桜才学園での生活   作:猫林13世

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ちょっと出遅れましたが、ここで参戦する模様……


嫉妬するスズ

 昨日はそれほど意識せずに寝る事が出来たのに、隣に津田君がいると思うとどうしても緊張していしまう……それは森さんも同じようで、何度も起き上がったり寝転んだりを繰り返しています。

 

「森さんも眠れないんですね」

 

「五十嵐さんもですか」

 

「えぇまぁ……こんな時でも津田君は平常心を保ってるんですから凄いですよね」

 

 

 数十分前には津田君は寝入っている。緊張したりはしてたのかもしれないけど、それ以上に疲れていたんだろうと容易に想像出来るし、実際疲れる原因に心当たりがあったので特に嫉妬はしていない。

 

「この旅行中ずっと気まずいままなのでしょうか……」

 

「津田さんが気にしてない様子ですし、私たちが意識しすぎなければ問題無いんですけどね……」

 

 

 森さんも一応はそう思ってるらしいけど、言葉の端々に意識している様子がはっきりと見て取れる。

 

「津田君も意識してくれてるのでしょうか?」

 

「してくれてるとは思いますよ。あの件以降、津田さんと目が合う回数が極端に減りましたし」

 

「それは確かに……」

 

 

 津田君は礼儀正しい人なので、会話する時はちゃんと目を見て話してくれる。でもあの事件以降、会話をする回数も減り、会話しても出来るだけ目を合わせないようにしてましたしね。

 

「天草会長や魚見会長からはからかわれたり、責められたりですし、七条さんや畑さんからは面白がられてますもんで、気の休まる時間が減りました……」

 

「あとはコトミさんですよね……あの人は本気で何を考えてるのかが分かりません……」

 

 

 私や森さんの事を『お義姉ちゃん』と呼んでみたり、「この泥棒猫!」と罵倒してきたりと、コトミちゃんだけはあの事件をどう思ってるのかがハッキリと分からないのですよね……津田君ならきっと分かるんでしょうけども、出来るだけコトミちゃんとの接触を避けてますし……

 

「とりあえず、寝ませんか? 考え込んで深みに嵌るのは拙いですし」

 

「そうですね……まだ数日残ってますしね……」

 

 

 二泊目で早くも気まずくなっていたら、もう一日この部屋で過ごさなければいけない事実に向き合えないので、私と森さんは手っ取り早い現実逃避として、眠りの世界へと逃げ出す事にした。

 話しあって疲れたのか、私も森さんもあっさりと寝入る事が出来て、とりあえずは休む事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時もより早くに目が覚めた私は、この部屋にいたくないので散歩に出かける事にした。土地勘は無いけど、ホテルから離れなければ問題は無いだろう。

 

「それにしても、こんな時間に目が覚めるとは思わなかったわ」

 

 

 普段より一時間以上早く起きた為か、まだ少しフラフラするけども、それもいずれ気にならなくなるだろう。部屋で休む事よりも疲れる事の方が多いので、何時もより早くに寝たのが原因だろうな。

 

「畑さんとコトミちゃんを相手にするなんて、私には無理よ……」

 

 

 くじ運が無かったと言われれば終わりだけども、せめて一日ごとに部屋替えはしてほしかった。だってあの二人相手に疲れる事も無く生活出来るのなんて、津田以外に存在しないんだから……

 

「でも、まさかあんな光景を見せられるとは思って無かったわね……」

 

 

 会長や魚見さんほどではないけども、私もあの光景を見て少なからず動揺した。だって津田が目の前で他の女性とキスしてるシーンなんて見せられたんだから……あの相手が私だったら、なんて妄想をしてしまうのも仕方ない事だと思う。

 その妄想が暴走しない程度に抑えられてるのは、私が他の事に気力を割いているからだろう……だって昨日の夜には、隣の部屋から暴走した会長や魚見さんの声が聞こえてきていたから……

 

「津田のヤツ、いきなり森さんにキスするなんておかしいわよ……」

 

 

 普段ならもっと冷静に物事を対処出来る能力を持っているはずの津田が、いきなり森さんを抱きしめてキスするなんて……

 

「会長じゃなくてもイラっときちゃうわよね……」

 

 

 ましてやあれが津田のファーストキスだと言うではないか。自分のファーストキスの相手が津田の可能性はあるが、津田のファーストキスの相手に私がなる事はもうあり得ないのだ。

 別に互いが初めて同士じゃなきゃいけない、ってわけでもないんだから気にしなければ良いのに、どうして私はこんなにも気になっているのだろう……

 

「津田のバカ……」

 

「バカとは失礼だな」

 

「うわぁ!?」

 

 

 誰にも聞かせるつもりがない呟きに返事があり、私は大袈裟に驚いて転んでしまった。

 

「おい、萩村……大丈夫か?」

 

「つ、津田……脅かさないでよね!」

 

「悪い……でも、人がいないからってバカ呼ばわりされたら声を掛けたくもなるだろ」

 

「ごめんなさい……」

 

 

 確かに本人がいないからってその人をバカ呼ばわりするのは良くないわよね……でも、だってしょうがないじゃない……あんな光景を私に見せた津田が悪いんだから……

 

「なに?」

 

「え?」

 

「いや、さっきからずっと見てるから……」

 

「別に何でも無いわよ」

 

 

 明らかな強がり。それは私だけではなく津田にも分かっただろう。だけど津田はそれ以上聞いてくる事も、気にした素振りをする事も無く私の横を歩いている。

 

「……聞かないの?」

 

「なにを?」

 

「だから、私がイライラしている理由……」

 

「話したいなら聞くけど、萩村は話したくないんだろ? だから聞かない」

 

「バカ……」

 

 

 やっぱり津田は他の男子とは違う。それはずっと分かっていた事だけども、このやり取りで改めてそう思わされた。

 

「だから、バカは酷いよ」

 

 

 苦笑いを浮かべながらも、さっきの『バカ』と今の『バカ』が違う意味だと言う事を理解しているのは明らかな感じだった。それを口に出さないのも、津田の良いところなんでしょうね……




ツンデレってこんな感じですかね? 

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