超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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スランプだよ……スランプが来ているんだ……

全く、筆が進まない……!

別に、俺が鎮守府に着任したこととは関係ない……


……ごめんなさい真面目にやります。 とはいえ、スランプはマジなんだよな……


ちょっとこれは対策が必要ですね。



第70話 襲撃

外へと飛び出したブランは、すぐに異変の原因を探る為に辺りを見回すと、そう離れていない場所から黒煙が上がっているのを見つけた。 ブランは飛び上がり、家屋の屋根に飛び移り、他の家屋に飛び移りながらその場所に向かって一直線に進んだ。

 

移動して少したった後、飛び移るたびに足下に移っていた家屋の屋根は無くなり、ひしゃげて黒煙が立ち込めている物へと化していたのを見つけ、その近くにブランは着地した。 辺りは突然の出来事にパニックを引き起こし、混乱するレジスタンスのメンバーたちが多くいた。

 

「とうとう姿を現したわね。 女神を語る偽物が」

 

その時、ブランの背後から、まるで来るのを待っていたかのように言う声が聞こえ、そちらを振り返った。

 

「……その言葉、そっくりあなたに返すわ」

 

その姿を視界に入れた瞬間、ブランはその人物に向けてそう返した。

 

そこにいたのは、自分がこの世で最も目にした顔であり、服装も体型も、ほぼ全てが同一の人物であり、ブランが鏡を覗き込む事以外では、好き好んで視界には入れたくもない人物だった。

 

ブランに睨まれつつ、そう吐き捨てられた人物、偽者の『女神ホワイトハート』はその視線を流しつつ言う。

 

「一応初対面であるのに、随分なご挨拶ね。 まあ、偽物じゃ器も小さいことだろうし、仕方がないことね」

 

「なに? それはこの状況で、あなたを歓迎しろとでも言うの?」

 

「そうね。 客が来たのなら、丁重に出迎えるのが礼儀だと思うわよ。 私はこうして、手土産も持ってきたのだからね」

 

互いが互いを皮肉り合い、偽者のブランはそうした中で懐からディスクを取り出し、空中へと投げ上げた。

 

空中に投げ出されたディスクは強く光り出し、放出するようにして流動性のある何かを生み出した。 全てディスクから吐き出された後、それは形を成して、呼び出された偽物のブランに従うように近くに降り立った。

 

重厚的な黒いフォルムに、両手に巨大な斧と大槌(メイス)を装備し、後ろになるにつれて細くなる尻尾のような物を持つそれは、イツキがラスティションで散々苦しめられた、『キラーマシン』であった。

 

「ブランさん!」

 

時を同じくして、後からブランを同様に屋上を蹴り上げつつ追いかけてきたイツキは、ブランの近くへと着地した。 瓜二つの2人のブランのうち、本物を見分ける事が出来たのは、キラーマシンを従えている方はどう考えても偽物だと分かったからであろう。

 

「まさか、キラーマシンまでアヴニールがそっちの方に提供しているなんて……それより、どうしてこの場所が?」

 

最初は視線をキラーマシンへと向けていたイツキであったが、それよりも気になることがあり、視線を対峙する偽物のブランへと変え、問う。 イツキはネプテューヌたちと逃亡していた際、自分たちのアジトの場所がバレないようにするためにも、囮を買って出たのだ。 であるのに、こうしてあっさりと場所を特定されてしまった理由が全く思い当たらなかった。 イツキとしては偽物のブランが答える事を期待しては無かったが、既にどうでもいい事なのか偽物のブランは懐からデバイスを取り出し、質問に答えた。

 

「簡単よ、あなたが教会に攻めてきた時、発信機を付けさせて貰ったからよ。 レーザーポインターを当てた物を対象に、その対象の現在地を逐一報告してくれるアヴニール製のね。 効果時間が短いのが難点だけどね」

 

偽物のブランはデバイスをイツキへと見せた。 そのデバイスの画面中央には赤く点滅する点があったが、ほどなくしてその点は消えた。 効果時間が丁度切れたようだ。

 

「発信機!? ……そうか、あの時の演技は!」

 

