超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第55話 誰がために勇気を

ネプテューヌたちとマジェコンヌの戦闘が一転し、戦況が完全にマジェコンヌの方へと向いている中、茂みからその様子を見ている人物がいた。

 

「(´・ω・`)あわわわわ! ベール様たちがピンチなの」

 

それは先ほどまでマジェコンヌを足止めしていた、らんらんだった。 既に主人であるベールの命令は真っ当し、安全な場所に逃げるように言われたが、心配で近くの茂みに隠れて様子を見ていたのだ。

 

しかし、ベールたちのピンチに、自分がこの場で何か出来るとは、らんらんには思えなかった。

 

「(´・ω・`)はやく助けを呼びにいかなくちゃなの」

 

だからこそ、らんらんは身を翻し、街へと向かおうとした。 逃げるためではない、助けを呼ぶためだと言いか聞かせて。 ここで自分があのマジェコンヌに立ち向かった所で何になる? 軽くあしらわれてお終いだ。

 

「(´・ω・`)……」

 

しかし、らんらんは街へと向けた足を、動かすことが出来なかった。 助けを求めるためにと言い聞かせて動かそうとしたその足は、嘘をついている自分を見抜いているかのようにピクリとも動いてくれなかった。

 

今のらんらんの視界に、何も映っていない。 代わりに頭の中にリフレインしていたのは、ベールとの思い出だった。

 

 

 

 

それはらんらんがラステイションからにげだした時のことだ。

 

『(´・ω・`)ラステイション、糞すぎ。 はまじ』

 

『(´・ω・`)あんな国からにげてきたけど、らんらんはこれからどうすればいいの?』

 

『(´;ω;`)お腹減ったよぉ……』

 

『あらあら、可愛い子豚さんがまたいらしたのですね』

 

『(´・ω・`)……だれ?』

 

『通りすがりの女神ですわ。 お腹が空いてるみたいですし、一緒にお食事はいかがです?』

 

『(´;ω;`)ブワァ』

 

 

 

またある時……

 

 

『さあ、今夜は寝かせませんわよ』

 

『(´・ω・`)今夜もネトゲですか?』

 

『えぇ、緊急クエストがあるんですの』

 

『(´・ω・`)ガンナーで行ってもいい?』

 

『そんな職業で緊急クエに来る子は出荷ですわよー』

 

『(´・ω・`)そんなー』

 

 

そんな毎日をベールと共に過ごしていた。 しかし、ある日ベールは自室でらんらんに女神の力を失ったことを打ち明けた。

 

 

『(´・ω・`)え、女神の力が……?』

 

『えぇ……何者かに奪われてしまって……』

 

『(´・ω・`)そんな重大なこと、らんらんに話しても大丈夫なの?』

 

『何を言っていますの。 あなただからこそ、話したのですわ』

 

『(´・ω・`)ベール様……』

 

 

 

 

 

らんらんの頭の中で思い返された思い出たちは、今も色褪せていない。 行き場の無かった自分を拾ってくれて、一緒にゲームをしたりして過ごし、果てには国民や教会の人たちには言えなかったことを、自分だけには話してくれた。 身寄りも居場所も無かった自分に、そんな事を話してくれたベールは、自分を信頼していると言うことなのだろう。

 

「(´・ω・`)……ゲームには厳しかったけど、優しかったなぁ」

 

もうらんらんに、迷いは無かった。 自分を信頼してくれた主人に応えるために、街へと向けられていた足はもう一度方向を逆転し、マジェコンヌの方へと向けられた。

 

「(´・ω・`)今度は、らんらんが助けなきゃ!」

 

方向転換された足は、さっきまで固まっていたのが嘘のように軽い気がした。 策なんて無い。 でも、ここで逃げ出すのよりは100倍マシだ。 らんらんは駆け出そうとした。

 

だが、駆け出そうとしたらんらんの肩を掴む手があった。 当然らんらんは驚き足を止め、振り返った。

 

「(´・ω・`)! だれ?」

 

振り返った視線の先にいた人物は……

 

 

 

 

 

先ほどまで押していたのが嘘であったかのように形勢を逆転され、ネプテューヌたちは地面に倒れ伏せ、倒れ伏せているネプテューヌたちのその中心には嗜虐心が満たされていくのを楽しんでいるマジェコンヌがいた。

