「あ、あいぢゃん゛…さ、さぶいですぅ……」
陽が真上に昇るよりも少し前の時刻、陽の光に照らされて、眩しいくらいにキラキラと反射する雪原をネプテューヌたち一行が進む中、そのうちの1人であるコンパは、自分の体を抱くように両手をお腹に回し、温めるように両手で体を擦っていた。
一応、コンパはアイエフに言われていつものセーターの上にコートを着込んでいるのだが、ルウィーの外気温はその少なく着込まれた服の隙間から侵入し、コンパの体を容赦無く冷やしていた。 寒がるコンパの隣を歩くアイエフは呆れたように言う。
「コンパ、ルウィーは1年中雪が降る極寒の大陸なのよ。 ……と言うか、大寒波なんて特有の異常気象観測されてる時点で察しなさいよ……」
「そ、そんなこと言われたってですぅ……まさか、こんなに寒いとは思わなくて……」
掻き毟るとまでは言わないまでも、体を温める両手の速度はそれなりのものだった。 このまま寒がってコンパの鼻から鼻水が垂れようものなら、その可愛さが台無しである。
(……まあ、仕方ないか。 この子、わたしたちと会うまで、他の大陸に行ったこと無いって言っていたしね)
環境などの急激な変化と言うものに、人体はすぐに過敏に反応する。 それが四季や天気などの気象関連の事なら尚更だ。 プラネテューヌには四季があるので、冬も勿論あるのだが、雪が降る日は数えられる程度しかなのだ。 そんな状態でルウィーのような年中雪が降る大地に来て、体がすぐに順応する筈が無い。 それどころか環境の変化についていけず、体調に悪影響を及ぼすかもしれない。 ずっとプラネテューヌで過ごしていたコンパにとって、この寒さは酷だろう。
アイエフは世話が焼けると思いつつも、ポーチに入れていたカイロを取り出し、コンパの手が悴んでビニール袋が破けない事を想定してビニール袋を先に破き、軽く揉んでからカイロを渡した。
「全くもう、しょうがないわね。 はい、カイロ」
「あ、ありがとです。 はぅあ……暖かいですぅ……」
コンパは差し出されたカイロを礼を言って受け取ると、既に熱を発し始めているカイロを両手で掴み、悴んで動きの鈍い指をカイロに軽く擦りつつ、手から伝わる暖かさを喜ぶように、ほわぁと笑った。 そんなコンパの挙動を見ていたアイエフだが、他の人も寒がっているかもしれない事に気付き、ポーチにまだある使い捨てカイロを取り出し振り返って聞いた。
「あ、そうだ。 ネプ子も使う?」
と言い、アイエフが振り返った先にネプテューヌはいなかった。 さっきまで確かに真後ろにいた筈なのだが、アイエフは不思議に思い辺りを見回すと、すぐにその姿を見つける事が出来た。
「わーい! 雪だー! おおお! すごいよあいちゃん! 息が白くなるよ! それ、ネプテューヌビーム! ハァ〜」
一面真っ白な雪の中を、それこそ犬のように駆け回り、極寒の大地の気温など物ともせず、寧ろその外気の低さを利用して楽しむネプテューヌ。 ある程度除雪された雪道の、雪が積もっている端の方をワザと走り回り、雪を踏み抜いたり掴んだりして遊んでいた。
「……必要ないみたいね」
「あらあら。 元気でよろしいですわ」
コンパと違い、寒いと思うよりも楽しいという感情が優先的に現れているネプテューヌに、アイエフは呆れつつも、ネプテューヌの性格を理解していることと、ネプテューヌが記憶喪失であることは知っている為、初めて見る雪にはしゃぐのも仕方が無いかと納得をした。 ベールはそんな子どものように(実際容姿は子どもなのだが)はしゃぐネプテューヌを微笑ましく思いながらメガネ越しに見つめていた。
ちなみに、今ベールはプラネテューヌで購入した伊達メガネをかけている。 本人曰く変装のためらしいが、ノワールも同じことをしていた事から、案外女神の考える事は似通った所があるのかもしれない。
「あ、せっかくだからー、雪だるま作ろっと」
そんな2人の視線なんて梅雨知らず、ネプテューヌは積もっている雪に両手を突っ込み、雪だるまを作り始めた。 目的地へと進みつつも作ろうとするためか、ある程度固めた雪玉2つを器用に同時に転がしていた。 変身前であり、アホの子と言えど女神は女神。 一般人とはステータスが違うのだ。
そんなマイペースなネプテューヌを途中まで見ていたアイエフだったが、まだベールにカイロを渡していないことに気づき、隣にいるベールにカイロを差し出した。
「そうだ、ベール様もいりますか? カイロ」
「ありがたくいただきますわ。 えい!」
