 

「それじゃあ、明日から時さんも練習に参加してね」

 

「あぁ、約束だからな」

 

「それから」

 

 

 ん? まだ何かあるのか?

 

「次からはちゃんと道着を着るように」

 

「は?」

 

「ヤンキーだから裏返しにして着てるんでしょ?」

 

「そんな着崩しがあるか!」

 

 

 また、やっちまったようだな……こればっかりは治そうと思っても治らない病気みたいだ……生徒会の面々にも笑われちまったぜ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何か昨日は熱い展開があったようで、トッキーが柔道部に所属することになったらしい。

 

「トッキー、面白い事があったなら言ってよー。私も見たかったなー」

 

「いきなり決まった事だし、見ても面白くねぇだろ」

 

「そんなことないよー。熱いバトルが繰り広げられたなら、それを見て興奮しちゃうって」

 

「そんなもんか?」

 

 

 トッキーは気づかなかったようだけど、おそらくシノ会長とアリア先輩は興奮していただろう。

 

「それで、何でトッキーが柔道部に? トッキーがやってたのって空手だよね?」

 

「色々あったんだよ。しかも、兄貴に説得されたら、一応勝負するしかねぇだろ。あの人には色々と世話になってるんだし」

 

「そうかなー? タカ兄に頼まれたことを、私すっぽかしたことあるよ」

 

「お前は血縁だからな。多少は世話になっても気にならねぇかもしれねえが、私はそうはいかないんだよ」

 

 

 トッキーはヤンキーだけに、受けた恩はしっかりと返すのが主義らしい。確かにトッキーもタカ兄に相当お世話になってるもんね。

 

「トッキーも部活に入っちゃったし、遊ぶ時間とか減っちゃうね」

 

「休みの日とかに遊べばいいだろ」

 

「部活に入ったって事は、より一層勉強が疎かになりそうだね」

 

「グッ……考えないようにしてたのに、余計な事を!」

 

「まぁまぁ、トッキーが部活をやらなければいけなくなった原因の一端はタカ兄にあるんだし、マズかったらタカ兄に頼ればいいんだよ」

 

 

 タカ兄なら、頼まれれば断らないだろうしね。何せ、私の夏休みの宿題を結局手伝ってくれたくらいお人よしなんだから。

 

「あんまりあの人に頼るのはな……悪い気がして」

 

「大丈夫だって! タカ兄は私をこの学園に入れてくれたんだから、トッキーのテストの赤点回避くらい楽勝だってば!」

 

 

 悲しい事実ではあるけど、自力では入学できなかったと自覚しているのだ。だからではないが、テスト前にはタカ兄に泣きついて勉強を教えてもらっている。だって、ギリギリで入った私に、ここの授業は難し過ぎるのだ。

 

「トッキーも一緒にやれば、私もしっかりやるかもしれないし」

 

「それはねぇな」

 

 

 何故か否定されたけど、とりあえずタカ兄に頼ることは考えているらしい。タカ兄も色々と頼られて大変だろうけども、それに応えるだけの実力があるから凄いんだよね。我が兄ながら、何処にそんなエネルギーがあるのか不思議だよ。




若干タカトシに説得された感も……

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