発信機をつけられた事実を知り、イツキは驚愕すると同時に、何故偽物のブランが最後に、さも自分が本物であるかのような演技をしたのは、発信機を付けるための時間稼ぎ出会った事に気づいた。

 

同時にイツキは焦り始めた。 そらそろ拠点の位置がバレるとは思っていたが、まさか予想したその日のうちに特定されてしまうとは考えてもいなかった。 このままでは、いずれアジトに大量の兵士たちが押しかけ、レジスタンスのメンバーは次々と連行されてしまうかもしれない。 それを防ぐ為に、どうすれば良いのかと思考し始めたイツキだったが、偽物のブランはそんなイツキの心中を悟ったかのように話しかけてきた。

 

「そんな心配しなくても、このアジトの位置を知っているのは、今の所私だけよ。 ルウィーの兵士たちは誰も知らないわ」

 

「……それはどうして?」

 

思いもしない敵方からの言葉は、あまり良い意味を含んでいるとは思えなかった。 なんとなく、イツキは碌でもない返答が返ってくるとは思っていた。 だが、その理由を聞かずにはいられなかった。

 

 

偽物のブランはそこで口角を吊り上げ、本物の姿では見る事は無いし、見たくもない悪人顔で言った。

 

 

「だって、教会の兵士たちにこの場所を教えたら、あなたたちも、ここの奴らも皆殺しに出来ないじゃない」

 

 

「……皆殺し、だと……」

 

ここまでイツキと偽物のブランのやり取りを黙って聞いていたブランは、今の偽物の言葉に敏感に反応し、瞳を怒りの紅に染めて拳を震わせ、偽物に向かいその怒りをぶつけた。

 

「テメェ! 私だけじゃなく、ここにいるみんなも皆殺しするだと!? ふざけんじゃねぇこのカスがッ!」

 

皆殺し

 

この言葉はブランの琴線全てに触れると言っても過言ではない。 いや、実際にもう触れていた。 自身だけでなく、イツキやフィナンシェも教会から追い出したというのに、それに飽き足らずここにいるレジスタンスのメンバーたち、即ち国民たちを殺すという言葉を、ブランが右から左へ流すなど、出来るはずもなかった。

 

しかし、ブランの怒りの込められた罵倒を聞いた偽物のブランは、向けられた怒りを、大して気にもしなかった

 

「口汚い言葉。 女神の器もたかが知れてるわね。 ……あぁ、偽物だから、仕方ないわよね」

 

「……テッメェ……!」

 

偽物のブランの挑発に乗り、ここに来てブランの怒りが有頂天に到達しようとしていたが、ブランが挑発に乗って偽物の元へと一歩踏み出した時、イツキはブランの肩を後ろから掴み、それを止めた。

 

「落ち着いてブランさん! あんな挑発に乗っちゃダメだよ!」

 

「けど、あいつは!」

 

「気持ちは分かるよ! 僕だって、今の言葉には少なからず怒ってる。 だけど、それであいつにだけ注意を向けて冷静さを欠いたら、それこそあっちの思う壺だよ!」

 

「……チッ!」

 

舌打ちしつつ、イツキの言葉に従ってその場に踏み留まるブラン。 その足にはかなりの力が込められているのか、踏み固められた雪をズブズブと少しずつ陥没させており、意識して止まらなければ今にもブランは自身の偽物を原型を留めない程自らの得物(ハンマー)を叩きつけていただろう。

 

ブランを押し留めたイツキに対し、挑発した側はつまらなそうにしてそれを見ていた。

 

「あなたも、余計な事をするのね。 あの人が言うには、そいつはガサツで短気な女らしいけど、私にはそんな人物に味方するあなたはとても理解できないわ」

 

「……見た目はそっくりなのに、中身は丸で別な君には、一生分からないよ」

 

 

偽物のブランの言ったあの人とは、マジェコンヌの事を指しているのだろう。 その人伝てから聞いた話を上げ、ブランを宥めたイツキにも挑発をする偽者のブランだったが、イツキはそれを軽く流した。 挑発した側と言えば、先ほどのブランのように食ってかかる事をしないイツキを、再びつまらない物でも見るかのような視線を向けるが、すぐにフンと鼻を鳴らし、後ろに控えるキラーマシンへと片手を上げて指示を出そうとする。