ベールはアイエフに礼を言った直後、物を受け取るにしては不思議な掛け声を言い、両手を差し出したカイロでは無く、アイエフの体に回した。 突然顔面にベールのチャームポイントである胸の感触が伝わり、アイエフは戸惑ってしまう。
「ほえっ!? な、何抱きついているんですかベール様!?」
「だって、カイロよりあいちゃんの方が暖かそうなんですもの」
恥ずかしそうにし、ベールの拘束から逃れようとアイエフはもがくが、その抵抗すらベールは楽しみつつ、逃がさないように更に強く抱きしめた。 顔に伝わる温かく柔らかい感触が更に強くなり、アイエフの羞恥心と幸福感もそれに伴って増加する。 しかしまあ、嬉しくは思いつつも、ここは公道であり、人通りも多少はある。 アイエフにとって衆目に晒される恥ずかしさの方が強いようであり、アイエフは片手に持つカイロを横からベールへと再び差し出して、拘束を解くように頼む。
「ひ、人前で恥ずかしいから離れてください! カイロあげますから!」
しかし、アイエフのその頼みは聞き入られる事はなく、ベールは差し出されたカイロを受け取ると
「そんなものは適当に胸の谷間にしまって……っと。 やっぱり、あいちゃんの方が暖かいですわ……」
「ひゃうぅ……ベール様ぁ……」
頼みの綱であるカイロはベールの胸の中に封じられてしまい、更にベールはアイエフの体温を更に感じるためか、自分の頭をアイエフの頭に軽く乗せ、アイエフの髪をいたわるように優しく撫でた。 ここまでされてしまうと、アイエフはこれまでのベールによって与えられたダメージも含めて限界を迎え、ついに幸せそうな声を出してベールのスキンシップを無抵抗で受け入れてしまう。
「ベールさんとあいちゃんが幸せそうでなによりです」
それを見せられているコンパと言えば、割と素でこんなことを言っていた。 コンパちゃんは純粋なのである。
「うーんしょっと。 よし、雪だるまかんせーい! 名前はどうしよっかな〜……よし、雪だるマンって名前にしよっと。 おーい! こんぱー! あいちゃーん! ベール!」
そしてベールとアイエフの百合百合シーンを一瞬目に入れつつも、プラネテューヌでも散々似たようなシーンを見せつけられたネプテューヌは、身につけたスルースキルを発揮して雪だるま作りに専念し、完成させていた。 デフォルメ的な雪だるまではあるが、その雪だるまを見て欲しいが為に、公道を歩いているコンパたちを呼んだ。
「わたしの初雪だるま作品完成したよー! 見て見てー!」
「シンプルで、素敵な雪だるまさんですぅ」
「でしょでしょー? 名前は、雪だるマン! あいちゃんとベールも、そこでピンクい空気出してないで、わたしの雪だるま見てよー」
不満気に言うネプテューヌだが、抱き合っているベールとアイエフから返事は返ってこなかった。
「……え、えへへ……」
「顔を幸せそうに綻ばせているあいちゃんも、可愛いですわね」
「ありゃりゃ、あれは完全に悩殺されているね……」
代わりに返ってきたのはアイエフの幸せそうな声と、ベールの和むような声だった。 少し離れたネプテューヌのいる位置からでもアイエフの目がハートマークに変わっていると言われても不思議に思わない程、顔を幸せそうに緩めている事が分かった。
「……?」
そんな時、コンパの耳に何か機械特有のサイレンのような音が耳に入り、その音が聞こえてきた方向へと振り返った。 視線を向けたのは自分たちの進行方向。 その視線の先に特に大きく映るものは無かったが、コンパは耳に入ってきた音が小さかったことから遠方から何かが来ている事は分かっていたので、片手を額に当てて目を凝らした。
「……あれは……ラステイションの、ロボットですか?」
視線の先にいたロボットに、コンパは見覚えがあった。 それはラステイションでアヴニールの工場に閉じ込められた時に襲いかかってきたロボットとよく似ていたのだ。 そのロボットたちは相当速いスピードで進んでいるのか、視認出来る大きさもドンドン大きくなっていった。
「ん? こんぱーどしたの? 地平線でも見つめているの?」
ネプテューヌはコンパが何か見つめている事に気づき、質問した。 コンパは振り返り、指差しながら答える。
「違うです。 向こう側から、ロボットが来てるです」
「あー、さっきから聞こえるサイレンはそれかー。 全く、何事ー?」
ネプテューヌは振り返り、コンパの指差す方向へと視線を向ける。 その時点でかなりこちら側に来ていたようであり、サイレンの音もハッキリと聞こえていた。
