まんまと騙されてくれたな。 君たちを騙したのはこの俺さ。 そうとも知らずに、おめでたい読者たちだな。
だが安心しな、すぐに楽にしてやるよ!
………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!
夏休み特別編、どう考えても後数話は書かないと終わらない癖に、気づいたらもう夏休みは終わってました……このままグダグダ続けていたら、本編に突入出来ないので、前回の話で夏休み特別編を一度打ち切ります……
なんでもするから許して!
「「「ええええええええっ!?」」」
部屋に入るなり、ネプテューヌとアイエフとコンパは同時に叫び驚いていた。 それもそうだ。 会って貰いたい人がいるとフィナンシェに聞かされ、たどり着いた先にいたのが、自分たちを捕らえようとしていた、ホワイトハートその人だったのだから。
「な、何でホワイトハート様がこんなところに!?」
「簡単な話です。 この方がわたしたちレジスタンスの本当のリーダーなのですから」
驚くネプテューヌに、フィナンシェはそう説明するが、事態をよく飲み込めないネプテューヌたち3人は警戒度を引き上げた。
「……成る程、そう言う事でしたか」
そんなやや緊張感が高まる中、唯一驚愕の叫びを上げていなかったベールは、何か納得するように呟いた。
「え、何? 何が分かったのベール!?」
「おそらく、ここにいるホワイトハートもとい、ブランは本物であり、あちら側のブランは偽物と言う事ですわ。 フィナンシェさん、そうですわよね?」
「はい、ベール様の言う通りです。 此方にいますのがわたしたちレジスタンスのリーダー、ブラン様でございます」
何がなんだか分からないネプテューヌは、状況を理解するためにベールへと聞いたのだが、ベールとフィナンシェの言った人物名を聞き、更に混乱する。
「ブ、ブラン? どうしてここでブランの名前が出てくるんですかベール様?」
「もうわたし、何がなんだか分からないですぅ……」
次々と明らかになる人物相関図に、アイエフはベールへと意味を必死に問いかける。 コンパに至っては脳がショートして頭から湯気を噴いていた。
「───それは僕から説明するよ」
部屋のベランダの扉が開くと同時に聞こえてきたその声に、一同は振り返りそちらに注目すると、そこにはネプテューヌたちが先ほど別れた人物である、イツキが立っていた。
「イツキ、無事だったのね! あんまり心配させないでよ」
「ごめんアイエフさん。 でも囮作戦には慣れているし、途中で予期しない助っ人さんも来てくれたから、大丈夫だったよ」
「イツキさん、怪我は無いですか? 怪我があったら正直に言うです」
「ありがとうコンパさん。 だけど、大丈夫だよ。 その気持ちだけ受け取っておく」
「まさか、囮なんて貧乏くじ作戦を容易に成功させるなんて……流石お兄ちゃん! 俺たちにできない事を平然とやってのける! そこにシビれる憧れるゥ!」
「……君は相変わらずだねネプテューヌ」
何も説明せずに飛び出していったイツキの帰還に対し、ネプテューヌたちは三者三様の反応をする。 アイエフとコンパはイツキを気遣った言葉をかけたが、ネプテューヌは某マンガのセリフを流用するのは、ネプテューヌらしいといえばネプテューヌらしい。 イツキはネプテューヌの称賛を流すと、同人誌の積まれている場所のそばに座っているブランへと歩み寄った。 すると、イツキが話しかける前にブランが問いかけてきた。
「……一応聞くけど、これはあなたの差し金?」
「いや、違うよ。 アイエフさんとは連絡は取っていたけど、この事については一切話していないよ。 ……でも、もういいよね? ここまで来たなら正体ばらしちゃっても」
「……好きにしなさい」
ブランはイツキにそう言うと、その場で立ち上がった。 ブランの許可を得たイツキは、ブランが被っている白い大きな帽子を優しく取る。 すると、ブランの茶髪の髪に留められた髪留めが現れた。 更にイツキは伊達眼鏡を近くの机から取り出し、ブランにかけた。
