超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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夏休み特別編 僕らの夏の思い出 その2

何かを色々と悟り、波打ち際で正座すること約5分。 長かったような短かったような時間を経た後、ノワールさんに荷物番を頼み、僕も海で軽く遊ぶ事にした。

 

荷物番をしている時もそうだったが、この季節は当たり前といえば当たり前だが、物凄く暑い。 おまけに直射日光によって熱せられた砂浜の上にいる物だから、ビーチパラソルの生み出した影に隠れたところで、焼け石に水と言えるほどの暑さだったのだ。 正直少し涼みたかった。

 

……まあ、色んな意味で火照った体を冷やしたかったと言うのもあるのだが、それはさておこう。

 

「……」

 

現在、僕は海に仰向けとなって浮き、流れるがままに身を任せている。 楽な体勢だからやっている事なのだが、涼しいだけでは無く、何だか気持ちが良い。

 

沖から波が来るたびに、体が上へと一瞬浮き上がり、下がっていくのは、まるで大きな揺りかごの中にいるようだった。 目を閉じ、耳を澄ませば、人の喧騒の音の中に流れる水の音、波の打ち立つ音が聞こえる。それらが奏でるハーモニーは、まるで僕の心を綺麗に洗ってくれているようで……

 

「仰向けに目を閉じて浮いているなんて、ラッコの気分でも味わっているのお兄ちゃん?」

 

……雑音発生機(ネプテューヌ)が現れた。

 

「あれー? 何でお兄ちゃんは私をそんな目で見るのかな? まさか、わたしの水着姿に見惚れてるの?」

 

「……流石は空気読めないことに定評のあるネプテューヌ。 間の悪さとも合わせて末恐ろしい女神だな……」

 

「何か不名誉な事に関して定評がある事についてはスルーするとして……そんなにタイミングが悪かった?」

 

「太○の達人で良と可の境目のスレスレ可の位置で叩いたくらいにタイミングが悪かった」

 

「そ、それは本当にタイミングが悪いね……」

 

最近と言うか、薄々気づいてはいたのだが、ネプテューヌに例えを出す時はゲーム関連のものであった方が良いようだ。 幸いにしてネプテューヌも全良を目指している時に、可を出した時のあの悔しさは分かっていたようだし。

 

「それはそうとお兄ちゃん。 頼みたい事があるんだけど、いいかな?」

 

「お断りします」

 

「ヒドイ! せめて何をして欲しいかくらいは聞いてよ!」

 

大概ネプテューヌの頼みってロクな物じゃないって、聞く前から分かっているから断ったんだけどな……まあ、聞くだけ聞いてみようか。

 

「はいはい……で、何なの頼みたい事って?」

 

「おー、流石はお兄ちゃん! 話が分かるね! 頼みたいって言うのは、浮き輪を引っ張ってもらいたいんだー。 よっと!」

 

そう言ってネプテューヌは傍にあった大きな浮き輪を僕に見せた後、浮き輪を海に浮かべて浮き輪の中に入り、足を浮き輪の上に出した体勢になった。 ……って、ネプテューヌのやりたい事、僕が今さっきまでしていた事と似たようなものじゃないか。 でもまあ、断る理由もないしいいか。 僕はネプテューヌの浮き輪の紐を手に掴んだ。

 

「ん、それくらいだったらOK。 沖の方に行けばいいの?」

 

「そっちの方が面白そうだし、それでお願い! それじゃ、出発進行ー!」

 

「ま、待ってイツキ!」

 

ネプテューヌの掛け声と同時に泳ぎ始めようとした時、よく知っている声が聞こえてきたため、僕は振り返った。 予想通り、声を掛けてきたのはブランさんだったようだ。

 

「あ……えっと、ブランさん、どうしたの?」

 

さっきの事もあり、今ブランさんとは目を合わせるだけで気まずくなる。 少しどもり気味の問いに対し、向こうも気まずいのか、ブランさんもどもり気味に答えた。

 

「あの……私も、それやって欲しいのだけど……ダメかしら……?」

 

両手に持つ浮き輪を口に当てて、顔を隠しながら言うブランさん。 その姿は本人的には無意識なのだろうが、実にあざとい。

 

「……うん、勿論OKだよ」

 

断る理由もないし、僕はブランさんの頼みを受け入れた。

 

これは決してブランさんの可愛さにやられたとかそんなではない。 うん。

 

(うんうん。さっきよりハードル低いとは言え、頑張ったねブラン。 その調子で行こう!)