 

「キラーマシン、そこの反逆者共をやりなさい」

 

指示を受けて、立ち尽くしていたキラーマシンは駆動音を立てながら偽物のブランの前へと踊り出て、両腕を動かし、斧と大槌をそれぞれ上段と中段に構えて、ブランとイツキに大して戦闘態勢に入った。 ブランとイツキも即座に各々の武器を構え、それに相対する。

 

「こんな木偶の坊一体で、私をどうにか出来るとでも思ってるのかよ! こんなやつ一瞬でスクラップにして、すぐにテメェの相手をしてやるよ!」

 

イツキに冷静になれと言われた後であるが、ブランの怒りが収まる訳も無く、相変わらずブランの口調はキツイままであった。 身に宿る業火のごとく怒りをキラーマシンにぶつけ、一瞬で粉々にするかのような勢いのブランに対し、偽者の方と言えば意外な事を口にした。

 

「そうね。 偽者とは言え、女神の名を語る者にこんな量産品の兵器が通用するだなんて思ってないわ」

 

けど、と区切り、キラーマシンの後ろに立つ偽者のブランは、懐からまた別のエネミーディスクを複数枚取り出し、空へと掲げながら言った。

 

「けど、別に真っ向からあなたたちと戦う必要も無い。 こうすればね」

 

掲げられたディスクから、次々とモンスターが現れる。 そこにはルウィーでよく見るアイスゴーレムや、スカルフローズンの姿もあれば、他国に生息するスラ犬や馬鳥の姿もあった。 ただ、そのモンスターたちは偽物のブランの周りに現れた瞬間、何故かブランとイツキの方を向くモンスターは一匹もいなかった。 訝しげにブランとイツキはそれを見ていたが、掲げられたディスクを辺りに放り投げながら言った次の偽者のブランの発言により、その真意を知った。

 

「さて、あなたたちがキラーマシンの相手をしている間に、あなたたちの()()()はこのモンスターたちを相手にして、何人死ぬかしら?」

 

「……て、テメェェェ!!」

 

戯けたように言う偽者のブランに、とっくに緒は解けていたブランの堪忍袋は爆発し、あまりの怒りに力が入り、気づけばブランは女神化をしていたが、そんな事はブランにとっては些細な事だった。 咆哮を上げてハンマーから切り替わった戦斧を中段に構えて偽物の方へと突進する。

 

しかし

 

「……!」

 

「! くっ!」

 

後少しと言う所まで迫った時、進行ルート上に振り下ろされた黒光りする大槌を、寸でのところで止まり後ろにバックジャンプをして避けた。 舞い上がる雪煙の中を、その黒い巨体を揺らしながら浮遊する、黒いフォルムのキラーマシンをブランは睨みつけていた。 そんなブランの怒りを超えた怒りを見て、偽者のブランは何でも無いかのように言う。

 

「別に、私がやっている事は何もおかしな事ではないわ。 女神の力の根源は人々の信仰心(シェア)。 なら、あなたを信仰するここの奴らを殺せば、あなたの力を削ぐ事が出来る。 とても効率的なやり方じゃない。 ……それとも、偽物だから関係ないかしらね?」

 

ブランの怒りを不思議そうに思うかのように、偽者のブランは言っていたのだろう。 しかし、その表情が微かに人を嘲る笑みが含まれていた事に、イツキは気づいていた。

 

「……下衆が」

 

初めてイツキは偽者に対して、暴言を吐き捨てるように言った。 効率的などと言う建前を立てて、人を殺す事に何の抵抗も持たない偽者のブランに、表面上こそ普通だが、内に身体中に熱が入り、ブランに勝るとも劣らない怒りを覚えていた。 目の前の偽物がブランと似ているだけに、これまでの敵ほど強く出れなかった思いは、怒りによって吹き飛んでいた。

 

そんなイツキの怒りでさえ、偽者のブランにとってはどこ吹く風と言わんばかりの態度だった。

 