「! ちょ、これって……」
「ブランさん! ど、どうしてホワイトハート様が、ブランさんになったです!?」
そのブランの姿は、服装こそ違うがネプテューヌたちがリーンボックスで見たブランの姿であり、アイエフとコンパは驚愕した。
イツキはそんな驚愕で硬直している者たちに対し、ブランへと向けていた顔をその者たちの方へと向け、まっすぐな瞳で答えた。
「驚くのも無理は無いと思うけど、ここは改めて僕も自己紹介するよ。 僕はルウィーの女神、ホワイトハート直属の補佐官のイツキ」
丁寧にお辞儀の後、ゆったりとした動作で顔を上げて片手を軽くブランの方へと差し出して言った。
「そして、ここにいるブランさんはこのルウィーの女神であり、僕の使える主人であり、恩人である、ホワイトハート様だよ」
「……ナ、ナンダッテー」
イツキのカミングアウトにネプテューヌの顔が妙に感情表現の乏しそうな薄っぺらい表情になった。 ネプテューヌのリアクションは置いておくとして、コンパもアイエフもその事にとても驚き、口が塞がっていなかった。
「……まぁ、わたくしは知っていましたけどね」
唯一ネプテューヌたちの中で驚いていなかったベールに、イツキは意外そうにしていた。
「え、そうだったんですかベールさん?」
「ブランにも言いましたけど、長い付き合いですからね。 あの程度の変装でしたら、すぐに見破る事ができますわ」
自慢気にベールはそう言ったが、イツキはベールがブランの正体見破った事についてはともかく、今のベールの格好を見て、どうしても気になる事があった。
「……あの、ベールさん。 そのメガネはまさかとは思うけど……変装ですか?」
「勿論ですわ。 一国の女神が変装も無しに他の大陸に行くというのは、さすがに危険ですからね」
「……そんなに見た目は大きく変わっていないと思うんですけど……」
「あら? イツキさんにもメガネをかけた事により、いつもよりも凛々しさが増したわたくしが分からないのですか?」
「……」
少し残念そうに言うベールに、ノワールとブランの前例を思い出しつつ、イツキは女神とは己がどれ程このゲイムギョウ界に強い影響を与える人物であるという事を、自覚しきれていないような気がしたが、話が逸れている事に気づき、心中で思った事をスッパリと切り離した。
「と、まあとにかく、リーンボックスではブランさんの正体がバレるとマズイことになるから変装していたんだ。 騙していてごめん」
「……まさか、ブランが女神だったなんて……こんな短い期間で四女神全てと会うことになるなんて、相当凄いことなんじゃないかしら……」
「わたし、もうイツキさんが5人目の女神様だって言われても驚かないですぅ……」
「コンパさんって普段一体どんな目で僕を見ているの?」
1周回って驚きから立ち直ったアイエフとコンパは、既に驚き過ぎたからか、そんな事を言っていた。 コンパの呟きは置いておくとして、確かに、アイエフの言葉には一理あるとイツキも思い、実は人生で最も濃い時間を過ごしているのでは無いかとさえ思った。
「とにかく、今までの話を纏めると、ブランは実はルウィーの女神ホワイトハート。 そして、ルウィー教会に居座るブランは偽者で、ここにいるブランは私たちがリーンボックスで出会った本物のブランってことなのね、イツキ?」
「うん。 それで合ってるよアイエフさん」
混乱から立ち直ったアイエフは、ブランの情報について頭の中で纏めてイツキに確認をして貰った。 やはりアイエフの頭の回転率は良く、一度混乱から立ち直れば、現状把握がすぐに出来るようであった。
「うう、わたしには何がなにやら分からなくなって来たですぅ……」
しかしコンパはアイエフのように、すぐにこの状況を理解するには、あまりにも内容が濃かったためか、頭を抱えてそういった。 そんなコンパへと、近くにいた双子はフォローを入れる事を表明した。
「では、私がコンパさんの為に説明しよう」
「僕もコンパさんの為に補足するよ、兄者」
「……チッ、お前らもいたのか……」