 

そして影でネプテューヌがブランさんに対し、サムズアップしていることに僕は気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

「んー、こうやって浮き輪でノンビリ浮かびながら、引っ張られるのも良いねー」

 

「……そうね。 これはこれで、結構快適」

 

浮き輪に浮かびつつ、僕に浮き輪を引っ張られているネプテューヌとブランさん。 浮き輪を引っ張り始めて数分は何も喋らなかったが、僕と目を合わせていないためか、時が経つにつれて隣にいるネプテューヌと語らいながら楽しんでいた。 流石に2人分の浮き輪を足のつかない沖で引っ張るのは少々大変ではあるが、ブランさんが楽しんでいるのなら、僕はそれでいい。

 

「あ、そうだ。 お兄ちゃんも浮き輪使う? 浮き輪はわたしが引っ張るよ」

 

と、ここで唐突にネプテューヌがそんな提案をしてきたが、僕としてはあまり乗り気にはなれない提案だった。

 

「うーん……面白そうではあるけど、遠慮しておくよ。 女の子にそう言うのは頼みづらいし」

 

「大丈夫大丈夫! わたし、そこんじょそこらの人よりも力あるし、浮き輪を引っ張るなんて楽勝だよ!」

 

(ここで引くわけにはいかない! この先に待っているであろう、初々しい2人のラブドラマを見るためにも、この不肖ネプテューヌ、絶対にお兄ちゃんを浮き輪に乗せてみせる!)

 

中々引き下がらないネプテューヌの表情が、なんか今ニヤついた笑みに変わったような気がしたが、多分気のせいだろう。 ともあれ、ネプテューヌは断る僕を気にせず、引き下がろうとしない。 ブランさんも、ネプテューヌの提案に対しては特に何も言ってこないし、文句は無いようだ。 しかし……

 

「ネプテューヌ、考えてみて」

 

「?」

 

「浮き輪に浮かぶ男が、見た目10代前半の子どもの女の子に浮き輪を引かせる図を……周りが見たらどう思う?」

 

僕がもしもそれを見たら、その男を軽蔑の眼差しで見ると思う。 僕で無くても、微笑ましいだとかそんな明るいことは思わないだろう。 とにかく、絵面が酷いのだ。

 

「えー? 別にいいじゃんそのくらい。 信頼度くらい、一緒にクエスト行きまくれば勝手に上がっていくし、大丈夫でしょー?」

 

しかしと言うかなんと言うか、やっぱりネプテューヌには引き下がると言う選択肢は無いようであり、しつこく選択を迫ってくる。 僕はネプテューヌに、嘆息気味にこう答えた。

 

「そりゃゲームみたいに信頼度を上げられればいいけど、現実はそうはいかないんだって。 ベールさんならともかくとして、ネプテューヌみたいな見た目子どもな子に浮き輪を引かせるなんてのは任せられないよ」

 

僕のこの言葉を聞いた直後、ネプテューヌは最初は不満気な顔をしていたが、すぐに何かに気づいたかのような顔をしたかと思えば、今度はイタズラを思いついた子どものような悪い顔をしだした。 ……嫌な予感しかしない。

 

「ふっふっふ……つまり、見た目が大人なら問題無いんだよね? デュア!」

 

最後の言葉の掛け声と同時に、ネプテューヌは頭と足を上げ、浮き輪の穴から海へと沈んだ。 次の瞬間浮き輪の真下辺りの位置で光が発生し、一瞬海面を照らす。

 

そしてその光が止んで数秒後……

 

「ふぅ。 この姿なら問題無いわよね、お兄ちゃん?」

 

ネプテューヌの女神化した姿、パープルハートが海面下から水音を立てて現れた。

 

「えー……」

 

カッパみたいな登場をされ、ちょっとこれは反応に困った。 と言うか、ネプテューヌの格好……

 

「……何でネプテューヌ、女神化したのにいつもの服装じゃないの?」

 

ネプテューヌの顔から下の、揺らめく水面には、いつもの女神化した際に纏う紫を基調としたレオタードのような物ではなく、色こそ同じだがハイレグのようなかなり露出度の高い水着が映っていた。

 

「……? あら、何かいつもと着心地違うと思ったら、そういう事だったのね」

 

あ、自発的にやった訳ではないんだ。

 

「まあこれはアレよ。 女神化する際に、身に纏う服装が空気を読んだんじゃないかしら?」

 

「女神化ってそう言うシステムだったの!?」

 

「まあ細かい事は気にしない方がいいわ。 それより、この姿なら別にお兄ちゃんの懸念は消え去るわよね?」

 

