アリアが相談があるという事で、我々生徒会役員は七条邸を訪れた。何回見ても広い屋敷だな。
「それでアリア、相談というのは?」
「うん……実はお見合いの話が来てて」
「お見合いですか……そう聞くとお嬢様なんだなって思いますね」
「普段の言動から忘れがちだけど、アリア先輩は立派なお嬢様だよ」
萩村の感想に、タカトシがツッコミを入れた。確かに忘れがちだが、アリアは七条グループの跡取りとされる立派なお嬢様だ。お見合いという事はいよいよ婿取りでも始めるのだろうか。
「まだ学生だし早いと思うんだけど、その相手が取引先のお得意様の息子さんらしくて」
「まったくですよ。お見合いなんてブッ潰してやりたいです!」
「その拳はなんですか?」
出島さんが見せた握り拳に、タカトシが首を傾げる。だが私とアリア、そして何と萩村までその意味を理解していた。
「さすがにそれはマズイのでは?」
「なんだ萩村、お前もあの拳の意味を理解してるのか?」
「スズちゃんはムッツリロリなんだね!」
「誰がロリだ! 後ムッツリって言うな!」
「とりあえず、アリア先輩はまだ結婚するつもりが無いんですよね」
脱線しかけた流れを、タカトシが華麗に元に戻す。さすが桜才きってのストッパーだな。
「もちろんだよ~。それに、お見合い結婚じゃ無くて恋愛結婚が良いし」
「断りたいけど、お得意様だからなるべく穏便に事を済ませたいという事ですか……萩村、何か案無い?」
「そうねぇ……ベタだけど彼氏がいるから、とか?」
「彼氏かぁ……」
確かにベタだが、一番角が立たない断り方だろう。だが、残念な事にアリアには彼氏がいない。その気になればいくらでも作れるだろうけど、桜才学園は校内恋愛禁止なので、私たちは誰も付き合っている相手がいないのだ。
「最悪フリでも良いんでしょうけど、誰か適任者がいますかね……」
思案し始めたタカトシに、アリアが視線を向けている。その視線に気づいたのか、タカトシが首を傾げてアリアに問いかける。
「何か?」
「タカトシ君が相手じゃダメ?」
「俺ですか? 別に構いませんが」
こうして、アリアとタカトシが恋人のフリをする事になったのだった。
いくらお見合いを断る為とはいえ、まさか七条先輩とタカトシが恋人になるとは……フリとはいえ羨ましいわね……
「でも、いくらフリとはいえそう簡単に恋人なんて演じられるんですか?」
「じゃあ詳しい事を知ろう! タカトシ君、ズボン脱いで!」
「何でそうなるんだよ!」
「だって、お互いの形状を知らないと……」
「きっかけとかそっちを考えろ! 具体的すぎるだろ!」
タカトシのツッコミがさく裂し、とりあえず七条先輩の暴走は治まった。それにしても、ぶっ飛び過ぎよね、七条先輩は……
「きっかけかぁ……落し物から始まる恋愛は?」
「ベタだがそれが良いな! じゃあ実際にやってみよう!」
「やるんですか?」
少し不満げなタカトシだったが、会長と七条先輩のやる気に押され実行する事に。
「それじゃあ、すれ違いざまにアリアが落し物をするから、タカトシはそれを拾ってアリアに手渡せ」
「分かりました」
やらせ感満載だが、これも七条先輩の為だ。何処となくやる気の無さそうなタカトシだけど、ちゃんと付き合うのよね。
「何か落としました……? なんだコレ?」
「あ、アリア! それは落としちゃダメだろ!」
「タカトシ! 今すぐ手を離せ!」
「えっ? あ、あぁ……」
七条先輩が落としたのはタン○ンだった。見た事が無いタカトシは首を傾げ、私の勢いに押され気味だったが素直に手を離した。
「大丈夫だよ~。さすがに使用前だし」
「そういう問題じゃないだろ! 生理用品から始まる恋なんて聞いた事無いぞ!」
「斬新で良くない?」
「良くないです!」
とりあえずきっかけ作りは中止にして、恋人らしい行動を取ってもらう事にした。七条先輩とタカトシが腕を組んで歩く練習を眺めていたら、会長が何となく面白くなさそうな顔をしていた。
「どうかしたんですか?」
「いや……あの二人を見ていると胸の辺りがムカムカと」
あーなるほど……七条先輩に嫉妬してるのか。私も何となく羨ましいと思いますけどね。
「まさか! 私、アリアの事が――」
「いやいやいやイヤ~ン」
何で七条先輩が好きで、タカトシに嫉妬してるって考えに至ったのか、レポート用紙三枚くらいに纏めてもらいたいくらいの勘違いね……
「何となくぎこちないですが、恋人同士に見えましたよ。つきましてはタカトシ様、私の調教を……」
「じゃあこれで当日何とかなりそうですね」
「スルー!? さすがタカトシ様、放置プレイですか……」
「誰かこの人どうにかしてー」
出島さんを見事にスルーして、私たちは七条家を後にした。これでお見合いも中止になるでしょうね。
後日私はお見合いが無くなった事を生徒会室で全員に伝えた。
「例のお見合い、無くなったんだ~」
「そうなのか? でもお得意様だったんだろ、良かったの?」
「うん、そのお得意様の息子さんが、出島さんのお得意様だったらしくて話をつけてくれたんだよ~」
「出島さんの? あの人、いったい何をしてるんですか?」
そういった知識に疎いタカトシ君は、一人だけ首を傾げていたけれども、シノちゃんとスズちゃんは理解してくれたらしい。
「ねぇタカトシ君」
「何でしょうか?」
「もしまたお見合い話が来たら、付き合ってくれるかな?」
「練習しましたし、別に構いませんよ」
タカトシ君はフリに付き合ってほしいと受け取ったらしいけど、本当は――本当に付き合ってくれたらいいなと思って言ったんだけどな……まぁ、まだ私の魅力がタカトシ君に届いてないからそう思われたんだろうな。シノちゃんやスズちゃんには悪いけど、私も本気でタカトシ君にアピールしなきゃいけないわね。
「二人とも、負けないからね」
「強敵は五十嵐と森、そしてウオミーだな」
「あの、私も?」
自分の気持ちを隠せてると思ってるスズちゃんは、私たちの仲間に入れられる事に不服そうだったけど、瞳には負けん気が宿っている。やっぱり競争率高いな、タカトシ君は。でも、負ける気は無いわよ!
これ、お得意様がお得意様だったら面白かったのに……まぁあり得ないか