超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第65話 テロリスト

「この廊下の一番奥が、ホワイトハート様との面会室でございます」

 

「へー、そうなんだ。 それにしても、ホワイトハート様って、どんな性格なんだろうなぁ……。 うーん気になるなぁ」

 

「きっと、ねぷねぷみたいな良い人です」

 

「……」

 

このルウィーの女神であるホワイトハートに仕えていると言う女性の案内の元、ルウィー教会の廊下を進むネプテューヌたち一行。 ネプテューヌとコンパはお互いに小さな声で囁き合っていた。 喋るなとは言われたが、やはり無理な話であったし、それよりも警告した人物であるアイエフは薄気味悪い程足音の響く廊下が気になっていた。

 

(……幾らなんでも、静かすぎる。 それに、誰ともすれ違うこともないなんて……)

 

アイエフは思案するためにうつむいていた顔を上げ、先に進み道を示す、フィナンシェと名乗ったメイドの女性の後ろ姿を見る。

 

 

『先ほどはお見苦しい所をお見せして、申し訳ございません。 紅茶をお持ちしましたので、どうぞお召し上がりください』

 

 

アイエフがネプテューヌに説教を終えた直後に、フィナンシェはトレーに紅茶のポッドとカップを載せ、その場でお辞儀をした後に、ポッドからカップに紅茶を次いでネプテューヌたちに振舞った。 その1つ1つの挙動はアイエフでも優雅であると感じられたのだが、それだけにフィナンシェの最初のネプテューヌの挨拶などに対する反応がアイエフは気になったのだのだが、アイエフはその場でそのことを追求することはしなかった。 しかし人の気配を感じられないこの廊下のことと合わさり、疑惑は更に強くなっていった。

 

(……私の思い過ごしなのならよいのだけど、嫌な予感がするわね……)

 

しかしここまで来ては引き返すのも不自然だ。 虎穴に入らずんば虎子を得ず。 警戒を怠らないようにアイエフは心掛けた。

 

「……?」

 

その時、教会に入る際にマナーモードにしたアイエフの携帯のバイブレーションが鳴り、アイエフは携帯を取り出した。 ホーム画面のメッセージによると、メールの着信のお知らせであり、アイエフはメールボックスを開き、新着メールを確認した。

 

「!」

 

「あいちゃん、どうしました?」

 

「い、いえ、なんでもないですベール様」

 

「……? そうですか……」

 

携帯の画面に写るメールの内容を見て、顔を強張らせたアイエフ。 何かと思いベールはアイエフに問いかけるが、アイエフはすぐに小声で誤魔化した。 ベールは少しそんな様子のアイエフが気になったが、深くは追求しなかった。

 

そうしているうちに、既にホワイトハートの居る部屋に辿り着いたようで、今通った廊下にあった扉よりも大きな両扉の前でフィナンシェは立ち止まり、ノックを3回した。

 

 

『……入って』

 

 

ノックの後、短く簡潔な言葉が帰ってきたことを確認すると、フィナンシェは振り返った。

 

「お待たせしました。 こちらが、面会室でございます。 既にホワイトハート様がいらっしゃいますので、どうぞお入りください」

 

両扉の片方を開け、中に入るように促すフィナンシェ。 それに従い、ネプテューヌたちは順番に中に入ると、フィナンシェは1つお辞儀をする。

 

「それでは、私はこれで」

 

そう言い、フィナンシェは扉を閉じた。 それを見た後にネプテューヌたちは振り返り、部屋の中央へと歩を進めた。

 

「……やっと来たのね」

 

ガラス張りのドーム状の部屋の真ん中に、六本の柱で囲まれた小さな格子のようなものの中から、幼さの残る声が響く。 ネプテューヌたちはそちらへと視線を向けた。

 

格子の中の玉座のような椅子のところに、明るいブラウンの髪、その頭の上にベレー帽のような大きな帽子を被り、ネプテューヌよりもあどけなさの残る幼い顔立ち、雪国であるにも関わらず、肩を大胆に晒した白いタンクトップのような服にの上に、白いコートを肩の下にくるように着ている少女が肘を立てて座っていた

 

(……どこかで見たことあるような……?)

