超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第48話 焦燥する思い

ベール先導の元、教会を裏口から抜け出した一同を迎えたの空の色は真っ暗闇の夜空を、微かに三日月が照らしている光景だった。

 

ネプテューヌ達は既に夜を迎えていることに驚いたが、考えてみればパーティーは夕方に行われ、牢屋に閉じ込められてから3時間も経てば、太陽に変わって月が大地を照らす時間だと納得出来た。

 

ベールの説明で、解毒剤の元となる素材を持つモンスターの秘境へ行くには、一目の少ない森を突っ切るしかないと説明した。 女性だけの集まりである中、月の光を遮る森の中を抜けるのは怖いものだろう。 しかし、ベールの説明に反対する者はいなかった。 それほどに、皆の思いは強い。

 

ベールはこの場の全員が、何も言わずに力強く頷く姿を確認し、秘境の入り口まで駆け抜けることを説明し、森の中へと駆けていった。 そのあとにネプテューヌ達も走りだし、ベールを追いかけた。

 

近道と言うのは本当だったようで、走って一直線に行けば大した距離でも無く、すぐにその秘境の入り口までたどり着いていた。

 

この時も、一番最後に追いついたのはコンパであった。 しかし、コンパは息は上がっていたが、いつものように泣き言を言ったりはしなかった。 コンパもまた、イツキを助けたいと言う強い意思を持っていた。

 

辿り着いたその秘境の名は、『マルバコ森林』というダンジョン。 夜の時間帯はモンスター少ない、ということは無く、寧ろ夜の方が凶暴性が幾らか増す。 夜のために視界が悪く、暗いのでモンスターの闇討ちの可能性も高くなる。

 

ベールの提案の元、ネプテューヌ達はここからは慎重に固まって進むことにした。

 

危惧した通り、暗闇を利用して奇襲するモンスターに多々遭遇したネプテューヌ達。 しかし、奇襲されることをあらかじめ知っている一同の前では、モンスターの奇襲は全く意味を成さなかった。

 

「フンッ!」

 

「ギィ!!?」

 

ブランのハンマーが横薙ぎに一閃され、吹き飛ばされた四角い箱に直角の鼻と簡素な目をした、まるでオモチャのようなモンスター『はこどり』は、太い一本の木に激突し、地面へと落ちた途端に粒子となり消えた。

 

「ヌラーッ!」

 

その瞬間、まだ『はこどり』へと意識を向けていると判断してか、ハンマーを振り抜いているブランへと体当たりする、スライムと犬を掛け合わせたモンスター、『スライヌ』の亜種である『鋼スライヌ』。 その体はブランの背中へと確実に迫っていた。

 

「ハアッ!!」

 

「ヌラ!?」

 

しかし、その『鋼スライヌ』の特攻虚しく、振り抜いた勢いのまま振り向き、下から突き上げるように振り上げられたハンマーによるドライバーショットによりカウンターを受け、『鋼スライヌ』は予想だにしないことに驚く間も無く空中で霧散した。

 

「ハァ……ハァ……」

 

たった今奇襲をしてきた合計5体のモンスターを、ほぼ瞬殺の勢いで倒したブランの息はかなり上がっていた。 しかし、ブランにとってまだこの辺のモンスターが5体きた所でも相手にならない格下のモンスターだ。 本来ならこんな程度で息を上げたりはしない。

 

ブランが息を上げているのには2つ程理由がある。 1つは先ほどからモンスターの奇襲が多いことだ。 格下ではあってもモンスターはモンスター。 相手にして倒さなくてはいけない。

 

だが、この理由はあまり大きな物でもない。 ここにいるのはブランだけでは無いのだ。 ネプテューヌとアイエフ、コンパは勿論、新たにパーティに加わったベールもいる。 モンスターが襲ってきても、この場にいる者達はモンスターと戦闘できる。 負担は分散される筈なのだ。 では何故ブランはこれほど息が上がっているのか。

 

(……はやく……早くしないと……)

 

ブランの心を占めるのはイツキのこと。 イツキを苦しみから早く解き放たねばいけないと、はやる焦燥感だった。

 

