「……異世界人の伝承?」
それってもう御伽噺とかの扱いなんじゃないのかと思うのだが、そんな不確かな
「ええ。この本、題名が掠れて読めないし、中の方も読めないところは多いけど、書いているところを纏めると、貴方と同じ異世界から来た人間が、確かに
「……来たってとこまで?その先は?」
その質問にブランは、手に持っているその本のある一点、いや、ある一点以降から最後のページまでをイツキに見せた
「この本、ここから先が破かれているの。それも明らかに人為的に、劣化の具合と破られたページの断面からして、最近破られたものよ」
「え、そうなんですか?僕にはよくわからないんですが……」
「伊達に多くの本を読んでいるわけでは無いわ。それくらいの判断はつくわよ」
やはり読書家は違うな。フィナンシェさんが「いや、ブラン様が普段お読みになっているのは大体ライトノベルか二次創作ではありませんか…」という呟きはスルーしよう
「それに、重要なのは破られた時間より、これは人為的に、それも意図的に破られた可能性の方が高いことよ」
ブランさんは破られたページを指差す。確かに破れているページは殆ど同じような切れ目で破られている。劣化の具合から所々が小さく破れているとか、虫食い跡があるとかならまだ分かるのたが、これはまるで人の手でまとめて破りとられたようだった。
「人為的に破られた物としても、その人はどうしてこの本を破ったりしたのでしょうか?」
「……そればっかりは分からないわフィナンシェ。推理をするには証拠があまりにも少なすぎる」
その人物がどんな理由で、この本を破ったのかはわからない。推理はいくらでも出来るが、確証に迫るには証拠が少ない。現時点ではどうしようも無いのもしょうがないだろう
「…まあ、今はこのことはいいわ。とりあえず、必要な情報は読み取ることが出来たから」
「……僕が異世界人であると言う、裏付けですか?」
「ええそうよ。と言っても、元々の劣化が酷いものだし、文章として読み取るのは難しかったわ。でも、断片的にだけど、確かに異世界人がこのゲイムギョウ界に来たという前例はあるのよ……これが創られたおとぎ話では無いという前提が必要だけどね」
「うっ……」
最後の補足に少し呻いてしまう。せっかく自分の立場が確立されたなんて思い上がっていたが、確かにその本が空想ではなく現実であるなんて確証は無い。
「で、今後の私たちの方針としては貴方をこのルウィー教会で保護しようと考えているわ」
この言葉にもグサッと来た。保護とは恐らく名目上であり、きっとそれは……
「……僕を、監視するってことですか?」
「……まあ、直球に言えばそうね」
……まあ、それが普通だよなとは思う。世の中が全て善の心で溢れかえっているような世界なんて古今東西どこを探してもないだろう。善意につけ込む悪意はどこにだってある。
僕のような
そうは分かっていてもなぁ……
「ブラン様……あのもう少し、言い方が……」
僕の落ち込み具合を見かねたのか、フィナンシェさんが僕のフォローをしようとしていた
「……あんまり、こう言うことで嘘はつきたくないの。それに、疑っているのは確かだし」
しかし、ブランさんはあくまで不動の構えを取る。
まだ僕の心にダメージが追加されようとされていたのだが、頬にヒヤッとした、けど温もりを感じられる何かを感じた。
「でもね、貴方を疑うのは貴方を
頬に触れていたのは、優しい微笑みを浮かべていたブランさんの手だった。人肌から伝わる温もりからブランさんの気持ちが伝わって来るような、そんな感覚がした。
そんな感覚も束の間で、頬に触れていた手が離れて行くのを寂しく感じながらもブランさんに、返事をする。
「分かりました。すぐに信用されるように頑張ります!」
「ん、その意気よ。それじゃあ今日の話はお終い。貴方は明日に備えてもう寝なさい」
そう言うとブランさんは立ち上がった。やはり女神様(まだ女神と信じ切った訳では無いが)って多忙なのだろうか?