「別にあなたになんて思われようが、どうでもいいことだわ。 私は、あの人に指示された事をするだけ。 それじゃキラーマシン、後は任せたわよ」

 

「おい! テメェ逃げる気か! 待ちやがれ!」

 

そびえ立つキラーマシンに指示を残し、偽者のブランはイツキたちに背を見せる。 その背をブランは追いかけようとするが、キラーマシンがそれを許す訳が無い。 キラーマシンはブランの駆ける進行方向へと立ち塞がり、通すまいと武器を構えた。

 

「ッ! 邪魔ッだああっ!」

 

ブランは怒りのままに、戦斧を斜め下からキラーマシンの胴体の部分に力任せに振り上げた。 戦斧とキラーマシンの打ち合う甲高い音が辺りに鳴り響き、キラーマシンは胴体に伝わった思わぬ衝撃にやや後ろに仰け反る。 ブランはそんなキラーマシンには目もくれずに押し退け、偽者のブランを追いかけようとした。 しかし、背を向けて歩いていった筈の彼女は、既に辺りにはいなかった。

 

「クソ! 逃げるな! 私と戦えぇぇえ!!」

 

ブランはその場で叫び、彼女の姿を探すが、どこにもその姿は無いし、帰ってくる返答もある筈が無かった。

 

「! ブランさん危ない!」

 

意識を別のところに向けていたブランは、呼びかけられたイツキの声にハッとして振り返ると、物言わぬキラーマシンが、ブランを自身の影に落とすかのように立っていた。 キラーマシンは先ほどのブランの攻撃はまるで応えていないかのように、滑らかに片手に持つ大槌を振り上げ、ブランへと振り下ろした。

 

強欲(グリード)!!」

 

そこに割って入るように、イツキは自身を硬化してキラーマシンにタックルを決める。 キラーマシンはそれに耐え切れず、くの字に体を曲げて横に飛び、振り下ろされた大槌は全く見当違いの地点に振り下ろされた。

 

「ブランさん! こいつは僕が抑えるから他の皆を! 今はあいつの事は後回しにして!」

 

「……ッ! 言われなくても分かってんだよ!」

 

イツキの言葉に、自分があの偽者に言いように踊らされていた自分を自覚し、それに対してまた苛立ちを募らせ、ブランは偽者についての思考は隅に追いやり、辺りにいるレジスタンスのメンバーへと視線を向けた。

 

自分たちのリーダーとその補佐官が現れた事により、冷静さを取り戻しつつあったレジスタンスのメンバーたちは、突如現れたモンスターたちに再び混乱の渦へと貶められた。 モンスターと戦う術など持たない者たちは、悲鳴を上げて必死にモンスターたちから逃げ惑う。 中には、果敢にもモンスターたちに立ち向かい、非戦闘者たちを守ろうとする者もいるが、それはほんのごく少数の者たちだけであり、その者たちも多すぎるモンスターの大群に飲み込まれようとしていた。

 

「クソッタレがぁ!」

 

ブランはモンスターの群れに向かい突撃し、戦斧を下から構えて振るい、極寒の竜巻を発生させる。 シュネーシュトゥルムと言う技名のその竜巻はモンスターの群れに直撃し、紙のようにモンスターたちを舞い上げていく。 だが、それでもモンスターの数は一向に減らない。 その間にも、犠牲者は増えていく。

 

「グルルル……」

 

「あ、あぁ……」

 

そしてブランの視界に、今にもモンスターの歯牙にかけられようとしている少女が目に入った。 姿勢を低くし、じりじりとモンスターはその少女へとにじり寄って行く。 少女はモンスターの大群に腰が引けてしまったのか、その場に座り込んでしまっており逃げ出せず、ただ迫り来る声にか弱々しい喘ぎ声を上げるしかできなかった。

 

ブランはプロセッサユニットのウイングを全開にし、少女を助けようと全力で加速する。 しかし、既に獲物が逃げる事がない事を確信したのか、様子見をすることをやめたそのモンスターは、遂に大きく動き出し、少女に襲いかかろうとした。

 

「や、やめろぉぉおお!!」

 

ブランは必死に叫ぶが、人の言語など理解していない、いや理解していたとしても、そのモンスターが止まる筈など無い。 もう少女の目前にまで、モンスターの牙は迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