 

「さすが、わたくしの力なだけはありますわね……」

 

「まさか、この姿で圧倒されるなんて……!」

 

「なん……なのよ……、こんなのって……!」

 

「こんなのチートですぅ。 ルール違反ですぅ……」

 

「……クッ!」

 

各々がマジェコンヌの行使している力に対して畏怖し、弱音を吐いている者が殆どであり、ブランでさえ自分の無力さに歯噛みしていた。 それは仮にこの場で女神化をしたとしても、この状況を好転させられるかどうか分からないと言うことを含めての事だった。

 

今ブランは女神化をしてはいない状態だが、女神化をすれば女神化前とは比較にならない程の力を得る。 と言うのが普通だ。 だが今ルウィーの国民の信仰心(シェア)はマジェコンヌの手によって下降している。 それは即ち、ブランの女神化後の力の源が減衰していると言う事だ。

 

そして現在マジェコンヌが行使しているグリーンハートの力の源となっているリーンボックスの信仰心(シェア)は、ベールが自室から出ることが無かったことにより多少は落ちているかもしれないが、ほぼ奪われる前の状態を保っている。 純粋な女神の力だけでも、差が生まれてしまっているのは歴然だと、ブランの冷静な部分はそう告げていた。

 

マジェコンヌは倒れ伏せているネプテューヌたちを見渡し、それなら高笑いをした。 それはそれは馬鹿笑いのような笑い方だった。

 

「ハーッハッハッハ! 女神共がこの私に跪いているぞ! これぞ夢にまで見た光景だ! 無様な姿だなぁそうだろ!? ハーッハッハッ!」

 

下品に笑うマジェコンヌに、ベールは悔しそうにマジェコンヌを睨む。 マジェコンヌの姿は今、グリーンハートの姿をしている。 それはつまり、ベールが女神化した姿であるということだ。 その自分の女神化した姿であるグリーンハートが、目の前でその美貌に似合わない下品な笑い方をしているのは、ベールにとっては何よりも屈辱だった。

 

マジェコンヌはそのベールの悔し気な視線に気付いたが、その視線に込められている意味を読み取ったマジェコンヌは、かえって下品な笑みを深めるように笑った。

 

「おら!」

 

「キャッ!」

 

そしてマジェコンヌは何とか立ち上がろうとし、立ち膝となっていたネプテューヌに詰め寄り、槍の刃ではなく柄の部分で横に叩きつけた。 防御が間に合わず、ネプテューヌは地面を転がされる。

 

「ネプテューヌ!」

 

「お前もだよ!」

 

「! きゃあ!」

 

他人の心配をしている場合かと言いたげにマジェコンヌは倒れ伏せるベールの目の前に現れ、腹に蹴りを入れた。 ベールは空中に投げ出され、地面へと背中を打ち視界がグラついてしまう。

 

「う、……ううっ……」

 

「ベール様!」

 

「他に邪魔者もいないようだしな……丁度いい。 貴様らはジワジワとなぶり殺しにしてやる」

 

マジェコンヌは地面へと倒れこんでいるネプテューヌたちを見下しながらそう言った。 マジェコンヌはネプテューヌたちを圧倒している自身の力を認識し、その力を目の当たりにしたネプテューヌたちも、今のマジェコンヌに遊ばれていると言う事は分かっていた。

 

「……誰が、テメェなんかに……やられるかよ……!」

 

そんな中でブランはマジェコンヌにそう言い返し、ハンマーを杖に片膝の状態から立ち上がっていた。 少し下がっている頭から何とか目だけ動かし、マジェコンヌを睨む。

 

「……ほぉ、まだそんな口を叩く余裕があるのか」

 

ブランの視線とその言葉に、マジェコンヌは怒ることもなく、笑う事も無かった。 ただ、必死に立ち上がり、ハンマーを構えたブランとの距離を一気に詰め寄り、ブランが構えていたハンマーの頭に槍を突き入れた。

 

「ハア!」

 

「! ウッ!」

 

その重い衝撃に耐えられる筈も無く、甲高い金属音が辺りに響いた後、ブランのハンマーは空中へアーチを描きながらドスっと重い音を立てて地面へと落ちた。

 

「オラ!」

 

「ウグゥッ!!」

 