 

(誰かに似ているような気がするですぅ……)

 

その容姿を見て、アイエフとコンパは既視感(デジャヴ)を覚えるが、どこで会ったのか、誰に似ているのかまでは思い出せなかった。 その間に、特に思案しないネプテューヌはホワイトハートに話しかける。

 

「はじめまして、ホワイトハート様。 わたし、ネプテューヌ! で、こっちのがーー」

 

「自己紹介はいいわ。 あなたたちのことなら、よく知っているもの」

 

遮る形で言ったブランの言葉に、ネプテューヌは少し嬉しそうにして言った。

 

「あれ? やっぱりわたしたちって有名人なの?」

 

「えぇ、そうよ……」

 

「いやぁ、照れますなー」

 

肯定をされたネプテューヌは、あからさまに嬉しそうな顔をして片手で頭を掻く。 しかし片手を眼前にまで持ち上げ、中指と親指をくっつけたと同時に言ったホワイトハートの言葉はネプテューヌが期待したような物では無かった。

 

 

 

 

 

 

「ユニミテスの使いとして、だけどね」

 

 

 

 

 

 

言い終えたと同時にホワイトハートは指を鳴らした。 その瞬間、ネプテューヌたちの周りから幾つもの足音が響いてきた。

 

「まさか!?」

 

「ここでもですか!?」

 

ベールとコンパはブランの言った言葉に驚き、辺りを見回す。 どこから現れたのか、次々とやって来る武器を持った兵士たちに気づけば囲まれてしまった。 その状況はネプテューヌたちがリーンボックス教会で罠に嵌められた状況と同じであった。

 

「こいつらが、ユニミテスの使いか……。 全員、女子供じゃないか」

 

「見た目に騙されるな。 最近こそ大人しいが、ブラン様だってあの見た目であのギャップだからな……。 きっとこいつらも、似たようなもんだろ」

 

「なら、容赦はいらないな」

 

兵士たちはネプテューヌたちを見たとき、その場にいたのが全員子供や女であることに対し、武器を向けることに気が引けたが、見た目が幼く女であるのに恐ろしい人を知っているためにすぐに気を取り直し、各々の得物を構え直した。

 

「まるで袋の鼠ね」

 

大人数で囲まれたネプテューヌたちを少し離れた位置から見ているホワイトハートは、そう呟く。 ベールはその言葉が引っかかったのか、ホワイトハートへと問いかけた。

 

「……こんなことをして、あなたは正気なのですか?」

 

ベールはホワイトハートの正体を知っているだけに、何故こんな罠にかけるような事をしたのか分からなかった。 少なくとも、ベールがリーンボックスで見た彼女が、こんなことをするとは思えなかったのだ。

 

しかし、目の前にいるホワイトハートはベールの問いに対して

 

「正気よ。 この機会に、あなたも始末してあげるわ」

 

「……あらあら、せっかくの変装も見破られてしまいましたわね」

 

冷たく言い放たれたホワイトハートの言葉に、ベールは皮肉を返しつつも、内心では困惑を隠せなかった。目の前の女神ホワイトハートの言動が、とてもあの時の彼女とは思えなかったからだ。

 

「だーかーらー。 ベールの場合は、はじめからバレバレなんだってー」

 

「そ、それよりもどうすればいいですか……?」

 

呑気なネプテューヌはベールの変装があっさりと見破られた事を笑いながら当たり前と言うが、コンパは周りをキョロキョロとして、囲まれているこの現状をどう乗り切るかを切り出す。 囲んできている兵士たちは、ジリジリと近寄り、包囲網を少しずつ縮めてきていた。