刹那、鋭い刃物が肉を切り裂く音が辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ギャウ!?」

 

突如として、呻き声を上げて横に吹っ飛ぶモンスター。 それを見て、襲われていた少女は小さく悲鳴を上げた。 ブランも突然の事に驚きはしたが、先にする事があるとすぐに切り替え、少女へと駆け寄る。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「は、はい。 大丈夫ですホワイトハート様」

 

「そうか、なら急いでここから逃げろ。 こういう時の逃げ込む場所は教えられているだろ」

 

「わ、分かりました。 ありがとうございます、ホワイトハート様」

 

少女はどうにかして立ち上がり、その場から離れ逃げていく。 その姿を見送り、ブランはモンスターの大群へと再び向き合った。 少女を助けた者が何者かは分からないが、その思考は後ででも出来る。 ならばそれは後回しだと考えての行動だった。 しかし、ブランの振り返った視界の先で、レジスタンスのメンバーたちを助ける事に優先していたブランの優先順位はまたも入れ替わった。

 

「ヌラ!?」

 

「ゴガアッ!?」

 

「グオアァッ!!?」

 

次々と呻き声を上げて地面へと倒されるモンスターたち。 彼らは予想外の攻撃に抵抗出来ず、あっさりと霧散し消滅する個体もいた。 消滅した個体のすぐ近くには、刃渡りは短いが、太い剣が地面に突き刺さっていた。 ブランはその剣に施された、紫色の装飾には見覚えがあった。

 

 

 

 

 

 

 

「ひとーつ。 人の世の、ゲームの道に魂込めた1人の女神が今日も行く!」

 

 

 

突如として、ブランの背後から高らかな声が辺りに響き渡る。 その名乗り声に惹かれるように、ブランもモンスターたちも声の方へと視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふたーつ。 不埒な悪行違法コピー」

 

 

ルウィーの沈みかけ、白い雪を燃やすように赤く彩らせる夕陽を背に、その人物は腕を組み、高らかに声を上げ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みーっつ。 醜い浮き世のモンスター、退治てくれようネプテューヌ!」

 

 

最後に自分の名を上げ、指をビシッとモンスターたちへと向けてポージングをした。 ドヤ顔をして決めポーズをしているネプテューヌ的に、頭でシュミレートした通りにでき、完璧にかっこよく決まったとでも考えていたのだろう。

 

「って、アンタは何してんのよ!」

 

「あだぁっ!? ひ、ひどいよあいちゃん! せっかく人がかっこよく登場したってのに」

 

名乗りを上げている途中でツッコミを入れると言うKY行動は出来なかったのか、アイエフはネプテューヌが名乗り終えたとほぼ同時に、手に持っていたハリセンをネプテューヌへと投げ、ネプテューヌの顔面にジャストミートさせた。 そして跳ね返ってきたハリセンをキャッチすると言う離れ業をやりつつ、こんな時でも自由な行動をするネプテューヌにほとほと呆れ、ネプテューヌのブーイングは綺麗に流し、変身するように促した。

 

「もうアンタ変身しなさい。 今はアンタの緊張感無い会話に付き合ってる暇は無いの!」

 

「ちぇー、あいちゃんのケチー」

 

口を尖らせつつも、素直に女神化するネプテューヌだが、絵面的には完全にやる気のない女神化であり、ネプテューヌもといパープルハートの信者がいたのなら、幻滅はしないにしても、戸惑う事は間違いないだろう。

 

やがて女神化の光は弱くなり、周りを衛星のようにくるくる回っていた幾何学的な文字は弾け、中から女神化したブランと似たような特徴を持つ女性、女神化したネプテューヌが現れた。 その姿に変身前のおちゃらけたよつな雰囲気は全く無く、代わりに凛とした雰囲気を体に纏い、モンスターたちを見据えていた。

 

「……あいちゃん、改めてこの姿になって思ったのだけれど」

 

「なに?」

 

唐突に話しかけてきたネプテューヌに、アイエフはやっぱり目の前の紫の女神が、いつもトラブルしか生まない少女が変身した姿とは思えないと思いつつ、言葉を返して次の言葉を待った。

