超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第35話 守るべきもの

リーンボックスの街は基本的に中世を思わせるような街並みであり、石造りの橋の下を流れる川と、その川沿いにはレンガで作られた家が所狭しと建っており、これまたレンガで整えられた道を、市場に商品を運ぶ馬車が通る。教会のある中央街は近隣の街よりも女神が直接統治するだけあって大きい。そしてその街を囲むように幾つもの木々が生い茂り、森を形成している。その自然の生命力が力強い大地は、『雄大なる緑の大地』の名に恥じない物だ。

 

「うおりゃああああああ!!!!」

 

そしてその大地を力強く蹴り、掛け声を上げて中央街に駆け込む1人の少年がいる。一般人はまず通らないダンジョンの方から駆け出した来たその少年イツキは、街が視界に入った途端にゴールが見えたとばかりにスピードを更にあげ、一直線にゴールへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふいー!!到着!」

 

ブランをお姫様抱っこしたままイツキは目指していたリーンボックス教会のある街へと辿り着いた。ブランを抱えた位置から走った際、幸運にもモンスターとは一度も接触しなかったために、イツキは思いの外短い時間で辿り着けたことを嬉しく思った。

 

「うんうん。ルウィーでは結構散々な目にあっていたし、そろそろ不幸の返しで幸運が訪れたのかも!」

 

何てイツキは楽観していたが、これから訪れる理不尽(ふこう)何て考えてもいなかった。

 

「……オイマテコラ」

 

背筋が凍るようなその声にイツキはピシリと固まり、ゆっくりとその音源を視界に捉えた。

 

イツキがお姫様抱っこしているブランは、目を赤く輝かせており、非常に不気味であった。そしてこの状態になったブランは非常に怒っていることを知っているイツキは更に冷や汗をかいた。

 

何故ブランが怒りを感じているのかは説明するまでも無いだろう。お姫様抱っこをされる羞恥をイツキはよく知っている。

 

「……えーっと、ブランさんは何で怒っているの?」

 

とりあえずイツキはとぼけることにしてみたが

 

「……自分の胸に聞いてみろよ」

 

(ダメだ。これガチギレだ)

 

寧ろとぼけたことによってブランの怒りは割り増しされた。イツキはこれまでこの状態になったブランに散々理不尽な懲罰を受けてきた。ブランと出会って間もないイツキとしてもそろそろ何かに目覚めそうな領域にまでになっているので、イツキは何としても懲罰を避けたかった。とりあえずイツキはブランを近くのベンチに下ろすと

 

「……ブランさんごめんなさい!許してください!」

 

イツキが取った行動はこのようにベタに誠心誠意謝ることだった。ブランは反省しない者には容赦しないが、キチンと謝れば許してくれることが多い。(だが大概ブランがキレるのは逆ギレに近いものではあるが)

 

「…………」

 

「…………」

 

イツキが謝罪した瞬間流れる沈黙。九十度に腰を曲げたまま謝るイツキを見てブランは

 

「………ハァ…」

 

一つ溜息をつき、イツキの肩に手を乗せた。イツキは顔を上げブランと顔を合わせて許しを得られたのかと確認をする。そんな表情から何と無くイツキが何を言いたいのか理解したブランは、普段は全く見せない満面の笑みを浮かべてこう言った。

 

「ダ メ」

 

「……デスヨネー」

 

今日、中央街の端にてそれは劈くような叫び声が聞こえたらしい。なんでも、人の喧騒のある市場でさえその声を聞き取れたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブランはイツキへの折檻を済ました後、痙攣をしているイツキを叩き起こし、先んじてブランの鼻緒を直すために近くの靴屋に寄った。中央の街並みが広がる中、下駄を扱う所なんてあるのかイツキは疑問を思っていたのだが、幸いにも下駄自体は扱っていなくても、鼻緒を修理するくらいは出来た。鼻緒の修繕を終えると2人はすぐにリーンボックスで滞在する宿を探したのだが、ラステイションの時同様土地勘の無い2人では見つけることが出来ずにいた。正直、迷子になっていないだけマシだろう。しかしこの街に着いてから既に日は落ちかかっている。イツキたちは明日のためにも暗くならないうちに早く宿を見つけなければならなかった。

 

「中々見つからないわね……日が暮れないうちに早く宿を見つけたいわ」

 