 

「確かに、ここで戦うのは得策ではないですわね」

 

「とか言いつつも、後ろのドアにも人がいっぱいだよ!?」

 

既に入ってきた扉からも兵士が現れ、ネプテューヌたちを逃がさぬように囲っており、正に袋の鼠であった。

 

絶体絶命と言えるこの状況で、突如アイエフはホワイトハートに向けて言葉を発していた。

 

「……なんでアンタ、こんなことをするのよ。 こんなこと、イツキが認めたりする訳が無いわ。 ううん、そもそも、こんなことをする女神に、イツキが仕えたりするわけが無い!」

 

「……」

 

アイエフの糾弾の言葉に対し、ホワイトハートはピクリと反応した。 その反応はまるで、聞きたくも無い名前を聞いたような、不快を示す反応であった。

 

「……おい、今あいつイツキって……」

 

「……あぁ、俺も聞いた」

 

「まさか、こいつらは……」

 

ネプテューヌたちを囲む教会の兵士たちも、アイエフから出た言葉に対して、ザワザワと各々が囁きあっていた。

 

「な、何よ……?」

 

アイエフはホワイトハートや兵士たちが、どうしてそんな反応をするのか分からなかった。 それはネプテューヌたちも同じようであり、お互いに何かアイエフが変なことを言ったのかを考えあったりしていた。

 

やがて何やら不快そうな反応を示していたホワイトハートは、立てていた肘を下ろし、コツコツと人差し指で座っている椅子を叩き、注目を集めると言った。

 

 

 

「……みんな、こいつらはあのテロリストのリーダーとも繋がっているわ。 ルウィーの為にも、ここで逃がす訳にはいかない」

 

 

 

「!?」

 

その言葉に対し、ネプテューヌたちは驚愕を隠せなかった。 それは自分たちへの更なる冤罪を掛けられた事に対してでは無い。

 

 

テロリストのリーダー

 

 

この言葉の指す人物は、この流れから言って1人しか当てはまらない。

 

「ど、どういうことなの!? テロリストのリーダーって、誰の事を言っているのよ!」

 

それでもアイエフは頭に浮かんだ答えが信じられないようであり、ホワイトハートへと強く問い詰める。 語気の荒いそのアイエフの言葉に対しても、ホワイトハートはただただ淡々と答える。

 

「どうもなにも、あなたの言ったイツキと言う人物は、わたしたちルウィー教会に受けた恩を忘れ、今ではルウィーに仇をなすテロリストのリーダーへと成り下がった……それだけの話よ」

 

「ッ……!」

 

分かっていた。 分かっていた答えたが、その答えをホワイトハートに答えられた事に、歯噛みをするアイエフ。 ネプテューヌたちもホワイトハートの口から直接言われたイツキのテロリストの認定に対し、主にネプテューヌが猛反発する。

 

「ちょっと! 黙って聞いていればお兄ちゃんがペロリストだとか仇ナスだとか言っちゃって、お兄ちゃんがそんな事をする訳がないじゃん!」

 

「ねぷねぷ、ペロリストじゃなくてテロリストですぅ……」

 

こんな時でもネプテューヌは自重しないが、憤慨している事は確かであった。 それはコンパもベールも同じだ。

 

だが

 

「あなたたちがどう言おうが、あのテロリストの扱いは変わらないし、あなたたちがここで捕まる事も変わらないわ。 異教……いいえ、邪教の布教をしようとしたことのみならず、テロリストとも組んでいたのなら、国家反逆罪も追加よ。 あなたたちを牢屋に収容した後、テロリストの事についても話してもらわないといけないわね」

 

ホワイトハートは淡々とした表情を崩さない。 ネプテューヌたちを囲む輪は、その間にも小さくなっていた。

 

(ど、どんどん囲む人たちが迫ってくる! これって絶体絶命のピンチだよ!?)

 

(わたしたち、また捕まっちゃうですか……?)