 

「さっきの名乗り、こっちの姿の方が、かっこよかったんじゃないかしら」

 

「……」

 

ネプテューヌの全くふざけているつもりなどない様子でしてきた質問に対し、初めてアイエフは目の前の紫の女神は、変身前のいつもトラブルしか生まない少女と同一人物だと納得出来た気がした。

 

「ネプテューヌ……お前、どうしてここに……」

 

現れた増援の正体に、ブランは女神化した状態では珍しく、下手に出るように聞いていたが、その質問はネプテューヌに対しては愚問であったし、ブラン自身もここにネプテューヌがいる理由は予想がついていた。

 

「簡単よ。 ここにいる人たちが襲われているのを、ただ何もせずに見ているだなんて私には出来ない。 理由はそれだけよ」

 

ブランの思った通りだったが、本当に来るとは思っていなかったネプテューヌの返答に、予測できていた筈なのに、少し呆然としてしまった。 そんなブランを他所に、アイエフはため息を吐きつつも言った。

 

「……今の台詞だけ言っていたらカッコよかったのに……。 ま、それはともかくとして、私としてもこのまま傍観しているなんて、出来ないからね!」

 

言い終えると同時に地面を蹴り出し、空中に飛び上がって放物線を描きながら一回転し、片足を突き出して飛び蹴りの体勢に入った。 その射線上にいるのは、イツキが白刃取りしている斧の持ち主であるキラーマシン。

 

「おりゃあ!!」

 

不意打ちの形でアイエフのライダーキックがキラーマシンへと炸裂した。 キラーマシンはイツキに完全に目が行っていた事と、斧を持つ手に力を込めていたために簡単に体勢を崩し、ガシャガシャと音を立てて地面に体を引きずっていた。

 

「! アイエフさん!」

 

「助けに来たわよイツキ。 この私、アイエフ様が来たからにはもう大丈夫よ」

 

イツキの驚くような声に、アイエフは妙にテンションを上げてそんな事を言っていた。 ネプテューヌを叱ってはいたが、彼女としても燃えるシチュエーションなのだろう。 そんなアイエフの背中を頼もしくイツキは感じた。

 

「ふふ、心強いよ。 ありがとうアイエフさん」

 

礼を言うと同時に隣に並び、キラーマシンへと2人は向かい合った。

 

 

「ーーわたくしの事を忘れて貰っては困りますわ」

 

走り出したアイエフを目で追いかけていたブランだったが、背後から掛けられた声に振り向くと、そこには既に女神化したベールが槍を構えて隣に立っていた。

 

「ベール……どうしてお前まで…ここに、お前の国の国民はいねえぞ」

 

「愚問ですわね。 女神として、たとえ他国の国民と言えど、見捨てるほどわたくしは非情ではありませんわ」

 

ブランの質問に対し、間髪入れずに答えるベール。 詰まる所、彼女もまたネプテューヌと同じお人好しなのだ。

 

「さぁ、これ以上被害が出る前に、さっさと終わらせましょう」

 

気付けば隣に立っていたネプテューヌは、自らの得物を構えてモンスターの群れと真っ向から向い合う。

ベールもまた、槍を構えて敵を見据えた。

 

「……」

 

ブランはそんな2人を交互に見やる。 その表情は、理解はしていたが、何かを思い悩むように複雑な表情をしていた。 だが、そのすぐ後に俯き、目を閉じた後に、ブランは小さく呟いた。

 

「……ありがとう」

 

その言葉が、2人に届いたのかはブランには分からない。 言葉を紡いだ直後にブランは戦斧を構えてモンスターへと突撃したからだ。 その後に続くように、ネプテューヌとベールも続いた。

 

 

ルウィーの大地に、3人の女神が降臨し、共闘を始めた。

 

 

守護女神(ハード)戦争をよく知るものが聞けば、もう一度聞き直すような内容だ。 其れ程までに、女神たちは互いに争いあってきた。

 

 

だが、今ここにいる女神たちに、そのような昔の悔恨は残っていないどころか、新たな絆さえ生まれていた。

 

 


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