「…いてて……」

 

「……イツキ?どうしてそんなフラフラしているのよ?もっとキビキビ歩きなさいよ」

 

「……む、無理だよブランさん……幾ら何でもジャーマンスープレックスから流れるようにブレーンバスターを食らってピンピンしていられるほど僕は丈夫じゃないよ……」

 

イツキはブランの後をフラフラと追いていき、時々頭や背中をさすったりしていた。ちなみに、今回は硬化をしていない。もしも硬化をし、急激な体重の増加でブランのバランスが崩れ、どこか怪我をさせないようにしたイツキなりの配慮だった。ブランは受け身を取らせるように技をかけたが、それでもイツキの体には確実に効いていた。

 

「本当ならあの後にコブラツイストの後にアイアンクローが続く筈なのよ。それをされなかっただけマシと思いなさい」

 

「うん本当にね。それやられていたらオーバーキルってレベルじゃないよね?」

 

「ほら、そんなことより宿探すわよ。……と言うか、ここまで探しても見つからないなら人に聞くしかないわね。ちょっとイツキ、その辺の人に宿の場所を聞いてきなさいよ」

 

「……はーい……僕ってやっぱり不幸だなぁ……」

 

痛がりながらもブランの命令に逆らいはせずにイツキは丁度よく通り過ぎていった人に駆け寄り声を掛けた。

 

「あの、すいません」

 

「は、はい?わ、私に何か用ですか?」

 

呼び止められた少女は、急に呼び止められて驚いているのか、イツキに対してオドオドしていた。その緑の髪の少女の服装はかなり高露出であり、半ズボンのジーンズはおしゃれなのかは分からないが所々が破けており、上着も付けているのは胸にバンドを着けているのみであり、少女自身の胸も大きなものであるため、必然的に胸の谷間が出来上がっていてしまい、イツキは目のやり場に困った。そんな気の弱そうでその辺で歩いていたらすぐにナンパされたり騙されそうで人畜無害そうなのだが、その少女の腕にはそれこそヤクザがつけそうな棘のあるグローブを嵌めており、雰囲気と服装とのギャップからかなりそのグローブは異彩を放っていた。

 

「あの、宿を探しているのですけど知りませんか?なるべく安いけどそこそこ部屋が整っている所がいいんですけど……」

 

「や、宿ですか?えっと、それならこの道をまっすぐに行けば……あ、でもあそこは高いし……えっと、あの建物を曲がった先に……で、でもあそこは人気だからもう空いていないかも……え、えっと……あうう……」

 

とりあえずイツキは当初の予定通り少女に宿の場所を聞いてみた。少女はこの辺の地理を知っているようではあったが、どこに案内すれば良いか迷っているようで、言葉を口に出しては否定を繰り返していた。

 

「その、一回落ち着いた方がいいのでは?」

 

「ひゃい!?ごめんなさい!すぐに教えますので怒らないでください!」

 

イツキとしてはただ単に落ち着くように少女に促しただけなのだが、何故か急に驚いて頭をペコペコ下げ始めた。それを見てイツキは少し焦った。

 

「ちょ、ちょっと!?別に怒っていないから謝らないでごぼっ!?」

 

「おいイツキ。私は宿の場所を聞いてこいって言ったんだ。それでテメェは何で女の子困らせてんだコラ」

 

突如後頭部を襲った衝撃にイツキはやっとおさまり始めた頭の痛みに再び悩まされ始め、その衝撃の正体を知るために振り返ると、見れば拳を握って赤く目を光らせるブランが立っていた。

 

「い、いやブランさん?僕は全く身に覚えがないと言うか……って、何でブランさん僕の腰に手を回して、ちょ!?やめ……!」

 

「オラァア!!」

 

「テニドバッ!?」

 

ブランが放った鮮やかダックアンダー・スープレックスが決まり、イツキは再び頭部に追撃が加えられた。

 

「ぬびょああああ!!!頭が!頭がぁぁぁあああ!」

 

路上であることを御構い無しにイツキはその場で悶え苦しみゴロゴロ転がる。これまでの理不尽な攻撃から正直もう泣いても良いレベルである。

 

「ったく……ごめんなさいね。あいつが迷惑かけちゃって」

 