マジェコンヌはその隙だらけのブランの腹に膝蹴りを間髪入れずにお見舞いする。 体がくの字に折れ曲がる程の膝蹴りを食らい、無理矢理息を吐かされたブランは立っていられず、自身の腹を抑えながらうずくまるように膝を折った。

 

「……ううっ……!」

 

ブランは痛む腹を抑え、地面にうずくまりながらも、無理矢理顔を横にあげ、マジェコンヌを尚も睨んだ。 屈することは、ブランのプライドが許さなかった。 それに対してマジェコンヌはあからさまに舌打ちをする。

 

「ちっ、随分と反抗的な目つきだ。 貴様のせいで余計な事まで思い出してしまいそうだ……」

 

マジェコンヌの脳裏に(よぎ)ったのは、ルウィーでホワイトハートの力を手に入れた時の事だった。 自分の前に立ちはだかり、奪い取った女神の力を行使し圧倒しても、屈することをせず、それどころか逆に圧倒され、屈辱を味わされた元凶の青年。 その時の青年の睨む視線は、今地面にうずくまりながらも自分を睨む少女と似通っていた。 マジェコンヌにとってはその時の屈辱をは思い出すだけでも苛立ってしまう。

 

唐突に、マジェコンヌは何か思いついたような顔をすると、すぐに表情を残虐な笑みへと変えた。 まるで今思いついた物が名案とばかりに、早速試そうとばかりに。

 

「……そういえば、貴様は私をここで叩きのめすだとか言っていたな。 それが自分のけじめだとか、そんなくだらないことも言っていた」

 

言うや否や、マジェコンヌはうずくまるブランの腰に足を踏みつけた。 うずくまっていた体勢は崩され、ブランは苦悶の声を上げ地面へとうつ伏せにされる。 マジェコンヌはそれだけでは飽き足らず、ブランを踏みつけた足を上げては再び踏みつけ、また上げては踏みつけた。

 

「うっ! あうぅっ!」

 

「ほらほらどうした!! 私をここで倒すんじゃなかったのか? あぁ!?」

 

何度も、何度も倒れ伏せて抵抗出来ないブランを踏みつけ、蹴りつける。 苦しげにブランが声を上げるたびに、マジェコンヌは嗜虐的な笑みを深め、更にブランを嬲る。

 

その光景を、ネプテューヌたちは歯噛みして見ていた。 今すぐにでも、あそこに割って入りブランを助けたかった。 だが、マジェコンヌによって与えられたダメージはネプテューヌたちが思っていたよりも深刻であり、アイエフとコンパは未だに地面へと倒れこんでいる。 女神であるネプテューヌとベールも、何とか片膝で体勢を保つので限界だった。 ブランを助けることが出来ず、笑いながらブランを嬲るマジェコンヌを止めることが出来ない自分の無力さを、誰もが悔しがっていた。

 

その時だった。

 

「やめろぉぉおおお!」

 

力強い声が、マジェコンヌの方へと向けられ発せられていた。 その声にマジェコンヌはブランを蹴るのを辞め、声が発せられた方へと視線を向ける。 ネプテューヌたちやブランも、そちらに視線を向けていた。

 

豚の仮面をつけ、咆哮を上げながらマジェコンヌに向かって突進をするその人物に、真っ先に声を上げたのはその人物の主人のベールであった。

 

「らんらん!?」

 

一瞬、マジェコンヌはネプテューヌたち以外の人物の乱入に驚いた様子だったがその表情はすぐに消え、つまらなそうな顔をした。

 

「……貴様、まだいたのか」

 

先ほどまでしつこく絡み、ルウィーへと渡ろうとするのを阻止していたらんらんに対して、既にマジェコンヌは興味を失くしていた。 確かに足止めを食らった時は鬱陶しいと感じて苛立ってはいたが、ネプテューヌたちを地面へと這いつくばらせ、優越感に浸っている今に至ってはどうでもいいことだった。

 

「(´・ω・`)うおぉぉおおおおおお!!」

 

表情を殆ど崩さないマジェコンヌを見ても、らんらんは突進するスピードを緩めることは無かった。 だが、その様子は破れかぶれの悪あがきにしか見えなかった。

 

「来てはダメですらんらん! 逃げてください!」

 

