「おかしいわね」
生徒会室に来たら、萩村がドアの前で唸っていた。
「如何かした?」
「七条先輩から預かった鍵、このドアのじゃないみたいなのよ」
「ちょっと見せて」
萩村から鍵を受け取り、鍵穴を覗き込んで型を確認する。確かにこのドアの鍵じゃ無いようだ。
「いったい何の鍵なんだろう」
「これじゃあ仕事出来ないわね」
「どっちかの家でする?」
「各自、家ですれば良いでしょ」
「そうだね」
生徒会室に入れないので、今日の仕事は各自が家で処理する事になった。こんな時間に家に帰るのは久しぶりだな。
「さて、やるか!」
部屋の机に向かい、生徒会の仕事を始めようとしたら……
「タカ兄、お母さんが餃子包んでってさ」
「え、俺生徒会の仕事が……」
「よろしくー」
何だよ……せっかく人がやる気だしたって言うのに。思いっきり出鼻を挫かれたぞ……
「我ながら見事な包み具合だ!」
結局餃子を包んでしまった……まあ、俺も食べるから良いんだけどね。
「タカ兄、次はお風呂掃除だって」
「お前が言われたんじゃ……」
「よろしくー」
「おい!」
コトミのヤツ、絶対に俺じゃ無くって自分が頼まれたんだろ……
「汚れなく、綺麗になった!」
こっちも結局掃除しちゃうんだよね……
「よし、今度こそやるぞ!」
夕飯を食べ、今度こそ生徒会の仕事に取り掛かろうとしたら……
「タカ兄ぃ」
「今度は何だ!」
見計らったようにコトミが部屋を訪ねてきた。若干涙目なのは何故だ……
「部屋の模様替えしようと思ったら……」
「何で今、しようと思ったんだ……」
コトミの部屋はグチャグチャに散らかっていた。
「明日、小テストがあるの……それで気分転換にと思って……」
「ちゃんと勉強しろよ……」
現実逃避のために模様替えをしようとしたのか……現実はそんなに甘くないんだぞー。
「終わった」
結構あった書類だったけど、私の手にかかればこんなものよ!
「津田はちゃんとやってるんでしょうね?」
真面目だけど、何処か抜けてるのよね。津田って。
「それで、何でこんなに終わってないの!」
「ゴメン……」
結局あの後2時間くらいコトミの部屋の片付けをして、その後少しは仕事をしたんだけど終わらなかった。萩村はさすがに全部終わってるみたいで、俺は素直に怒られているのだ。
「何か理由でもあるの?」
「言っても言い訳にしかならないよ……」
「いいから」
萩村に促され、俺は昨日あった事を素直に話した。
「……なんて言うか、アンタって不運なのね」
「同情してくれてありがと……」
「でも、これじゃあ今日も同じ事になりそうね……」
「教室に残ってやってくよ」
「また何か起こるわよ?」
「ありそうだね……」
先輩たちは居なくても、まだあの先生が居る。
生徒会顧問横島ナルコ先生。今、この学園の中で1番問題のある人だ。
「それじゃあ私の家に来る?」
「萩村の?」
「私の家なら資料もあるし、誰にも邪魔されないと思うけど?」
「そうだね……それじゃあお邪魔します」
「じゃあ、行きましょうか」
萩村と一緒に教室を出て下駄箱に向かう。それにしても、女の子の家って初めてかも知れないな……
「あっ、コンビニ寄っても良い?」
「良いけど」
「ルーズリーフがきれてたの忘れてたわ」
「行ってらっしゃい」
萩村の家に向かう途中、コンビニに萩村が寄った。俺が悪いんだから、そこまで気にしなくても良いのにな……
「スミマセン(スペイン語)」
「ん?」
何か話しかけられてるんだけど、何を言ってるのか分からない……英語と日本語し分かんないよ……
「津田、如何したの?」
「萩村。多分道を聞かれてるんだろうけど、英語じゃ無くて分かんないんだ」
「あれはスペイン語ね。任せて」
そう言って萩村は男性にスペイン語で対応し始めた。やっぱり天才なんだな……
「ありがとう、お嬢ちゃん(スペイン語)」
「私はお嬢ちゃんじゃなーい!」
「!?」
いきなり日本語で騒ぎ出した萩村に、ちょっとビックリした。
「此処が私の家よ」
「デカイな~」
コンビニから少し歩いて、萩村の家に着いた。
「お帰りなさ~い」
「お邪魔します」
お母さんだろうか。萩村に似ている女性が奥から現れた。
「……娘が何時もお世話になってます」
「タメだよ!」
萩村って、家でもこんな扱いなんだ……
「上がって」
「ああ、お邪魔します」
リビングに通され、萩村は着替えるために部屋に向かった。つまり此処で待ってろって事か……
リビングの柱には、何かを測ったような傷跡がある……萩村も容姿相応な事を……ん?
目標
泣ける……
「お待たせ」
「え、ああ」
「?」
「それじゃあ仕事しよっか」
「そうね。こっちよ」
萩村の後ろについていき、階段を上がって部屋に通される。
「………」
「………」
「「ボケる人が居ないと、調子狂う」」
まさか萩村と同じ事を思ってたとは……
「そう言えば、萩村の私服姿って初めて見たかも」
「ちなみに、そこらへんの服じゃ無いわよ」
「ブランド品?」
「すべてオーダーメイド!」
「そっか……」
涙が出てきそうなのはキット気のせいだ。
「これはあの資料がいるわね……」
萩村が椅子を引っ張ってきて高い場所を探している……探しているんだけど……
「ふー!」
「萩村?」
「手出し無用!」
「そうじゃなくって、高さあわせるから、一旦降りなよ」
「え?」
「俺が取るなんて野暮な事しないから」
「あ、ありがとう……」
ん?何で萩村の顔が赤くなってるんだ?
「え、っとっとっと……」
「萩村?」
バランスを崩し、萩村が俺の上に降ってきた。見た目通りなので、そこまで重くないが、これを誰かに見られたら誤解されそうだ……
「津田君、何か食べたいものは……」
何でこうタイミング良く現れるのかな……
「………」
「あ、あの。これは、その……」
「もう、満腹かー!」
「「他に言う事あるだろうがー!!」」
こうして色々あったが、何とか仕事も終わり、明後日には会長たちも戻ってくるから、生徒会室の鍵も見つかるだろう。
「何だか悪かったわね……」
「気にしないで良いよ。元はと言えば、俺が仕事を終わらせられなかったのが原因だし」
「そっか……」
「萩村?」
「何でもない///」
「そう?」
顔が赤い気がするけど、それを指摘すると怒られそうだから止めとこう。
こうして先輩たちの居ない生徒会はしっかりと仕事を終え、問題無く生活出来た……いや、何か面倒な事になった気もするんだよな……
スズフラグも建ちましたね……2年生編で完全にアリアがタカトシの事を意識してますが、スズはまだ気付いていません。
これから如何なるのか……お楽しみに。