あの牢屋にいる時、アイエフ達を叱咤したブランではあったが、頭では冷静に今何をすべきなのか分かってはいても、自分の感情を隠せるほど器用では無かった。

 

倒しても倒しても、次から次へと現れるモンスターに苛立ち、焦りとあいまって無駄な力が生じていたのだ。 そんな状態であれば、疲れが出てくるのも当然であった。

 

「ングッ……プハッ……ふぅ」

 

地面に座り込んだブランは自分の水筒を一気に煽り、その分の息を吐き、無理矢理疲れを取ろうとしたが、あまり効果があるものでも無かった。

 

「大丈夫、ブラン? 少し休む?」

 

夜で表情が読み取りづらい中でも、ブランの疲れ具合が見て取れたのか、ネプテューヌはブランを心配する。

 

「……別に、こんなのどうってことないわ。 先に進みましょ」

 

対するブランの返しは冷たいものだった。 ブランの心中はほぼ焦りで占められており、休んでなんかいられないと言うのもあるのだろう。 さっさとハンマーを杖に立ち上がったブランであったが

 

「いえ、ネプテューヌの言う通り、ブランは少し休んでくださいな」

 

立ち上がり、先に進もうとするブランを止めたのは、ベールだった。 ベールの言葉に、ブランは足をピタリと止めて、振り返らずに

 

「……どうして? 必要ないって言ったでしょ?」

 

いつも通りの、平坦なブランの声が少しだけ、揺れているような気がした。

 

「大アリですわ。 さっきから見ていれば、戦闘に無駄が多過ぎますわ。 そんな調子で戦い続けたら、解毒剤の素材を持つモンスターに遭遇する前にバテますわよ」

 

「……」

 

ベールの説得を聞いて、いつもの、いや前のブランであれがこの時点でお前に何が分かるだの、関係無いだの逆ギレをしていただろう。

 

だが、今のブランは自分が焦っていることも分かっている。 焦っても状況が好転することも無く、逆に悪くなってしまう事もあることも分かっている。

 

しかし、理解しているだけで焦りが消えるわけでも無い。 さながら今のブランは、イツキのことを考えて焦っている人格と、その焦りを無理矢理押さえつけようとする人格がせめぎ合っているようだった。

 

「別に、戦闘に参加するなとは言ってもいませんわ。 少しの間休むだけです。 その間は私が代わりに戦いますわ。焦っても状況は好転しませんし、少し頭を冷やすべきですわ」

 

ベールもまた、同じようなことをブランに告げる。 それを聞いているブランは、何かに耐えるように歯ぎしりし、ハンマーを持つ右手がブルブルと震えた。

 

「……ッ!」

 

そしてブランはハンマーを振り上げ、そのまま真下に力を込めて振り下ろした。

 

地面を穿つ鈍い衝突音と、舞い上がる湿った黒土に、何事かと別の集団と戦闘中であったアイエフとコンパは驚いていた。

 

「……分かったわ。 少しだけ、休ませてもらう……」

 

そう言ってブランは振り返り、ベールとネプテューヌの横を通り過ぎて行った。 夜の暗さでは、少し俯いていたブランの表情を、ネプテューヌとベールは見ることが出来なかった。

 

「……少しだけ、意外でしたわ」

 

「? 何が?」

 

ボソッとつぶやいたベールの言葉に、何のことか分からないとネプテューヌが反応する。 ベールはそのネプテューヌの問いに対し

 

「何でもありませんわ。 ただ、彼女も大人になった……いえ、彼女の場合は大人に()()()()()()()と言うのが正しいでしょうかね」

 

笑みを乗せてそう言うベールに、ネプテューヌはただただ疑問符を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

月が真上へと登りかけている時間帯に、ネプテューヌたち一行は、次から次へと現れるモンスターを退けて、何とかこのダンジョンの奥地の部分へと辿り着いていた。

 

モンスターへの相手はパーティ内で交代しながら対応したが、それでも疲れが抜け切る訳でもなく、今ネプテューヌたちは一旦進むのをやめ、休憩することにした。 ブランだけは休むことに対して良い顔はしなかったが、今ここで自分勝手な行動をして、何か予想だにしない出来事が起こって、イツキの解毒が送れれば、本末転倒だと自制した。