らんらんの無謀なその姿を見て、ベールは必死にらんらんに呼びかけた。 自分たちで敵わない相手に、敵う筈が無い。 それは、らんらん自身も分かっていた。 分かっていて、らんらんは止まることなくマジェコンヌへと突進をする。

 

「ふんっ、何かと思えば馬鹿みたいに突っ込んでくるだけじゃないか……いや、豚だったか」

 

目の前まで迫ってきたらんらんに対して、つまらなそうに呟き、足を動かしらんらんの突進の軌道上に合わせて、軽く蹴りを入れた。

 

「(´・ω・`)げふっ……」

 

それだけでらんらんは呻き声を上げて後方へと吹き飛んでいった。 ネプテューヌたちのように、戦闘の経験が皆無であるらんらんに、耐える術など無かった。 吹き飛ばされたらんらんは地面へと体を引きずらるように減速し、地面へと倒れこんだ。

 

「らんらん!」

 

ベールは倒れこんだらんらんに声をかけるが、応答は無い。 死んではいないだろうが、暫く身動きは出来ないだろうとマジェコンヌは判断し、すぐに吹き飛ばされたらんらんから視線を外した。

 

「ちっ……気が削がれた。 ああ言う雑魚の相手程萎えるものは無いな……」

 

優越感に浸り、気分は最高であったマジェコンヌだったが、その辺のモンスターよりも遥かに弱い雑魚の蛮勇のせいで台無しだ、と言ったような心境だった。 もう一度優越感に浸るためにも、ネプテューヌたちや足元にいるその仲間を嬲り、気を取り直そうとマジェコンヌは振り返った。

 

「(´・ω・`)……」

 

「……」

 

視線が会うと同時に、無言の時間が訪れる。 思考の停止とでも言うべきか、とにかくマジェコンヌとその視線があった人物は暫く無言であった。

 

おかしい。 何かがおかしい。 しかし何がおかしいか考えるための思考は目の前のおかしな現象によって停止させられ、何から言えば良いのか分からない。 と言ったような心境のマジェコンヌ。

 

長いようで短い時間が過ぎ、この状況がおかしいと気づいたマジェコンヌは驚愕し、目の前にいる存在に問いた。

 

「……ハッ! き、貴様何故そこにいる!?」

 

指を指された人物は、その豚の仮面のせいで読めない表情のまま、左手を上げてサムズアップすると、どこか誇らしげに言った。

 

「(´・ω・`)b どうも、影の薄いらんらんです」

 

「そんな事を聞いているのでは無い! 確かに貴様は私に蹴られ、吹き飛ばされたではないか!」

 

らんらんの余裕めいた態度をふざけたものと扱い、怒り気味に問うが、それに対するらんらんの答える声に、もう先ほどまでマジェコンヌに怒鳴られたて体を震わせて怯える様子は無かった。

 

「(´・ω・`)あれは残像よー」

 

人差し指を2、3回振り答えたらんらんの言葉を確かめるように、マジェコンヌはその場で振り向いた。 視線の先には先ほど蹴り飛ばし、地面に倒れ伏せたらんらんが居た筈だったが、その場所は愚か、視界に倒れ伏せた人物は見当たらなかった。

 

「ちっ! 雑魚の分際で、私の手を煩わすんじゃない!」

 

舌打ちし、マジェコンヌはらんらんに詰め寄り槍を構えて、らんらんの胸に狙いを定めて突き入れた。 確実な殺意を含んだその一撃を受けたらんらんは、槍を受けた瞬間に形を崩し、蜃気楼が崩れて空気に溶けるように消えた。

 

槍から伝わってこなかった感触と、目の前で崩れ去ったらんらんの形を成していた蜃気楼のようなものにマジェコンヌは一瞬呆気に取られた。

 

「(´・ω・`)それも残像よー」

 

背後からの声を聞き、呆気に取られていたマジェコンヌはすぐに立ち直り、振り返るや否や槍をマジェコンヌへと力強く振るった。

 

「クソがぁ! ふざけるな!」

 

罵り、顔を歪めながら手に持つ槍を横に薙ぐ。 槍の先はらんらんの体を半分に分断するが、結果はさっきと同じでらんらんの形をした残像は消える。 槍に伝わるのは空を切るように、まるで手応えが無かった。

 

「このっ、雑魚が、調子に乗りやがってぇ……!」

 