 

虫の1匹も逃がさない構えでネプテューヌたちへと距離をなくしていく兵士たち。 ネプテューヌたちはそれに抗うように、お互いの背中を合わせて兵士たちと向き合った。

 

いよいよ兵士たちがネプテューヌたちを捕らえようとし、ジリジリとネプテューヌたちを無駄に刺激しないように距離を詰めていき、ネプテューヌたちもまた、いざとなった時のために、いつでも武器を出せるようにして身構える。 教会の兵士たちも、ネプテューヌたちも、お互いに緊張が張り詰め、辺りは静寂に包まれる。 この緊張感の中で、少しでも音が鳴りようものなら、それだけで両陣営は動き出しそうであった。

 

「……」

 

「……ッ」

 

ジリ、と兵士たちが一歩、また一歩とネプテューヌへと進む。

 

ネプテューヌたちはそれを見て、更に力強く身構える。

 

 

いつしか、兵士たちの足音の擦れる音はしなくなり、辺りは完全な静寂で満たされる。

 

睨み合う兵士たちとネプテューヌたち。 互いの目的は違えど、冷や汗が噴き出し、背中を伝う。 その緊張感は、最早たった1つの小さな刺激だけで崩れる事だろう。

 

その状況は安全圏から見ているホワイトハートにとっては非常に見ていて不愉快であり、気に食わないものであった。 さっさとこの均衡を崩そうと、ホワイトハートは口を動かした。

 

「……何をしているの? はやくそこの邪教徒どもを───」

 

 

 

 

 

 

その言葉の続きが紡がれる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

ホワイトハートが言葉を紡ぎ切るよりも先に、ドームの方からガラスの割れる音が響き渡ったのだ。

 

「な、なんだ!?」

 

「敵襲か!?」

 

その音に驚き、その場にいたほとんどの教会の兵士たちがそちらの方へと視線を向けたのだが、割れたガラスの破片の全てが落ち切っている事を確認した頃、何かが地面へと落ちたような鈍い金属音が聞こえ、すぐにそちらへと視線を移したのだが、時すでに遅し。

 

視線の先にあった、スプレー缶のような形をしたそれからは、凄まじい勢いで煙が出ていた。 その煙はあっという間に辺りに立ちこめ、近くにいた兵士たちを包んでしまった。 ガラスが割れた事に気を取られていたのが災いし、兵士たちは抵抗することなくその煙を吸い込んでしまった。 その途端に煙に包まれた兵士たちに変化が起こる。

 

「へっくし! へっくし! な、なんだ!? は、鼻が!」

 

「へっくし! く、クシャミが止まらないぞ!? へっくし!」

 

「くそっ! 目が痛ぇ! 何にも見えねぇ!」

 

「た、助けてくれぇ!!」

 

「目が! 目がぁぁぁぁあああ!!」

 

煙に飲み込まれた何人もの兵士たちが、クシャミを止められずにいたり、目の痛みを訴えたりし、助けを訴えており、完全に混乱していた。 運良く煙に飲み込まれなかった兵士たちも、煙に飲み込まれた者たちを助けるか、割れたガラスの周辺を調べるか、ネプテューヌたちの捕獲を行うか、どれを優先すれば良いのか分からなくなり、こちらの方でも混乱が行っていた。

 

「……ハアアアアッ!!」

 

その混乱に乗じ、アイエフは右往左往している兵士たちへと突進を繰り出した。

 

「ごふっ!」

 

視線を割れたガラスと助けを求める兵士たちに交互に向けていたその兵士は、アイエフの接近に気づくことが出来ず、地面へと倒れこんでしまった。

 

「く! このっ!」

 

その近くにいた兵士たちは呻き声を上げて倒れた兵士に気づき、混乱する中で、兵士を倒したアイエフへと一時的に目標を定め、各々の武器を構えた。

 

「!ぐぁああ!!」

 