「い、いえ大丈夫です……それにしても、あんなに綺麗に流れるような水車落としを決めるなんて……」

 

「別に、褒められることでも無いわ。それで、私たち宿を探しているのだけど、良かったら教えてもらえるかしら?」

 

「はい。この道をまっすぐに行って、3つ目の交差点を左に曲がった後、その道を直進した突き当たりに宿がありますよ。安い割には部屋も綺麗でした」

 

「そう。教えてくれてありがとう」

 

あれ程イツキの前ではオロオロしていたのに対して、ブランの前ではそんな様子は無く、スラスラと言葉が出ていた。そんな様子を悶えるのをやめて横になりながら見ていたイツキは少し心にダメージを受けた。

 

「それじゃ、早く行くわよイツキ」

 

「……ねぇ、プロレス技かけられてすぐに立ち上がれると思うブランさん?」

 

「立たないなら引きずって行くわよ」

 

「鬼!悪魔!ブランさん!!」

 

「ほう……鬼と悪魔と私を同列させるか。よっぽど引きずられることがお望みなのか?」

 

「ごめんなさい」

 

この一連の動きと会話をブランとイツキは短い間に済ましていたそれはまるで芸人のようで、それを見ていた少女は少し笑っていた。

 

「クスッ……随分仲が良いんですね?」

 

「……そう見えます?」

 

「ええ。とっても」

 

フラフラと壁を支えに立ち上がるイツキはその笑う少女に問いかける。心なしか先ほどまでのビクつくような態度はとっているようには見えなかった。イツキが面白い人と分かったおかげだと思われるが、イツキとしては複雑な心境である。

 

「それじゃ、私たちはここで失礼するわね。イツキ、行くわよ」

 

そう言ってブランはさっさと少女に教えられた道を進んで行くのだった。

 

「はぁ……何か僕の扱い雑だなぁ……それじゃ、僕も行きますね。ありがとうございました」

 

イツキも道を教えてくれた少女に礼を言うと、割と早いスピードで進み、ドンドン小さくなっていくブランを追いかけるのだった。

 

そんな様子のイツキを少女は控えめに手を振って見送る。そしてイツキ達が遠くで曲がったのを見て、1人呟いた。

 

「……まさか、この世界に来て最初に会うのがブランさんだったなんて。てっきりネプテューヌさんと出会うと思っていたんだけど……」

 

その少女はブランの正体を知っており、簡素なものであるが変装をしていたブランを見破っていた。と言っても、その少女が見てきたブランの服装は、今ブランが着ている服と同一だからこそ分かったことなのだが。

 

「でも、あの男の人……イツキさんって呼ばれてたあの人、誰なんだろう……?」

 

首を傾げて少女はイツキの正体を疑問に思っていた。少女はブランの正体は知っていたが、イツキの正体は()()()()()()()()

 

少女の名は鉄拳。そして近い未来、イツキ達と肩を並べる異次元から来た格闘戦士である。

 

「それにしても、あの水車落とし凄かったなぁ……今度会ったらかけてもらうように頼もうかな……」

 

……加えてマゾヒストでもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……今日は散々だったなぁ……」

 

あの少女が教えてくれた道を行き、僕たちは宿にたどり着けた。幸い空き部屋に余裕があったようなので僕たちは2部屋を利用することにした。(幾ら僕が名目上補佐官とは言え、ブランさんと同じ部屋を取るようなことはしない。と言うか何されるか怖くて出来ない)

 

隣の部屋とブランさんと別れて僕は今、荷物を軽く広げ終えるとベットに腰掛けて深くため息をつき、ダメージを与えられた部位、特に被害が甚大な頭をさすった。

 

今日だけで僕が被った被害はストレート一発、ジャーマンスープレックス一発、ブレーンバスター一発、後頭部に不意打ち一発、水車落とし一発。多分これまで1日に受けた数の中ではダントツの1位の被害だ。常人なら死んでいると思う。いやホント。

 

「……まあキチンと最低限の受け身は取らせてるからいいけど……はぁ……バファ○ンがあったら飲みたい……今は少しでも愛情が欲しい……」

 

そもそもこの世界にバファ○ンがあるかどうかも定かでは無いが、つぶやかずにはいられなかった。

 