マジェコンヌの顔が怒りに染まる。 美しいグリーンハートの姿をしているマジェコンヌのその表情は、既に失われていた。 怒りのままにマジェコンヌは辺りを身回そうとする。 視界に入れ次第、らんらんを殺すということしか今のマジェコンヌには無かった。

 

「……なっ!」

 

しかし辺りを見回す過程で振り返った瞬間、マジェコンヌは驚愕した。

 

「(´・ω・`)これも残像よー」

 

「(´・ω・`)あれも残像よー」

 

「(´・ω・`)あなたも残像よー」

 

お互いに指を指し合いながら言うらんらん。 その数は1人では無い。 一目では数え切れないほどの豚の仮面をした人物。 即ち、らんらんたちが居た。

 

「な、何だこれは……一体、何が……」

 

余りの出来事に、さしものマジェコンヌも戸惑うように呟く。 しかし、それに追い打ちをかけるようにマジェコンヌの背後からまた声が聞こえてきた。

 

「(´・ω・`)らんらんはらんらんだよー」

 

「(´・ω・`)やんやん」

 

「(´・ω・`)出荷よー」

 

「(´・ω・`)らんらん豚だからよく分かんない」

 

声のした方へと視線を向ければ、そこにも多くのらんらんが、ガヤガヤと話し合いをしたり何かつぶやいていたりした。

 

「な、な……!」

 

驚きの余りマジェコンヌは絶句するような声しか出せずにいた。 目の錯覚だと考え、何度瞼をこすっても、辺りを見回しても、らんらんの姿が消えることは無い。 それどころか少し目を離した隙にらんらんは視界が埋まる程までに増えていた。

 

「く……くそっ! くそっ! 消えろ! 死ね! 消えてなくなれぇ!!」

 

マジェコンヌは叫び、方向も照準も滅茶苦茶に攻撃をした。 だが、自ら槍を振るっても、風の纏った槍を打ち出しても、風そのものを放っても、その攻撃があたったらんらんは脆く形を崩すだけであり、そうしている間にもらんらんはどんどん増殖を繰り返す。 そして増殖したらんらんたちはマジェコンヌを取り囲むようにし、次々に言葉を口にする。

 

 

「(´・ω・`)らんらんは「かよー「らんら「やんやん「そんなー「らんらんは「らんらんるー「おほー「やんや「空気ならんら「出荷よー「わかんない「らんらん「そんなー「なことをするあなたは出荷「やんや「かよー「らんらん「かんかん「クソす「やんや「らんらん「出荷よー「そんなー「補填はよ「ベール様ー「らんらん「るー「運営ェ……「やんやん「らんらん豚だから「おほー「すぎは「はまじ「鯖落ち「らんら「やんや「よくわかんな「らんら「んなー「んらんら「よー「ブワァ「運営対「鯖落ち補填はよ「はまじ「かんない「らんら「らんらん「らんはんは「らんらんは「らんらんは「らんらんだよー」

 

 

 

 

「なん……なんだ……何なんだお前らはぁ!!?」

 

豚の仮面をした人物が視界を埋め尽くし、各々がザワザワと自由に同じトーンで、同じような言葉を発しているその光景は、最早恐怖としか言えず、さしものマジェコンヌもらんらんに問いつつも動揺を隠せずにいた。 マジェコンヌの問いが放たれた途端、口々に何か呟いたいたらんらんたちは喋るのを一斉にやめ、シンと静まり返った。

 

「(´・ω・`)……らんらんは」

 

どのらんらんが言ったのかも分からないその言葉がマジェコンヌの耳に入ったと同時に、その場にいたらんらんたちが一斉に首をグリンと動かした。 その振り向いたらんらんたちの視線の先に集まるのは、あまりの出来事に一歩後ろへと足を引いているマジェコンヌ。 そして、振り向くと同時に全てのらんらんが、同じトーンで、同じ口の動かし方で、同時に言葉を口にする。

 

 

「「「「(´・ω・`)らんらんは、らんらんだよー」」」」

 

 

その言葉を発し終えた時、あるいは発している最中にらんらんたちは飛び上がり、取り囲んでいたマジェコンヌを目標に迫っていた。 豚の仮面をつけた人物が視界が埋まる程の数で上から迫ってくる光景は、最早恐怖としか言えなかった。