視界に映ったロボットの数は合計で10機以上であり、そのロボットたちは人身事故を考慮してか、道路のど真ん中では無く端の方をそこそこのスピードで進んでいた。 まるで緊急事態が発生し、そこに急いで駆けつけているようにネプテューヌたちには見えた。 その必死の形相のように見えるロボットたちは、道の端に寄せられた積もった雪などものともせず、次々とその機体で体当たりをして雪を崩していく。
そして、そのロボットたちの進む道には、先ほどネプテューヌが作った雪だるまがあり、当然それもロボットたちは積もった雪と判断する訳で
グシャ、バコッ、ドカッと音を立て、雪だるまを粉砕して道を作り、ネプテューヌたちの前を通り過ぎていった。
「……」
「……」
沈黙するネプテューヌとコンパ。 辺りに残されているのはドップラー効果により先ほどまで聞いていた音と少し違う音のするサイレンと、無残に破壊されたネプテューヌ作の雪だるまだけだった。
やがて喧しいサイレンの音が聞こえなくなった頃、黙りこくっていた一同はゆっくりと口を開け、各々の言葉を口にする。
「……わ、わたしの初の雪だるま作品の雪だるマンがぁぁぁぁああああ!!?!」
「お、落ち着くですねぷねぷ! 気持ちは分かるですけど落ち着くですぅ!」
「……なるほど、あれがあいちゃんの言っていた、ルウィーの街中に配備されているロボットですか」
「はい、そうです……話には聞いていたんですけど、まさか本当にアヴニール製のロボットだったとは……」
「どういう事ですかあいちゃん?」
通り過ぎていったロボットたちを見て、情報の再確認をしたと同時に、確証を得たアイエフの言葉にベールが質問をした。 その言葉に対しアイエフは1度ベールから離れる。 ベールは名残惜しそうではあったが、空気を読んでその思いを封じた。
「ううぅ……最早原型すら留めていないよ……何で2頭身分律儀に壊していくのさ……」
「ねぷねぷ、わたしも雪だるマンさんのお墓作るの手伝うです……」
何かネプテューヌとコンパのテンションが低いが、アイエフとベールは気にしないことにした。
アイエフは懐から携帯を取り出し、写真をベールに見せながら説明をする。
「実は、ルウィーにいる仲間に街中に配備されているロボットの出処を聞いたんですけど、全て同じ会社のロボットが使われているらしいんです」
「それがアヴニール、と言う訳ですか……」
ベールはアヴニールの事をプラネテューヌにいる間に教えられていた。 それまでアヴニールの事をラステイションの大企業程度の認識しか持っていなかったベールは、アイエフたちからアヴニールの実態を聞かされて、嫌悪感を抱いていた。 ベールとしても、アヴニールの卑怯ななやり方に対して怒りを感じているのだ。ともかく、ベールはアヴニールの実態を知っているので、アイエフの言わんとしていることも分かっていた。
「……つまり、今回のルウィーの女神であるブ……ホワイトハートの乱心には」
「はい。 アヴニールが裏で絡んでいる可能性があります」
その言葉を聞き、いつになく真面目な顔をするベール。 それはベールがホワイトハートの正体が誰なのか、このパーティの中で唯一分かっているからこそなのだろう。
「ますます話がきな臭くなってきましたわね……ルウィー教会に急ぎましょう」
「そうですね、ベール様。 ネプ子! コンパ! 早く行くわよ!」
アイエフはベールと共に今回のルウィーでの案件は、いつもの事だが少し面倒な事件であると理解し、イツキやブランの2人の事も気がかりであるため、急いでルウィー教会に行くためにもネプテューヌとコンパに声を掛けた。
「うぅ、雪だるマン……わたしが不甲斐ないばかりに……ごめんね……」
「ねぷねぷ……わたしも雪だるま作るの手伝うですから、落ち込まないで欲しいです」
「ありがとうこんぱ……でも、それでもわたしの初雪だるま作品の雪だるマンはもう帰ってこないんだよ……」
しかし声をかけられた事に気づかない位に意気消沈しているネプテューヌとコンパ。 勿論そうなったのは雪だるまが無残にも粉砕されたからなのだが、アイエフはベールに先ほどまで抱きつかれていた事から、ギリギリ視界に映ったアヴニール製の警備ロボットしか見ていないため、事態をよく飲み込めていない。
「……何でそんなテンション下がっているのよ2人とも?」
「あいちゃん……ねぷねぷの作った雪だるまが、さっきのロボットに壊されたですぅ……」
「雪だるま? そんなのは今度にして、今はルウィー教会に急ぐわよ」
「……うぅ……雪だるマン……」
「……はぁ、仕方ないわね。 今度私も雪だるま作るの手伝うから、早くルウィー教会に行きましょう」
