超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第33話 変装タイム

(……あ、そうだ。結局ブランさんが押し通したんだっけ)

 

昼過ぎのルウィーの雪原をザクザクと進みながら僕は今の状況の根本を思い出し独りごちしていた。

 

ブランさんがあんなことを言い出した数日前、妥協こそしたが何故自分についてくるのか僕は理解出来ず、この道中でも何度かついて来る理由を聞いているが、帰ってくる答えは「あなたが頼りないから」とか「しつこい」とか「うるさい黙れ」とか段々と機嫌が悪くなっていって聞くことが出来なくなった。

 

聞けなくなった僕に出来ることといったら推理することだが、今回ばかりはお手上げ状態であり、いくら考えても答えは浮かばず本当に自分が頼りないからなのではないかと考えて少し消沈するのが関の山であった。

 

そしてそれから数日が経った今が頃合と考え、アイエフさんに連絡を取り、了解の返事があったのでプラネテューヌへの渡航場所に向かっているのだ。

 

そうそう、僕は今、ラステイションでシアンさんに貰った服はもう着ていない。今日の朝方にフィナンシェさんが僕が着ていた服とそっくり、と言うより着心地や大きさまで全く同一の服を渡してくれたのだ。

 

これはどうしたのかと聞いてみれば、フィナンシェさんは僕の服を洗濯したりして、手触りなどから大体素材を把握していたらしく、昨日から作ってくれていたらしい。1日で作るということもさることながら、ここまで完璧に再現するのはスゴイと思った。感極まって服を貰った時についフィナンシェさんの手を握ってしまった。フィナンシェさんの侍従スキルは本当にスゴイと改めて思った。

 

「ほら、着いたわよイツキ」

 

気づけば目の前には目的の町の門の前まで辿り着いていた。ブランは既に門をくぐっており、思案をして歩くスピードが遅い僕を待っていた。

 

「ご、ごめんブランさん」

 

謝りながら考えていた思考は放棄し、駆け足でブランさんの元へと行く

 

「何ぼーっとしているのよ。そんな調子じゃ、いざって時に足元掬われるわよ」

 

「いや、ホントごめん。……ってあんまり時間も無いし、早く行こうか」

 

「そうね。それじゃ、とりあえず目的の店を探しましょうか」

僕とブランさんは2人並び、除雪された道を進んで行き、僕たち……いや、ブランさん限定で必要な物を揃えるべく、目的の店を探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは私には似合わないわね……」

 

「そうかな?結構似合ってると思うけど……」

 

ブランさんは試着室の鏡の前で、あれやこれやと服を取り出しては自分の身体と重ねてみるが、中々似合うものを出せずにいる。僕としては基本的にブランさんは容姿が整っているからどの服とも相性が良いとは思うけど、女の子としては自分に最も似合う服を着たいという心理が働いているのだろうか?

 

今僕たちは町の適当に見繕って入った服屋にいる。別にブランさんと楽しくデートしてるとかそんなのでは無い。ブランさんが他国に出ることを許可する際の僕とフィナンシェさんが出した条件の一つである、『変装をして他国に行くこと』と言うのを満たすためだ。

 

幾ら女神の変身前の姿を知る人間は少ないとは言え、女神が敵である国に変装なしで行くのは攻め込まれたか何かと勘違いする可能性が高い。リーンボックスの女神や、ネプテューヌがどう対応するのかは知らないが、恐らくラステイションの女神であるノワールさん辺りは良い意味だと女神としての責任感が強く、悪い意味で勘違いしやすい上に割と喧嘩っ早いしすぐさま戦闘を仕掛けてきそうだ。

 

とまあこんな理由からブランさんに変装を提案した訳だが、この条件を突きつけた際に、何を思ったのかブランさんはどこからともなくメガネを掛けて、自慢気にしていた。……いや、可愛いんだけど。メガネ掛けたブランさんは可愛いんだけど、印象が変わるだけで変装にはならない。しかしこれで十分だろと言いた気なその姿勢に僕とフィナンシェさんは苦笑いを浮かべるしか無く、結論としてメガネだけでは足りないと言うことになったので、こうして変装用の服を見繕っているのだ。

 

「それでも、私はこう言う服はあんまり好きじゃないわ」

 

「うーん……そんなものか……」

 

しかしこうしてブランさんは変装用の服をやたらと拘り……と言うか、これでは殆どオシャレの領域の物だ。まあ僕としてはブランさんの正体が看破さえされなければそれでいいし、別にオシャレとなっても構わないからいいけど

 

「そうね……私じゃ決められないからイツキが決めて。イツキが決めたものを私が着るから」

 