双子のあの兄弟がいた事に対し、本当に気づいていなかったのか、ブランはあからさまに舌打ちしつつ呟く。 先ほどイツキと連絡を取った際、ブランの前で言ってはなら無い禁句を言い、ブチ切れられて警備に駆り出されたばかりなのだ。 そうであるにも関わらず、学習能力がないのかよくは分から無いが、ベールとブランを何度か見やると
「……しかし、改めてベール様と比べると、我らが女神の胸は……なんと貧相で嘆かわしい……」
「よし、今日がテメーらの命日だ。 原型を留めないほど叩き潰してやるから覚悟しろこの変態ども」
一瞬でブランの怒髪天を抜いた変態兄弟2人。 その瞳を紅く光らせ、ゆらりと立ち上がり拳を構えるブランを見て、双子の兄の方は素早く部屋の外の扉を開ける。
「おっと、そう言えばお茶をベール様にお茶をお出しにならねば。 そういう訳で私は一度失礼いたします」
「ぼ、僕も兄者とお茶を用意しないといけないから、これで!」
口早にそう言ってさっさとこの場から逃れようとする兄に、弟も慌てた様子でそれに続くようにして、部屋の外へと逃げたのだった。
「……後で覚えとけよあの変態ども……」
双子が部屋かた出て行った後、ブランはそういって怒りを抑え込む事にした。 そんなブランの怒り心頭の様子を一から見ていたネプテューヌは、確信するように言った。
「あ、あの容赦無い野獣の如き紅い瞳は、間違いなくブラン! ここにいるのはリーンボックスで出会ったブランだよ! ブランの激おこモードの怒りを買うお得意様であるわたしに間違いは無い!」
「……自覚あったのね、ネプ子……。 あと、それは誇れる事でもないわ」
「あ、あははは……いつになったら話が進むんだろう……はぁ……」
ネプテューヌの推理に対して呆れるアイエフに、いつまでたっても本題に入れないことに苦笑いしつつ、最後にため息をつくフィナンシェ。 それを不憫に思ったイツキは、説明の進行役に立候補した。
「……それじゃ、僕が説明を続けるよ。 まず、結論から言うと、ルウィーは偽者のブランさんに奪われてしまったんだ。 ネプテューヌたちが教会で会ったあのブランさんは偽者で、どうもコンベルサシオンもとい、マジェコンヌが自らの能力で創り出した偽者なんだ」
「マジェコンヌですって!?」
マジェコンヌの名が出た事に、アイエフは驚くように言う。 まさか、ここでとマジェコンヌが関わってくるとは思ってもみなかったのだろう。 イツキはそれに一つ頷き、本題へと入ろうとする。
「そう。 これが僕がマジェコンヌを追っていた理由なんだけど、ある時僕とブランさんは───」
「待ちなさいイツキ。 それ以上の説明は不要よ」
と、唐突にイツキの言葉はブランにより遮られた。 ブランの説明は不要であると言う言葉に反応し、イツキは聞き返す。
「……ブランさん、説明が不要って言うのは……」
「そのままの意味よ。 それ以上でもそれ以下でも無い」
冷たく言い放たれたその突き飛ばすような言葉に、イツキは何も言い返せない。 イツキがブランにネプテューヌたちに協力を申しでようと提案した時、ブランは頑なにそれを良しとはしなかった。 目の前にネプテューヌたちが今いるこの状況でも、ブランはネプテューヌたちを部外者は立ち去れと突っぱねる筈だと思った。
「だ、だけどブランさん。 やっぱり僕たちにも限界はあるし、ネプテューヌたちもこうして───」
「イツキ、少しの間でいいから黙っていてくれないかしら」
説得をしようと試みたイツキの言葉は、冷たいと受け取られても仕方がないような命令に遮られてしまう。 イツキはそのブランの命令を受け、一瞬目を見張った。 それはブランの言葉こそ厳しいが、その命令を下したブランの感情に、怒りのような類のものは見当たらなかったからだ。
「……分かったよ、ブランさん」
ブランにそう言われてしまっては、少なくとも今は余計な事を言えない。 イツキはそう思い、素直に引き下がった。 イツキが大人しくなった事を確認したブランは、ネプテューヌたちの元へと歩み寄り、立ち止まると、一つ大きく息を吐いて言った。
