文化祭も終わり、今日は代休なので久しぶりにのんびり出来る……と、思っていたのだが、もうじきテストがあるので、俺はコトミの勉強を見る事になった。
「普段からやってれば慌てる事も無いんだが……」
「それはタカ兄が出来るからでしょ! 私はタカ兄みたいに出来る人間じゃないんだよ!」
「それは威張って言うような事ではないと思うんだが……そもそも俺だって最初から出来たわけじゃないんだけどな」
それなりに頑張って勉強したからこそ、今の順位にいられるのだ。勉強してなかったら柳本や三葉と同じくらいだったかもしれないのだ。
「マキやトッキーだってやってないし、私だけがこんな時期から勉強するなんておかしいよ!」
「じゃあコトミは赤点を取って補習になりたいんだな? それならそうと言ってくれれば良いのに。そうすれば俺だってお前の面倒なんてみないから」
「ごめんなさい、すみません、許して下さい、この通りです」
突き放すような事を言って部屋から出て行こうとした俺の前に滑り込み、土下座をするコトミ。どうやら赤点という言葉はコトミに効果抜群だったようだ。
「お前、本当に良く桜才に入れたよな」
「面接で横島先生が試験官だったからかな? 意気投合したし」
「あの人は教師を辞めた方がいいな……」
あの人と息が合ったからといって合格になったのなら、その生徒はろくな人間ではないだろうし……てか、俺の妹だったんだが……
「とにかく、赤点補習になったら容赦なく小遣いを減らすからな」
「ほ、補習にならなければいいんですか?」
「本当なら平均点、と言いたいんだがな……お前には無理だってお母さんたちも理解してるから」
一学期のコトミの成績は、見事に低空飛行だったのだ。赤点こそ無かったが、あと数点低かったら補習という教科も一つや二つでは無かったしな……
「じゃあまたテスト前にタカ兄主催で勉強会を開いてよ。そうすれば私も勉強するし」
「八月一日さんや時さんに頼まれたのなら考えるが、お前に言われると何でかしたく無くなるんだよな」
「何でよー! 可愛い妹の頼みだよー!」
「じゃあお前が二人の予定を聞いてみれば良いだろ。もしやりたいのなら開いてやるから」
おそらく二年生でも参加したがる人間がいるだろうし、それなら纏めてやった方が楽だしな。
「分かった―! それじゃあ明日マキとトッキーに聞いてみるねー」
「どさくさにまぎれて逃げようとするな。今日はしっかりと勉強するんだ」
「はーい……」
コトミの相手だけで一日が潰れるのはもったいないけど、コイツが赤点補習になって俺に泣きついてきたら、一日では済まなくなるので仕方ないか……
タカ兄にみっちり勉強を見てもらったおかげで、今日の私はへろへろなのだ……
「コトミ、また夜更かしでもしたの?」
「ううん、タカ兄に捕まって、昨日みっちり勉強させられたの」
「大変だな、お前の兄貴」
前半は私に同情してくれたのかと思ったけど、トッキーが同情したのは私ではなくタカ兄だった。
「そうだ! マキとトッキーが望むのなら、またタカ兄が勉強を見てくれるってさ」
「本当! でも、津田先輩も忙しいんじゃ……」
「これ以上兄貴に負担を掛けるのも悪い気がするしな……」
「大丈夫だって! タカ兄が良いって言ってるんだし、どうせタカ兄は私の勉強の面倒を見なきゃいけないんだから、一人や二人増えたって問題無いって!」
胸を張って言いきると、マキとトッキーが揃ってため息を吐いた。いったいなんだって言うんだ……
「偉そうに言う事じゃないと思うけど……」
「ホント、お前の兄貴が可哀想だ」
「なんだよー! じゃあ二人はタカ兄に勉強教えてもらいたくないの? トッキーだって一学期末は酷かったじゃないかー!」
「それは……そうだけどよ……」
私よりは良かったけど、トッキーも赤点スレスレだったのだ。
「じゃあタカ兄にお願いって言っとくね。マキも参加するでしょ?」
「う、うん……でも、迷惑じゃないかな?」
「大丈夫だって! タカ兄は同級生にも泣きつかれるだろうしさ!」
「……それ、大丈夫じゃないよね?」
マキのツッコミを無視して、私はタカ兄にメールで知らせた。これで私もしっかりと勉強が出来るなー……多分ね。
英稜の試験日と桜才の試験日は同じ日に始まり同じ日に終わる。だから試験期間にバイトを休み日も同じになるのだ。
「サクラさんはテストで焦ったりはしませんよね?」
「そんな事ありませんよ。私はタカトシさんみたいに優秀ではありませんし……」
これは謙遜ではなく本音だ。タカトシさんと比べてしまうと、同じ副会長としてもっと頑張った方が良いのではないかと思ってしまうのですよね……
「それじゃあサクラさんも勉強会に参加します? 萩村とか三葉とかとするんですけど、良かったら一緒に」
「ですが、桜才の皆さんの中に一人だけ他校の生徒がいるのって気まずいのでは……」
「その辺りは大丈夫だと思いますよ。魚見さんも会長たちと一緒に勉強するらしいですし」
「そうなんですか? じゃあお邪魔じゃ無ければ参加したいです」
カナ会長がいるのなら、それほど気まずくは無いでしょうし、タカトシさんに教えてもらえるのなら勉強も捗るでしょうしね。
「それでは、後日詳しい日程をメールします」
「はい、お願いしますね」
タカトシさんもそうですが、桜才には萩村さんという天才がいるのですよね。この学年で一位と二位を脅かすのは、おそらく無理でしょうね……別の学校で良かったと、そこだけは思います。
一年目は不慣れでしたけど、既に耐性が出来てますからね……