僕のツッコミを躱し、話を無理矢理戻すネプテューヌ。 しかし、やはり女性にそれをやらせると言うのには抵抗があり、僕の懸念は拭いきれない。

 

「うーん……やっぱりそれはなぁ……」

 

そんな未だに迷いを見せるような態度に、ネプテューヌは少し不機嫌そうにし、僕ににじり寄ってきた。

 

「……全く。 ブランもそうだけど、お兄ちゃんも焦れったいせいか、お互い面倒くさいわね」

 

「あの、ネプテューヌさん? どうして僕に近づいてくるのでしょうか?」

 

「ここは2人の為にも、強行策で行かせて貰うわ。 悪く思わなッ!?!」

 

僕に近づいてきていたネプテューヌは、急にその場で停止し、何か痛みに堪えるような顔をして背筋を仰け反らせた。

 

「ど、どうしたのネプテューヌ? ってうわっ!?」

 

心配になり声を掛けた瞬間、ネプテューヌはバランスを崩し、僕の肩に頭を乗せるようにしな垂れかかってきた。

 

 

ふにょん

 

 

うむ。 相変わらずあの女神化前の姿からどうしたらこんな大きさになるのか疑問に思う程のナイスおっぱいである。

 

……じゃない! 僕はブランさんの前で何をしているんだ! 幸いにして今ブランさんはこっちを気にしてはいるが見てはいないからいいけど、こんな所ブランさんに見られたりすれば……うぅ、考えただけでも身震いが……

 

「どうしたのよネプテューヌ。 どこか痛めたの?」

 

ブランさんにバレたらどんな目に合うかという恐怖が渦巻く中、ブランさんも心配したのかネプテューヌに声を掛けてきた。 ブランさんのその行動に対して僕はビクッと震えてしまった。 や、ヤバイ……

 

しかし特にブランさんは僕に対して怒りを表す事も、言及もしてこない。 海だから、今の体制が見えにくいのだろうか? 何にせよ助かった……

 

と、僕が考え事をしているうちに、ネプテューヌは未だに痛みに耐えているように顔を少し歪めつつブランさんの問いに答えた。

 

「あ、足を攣ったわ……」

 

……え? でもネプテューヌ、さっきから散々海で泳ぎまくっていた上に、コンパさんに言われて念入りに準備体操もしていたのに、今更?

 

……もしかして、女神化したせい? 女神化前と女神化後とでは、身体つきそのものが大きく変化するからとか、そういう事なのだろうか?

 

とにかく、足が攣ったとなればこんな沖にいるのは危険だろう。 僕はネプテューヌをどうにか砂浜にまで連れて行こうとした、その時だった。

 

「嫌な予感がすると思って見ていたら……案の定ね」

 

僕が支えているネプテューヌの丁度隣に、水面からザバッと音を立てアイエフさんが現れた。 ……カッパみたいな登場方法、流行っているのだろうか?

 

「い、いやこれは違うのよあいちゃん。 不測の事態だったと言うか、全く予想外だったと言うか……アイタタタタ!」

 

弁明するネプテューヌであったが、痛がりながらのその姿には、最早女神としての威厳は欠片も無い。 そんなネプテューヌに対し、アイエフさんは呆れながら言う。

 

「ネプ子の予想なんて、まるで参考にならないし、最初から期待なんてしていないわよ。 イツキ、このお荷物は私が預かるから、アンタたちは気にせず遊んでていいわよ」

 

「え、あ、うん」

 

半ばひったくるように僕の肩に寄りかかるネプテューヌをアイエフさんは受け取り、背に担いでスイスイ泳いでいった……と、思いきやアイエフさんは途中でピタリと立ち止まり、こちらを振り向いてこう言った。

 

「先に言っておくけど、2人きりでいちゃつくのは私が見えなくなってからにしなさいよ。 見ている側にとっては基本有害なんだから」

 

「「なっ!?」」

 

アイエフさんの爆弾発言に僕とブランさんの驚愕の声が重なった。 そんな僕たちを他所に、アイエフさんは人波を避けながら砂浜の方へと消えていく。

 

「そ、それテメェの言えることじゃねぇだろうがー!!」

 

「そうだよアイエフさん! 今週のお前が言うなスレはここですかー!?」

 

かなり遠くに見えるアイエフさんの背中に向かってブランさんと僕は、アイエフさんに向かって反論していた。

 

「「あ……」」

 