 

「だいぶ奥まで来たですけど、例のモンスターさんいないですね」

 

「だよねー。 しかも夜なのに次から次へと雑魚モンスターが現れるよ。 24時間営業なのはコンビニの特権であって、モンスターには求めていないのに……」

 

「道はこっちでもあっているはずですから、そろそろいると思うのですけど……」

 

「イツキのため、ってのもあるけど、これだけモンスターが多いんじゃ、こっちも早めに見つけて帰らないと体力がやばいかも……」

 

座り込んで弱音を吐くようにボヤくネプテューヌたち。 ここまでの道中、戦っている本人たちには数えられないほどモンスターの奇襲をうけ、今だに目的のモンスターが見つからないことにより、少し鬱な雰囲気に包まれていた。

 

この雰囲気はマズイと思ったブランは何か話題を出そうと考え、その思いついた疑問をベールへと聞くことにした。

 

「……そう言えば、どうしてベールは女神化をしないの?」

 

「……女神化ですか」

 

ブランの問いに対して、何やら若干歯切れが悪いベール。 そんな中、ベールの女神化について最も強く食いついたのは、当然ベールの信者であるアイエフであった。

 

「私、ベール様が変身した姿、見てみたいです!」

 

目を子どものように輝かせ、期待するように両手を握ってベールへと少し乗り出すアイエフ。 興奮するアイエフを引きつつも、なだめようと話しかけたのは、珍しいことにネプテューヌであった。

 

「あいちゃーん、無理言っちゃダメだよ。 あいちゃんたちには分からないだろうけど、アレやるとすっごい疲れるんだからさ。 例えるなら、某同人誌即売会で皆勤賞とった後の疲れが一気に来るって感じかな」

 

「……ネプ子の喩えはわかりづらいわ……」

 

アイエフの前半の無言には、ネプテューヌが自分をなだめていることに対する驚愕であったのだが、ネプテューヌはベールと同じで、プラネテューヌの女神パープルハートであり、女神化の際の疲れを知っているからこそ自分をなだめたのだなと納得出来た。 しかし喩えはわかりづらい事に変わりはない。 アイエフは某同人誌即売会の存在は知ってはいるが、行ったことは一度も無いので、それが具体的にどんな場所かは知らないのだ。

 

「ぼうどうじん……?」

 

尚、その存在すら知らない純真な者が約1名程いることをここに追記しておく。

 

(何となく感づいてはいましたが……ネプテューヌもこちら側の人間だとは)

 

そしてネプテューヌが自分と同じ側の人間であると認識した人物が2名程いたことも追記しておく。

 

「……ベール様?」

 

何やら真剣な眼差しでネプテューヌを見つめているベールへに、何事かと思い名前を呼ぶアイエフに、ベールはハッとするようにアイエフに気づき、少し焦りつつも話を続ける。

 

「あ、あぁいえ、なんでもありませんわ。 とにかく、その辺はネプテューヌの言う通りですわ。 女神化はとても体力を使うので、いざという時にとっておいたのですが……」

 

間を置くように言葉を区切ったベールは、やがていたずらっ子のような笑みを浮かべると

 

「あいちゃんがどうしても見たいのであれば、わたくしを『べるべる』か『べーちゃん』の愛称で呼んでくださいな、そうしたらお見せしますわ」

 

「え、ええ!? そんな、ベール様を愛称で呼ぶなんて私には……!」

 

顔を真っ赤にして困惑するアイエフ。 ちなみにアイエフが愛称で呼ぶことに抵抗がある理由は、畏れ多いが2に対して、恥ずかしいが8程の割合である。

 

ベールはそんなアイエフの慌てふためく姿を楽しむように笑いながら、尚も催促をする。

 

「わたくしの女神化した姿、見たいのでしょう? でしたらほら、恥ずかしがらずに呼んでくださいな」

 

