桜才学園での生活   作:猫林13世

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いきなりは無理だろ……


ぎこちない呼び名

 名前で呼べ、と言われてもそう簡単に変えられるわけではない。もちろん必要とあらば変えるし、望まれるのならば努力もしよう。だが、今のところ誰も苗字で呼んでも文句を言ってこないので、俺は何時も通りの呼び方で接している。

 

「あの、津田さん……絶対に離さないでくださいよ!」

 

「分かってます。森さんもそんな状態で話してたら海水を飲みますよ?」

 

 

 俺は今、泳げない森さんに泳ぎを教える為に海に入っている。とはいっても、足がつく浅瀬で、かつ森さんに泳ぎという事に慣れてもらう為に、森さんの手を取って俺は立っている状態だ。

 海には入っているが泳いではいない。それが現状だった。

 

「だって! 顔をつけるのも怖いですし……かといって下手に動かせば海水を飲みそうですし……」

 

「泳ぐ前に、顔を水につける練習でもしましょうか」

 

 

 泳ぎ以前の問題だったと実感して、俺は一旦森さんの手を離す。向こうでは会長やコトミが楽しそうにはしゃいでいるが、今のところ俺はこの旅行を楽しんではいない。

 

「五十嵐さんも、突っ立ってるなら手伝ってくださいよ」

 

「で、でも……私も泳ぎに自信があるわけじゃないですし……また足をつりそうで怖いですし……」

 

「……貴女も一から覚えなおすんですよね? じゃあ一緒にやってください」

 

 

 森さんと五十嵐さんを水に慣らす為に、浅瀬だけど顔を水につけさせる。潜る事は出来ないから、とりあえずは顔をつけるだけなのだが……

 

「……目を瞑って如何するんですか」

 

 

 身体を捻って二人の顔を確認すると、二人とも目を瞑って、頑なに開こうとはしなかったのだ。

 

「先は長そうだな……」

 

「「ごめんなさい……」」

 

 

 呟いた言葉に二人の謝罪の言葉が返ってきた。誰に聞かせるつもりも無かったんだけどな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカ兄と遊びたかったんだろう、シノ会長、カナ会長、アリア先輩は、誰にも気づかれてないつもりで海で遊んでいる。

 

「三人ともタカ兄の事見過ぎですよ。そんなに遊びたいなら突撃すれば良いじゃないですか」

 

「んな!? 別に私は遊びたい訳じゃないぞ! ただ、津田が我々の事を苗字で呼び続けるのが気に喰わないだけだ!」

 

「シノちゃんだって、『津田』のままじゃ無い? それじゃあタカトシ君が名前で呼んでくれないのも無理はないと思うけどな~」

 

 

 さすがアリア先輩。ナチュラルにタカ兄の事を名前呼びしてる。ポテンシャルが高いのはその肉体だけじゃないんですね。

 

「タカ君……それとも自然な感じでタカトシ君? ……どれもしっくりきませんね」

 

「カナ会長は何を考えてるんですか?」

 

「いえ、親しげな呼び方を考えているんですが……どれもイマイチでして」

 

「何となくですけど、カナ会長は『タカ君』が似合うと思います」

 

「そうですか? では妹のコトミさんがそういうなら『タカ君』で行きたいと思います」

 

 

 本当に、何でか分からないけど、カナ会長がタカ兄の事を「タカ君」と呼ぶ姿は妙にしっくりきたのだ。

 

「そういえばスズポンの姿がありませんが……」

 

「スズ先輩なら酔い潰れた横島先生と出島さんの介抱をしてます。ランコ先輩はそのスズ先輩の写真を撮ってますね。何やらマニアから依頼があったとかで」

 

「なるほど……スズポンの身体で欲情する人もいるんですね!」

 

「シノ会長と違って、スズ先輩は見た目がロリですから!」

 

「ケンカウッテンノカ―!」

 

 

 私とカナ会長が意図した通りにシノ会長が反応してくれた。やっぱりこの人は扱いやすいなー。

 

「まぁまぁシノちゃん。見た目が大人っぽくて貧乳がサイコーって人もいるんだから」

 

「アリアまで苛めるー! こうなったら津田に慰めてもらうしかないな!」

 

「でも会長、タカ兄はカエデ先輩とサクラ先輩の相手で忙しいですから、会長が泣きついても相手してくれないと思いますよ?」

 

「あの二人はなかなかの大きさですからね」

 

 

 カナ会長との連携で、私はシノ会長に勝つ事が出来た。私一人だったら厳しい戦いだっただろうな……さすが英稜の生徒会長だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだか大声で阿呆な会話が聞こえるが、とりあえずは聞こえないフリを続けて二人の指導に専念する。

 

「とりあえず五十嵐さんは泳げるので、もう少し深い場所に行ってみましょうか」

 

「で、でも! また溺れたら……」

 

「そこまで深い場所には行きませんよ。ただ、ここでは潜れないのでもう少し、という訳ですよ」

 

「ごめんなさい……」

 

「いえ、森さんが悪い訳じゃないですよ」

 

 

 水が怖いのか、森さんは未だに顔を水につけて目を開ける事が出来ていない。ゴーグルしてるのに、何で目を瞑るんだろう……

 

「あの……」

 

「はい? なんですか」

 

「名前……」

 

「は?」

 

 

 急に何を言い出すのかと思ったら、そんな事を言われて俺は一瞬固まってしまった。貴女までそんな事を言うんですか、五十嵐さん……

 

「ほ、ほら! 会長とかの前で苗字で呼ぶと怒られますし、今から慣れておく必要があるんじゃないでしょうか」

 

「何を捲し立てるように言ってるんですか……まぁ、カエデさんがそれで良いなら別にいいですけどね」

 

「ッ!? ……だ、大丈夫です」

 

「……やっぱり止めましょうか?」

 

 

 名前を呼ぶだけでそんな反応をされると、呼ぶ方としても気を使ってしまう。それなら何時ものように苗字で呼んだ方が気が楽なんだが……

 

「タカトシさんは気にしないんですか?」

 

「サクラさんも随分と自然に呼んでますよね?」

 

「英稜の生徒会は名前で呼び合うのがルールですからね。もちろん、外では苗字で呼び合いますが」

 

「そうでしたか。確かに普段は魚見会長って呼んでますしね」

 

 

 このやり取りを、五十嵐さんは顔を赤らめて見ている。そんな反応されると、やはり苗字で呼んだ方がいいんじゃないかと思ってしまうんですが……

 

「まぁいっか。それじゃあカエデさん、行きますよ」

 

「わ、分かったわ! お願いします、タカトシ君」

 

 

 何ともぎこちない返事だったけども、何とか俺の事も名前で呼んだカエデさん。畑さんがいたら喜んで写真を撮りそうな表情をしているが……

 

「何処に潜んでるんですか、貴女は……」

 

「ほぅ、この位置でバレますか……やはり津田副会長はタダものではないですね」

 

「貴女こそ。防水カメラに望遠レンズ、酸素ボンベまで用意するとは思ってませんでしたよ」

 

 

 重装備な畑さんを水の中から引っ張り上げ、そのまま浜辺に投げ捨てる。

 

「あーれー」

 

「凄い力ですね……」

 

 

 サクラさんが驚いているが、普段からあの人と付き合っていたら、人体を投げるなんて荒業も身に付くんですよね……もちろん、あの人以外には使わないですが。




呼び名の変え時って何時なんでしょうね?

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