「それでは私も失礼させていただきます。イツキさんはくれぐれも安静にしていてくださいね」
フィナンシェさんも立ち上がり、ブランさんに続いて行く。
「あ、言い忘れていた」
急に立ち止まってブランさんは向き直った。
「私に対して、そんな固くならなくていいわよ。もっと話しやすいようにリラックスして構わないわ」
「あ、私に対しても敬語は使わなくて結構ですよイツキさん」
優しい二人は僕に気を遣ってくれているのだろう。しかし僕にとって、フィナンシェさんは良いにしても、ブランさんに限っては恩人+女神様である。何だかフランクに接するのには抵抗を覚えてしまう。その旨を伝えるがブランさんは
「敬語使われて気を遣われるのは教会の関係者だけでいいわ。それに、堅苦しいのは嫌いなの」
「……分かりました。ブランさん」
「わかってないじゃない」
「うっ……分かったよブラン………さん」
「……まあ、それでいいわ」
とりあえず、納得はしてくれたブランさんとフィナンシェさんはそう言うと部屋を出て行った。
一人ベッドに取り残された僕はと言うと
(……ふ、ふふふふふふ……安静にしていろと言われて安静にしている健康優良児の男がどこにいると言う!!このイツキさんをなめたらいけません!探索を続行だ!!)
バタンという扉の閉じる音(さっき修道服を着た、恐らくこの教会の職員がさっさと直していた。手際良い辺りブランさんが設備ぶっ壊すのは日常茶飯事なのかもしれない)を確認すると、起き上がろうと寝返りをうった。が、ガチャと言う音が耳に入り固まってしまう。開いた扉の向こう側にはさっき出て行ったブランと目が合った。
「……言っておくけど、言いつけ無視して動き回ったら…」
「……なんでせう?」
「物理的に動けなくするから」
とびっきりの笑顔で言われた。
「……はい」
断念せざるを得なかった。
◇
イツキに釘を指した後、私は自分の部屋に戻り、机の上の大量の書類をそっちのけて、手に持っていた本を机に置いて椅子に座った。
「異世界人か……」
不思議なこともあるのね。まだ彼が異世界人と言う保証は無いけど、こんな出来事がまさか身近で起きるなんて。
イツキ、イツキか。まだ他人行儀なところもあるけれど中々面白そうな人。
これから彼とはどんな時間を過ごすのだろうか?
「何だか、いいアイディアが出そう」
今日は筆が進みそうだ。私は引き出しから書きかけの原稿用紙を取り出すと、万年筆で原稿用紙を埋めていった。
◇
イツキさんですか…
私は自室に戻って執務につきましたが、何と無くさっきまで話をしていた少年のことを考えていました。
「……世の中には不思議なこともあるのですね…」
まさか、彼が異世界人だなんて。まあ、確かにこの雪国であの格好はおかしいですものね。
「……この世界の常識とか、教える必要がありますね」
彼のために教える本を探しはじめるために、私は書庫をおもむくのでした。
◇
ずっと幼い頃は、何かあればすぐに泣いていた。
泣いていれば誰かが気づいて、宥めたり、かまってくれたりしてくれたからだ。
当時どうして泣いてしまうのかは深くは考えていなかった。
今思えば、自己主張だったのかもしれない。
自分は確かに
自分は確かに生きているんだと
叫びたかったのかもしれない
◇
「……」
安静にしていろと言われて、仕方なくベッドで横になっていたイツキなのだが、いつの間にか眠っていたようだ。
何だか夢を見ていた気がするが、ハッキリとその内容を思い出すことは出来ない。
夢と言うのは実はある睡眠の最中に起こることであり、なにも全ての睡眠中に現れることではない。睡眠には二種類の睡眠があり、それぞれレム睡眠とノンレム睡眠と言うものだ。レム睡眠の役割は体の休養、ノンレム睡眠は脳の休養を司っている。夢は体の休養中であり、脳は活動しているレム睡眠中に起こるものだ。ちなみに金縛りというのもこのレム睡眠が原因だったりする。
これで君も賢くなったね!