ネプテューヌの落ち込みように流石に可哀想だと思ったのか、アイエフは一緒に雪だるまを作ることを約束した。 するとあれ程沈んでいたネプテューヌは目を輝かせ、飛び上がる。
「ホント!? やった! あいちゃんと初の共同作業だ!」
「ちょ、こらバカネプ子! 紛らわしい言い方するのはやめなさい!」
「あいちゃんと共同作業ですって!? まさか、あいちゃんはわたくしを見捨ててしまったのですか!?」
「ち、違いますベール様! これはネプ子が勝手に言っているのであって、決して共同作業とかそんなんじゃ無いんです!」
ネプテューヌの爆弾発言により、シリアスだった雰囲気は一転してコミカルな雰囲気に変わり、ぎゃあぎゃあと騒がしくなる。 これが後に『シリアスブレイカー』の異名をつけられるネプテューヌの実力なのである。
「みなさんが仲良しで、ちょっと羨ましいです」
割と昼ドラのようなドロドロとした関係が垣間見える気がするが、そんな光景を見ても仲良しと判断するコンパちゃんは純粋なのである。 大事なことなので2回言いました。
◇
話が変な方向に変わったネプテューヌたち一行だったが、アイエフはネプテューヌにハリセンとナスで制裁を与え、何とかベールに弁明した後にルウィー教会へと歩を進め、目的地へとたどり着き、現在教会の扉の前に立っている。
「さて、ルウィー教会にたどり着きましたけど……これからどうしましょうか?」
「? どうするも何も、これからルウィー教会に突入して、お兄ちゃんとブランと女神様に会うんでしょ?」
ベールの問いかけに対し、疑問を浮かべるネプテューヌ。 ネプテューヌは今にも教会の扉に手をかけようとしていたが、ベールはそれを止めて続ける。
「すみません、言葉が悪かったですわね。 わたくしが言いたいのは、もしも現在のルウィーの状態にアヴニールが関与しているなら、このルウィー教会は敵地と言う事になりますわ。 もしそうであるなら、慎重に対応しないといけませんわ」
このベールの意見に気づかされたのか、アイエフは少し思案してから言う。
「……確かに、あの時はその場の勢いでルウィーに行くことを決めちゃいましたから、こう言う時の対処法を考えていませんでしたね……まだイツキとブランの立ち位置も分かりませんし」
「でも、具体的にはどうするですか?」
「そうね……とりあえず、わたしたちの名前は伏せるようにしましょ。 アヴニール側には多分、わたしたちの事は知られているだろうし、ここは名前を知られていないベール様に代表をしてもらいましょう。 お願いします、ベール様」
「あいちゃんの頼みなら、喜んで引き受けますわ」
「ありがとうございます、ベール様。 ネプ子、そう言う訳だから、教会の中に入ったらくれぐれも喋らないでね。 間違っても、名を名乗ったり、イツキやブランの名を上げるなんて事は───」
ベールの承諾を得たことにより、話は纏まったので、アイエフはこの中で最も注意しなくてはならないネプテューヌに呼びかけたのだが
「たのもー! ルウィーの女神様とお兄ちゃんとブランに会いに来ましたー!」
時すでに遅し。 ネプテューヌは教会の扉を思いっきり開けて、元気良く挨拶をかましていた。 ネプテューヌの能天気すぎる行動に3人は絶句しピシリと固まる。
「……えーっと……」
そしてそれはたまたま教会の入り口の近くにいた、メイド服を着た女性も、ネプテューヌの突然の来訪と挨拶に驚いていた。
「……言ったそばからアンタは何やってんのよバカネプ子ォォオ!!」
「オボロッ!!?」
沈黙の中、真っ先に復帰をしたアイエフはハリセンでネプテューヌに強烈なツッコミを入れた。 しかし、既に来訪者としての目的をあっさりと言ってしまった後では無意味であり、メイド服を着た少女は、おずおずとネプテューヌたちに問う。
「……えー、大変失礼なのですが、あなた方はどちら様でしょうか?」
未だに復帰し切れていないのか、ぎこちない笑みを浮かべながら聞く少女に、ネプテューヌは痛がりつつもさらっと答える。
「痛ててて……あ、わたしはネプテューヌだよ。 よろしクドボッ!?!」
ことごとくアイエフたちの方針をスルーし、名乗るなと言った名前もあっさりと言ってしまったネプテューヌに対し、アイエフのハリセンが再び弧を描き、ネプテューヌに制裁を加えた。 頭を抑えるネプテューヌにアイエフは肩に手を回し、ヒソヒソと話す。
(ネプ子ォォオ! アンタはもう喋るんじゃ無いわ! 口にチャックして壁のシミでも数えていなさい! と言うかもう壁と同化しなさい!)