「ぐはあっ!」

 

だが、いざ攻撃をしようとした瞬間、何者かに薙ぎ払われるようにして吹き飛ぶ。 ネプテューヌたちを捕獲するために横並びになっていたため、アイエフへと武器を向けていた兵士たちはドミノ倒しのように次々と倒れていった。

 

「な、なんですか!? 何が起きているんですか!?」

 

ガラスが割れたり、兵士たちが急に苦しんだり、吹き飛んだりするのを見て、事態がよく飲み込めないコンパは慌てたように言った。 言葉にはしていないが、それはネプテューヌとベールも同じ意見であった。

 

ただ1人、この状況の中でも混乱することなく動くことが出来たアイエフは、兵士たちを薙ぎ倒した影に、少し口角を上げつつ話しかける。

 

 

「……遅いわよ、イツキ」

 

 

文句を言われたその影は、ネプテューヌたちに向けていた背を回して答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これでも全速力で来たんだよ。 勘弁して」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは先ほど、ホワイトハートにテロリストのリーダーと言われていた、イツキその人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

フィナンシェさんから連絡を受け、面会に使われる部屋と時間稼ぎをする旨を伝えられた後、一目など気にせず積雪を巻き上げながらルウィー教会への方角へと一直線に駆け抜けた。

 

ルウィー教会の建物が見えてきた段階でもスピードを緩めず、面会に使用されるガラスの張られたドーム状の建物のガラスへと硬化して飛び蹴りする。 ガラスの一角は粉々に砕け散り、小さな破片が辺りに飛び散るが、気にせずに教会に突入しつつ空中で催涙手榴弾の安全ピンを口に咥え、視認できたネプテューヌたちを囲う兵士たちの奥の集団辺りに手榴弾を投げる。 爆音の代わりにガスの噴き出る音がし、たちまち近くにいた兵士たちを包み込んだ。 その効果は覿面であり、兵士たちのクシャミが幾つも重なって鳴り響いていた。

 

「な、なんだ!? 敵襲か!?」

 

突然の事にあたふたと混乱する兵士たち。 まともな統制が取れなければ、その隙に付け入るのは簡単だ。 着地してすぐに僕は兵士たちへと突進する。

 

「!ぐぁああ!!」

 

1人の兵士がタックルで吹き飛ばされたのにも目をくれず、そこから直角に方向転換するように地面を蹴り、横並びになっていた兵士たちにもタックルを食らわす。

 

「ぐはあっ!」

 

「おああっ!?」

 

ドミノのように簡単に倒れていく兵士たち。 これで退路を開く事が出来た。

 

「……遅いわよ、イツキ」

 

後ろの方でそんな僕を咎めるようだが、嬉しそうな声が聞こえ、振り返ってみると、そこには頭の双葉状のリボンが特徴的な少女、アイエフさんがいた。

 

「……これでも全速力で来たんだ。 勘弁してよ」

 

愛想笑いしつつ僕はこう返した後、ネプテューヌたちへと視線を向けると口早に言う。

 

「みんな! 事情は後で幾らでも説明する! だから、今はとにかく逃げて!」

 

「! う、うん!」

 

「は、はいです!」

 

ネプテューヌとコンパさんは何か言葉にしようとしていたが、僕がその言葉に被せるように逃げるよう言ったからか、言葉を飲み込んで僕の命令に了解すると、駆け足で僕が割ったガラスへと駆け出して行った。

 

「私たちもいきましょう、ベール様」

 

「了解しましたわ、あいちゃん」

 

その後に続くようにアイエフさんとベールさんが駆け抜けていく。 教会の兵士たちは、催涙ガスが部屋全体に行き渡るように充満しているためか、未だに混乱に陥っており、割れたガラスから外へと逃げていくネプテューヌたちを追いかける人物はいなかった。

 

そんななかでただ1人、射抜くように僕を睨む人物がいた。 その人物は椅子に座りながらふんぞり返り、見下すように話しかける。

 

