超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第43話 違和感

「トドメよ! クロスコンビネーション!」

 

パープルハートの持つ剣が、モンスターを連続で切り裂き、トドメの剣が振り下ろされるとそのモンスターは真っ二つになり、消滅した。

 

「……だいぶ手こずったわね」

 

「うん。 ネプテューヌお疲れ様。 それにしてもまさか、ディスクの中から出てきた奴を相手取っている間に周りの敵も集まってくるとはね」

 

強力な力を使役できるようになるかわりに、体力を消耗する女神化を行って多くのモンスターと戦ったネプテューヌをイツキは労っていた。 当初はモンスターディスクは既に破壊したため、それほどモンスターの殲滅に時間がかかるとは思ってはいなかったイツキ達だったが、戦闘音を聞きつけて集まってきたモンスターが意外にも多く、予想していたよりも戦闘が長引いたのだ。

 

「とりあえず、今日はもう隣町に行くのは諦めて、中央街に戻りましょう。 教会にこのことを報告しないといけないしね」

 

「えー! 今まで来た距離を、また後戻りするんですかー!?」

 

アイエフの提案にコンパは涙目で嫌がっていたが、宿は既に中央街で取ってしまった彼らには、もう隣町に行く時間は無い。 何よりも、このことをリーンボックス教会に報告しなければならない。

 

「コンパさん。 モンスターとの戦闘は僕らに任せてくれればいいから、もう少し頑張ろうよ」

 

「うぅ……ゆううつですぅ……」

 

涙混じりにコンパはそう答えたのを確認すると、一同はもと来た道を戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよかったでしょうか?」

 

「えぇ、成功です。 きっとユニミテス様も喜んでおられるでしょう」

 

「で、では約束通りスタンプカードにスタンプを!」

 

「はい、これでよろしいですね?」

 

「やったー! これでスタンプコンプリートだ!」

 

「是非、魔王様の抱き枕カバーと引き換えてください」

 

「はい! ……ところで、コンベルサシオン様はこれからどちらに?」

 

「私は再びリーンボックス教会へ向かいます」

 

 

 

 

 

「あなたのおかげで、彼らがモンスターを呼び出す証拠を掴むことができたのですからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは思っているよりも深刻かもしれないわ」

 

「どうしたんです、あいちゃん」

 

エムエス山岳を後にし、中央街に戻ってきたイツキたちは、すぐにリーンボックス教会へと向かった。 その道中アイエフは携帯電話を閉じて口を開いた。

 

「独自の情報網で調べたんだけど、最近ユニミテスの使いを名乗る魔王信者が増えてるらしいのよ」

 

アイエフは携帯電話を使い、各地にいる自分の知り合いや仲間から情報を得ていたようだ。

 

「けど、そんな名前の魔王さんなんて聞いたことがないですよ?」

 

コンパは自分の記憶を思い返すが、どこにも魔王ユニミテス何てものの記憶は無かった。 それはアイエフ自身も同じようであった。

 

「私もないわよ。 ネプ子は……って聞いても記憶喪失じゃ知らないか」

 

「さて、それはどうかな……?」

 

「まさか、なにか知っているの?」

 

思わせぶりな返答にアイエフは、少しネプテューヌにマトモな解答を返してくれると期待するが

 

「知らないよ」

 

帰って来たのはある意味期待を裏切らない一言であった。

 

「……期待した私が馬鹿だったわ……イツキとブランは何か知っている?」

 

呆れたアイエフは、とりあえずネプテューヌは放置してイツキとブランにも聞いてみた。 正直アイエフは自分が調べても分からなかった情報を知っているとは思わなかったのだが、イツキとブランには一度互いを見合った後、互いにうなづくと、最初にブランが口を開いた。

 

「……魔王ユニミテス。 混沌と畏怖の魔王と呼ばれる存在。 4女神ですら歯が立たず、この世界を生み出した初代女神様でさえ封印するしか手が無かったと言う強大な強さを持っていた」

 

淡々と自身が知っていることを述べるブラン。その言葉の後に、イツキの言葉が続く。

 