「って、誰に解説してるの!?君って誰って話だよ!」
夢の内容は何だか割と重要なことであった気がするのだが、思い出せないもどかしさで訳のわからない一人ツッコミを展開する
「と言うか、ヤバイ。暇すぎる……音のない環境ってこんなに辛かったんだ……」
これでは割と振り出しの方の、暇という現状の打破の方法の模索というのに戻ってしまう。そう危惧したイツキはもう一度寝ようと試みるが如何せん、中途半端に寝てしまったため眠気は完全に覚めていた。
かと言って、ベッドを抜け出し歩き回ったりなんてしたらブランに
「うう……娯楽のない世界って…思ったよりも辛い…」
暇をどうとも出来ず、その悲壮からかなのかは分からないが、イツキは枕を手元に持って行き、抱きしめたり上に投げたりしていた
「あ、これ意外に時間潰せるかも〜、あははは〜、そ〜れ〜……結構柔らかいし、高級品なのかな〜?」
そして五分後……
飽きました
「いや、たかが枕で五分も時間潰せたってスゴイと思うよ?ホント……でもさぁ……ハァ……せめて本とかあればなぁ…」
と、枕を抱えたままベッドに再びダイブする。
「…ん?」
枕のあった位置に妙な違和感を感じた。うつ伏せになり、シーツを捲ると数枚の原稿用紙があった。枕の丁度真下の位置にあって気づかなかった。
「…[終焉と新生の輪廻〜魔王と勇者の邂逅録--プロット]?何だこれ?」
原稿用紙の真ん中にデカデカと題名を書かれているそれは、左上がホッチキスで止められていた。
「……することも無いし、ちょっとだけ読んでみようかな」
以下プロットの内容↓
ギョウカイ暦20××年、とても長く、辛い道のりを通り、仲間たちの死を乗り越えながらも、世界の混沌を望み人間達を滅ぼそうとせんとす魔王の元にまでたどり着いた勇者。これまでの経験を、仲間たちの思いを胸に魔王と最後の決戦に挑む。そして、互いの力が拮抗しながらも魔王と勇者の根比べは僅かに勇者が勝利し、勇者がトドメを刺そうと彼と彼の仲間達の決意の詰まった必殺技[
「……あー痛たたたたたたた…」
タイトルから察してはいたイツキだったが、技名が出たあたりで背中にゾワゾワするようなものを感じで閉じた。
「これはヒドイ…本当にヒドイな……親が子のエロ本見つけたときよりもキツイかもなこれ……」
これは恐らく書き手の黒歴史になる、もしくは既に黒歴史とかしている物だろう。
できれば今見たものは忘れた方がいいと僕にも、書き手にも精神面上よろしいと思うのだが、そう思う程忘れにくいのが人間だ。実に融通が利かない。
「……とりあえず、元あった場所に戻すか…」
と呟いたところで、ガチャっという音。
「イツキ、寝ている間暇だろうし、私のお気に入りで良ければ本貸してあ……げ…………………」
ガチャはどうやらゲームオーバーのお知らせのようだ。この反応は間違いなく著作者の反応。
「……………」
「……………」
互いに沈黙するが、先に動いたのはいち早く立ち直り、秘密保持のために制裁を下そうとハンマーを装備した、著作者ブランであった。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
「ええええええ!?そこは読んだのか聞くところじゃないの!?」
「その黒歴史に触れた時点で、テメェは地獄行きだぁぁぁ!!」
「そ、そんな殺生な!?」
ハンマーがイツキの頭にクリーンヒット。見事に気絶をし、明日までの暇を潰せたのでした
チャンチャン♪
……最近地の文安定しないと思う今日この頃