「……現れたわね、テロリスト。 あなたが彼女たちを助けたということは、やはりあなたの組織と関係があったのね」

 

「……さぁね」

 

「……フン」

 

誤魔化しの解答に対して、鼻を鳴らして返すその人は、あの人と瓜二つと言える顔と声で、あの人が絶対言わないような冷たい言葉を放つ。

 

「わたしたちに受けた恩義も忘れ、国賊に成り下がったと言うのに、よくもまあここに来ようなんて思ったものね」

 

最初何を言っているのか分からなかったが、目の前にいるルウィーの女神が偽物であると分かっているのは、今の所僕たちレジスタンスと、偽物たち本人だけである事を思い出した。 つまり、今目の前にいる偽物は、さも自分が本物であるかのように振る舞うためにそう言ったのだ。

 

その言葉に文句なんて幾らでもつけられる。 だけど、混乱に陥っていた兵士たちが少しずつ正気を取り戻し、僕を囲い、ネプテューヌたちを追いかけようとしているのが見えた。 それが指すのは時間はないと言うこと。 だから僕は、偽物の言葉に対して、不敵に笑いながら返した。

 

 

()()()()()は受けた覚えは無いし、知ったことじゃ無いよ。 僕が恩を返すべき相手は、ホワイトハート様ただ1人であって、それは()じゃ()()()

 

 

言い切ると同時に、僕は取り出したスプレー缶型の手榴弾の安全ピンを引き抜き、僕を取り囲もうとしていた集団に軽く投げ、その場で地面を蹴って飛び上がり、再びガラスを突き破って外へと飛び出した。

 

瞬間、けたたましい音と、眩いと言う表現では生温い程の爆発的な光が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ネプテューヌたちを捕らえる筈だった兵士たちの多くを無力化され、苛立たしげに眉間に力を込めるホワイトハート。 彼女の周りには何人もの兵士たちが気を失い倒れていた。

 

イツキが使った手榴弾は閃光音手榴弾は、安全ピンを抜いた後、大量のマグネシウムを含んだ混合物が爆発し、殆どの動物や人間を倒す程の凄まじい光と音の衝撃波によって、目標を気絶させたり身動きを止めるための非殺傷手榴弾だ。 例え気絶させる事は出来なくても、目くらましになる優れものだ。

 

椅子の上で踏ん反り返っているホワイトハートにとっては、場所の関係もあるが、閃光音手榴弾の衝撃波程度ではビクともしない。 しかし、一般的な兵士たちにとってはその限りでは無い。 殆どの者がとっさに対応出来ず、マトモに衝撃波を受けて、気絶した者の方が多く、気絶しないまでも、その光と音に驚き未だに怯んでいる者もいた。

 

ホワイトハートはガラスの割れた方角へと視線を向ける。 ドームの向こう側の雪原には、既にイツキたちの姿は小さな点程の大きさに見える場所まで逃げていた。

 

「ゲホッゲホッ! まだガスが残っているぞ! 窓を開けろ!」

 

閃光音手榴弾の被害が少なかった兵士たちでも、室内のために充満しやすい催涙ガスに手を焼き、今は部屋のドアや窓という出口を開けて、換気をしていた。

 

だが、ホワイトハートにとってはこれは、今はどうでもいい。

 

「何をしているの? 動ける者は早く追いかけて、何が何でも捕まえなさい」

 

「はっ!」

 

窓を開けていた兵士に命令を下し、逃げ出したイツキたちを追うように命じると、彼らは助けを訴えたり、気絶している兵士たちを無視し、部屋の外へと飛び出して行った。

 

「……逃げたところで雪の大地に赤い花を咲かせるのは時間の問題よ」

 

ホワイトハートはイツキたちの逃げていった方向を見やり、ニヤリと口角を吊り上げ、そう呟くのだった。

 


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