「現在、4女神が下界に降りているのはその魔王から逃れるため。 そしてモンスターはその魔王ユニミテスの忠実な(しもべ)であり、モンスターを倒せば罰が当たる……これが僕らの聞いた魔王ユニミテスについての情報かな」

 

「め、女神様が勝てないくらい強いです!?」

 

話を聞き終えた瞬間、コンパは驚きのあまりイツキとブランの顔を見やっていた。 無理もない。 このゲイムギョウ界にとって4女神とは絶対の存在であり、最強の者たちである。 その強さの頂点に立つ4女神が束になっても勝てないと聞けば驚き不安になるだろう。 イツキは驚いているコンパにすぐに言葉を続ける。

 

「いや、コンパさん。 正直いるかどうかは置いておいて、少なくとも4女神達が下界に降りてきた理由に関しては嘘だよ。 ノワールさんに確認したしね」

 

ちなみに、ノワールに確認したと言うのは方便である。 魔王ユニミテスの名を知ったのはコンベルサシオンの口からであるイツキだったが、それほど重要なことと受け取っておらず、ラステイションでノワールに魔王ユニミテスについては聞かなかったのだ。 実際に確認した相手については言うまでもないだろう。

 

「でもイツキ、胡散臭さは変わらないけど、さっきの男の話とは真逆のことになっていない?」

 

アイエフは先ほどの男の語る魔王ユニミテスのイメージとは違うことを指摘する。 だが、それは百も承知だったようで

 

「うん。 それは僕も感じた疑問なんだ。 これは推測だなら何とも言えないんだけど、もしかしたら無理矢理信者を増やすために、『魔王ユニミテスは信仰者には寛大である』とかって広めたのかもね。 そうすれば、信者は増える訳だし」

 

イツキが聞いたコンベルサシオンの話では、モンスターは魔王ユニミテスの(しもべ)であるから、倒したりすれば罰が当たるというものだった。 裏を返せばモンスターを倒さなければ罰は当たらない。

 

イツキはこの魔王信仰の教祖はそこに目をつけ、モンスターたちに良くしたり、自分たちに協力すれば、魔王の恩寵を得られるというものにしたのだと考えたのだ。

 

「他にも、モンスターで脅すとか、方法は幾らでもあるよ」

 

「でも、何でそうまでして魔王さんの信者さんを増やしたいのでしょうか?」

 

未だに不安気なコンパは、どうして魔王の信者を増やそうとしているのか分からなかったようであり、質問をした。 この質問に答えたのはブランであった。

 

「それは多分、4女神の信仰心、各国の国民のシェアを下げるためじゃないかしら?」

 

4女神の力の根源である人々の信仰心、シェア。 それらが下がることは女神の弱体化を指す。 シェアを完全に無くした女神は死ぬとまで伝われている。

 

「成る程、つまりその魔王ユニミテスの使いってやつの上にいる奴は、4女神の力を削ぐために魔王ユニミテスの名を使っているのね」

 

「……まぁ、そうだね」

 

アイエフの推理にイツキは否定はしなかった。 イツキは既に魔王信仰の布教者の立場にいる、この黒幕の存在を何となく察していたのだ。 その人物はイツキに魔王ユニミテスについて教えた存在であり、ブランの女神の力を奪った張本人。 そして恐らく、4女神の力を全て手に入れるのが目的である者。

 

4女神の力を手に入れるために、4女神を弱体化させるという意図があるとも考えられるし、アイエフの推理は間違えてはいない。 だが、弱体化させた後のことをアイエフは推理していなかった。

 

イツキにはアイエフやネプテューヌにコンベルサシオン、つまりマジェコンヌの目的をまだ口にしていない。 それはもしマジェコンヌの目的を言ってしまい、ルウィーの女神であるブランの力が失われていることを予想されれば、ブランが狙われてしまうのでは? と考えたためである。

 

だが、ここにいるネプテューヌたちはそんなことをする人物には見えず、イツキは迷っていたが、ここまで突き詰められれば、いずれマジェコンヌとも対面するはめになるだろう。 そのときにマジェコンヌは自分の目的を隠そうともせずに口にする筈と考え、アイエフへと向き直る。