催促されているアイエフの心中は、憧れの人物から愛称で読んで欲しいと頼まれて嬉しい。 だが、いざ愛称で呼ぶのには、恥ずかしさが抵抗をしていた。

 

「………べ……」

 

幾らかの無言の後、最初の1字が口から放たれた。 最初こそ恥ずかしさの勢力の方が強かったのだが、段々と愛称で呼びたいという思いの方に軍配が上がりつつあった。

 

そんな頭の中では大規模な戦いをして悶々としているアイエフを眺めて楽しみつつ、アイエフの次の言葉を待つベール。

 

「わくわく」

 

「べ、べる……」

 

「もう一息ですわ」

 

と、まるで生まれたての子どもを励ますような構図で更に催促するベール。 そんな中

 

「あ、あのー……」

 

もの凄く申し訳なさそうにベールへと声をかけたのは、ベールとアイエフが2人だけの空間(ラブチュチュルーム)を作り出したことにより、完全に空気と化していた3人のうちの1人、コンパであった。

 

何か控えめに声を掛ける様子からベールは何を察っしたのか

 

「あら? どうしましたの、コンパさん。 あ! わかりましたわ。 コンパさんもわたくしを愛称で呼びたくなったのですわね!」

 

と、そんな解釈をして喜んでいた。 コンパはそのベールが勘違いをして喜んでいることに更に申し訳なさそうにして、ベールの後方を指差して答える。

 

「いえ、そうじゃなくて……ベールさんのすぐ後ろにモンスターさんが……」

 

「……わたくしの、後ろ?」

 

コンパが示した方へと振り向くベール。 だが、ただ振り向いただけではその全貌を視界に収めきることが出来なかった。

 

丸いフォルムに、顔の下半分を覆うヒゲ、後ろにヒレを持ち、頭頂部から噴水のように水を放出しているそれは、姿形は勿論、その巨大さも完全にクジラであった。

 

「ーーーーーー!!」

 

自身の縄張りを荒らす侵入者を見つけた『森クジラ』は、威嚇するように体を仰け反らせ、叫ぶように何か声を上げていた。 人の耳では聞き取れない音であるが、ネプテューヌたちを歓迎している訳ではないことはすぐに分かった。

 

夜という非常識な時間の訪問者に怒る森クジラに対し、ベールは驚きもせずに、まるで探す手間が省けたと言わんばかりのスッキリした顔をしていた。

 

「ふふっ。 運がいいとはまさにこのことですわ。 このモンスターがわたくしたちの探していたモンスターですわ」

 

自分より遥かに巨大なモンスターが目の前にいるにも関わらず、この余裕である。 しかし隣にいるアイエフはそうでは無いようで、突然現れた森クジラに驚愕していた。

 

「い、いつの間に!?」

 

本当に気づいていなかったアイエフに、滅多なことで他人に対して呆れたりせずにポジティブに物事を捉えるネプテューヌでさえ、やれやれと言った感じであった。

 

ネプテューヌはからかいつつ、アイエフの質問に答えた。

 

「あいちゃんとベールが呑気に百合百合している間に、のっそりと現れていたよ?」

 

「ななななに言ってるのよ、ネプ子!? べ、別に私はベール様と百合百合だなんて……!」

 

予想通りの反応ではあるが、普段から見ていたクールビューティーなアイエフの面影が影も形もない事に、ネプテューヌは何か新しいおもちゃを見つけたかのように笑っていた。

 

「照れているあいちゃんはかわいいですわ。 やはり、普段の凛々しいあいちゃんとのギャップが……」

 

そんなネプテューヌにからかわれたアイエフを眺めて楽しむ人物がもう1人。 しかし、既に倒すべき敵は目の前にいると首を振り、スイッチを切り替える。

 

「……って、敵を前に見とれている場合ではありませんわ。 さあみなさん。 あいつから素材を確保して、サクッと倒して、イツキさんの元へと帰りますわよ」

 

と、全員に確認をしようとしたベールではあったが、その場のパーティメンバーが1人見当たらなかった。

 

それもその筈だ。 何故なら1人はベールが目的のモンスターだと言った瞬間から、その人物はハンマーを携えて、森クジラへと突撃していたのだから


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