そんなことを考えていると、ピンポーンと言う一軒家で聞きそうなインターホン特有の音が響いた。このホテルは部屋ごとにキチンとインターホンを設置しており、部屋は洋室のベットありな上に値段も比較的手頃なので嬉しい。

 

「はーい。今開けますよっと」

 

僕はすぐに立ち上がり、ドアの鍵とチェーンを外すと扉を慎重に開けた。

 

「……あ、ブランさんか」

 

「何よ?私は来てはダメなの?」

 

扉の前にはブランさんがちょこんと立っていた。服装が違うのだから当たり前なのだが、いつも被っている帽子がないために帽子の分の高さの多少の身長差とその服装から一瞬他人だと思ってしまった。

 

「それで、ブランさん何か用?上がる?」

 

「そうね。とりあえず上がらせてもらおうかしら」

 

ブランさんが部屋に入ることを確認すると、ブランさんに戸締りを頼んで先に居間に進み、少し広げられていた荷物を軽く纏め、下着類などをバックにしまった。

 

軽い片付けだったので、ブランさんが居間に来る頃には既に終わった。僕はブランさんと共に部屋の備え付けのテーブルを囲って座り、テーブルの中央にあった湯のみと急須と茶葉と魔法瓶を使い、2人分の緑茶を煎れた。いつもなら紅茶を淹れる所だが、正直今日はもう紅茶を淹れるのすら億劫に感じてしまいそうだった。幸いと言ってブランさんは緑茶は嫌いでは無いらしい。(余談ではあるがこの世界に日本茶と名のつくものは無いが、似ているような味の物はある)

 

煎れたての緑茶を僕はチビチビと飲む。それなりに良い茶葉を使っているとおもわれるのだが、今日一日のことで疲れ切った僕には渋みしか感じられなかった。

 

「……はぁ……何かこのお茶渋いなぁ……」

 

「そうかしら?このお茶はおいしい物だと思うけど……それにしてもイツキは何だか疲れ切った顔をしているわね?そんなに疲れたの?」

 

……わざと言っているのだろうかこの人は?

 

「……そりゃブランさん。プロレス技を一日のうちにそう何発も食らったら疲れるよ」

 

「……それはイツキが悪いわ」

 

「そりゃ僕にも悪い所はあったと思うけどさ……はぁ、何だかなぁ……」

 

正直、ブランさんの勘違いと理不尽な怒りによる制裁が殆どだった気もするけど、それを言ったら今度は絞め技でもかけられそうだ。しかしそれでも疲れる物は疲れるし、原因が分かっている以上愚痴の1つや2つはつぶやきたくもなってしまう。ブランさんはそんな僕から目を離し、湯のみのお茶を少し飲んだ後、ホッと一息つく。

 

「……はぁ……しょうがないわね」

 

ブランさんは湯のみを持つ手を離して湯のみをテーブルに置くとブランさんは床を擦りながら移動し、僕の隣にやって来た。

 

「……ほら」

 

ブランさんはそう言って正座している状態で膝をポンポン叩いた。僕にはそれが何を指しているのかは分からなかった。

 

「……?えっと、僕はどうすればいいの?」

 

「分からないの?」

 

「うん」

 

「……鈍いのね」

 

本当に分からないから聞いたのだが、何故かブランさんに呆れられてしまった。仕方なさげにブランさんは僕に何をさせようとしたのかを説明し始めた。

 

「膝枕してあげるから、ちょっとここに頭乗っけなさい」

 

「……え?」

 

「だから膝枕よ。ひ・ざ・ま・く・ら」

 

「……」

 

 

 

 

もしかして:膝枕

上位脳内検索の内一件の結果

 

 

概要

 

2人のうち片方が正座になり、もう片方がその正座した人物の膝に頭を乗せ、横になる体勢。膝枕と言う名前だが、乗せるのは太ももである。家族や恋人同士などの親愛表現の一つである。

 

 

 

「……ゑ?」

 

いやいやいや、ちょっと待って欲しい。膝枕ってあれだよね?恋人同士の特権の一つであるものだよね?それで甘い雰囲気になっていちゃついたりするやつだよね?安らぎをお互いに与えるやつだよね?それを今日の疲れの大半の原因である人がしてくれるって何それ?