 

「それにしてもイツキは、その魔王ユニミテスの事はどこで聞いたのよ?」

 

「……コンベルサシオン。 あいつがそう言っていたんだ」

 

イツキは一拍おいて、自分が聞いた魔王ユニミテスの出処を口にした。 そこでアイエフはその名前に思い当たったのだろう

 

「コンベルサシオンって……確かイツキが探しているって言うあの……」

 

アイエフの言葉の後にイツキは同意し、コンベルサシオンもとい、マジェコンヌの目的を説明しようとしたのだが

 

「あぁ、お兄ちゃんの夜逃げした奥さん?」

 

イツキが言葉を口にするよりも、これまで全く会話に混じってこなかったネプテューヌが言葉を口にする方が早かった。 かなり真面目な話をしていた中で続く言葉を遮られたことと、マジェコンヌという年増が奥さんなんて絶対に願い下げなことを言われたイツキは、凄い形相でネプテューヌに振り返って

 

「ち・が・う・わ! というか、まだそのネタ引っ張るかー!!」

 

両手を挙げて抗議するイツキ。 しかしネプテューヌは気にしないような顔で笑いながら

 

「いやー、こんなシリアスな空気だと、ネプテューヌさんは息できないんですよ。 ビバ! コミカル!」

 

やたらと楽し気に言うネプテューヌに、イツキは呆れて頭を抱えた。

 

「それにしたってもっとTPO弁えてよ……」

 

「お兄ちゃんTPOって何? 最後までチョコたっぷりなお菓子?」

 

「似てるけれども!……って、ブランさん? どうして無言でハンマー構えてるの? ちょ、待って、ブランさんタイム! タイム! 暴力反対!!」

 

ブランが止まることはなかった。

 

結局、ネプテューヌの空気読まない発言によって話は有耶無耶になり、いつの間にかリーンボックス教会にたどり着いていた。 そのころにはイツキの思考も吹っ飛んでいた(物理)

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー! イボ何とかさーん。 またきたよー」

 

「またお邪魔しますです」

 

「失礼します。 度々すみません」

 

元気良く扉を開け放って入り、これまた元気良く挨拶するネプテューヌと、それについていくコンパ。 イツキは教会の奥の方にいたイヴォワールに礼儀正しくお辞儀をし、開け放たれたままの扉を閉めた。

 

イヴォワールは来客の存在に気づき、イツキたちの方へ視線を向けた。

 

「おやおや。 あなた方は確か先ほどの……何か、当教会に急用でも?」

 

(……?)

 

イツキはイヴォワールに何か違和感を感じた。 表面上は、先ほど出会った好々爺であることに変わりは無いのだが、何か自分たちを見る目が少し変わっているような気がした。

 

「急用もなにも、ユニミテスの使いという奴に出会ったわ」

 

「なんと!?」

 

「それで、信者にならないかって勧誘されて、モンスターを生み出すディスクを渡されたです」

 

「むむっ!? モンスターを生み出すディスクとな!?」

 

また違和感。 アイエフの言葉とコンパの言葉にひどく驚いている様子のイヴォワールは、イツキにはどうにも演劇特有のオーバーアクションに見えていた。

 

「その話、詳しく聞かせてくれんか?」

 

「もちろん。 まずは、各大陸を悩ませているモンスターの出処から説明するわ」

 

だが、そんなことには気づかないアイエフたちは、イツキには演劇にしか見えないイヴォワールの質問に、真剣な様子で答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

アイエフはとあるディスクを見つけた経緯、そのディスクをモンスターディスクと名付けたことを説明した。 そして、そのディスクと同一のものを先ほどのダンジョンでユニミテスの使いを名乗る者に渡されたと報告した。

 

「なんと……そのような危険なディスクがあったとは……」

 

「あんなもの街の中でばら撒かれたらただじゃすまないわ。 だから、すぐにグリーンハート様に伝えて欲しいの」

 

