桜才学園での生活   作:猫林13世

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二人の不幸は続く……


修学旅行 ホテル編

 首里城からホテルに移動するバスの中で、私は質問責めに遭っていた。訊かれている事はもちろんタカトシさんの事と、私とタカトシさんの関係だ。

 

「サクラ、あの桜才の人と知り合いなんでしょ? どういう関係なの?」

 

「空港で納得したんじゃなかったの?」

 

「あの時は『ああ、ツッコミ仲間か』とは思ったけど、それだけじゃないでしょ? アンタあんまり男子と仲良くしないし」

 

 

 桜才の五十嵐風紀委員長程ではないが、私も男子生徒と親しくすることを苦手にしている。カナ会長に相談したら――

 

「サクラっちのその見た目でその巨乳ですから、男子生徒が欲情しない方がおかしいとは思います」

 

 

――と言われた。

 去年初めてタカトシさんと会った時は、まさかここまで親しくなるとは――事故とはいえキスしてしまうとは思っていなかった。

 

「それで、あの人とサクラの関係は? もしかして彼氏だったり?」

 

「違うよ。タカトシさんは同じ生徒会副会長で、同じバイト先で、同じツッコミポジションで……」

 

 

 最後の共通点は私もタカトシさんも甚だ不本意ではある。だけどツッコミを放置すると、ボケが暴走してしまうのだ。英稜はカナ会長一人ですが、桜才は天草会長や七条先輩、新聞部の畑先輩に生徒会顧問の横島先生。それ以外にもタカトシさんの妹のコトミちゃんや、七条家専属メイドの出島さんなど様々な人がタカトシさんの周りでボケ倒すのだ。

 

「成績は? あの人も学年上位なの?」

 

「確か学年トップタイって聞いてる。萩村さんと一緒に全問正解だって」

 

「全問正解!? そんな人間が存在するんだ……」

 

「運動神経は? あの見た目・成績優秀で運動神経抜群なんてあり得ないよね?」

 

「殆どの競技でプロを目指せるくらいには運動が得意だって、萩村さんから聞いたけど。実際に見た事あるのは走りと泳ぎ、後はスキーかな。確かに上手かったし速かった……」

 

 

 その時の光景を思い出し――正確には溺れかけて慌てていた時にキスされたり、スキーを教わっている時にした事故チューの事を思い出して――私は顔を赤らめてしまった。

 

「なになに、そんなに顔を赤くするくらいカッコ良かったの?」

 

「えっ? うん、そう! とにかく凄かったの」

 

「へー。サクラがそういうなら、本当に凄かったんだろうね」

 

「……タカトシさんって言った? もしかして桜才新聞でエッセイを担当している津田タカトシさん?」

 

「えっ? うんそうだけど……言ってなかった?」

 

「聞いてないよ! 嘘っ! 私ファンなのに……今度会えたら握手してもらわなきゃ!」

 

 

 別に芸能人じゃないんだけどな、タカトシさんは……終始その話しで盛り上がったので、バスで休む事が出来なかった。まぁホテルに着けばゆっくりできるだろうし、タカトシさんの事を聞かれる事も少なくなるだろうしね。まさか部屋に押し掛けてきてまで聞かれる事は……無いよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バスで散々サクラさんの事を聞かれ、ゆっくりする事が出来なかったので、俺はホテルに到着した瞬間にため息を吐いた。

 

「「ふぅ……ん?」」

 

 

 俺のすぐ隣で同じようにため息を吐いた人がいたので、俺はそちらに視線を向けた。同じようにこちらに視線を向けていた人――

 

「サクラさん!?」

 

「タカトシさん!? 何故ここに……」

 

 

――サクラさんとバッチリ視線が合ってしまった。

 

「あー、英稜もこのホテルなんですか?」

 

「ここまで来ると偶然じゃ無いんじゃないかと疑いたくなりますね……生徒会で交流がありますし」

 

 

 まさか二校纏めて泊まる代わりに代金が安くなるとかそんなところか? てか、そんな割引は存在するのだろうか……

 

「ところで、タカトシさんは何故そんなにお疲れなんですか?」

 

「バスでサクラさんについて教えろと迫られまして……殴って黙らせても良かったんですが、さすがに人数が多すぎまして……」

 

「あっ、タカトシさんもですか……実は私もバスでタカトシさんの事を聞かれてまして……」

 

 

 英稜のバスでも似たような事が行われていたようだった。てか、バスの中は大人しく過ごした方が安全だと思うんだけどな……

 

「関係を聞かれても答えようがないんですけどね……同じ副会長で同じバイト先、そして同じツッコミポジション……」

 

「最後の共通点は甚だ不本意ですけどね……」

 

「まったくです……」

 

 

 俺もサクラさんも、自分から望んでツッコミを担当しているわけではない。代わりがいるなら代わって欲しいくらいなのだ。

 

「おーいタカトシ君、そろそろ部屋に行かないと横島先生に怒られるよ?」

 

「サクラー、部屋行くわよー」

 

「じゃあ、また」

 

「ええ、タカトシさんもゆっくり休んでください」

 

 

 サクラさんとお互いを労ってから自校の部屋割が書かれている表を見に行く。

 

「六人部屋なのか」

 

「結構広そうだよな」

 

「津田とあの巨乳少女との関係、もっと詳しく教えてもらうからな!」

 

「だからバスで言っただろ。サクラさんとは特別な関係じゃないんだが……」

 

「でも、津田が女子の事を名前で呼ぶのって珍しいじゃん? 三葉とは中里とかは苗字で呼んでるし」

 

「最近はスズの事を名前で呼んでるんだが……」

 

 

 まぁそれも、サクラさんを名前呼びしてる事に対抗したアリア先輩に感化されての事だとは思うが……裏事情は知りようが無いだろうし、教える義理も無いしな。

 

「とにかく、俺の恋路を最前線で邪魔している津田には、説明する義務があると思うんだが」

 

「邪魔って……そもそもこの間はアリア先輩について聞いてきただろうが。その前はカエデさんだったか?」

 

「その二人まで名前呼び!? 何処まで攻略してるんだ、お前は!」

 

「攻略? なんの話をしてるんだ、お前らは……」

 

 

 何だか良く分からないが、どうやら部屋でもゆっくり出来ない事だけは分かった。サクラさんはこんな目には遭わないで欲しいな……




無自覚攻略中のタカトシ……

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