 

「う、うぉぉぉおおおお!!!?!」

 

マジェコンヌでさてその例に当てはまり、上から日光の殆どを遮る程の大多数のらんらんが迫ってきていることに冷静さを保っていられず、来るであろう上からの加重に耐えるべく手を交差し、頭を守るようにして目を閉じてそれに備えた。

 

「…………」

 

口を閉じ、視界も閉ざしているマジェコンヌは暫くその体勢を保っていたが、力を入れて襲い掛からんとするらんらんたちから身を守っていたのだが、いつまでたっても来る筈の重みが訪れない。

 

「……?」

 

マジェコンヌは恐る恐るといった感じで瞼を開き、交差して頭を守っていた腕を下ろした。

 

「なっ……!」

 

視界に入ってきたのは先ほどまで視界を埋め尽くしていたらんらんたちが遮っていた日の光と、朧雲が浮かぶ青い空だけであり、あの豚の仮面を被った人物である大多数のらんらんは影も形も無かった。

 

マジェコンヌはこの状況を理解出来ず、辺りを見回す。 そして見回した先にいた人物にマジェコンヌはまたも驚愕することになった。

 

「なっ……なんだと!?」

 

マジェコンヌの視線が捉える先に居るのは、先ほどまで足元でなぶっていた筈のブランとアイエフが、いつの間にかベールの元にいた。 ブランもアイエフも確かにダメージは蓄積されているようたが、動けない程では無かったようだ。

 

だが、マジェコンヌが驚愕したのはその事ではない。 ブランの隣に立つ槍を構え、厳しい目つきで睨んで来るベールを見て驚愕しているのだ。

 

そのベールの姿を見たマジェコンヌはすぐさま自分の両手を目の前に翳した。 しかし、そこにあったのは見慣れた()()()()の腕だった。

 

そう。 既にマジェコンヌはグリーンハートの力を奪い返されてしまった。 ブランの隣に立つベールが、女神化したグリーンハートの姿である事が、その裏付けだ。

 

結局マジェコンヌが見ていたあのらんらんたちは幻想だったのか、どうして女神の力がいつの間にか奪い返されていたのか、今のマジェコンヌには分からない。

 

だが、

 

「……このっ……雑魚がぁ……!」

 

少なくとも、誰が原因で女神の力を奪い返されたのかは理解出来ていたようであり、その原因たる人物の方へと首を向けた。 先ほど振り返った時には視界に映らなかったらんらんは、初めに蹴り飛ばされた位置から全く変わっておらず、相変わらず地面に倒れ伏せていた。

 

「何も出来ない惰弱のクズが、この私を愚弄するかァ!!!」

 

怒りにコメカミにシワを寄せ、顔を歪めてマジェコンヌは得物の鎌を持ち、マジェコンヌはらんらんへと迫り、殺意のままに鎌を振り上げた。

 

らんらんはそれに気づくが、最初の一撃のダメージが抜け切っておらず、動くことは出来なかった。

 

「死ね!!」

 

マジェコンヌの鎌が、何の容赦もなく振り下ろされた。

 

 

 

 

 

その刹那、らんらんの頭上から金属同士の打ち合う甲高い音が響いた。

 

 

 

 

 

「……なっ!」

 

何度目になるか分からないマジェコンヌの驚愕の声。 倒れ伏せていたらんらんを捉える筈だった鎌の刃を、突然現れた乱入者が受け止めていた。

 

「……違う」

 

そして乱入者は静かに言葉を紡ぎ始めた。 紡ぐ言葉には、確かな怒りが込められていた。

 

「この人は、惰弱なんかじゃない。 口先だけでは出来ないことを、勇気を振り絞って実行した人だ」

 

あろうことか、その人物は左の前腕で鎌の刃を受け止めていた。 それどころか、受け止めた鎌の刃をその左の前腕だけで、少しづつ押し返していた。

 

そして乱入者は右手の掌を握り、作り上げた拳を上にあげ、構えの形を取る。

 

「……他人の力を奪って、そんなふうに人を嘲るような事にしか力を使えないお前の方がーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー本物の惰弱だ!!!」

 

 

 

 

怒りを孕んだ言葉と同時に、右手から放たれたイツキの拳が、マジェコンヌの顔に深く突き刺さった。


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