「……し…に、ら…て…しょ…よう……だけ……ねば……」

 

「……? あの、イヴォワールさん、何かおっしゃいましたか?」

 

アイエフの忠告を聞いたイヴォワールが、小さく何かをつぶやいていた言葉が、断片的に聞こえてきたイツキは、イヴォワールにそう問うが

 

「いや、何でもない。 早速、グリーンハート様に伝えさせてもらおう」

 

イヴォワールはそれに対して軽くてを振り、否定を意に表す。 そう言われてしまえば、それ以上イツキには追求出来なかった。

 

「そして、お主らはよくこのことを伝えてくれた。 褒美として、今夜開催されるパーティーに特別に招待しよう」

 

(……パーティー? このタイミングで……?)

 

このイヴォワールからのパーティーの誘いに、イツキはこの場で最も大きな違和感を感じた。

 

パーティーとは要するにお偉い方との対面や、友人のお祝いをするなど、人や組織によって様々なイベント目的を持つものだ。 イツキもルウィーにいた頃、何度か教会のパーティーに参加したことはある。 たが、パーティーとはそれほど多く頻繁にするものではない。 リーンボックス教会のパーティーの頻度をイツキは知らないが、幾らなんでもタイミングが良すぎるのでは無いかと疑った。

 

それに、仮に今日が本当に偶々パーティーの日であったとしても、報告したその瞬間から即決で褒美となるものを与えるものであるのかと考えたのだ。

 

確かに各大陸の国はモンスターの出処を依然として見つけられずにいる。 そんな中でモンスターの出処がハッキリとされれば何かしらの褒賞は得られるであろう。

 

しかし、イツキには証拠も何も無い話を、イヴォワールのような規律に厳しい者が信じるとは思えず、信じるにしても教会側で裏付ける証拠を手に入れたりするだろう。 それから褒賞を与えるというものであれば、イツキも納得したことだろう。

 

イツキの違和感は加速するばかり。

 

「おおっ! イボッち太っ腹! やっぱり美味しいものたくさん出るの?」

 

「イボっち!?」

 

「あ、もしかしてそのパーティーって、女神様も来たりするのかな?」

 

「グリーンハート様は常にご多忙な身。 保証はできぬがもしかしたら、出席なさるかもしれん」

 

「本当!?」

 

「会えるといいですね、あいちゃん」

 

しかしネプテューヌもアイエフも、イヴォワールの言動や態度に全く疑問を持っていない。 それどころか、イツキが最も疑念を抱いているパーティーを楽しみにしているようであった。

 

「では、日が落ちた頃にまた教会に来なさい。 ワシが会場まで案内しよう」

 

「じゃあ、それまで適当にこの街で時間を潰しましょ」

 

「あ、じゃあ一回荷物を置きに宿に行くです」

 

すっかりパーティーに行く方針に固まっており、イツキは苦い顔をした。 だが、自身の感じた疑問をここで言うわけにもいかず、とりあえずその場でイヴォワールに会釈し、教会の扉へと歩を向けた。

 

「あぁ、アイエフさんはちょっと別件の用があるので少し残ってもらえますかな」

 

イツキたちが扉を開けようとしたその時、唐突にイヴォワールはアイエフに話があると呼び止めた。 呼び止められた本人は振り返りイヴォワールに念のため確認をした。

 

「私に?」

 

「えぇ。 少し2人だけで話したいことがありまして……」

 

イヴォワールがなにか言うたびに、イツキの中の違和感は存在を増していく。 アイエフは何の話をするのか全く検討がついていないようで、イツキはそんな様子のアイエフを見て、今このタイミングで話すこととは何であるのかと感じた。

 

「わかったわ。 そういう訳だから、ネプ子たちは先に行ってて」

 

「りょうかーい。 すぐに帰ってきてよー」

 

しかしアイエフは二つ返事でそうイヴォワールに返し、ネプテューヌたちに先に帰るように言った。

 

教会の扉を開け、外に出たネプテューヌたち。 その中でイツキはただ1人、教会の扉が閉まるまでじっと中を見つめていた。

 

 

 

 


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