(壁と同化!? む、無理だよあいちゃん! そもそも何も喋らないなんて、そんなのわたしのキャラが成り立たな──)
(出来ないなら物理的にアンタの口をチャックして、物理的に壁のシミにしてあげるわ)
(ワオ! イッツベリィバイオレンス! )
アイエフの随分と恐ろしいな脅しをされるネプテューヌ。 しかし既にネプテューヌの名を目の前にいる女性が聞き逃す訳でも無く、驚くように目を少し見開く。
「……ネプテューヌさん……? 何故、ここに……」
「? ねぷねぷの事を知っているですか?」
後半の言葉は聞こえなかったが、コンパには女性のその反応が、ネプテューヌを知っているものに見え、思わず聞き返してしまった。
「い、いえ! ただ名前を聞いた事があっただけですので、気にしないでください!」
「おー、まさかルウィーにまで知れ渡っているなんて、わたしってもしかしなくても有めイナバァ!?」
「はーい、ちょーっと静かにしていようねー」
聞き返された側である女性は何やら少し慌てふためくようにしてまくし立てるように言った言葉を、ネプテューヌは何の疑いもせずに返答をし、アイエフの容赦ないハリセンの一撃を加えられて撃沈された。 これにより慌てふためいていた女性の態度をその瞬間だけは怪しまれる事は無かった。
「そ、そう言えばお茶を出していませんでしたね。 外は寒かったでしょうし、すぐに紅茶をお持ちしますね」
女性はそう言ってその場でお辞儀をし、そそくさとその場から立ち去っていった。 その女性が教会の廊下の角を曲がり見えなくなった頃、アイエフはネプテューヌの方へと顔を向ける。
「ネプ子! 毎回言っているけど、人の話を聞かずに勝手に動くのはやめてちょうだい! せっかく立てた道筋とかを壊すし、皆の迷惑になりかねないわ!」
「あー、あいちゃ〜ん……。 説教ならあまり長くはして欲しくないんだけど……」
「黙って聞く!」
「うー……」
その場で正座をさせられ、アイエフのありがたい説教を受けさせられているネプテューヌ。 本人は殆ど聞き流しているようであり、あまり効果は無さそうだった。
「……このパーティ編成、本当に大丈夫なんでしょうか……?」
「……まあ、ねぷねぷですのでしょうがないです」
そんな様子のネプテューヌたちに不安を感じ、珍しくネガティブな呟きをつぶやくベールに、コンパは苦笑いしつつそう答えるしか無かった。
◇
私は今、教会の廊下を早足で進んでいます。 教会の他の職員たちに気取られないようにしなくてはいけません。 やや俯きつつ先ほどルウィー教会へと訪れた者たちについてわたしは思案していました。
(……ネプテューヌ……もし、イツキさんの言っていた人物と同一であるなら……)
ここは彼女たちにとって敵地であるのだ。 彼女たちがどんな目的でここに来たのかはハッキリとは分からないですが、イツキさんやブラン様に用があるのでしたら、尚更ここは危険です。 でも、私がここで直接彼女たちに忠告をした所で意味は無いし、それどころかスパイであることがばれてしまうかもしれません。
「……急いで、連絡をしないと……!」
私は気づけば駆け足になり、彼と連絡を取るために自室へと急いだのでした。
テストが近いので、来週は多分更新できません……申し訳ない。