叫ぶタイミングが同じだったせいか、不意に互いに互いを見やって視線が合うのも同じタイミングで

 

「「……」」

 

視線を逸らすのも、お互いに同じようなタイミングだった。

 

雰囲気が気まずい空気に変わり、その気まずさに感化されて、ブランさんに先ほどした事を思い出してしまい、更に気まずくなってしまう。

 

「そ、そのブランさん?」

 

「……な、何かしら?」

 

これ以上気まずい空気を放置するのもマズイと思い、ブランさんに話しかけたのだが、お互いきごちない。 僕はどうにか平静を保とうと努力しつつ、ブランさんに話しかける。

 

「こ、これからどうしようか? 1回砂浜に戻る? それとも、もう少し引っ張っていようか?」

 

「わ、わたしはどっちでも……」

 

ブランさんはそこまで言いかけて、急に言葉を紡ぐのをやめた。 ブランさんは後ろを向いていて、その表情を読む事は出来なかったが、何かを言い悩んでいるようだった。

 

「……ねぇ、イツキ。 あなたが良ければなのだけど……」

 

「うん?」

 

「一緒に浮き輪で、気ままに流されるままに浮いていない? この辺ならあまり人もいないし、浮き輪ならネプテューヌのを使えばいいし……勿論、無理強いはしないわ」

 

「……そうだね。 そうやってノンビリするのもいいかもね」

 

ブランさんの提案に賛同し、僕はネプテューヌの浮き輪を借りて、ブランさんに倣って足と頭を浮き輪の上に置き、同じ体勢になる。 幸い、ネプテューヌの使っていた浮き輪は大きなものだったので、僕の体重を支え切れずに沈むと言う事も無かった。

 

「乗れたなら、お互いの浮き輪のロープを掴んでおきましょ。 それなら、離れ離れになることもないわ」

 

「ん、分かったよ」

 

浮き輪に浮く位置の関係から、僕は後ろ手にしてブランさんの浮き輪のロープを手探りで探した。 勿論水面に手をつけて、だ。 ブランさんに変な事して事故を起こすわけにもいかないしね。

 

と、そんな事を考えている時だった。

 

「……!?」

 

突如として右の手のひらに伝わってきた、暖かい感覚と柔らかい感覚に僕は驚いた。 一瞬、変なところに触ってしまったのかとも考えたが、これはどう考えても、誰かに掴まれている感覚だった。

 

「ブランさん……?」

 

振り返っても、この位置からでは掴まれている右手を見る事は出来ない。 ただ、僕の手を掴んでいる人が現時点ではそれしか考えられず、ブランさんへと話しかけたのだ。

 

「……あぁ、ごめんなさい。 間違えてあなたの手を握っちゃった。 ……でも、もう面倒だし、これでいいわよね? ……嫌なら、離すわよ?」

 

そのブランさんの声は所々が上ずっていて、最後の言葉を言った瞬間、僕の手を握る力が、少し強くなったような気がした。 僕の手を握っているブランさんの手から、不安のようなものも感じられた。

 

「……嫌なんかじゃないよ」

 

だから僕はそう言って、ブランさんの小さな手を軽く握り返した。 ……僕、もう少し気の利いたセリフ言えないのかな、と少し自己嫌悪しそうになった。

 

「……そう。 なら、良かった」

 

ブランさんは僕の言葉を聞いて、僕の手をそっと握り返してきた。

 

それからまたお互いに、沈黙の時間が訪れた。 だけど、この沈黙はさっきまでの気まずい雰囲気の物ではなかった。

 

目を閉じて耳を澄ませば、再び海の波に揺られながら聞こえる波音に、やすらぎを感じられる。

 

だけど、それ以上に右手から伝わる温かさが、何よりも僕を安心させ、やすらぎを与えてくれた。

 

「……イツキの手、大きいわね」

 

「そう、かな? ブランさんは、大きい手は嫌い?」

 

「そんなことないわ。 大きくて温かい手、好きよ」

 

……そう言う不意打ち、ズルイよなぁ。 『好き』だなんて言われたら、ドキッとしちゃうじゃないか。

 

「……僕も、小さくて、柔らかくて、温かいブランさんの手、好きだよ」

 

だから軽い意趣返し。 敢えて『好き』と言う単語を少しだけ強調して、ブランさんへと思いを告げる。

 

「……ばーか」

 

僕を馬鹿呼ばわりした割に、ブランさんのその言葉は明るい物で、僕のを握る手が、また少しだけ強くなっていた。

 











……あ、一応夏休み特別編はまだまだ続きます。

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