 

「ちょっと。何で固まっているのよ。ほら、早く横になりなさいよ」

 

ブランさんの衝撃の発言に僕は驚き硬直していたが、僕に膝を再びポンポン叩いて横になるように促していることに気づいてハッとする。

 

「えっと、ブランさんらどうして急に僕に膝枕をしようと思ったの?」

 

「疲れたって言ったのはイツキじゃない。……ああ、別に遠慮はしなくていいわよ。私とイツキの仲じゃない」

 

少し微笑んでそう言ってくれるのは嬉しいのだが、僕とブランさんがそんなに親密な関係にあるのなら、容赦無くプロレス技をかけてはもらいたくないのだが。と言うか、もしかして僕が膝枕をした瞬間にヘッドロックでもかけるつもりなのか?

 

……だけどまあ、ヘッドロックをかけられる理由は考えつかないし、ブランさんは一応好意でやっている。それにブランさんのこの手の好意は断ると命令に変わるだけなので、向こうが好意でやっている内に甘えてしまおう。

 

「……それじゃ、お邪魔します」

 

僕はブランさんの巫女服のスカートの位置に気をつけながら頭をゆっくりと乗せた。何となく真下からブランさんを見上げるのは気恥ずかしさのようなものがあったので、ブランさんの体の外側を見るように横向きに横たわった。

 

服越しではあるが、人肌から放たれる暖かくて心地よいブランさんの体温と、ブランさんの柔らかい太ももと微かに当たるお腹に包まれて、僕は初めて感じる感触に戸惑いと恥ずかしさのようなものを少し感じたが、それよりも頭しか乗せていないのにまるで体全体を包み込むような安心感と心地良さの方が、僕の心では勝っていた。

 

そして唐突に頭に何か柔らかいもので撫でられるような感触を感じて、驚きもしたが、さらに心地良さは増してきた。

 

「疲れているんでしょ?夕食の時間には起こしてあげるから、安心して眠るといいわ」

 

頭に手を乗せてくれたブランさんはそう言ってまた、僕の頭を優しく撫でてくれた。その言葉を聞いて無意識に安心したのか、撫でてくれたことによる安心感と心地良さが強くなったこともあって今日一日で溜まった疲れが一気に来たように眠気が訪れ、ゆっくりと目を閉じた後には意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スー……スー……」

 

膝の上で静かに寝息を立て、安心しているように眠るイツキを私は横向きのイツキの顔を覗き込むように腰を曲げて顔を見る。

 

「……イツキって、結構かわいい寝顔しているのね……」

 

気持ち良さそうに眠るイツキを見て、私はイツキの髪をなぞるように撫でる。イツキの髪の毛は男だから少し固く、ゴワゴワとしている所もあり、少々引っかからないようにしなければならない。そこだけ注意していれば問題は無い。イツキの髪を撫でると、イツキはまた気持ち良さそうな顔をする。それがなんとなく嬉しくて、調子に乗って喉をを少し触ってみた。

 

「……ん、……んぅ……」

 

……どうもくすぐったそうだ。起こしては悪いしそこで私は喉から手を離し、今度はイツキの頭に手のひらを起き、軽くポンポンと叩いた。

 

「……イツキ」

 

気づけば私は反応はしないだろうイツキに話しかけていた。

 

「……あの時は、守れなくてごめんなさい……そして、あなたをたった1人で他国に送り出して、ごめんなさい……」

 

たがお構いなしに、いや、イツキが聞いていないと分かっているからこんなことを言えるのだろう。我ながら損な性格をしていると思う。

 

私が急にイツキについて行くと言って、フィナンシェもイツキもとても驚いて、私を止めようとしていたがそれを押し通し、こうしてイツキと共に行動を私はしている。

 

イツキは道中何度も私に同行する理由を聞いてきたが、私はそれには決して答えようとはせず、質問を何度も突き返した。

 

ここにくるまでの道中も、やった時は後悔しないが後々改めるとかなり理不尽なことをしていると気づくようなことを私はしている。こう言う所も我ながらどうかと思うが、イツキの前だと感情や言葉よりもどうも先に体が動いてしまう。

 

それでも、例えどんなにイツキの前で素直になれなくても、心の中で決意していることがある。私はその決意を再認識と表明するために呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は、私があなたを守る。もう、あなたを傷つけさせやしないから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って私は守るべき存在を確認するように、イツキの頬を軽く撫でるのだった。

 

 

 

 

 








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