「……ごめんなさい。 説明していなかったとはいえ、あなたたちをこの国のゴタゴタに巻き込んでしまって……ルウィーの女神として、謝罪するわ」
「「「!?」」」
そう言い、ブランはネプテューヌたちへと頭を下げた。 その光景を見て、この部屋でそれを見た全員、特にイツキとフィナンシェとベールは、驚きを隠せずにいた。 それはブランの性格を知っているからこそ反応だ。 ブランはプライドの高い人物であり、ネプテューヌたちがやって来たこの状況でも、助けは余計であると突っぱねる筈であると、イツキとフィナンシェ、ベールは思っていた。
そして、それは出会ってから間も無いネプテューヌたちでも、イツキやベールの反応を見て、理解する事が出来た。 ネプテューヌたちは頭を下げるブランに、戸惑いを隠せない。
「ちょ、ちょっとブラン!? 別に頭を下げる必要なんて無いよ! 」
「そうよ! そもそも私たちに危害を加えてきたのは、あのルウィー教会に居座る偽物のブランなんだし!」
「ブランさんは、何も悪い事はしてないです! だから、頭を上げて欲しいです!」
ネプテューヌたちは慌てて頭をあげるように頼んだ。 少しの間のあとブランはゆっくりと顔を上げ、礼を言った。
「ありがとう。 そう言って貰えると、少し助かるわ」
「気にしないでよブラン! わたしたち友達でしょ? 友達が困っているなら、助けるのが友達だもんね。 偽物のブランなんて、わたしがぶっとばしちゃうから、任せてよ!」
ネプテューヌは自分の胸に手を当てて、自信ありげにそう言った。 今のブランの様子から、もしかしたら自分たちと言う助っ人の参戦を、ブランは快く受け入れてくれるかもしれないと言う期待から、ネプテューヌはそう言葉にしたのだ。 しかし、そのネプテューヌの言葉に対してブランは、すこし表情を強張らせ言った。
「それはダメ。 それを許容する事は私には出来ないわ」
ネプテューヌの希望はあっさりとブランの否定の言葉に崩されてしまった。 ブランが否定する事は、イツキやフィナンシェには何となく分かっていたが、ネプテューヌはブランが拒否するのが何故なのか分からなかった。
「ど、どうしてブラン? わたしたちのレベルじゃ、頼りにならないの?」
「そういう事じゃないわ。 あなたとベールの実力は勿論、アイエフとコンパの実力はリーンボックスで見たし、よく知っているわ」
「じゃあ、何で……」
「あなたたちの実力が問題である訳ではないの。 これはあくまで、ルウィーでの問題であって、私たちが……ううん、本来なら私1人で解決すべき事なのよ。 この件に関してこれ以上、部外者であるあなたたちに迷惑をかけるわけにはいかないわ」
「……ブランさん……」
ネプテューヌたちの事を部外者と言い、助っ人と認めはしないブラン。 それどころかそのブランの言葉は、イツキやフィナンシェでさえ、本来なら関係が無いとでも言っているようであり、2人は少しだけ悲しい顔をした。 しかし、ネプテューヌがその言葉を聞いて、はいそうですかと納得をする筈も無く、反論しようとネプテューヌは口を開いた。
しかし、ネプテューヌの言葉は突然の出来事により、紡がれる事は無かった。
「! な、何この揺れ!?」
「地震ですか!?」
突如としてネプテューヌたちのいる屋内が大きく揺れ、アイエフとコンパはその揺れにつんのめり、驚いていた。 同様にイツキもつんのめり、驚きつつも、揺れの正体を微かに聞こえた爆音から見破った。
「いや、これは爆発音だよ! 何かが爆発したんだ!」
「……!まさか……!」
イツキが爆音であると判断した瞬間、ブランは何かに思い当たったようであり、それと同時に部屋の外へと飛び出して行った。
「ちょっとブランさん! 待ってよ!」
それを見たイツキはブランを引き止めるが、既にブランは部屋の扉を勢い良く開け放っており、声は届いていなかった。 届いていたとしても、ブランは止まる事は無かっただろう。 それを見たイツキは追いかけるように部屋を同様に飛び出して行った。