「……え?」

 

ブランさんは持っていたワンピースをカゴに戻すと僕が決めた服を着る?マジで言ってるんすかブランさん?この万年決まった服(例外はあれど)しか来ない僕に?正直このブランさんの謎のリクエストには困ってしまう。

 

「このままじゃ、決められそうもなく時間だけが経ちそうだからあなたに頼んでいるのよ。合理的だわ」

 

「それちょっと違う気がするけど……うん、まあブランさんの頼みなら」

 

僕は試着室の中に入ったブランさんを後にするように離れていったが、それから少ししてすぐにブランさんの声が聞こえてきた。

 

「……言っとくけど、変な服持ってきたらお前をボコボコにした後に、女装させるからな……」

 

「き、肝に命じますサー」

 

一瞬バニー服でも着させようかと考えたことがバレたかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……見つからないな……」

 

ブランさんに命令されて服を探すこと5分程が経過したが、めぼしいものは中々見つからない。こう言うのはラフなワンピースとかTシャツとかがいいんだけど、ブランさんは殆どお気に召さなかったからな……どんな服がいいんだろ?とりあえず適当に取り出して決めてみようかな。

 

「これかな?」

 

 

【ナース服】←取り出した服

 

病気の患者を治そうとする志の高い人が着る服。相手に清潔感や安心感を与えるが、どう考えても目立つ。そしてブランさんに着せようものなら殺される。

 

 

すぐに戻したよ。多分風切り音するくらいのスピードで戻したよ。SEがつくならバビュン!!くらいの音は付加されるんじゃないかな?

 

「気を取り直して……次は……っと……」

 

 

 

【メイド服】←取り出した服

 

主人に仕える志の高い人が着る服。仕える者に愛情と安らぎを与えるが、やはり目立つ。そしてブランさんに着せようものなら粉砕される。

 

 

 

……そして僕は何も言わずにそっとその服をレールに戻した。

 

「……次に行こう次に」

 

僕はまた手探りで適当に服を取り出した。

 

 

【スクール水着】←取り出した服

 

学校指定の競泳用の水着。泳ぎやすいように作られている水着。目立つ目立たない云々の前に服として機能してない。ブランさんに着させる前に、視界に入れられたら僕は粉微塵に爆砕される。

 

 

 

「……どうして碌な服が無いんだ!?」

 

確かにこの服屋さん割と大型だとは思ったけど何でネタに走ってるんだよ!?いやマトモな服も多いけど誰がこれ買うんだよ!?

 

流石にこれはおかしいと考えて辺りを見回して見ると、丁度真上のプレートに『コスプレコーナー』とあった。ああどうりでマトモな服が無い訳だ。何でこのコーナー入っちゃったんだろうな……ブランさんにコスプレなんてさせようものなら殺されかねない。

 

とりあえず僕はそのコスプレコーナーから離れようとしたのだが、コスプレコーナーから出た時にある服が目についた。

 

コスプレコーナーに置いてあるだけに、その服もコスプレに分類するものだが、その色合いについ引きとめられてしまったが、この服は割とブランさんの今着ている服に形状が似ているし、丁度いいかもしれない。

 

「……どうせ普通の服持ってきても突き返されそうだし、これにしようかな」

 

僕はその服をレールから取り出すとブランさんの待つ試着室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったわね」

 

「え、そうかな?そんなに遅い?」

 

「女の子はあんまり待たせるものじゃないわよ」

 

「ご、ごめんブランさん。それでこの服を着てもらえるかな?」

 

試着室でじっと待っていたブランさんに早足で向かったのだが、少し機嫌が悪かった。とりあえず僕は見繕った服をブランさんに手渡した。

 

「……?これ何?」

 

「何って、巫女服だよブランさん」

 

 

【巫女服】

 

主に神社の神様に仕える女性が着る服。色合いは紅と白の和を貴重としたカラー。

 

 

 

僕が選んだこの巫女服は、僕自身が左腕に巻きつけているブランさんのくれた御守りと色がとても似ていて、服の形状も今ブランさんの着ている服と似ているから選んだ。

 

「…………」

 

だが服を手渡されたブランさんはいつもの無表情よりも更に冷たい無表情の顔をしている気がした。ヤバイ地雷を踏んでしまったか……?

 

「……まあ、とりあえず着てみるわ」

 

しかし長い沈黙の後、ブランさんはとりあえずはその服に納得してくれたようで、サイズ確認の為に試着室のカーテンを閉めて着替え始めた。

 

……試着室から衣服の擦れる音が色々と聞こえてきて僕のような健康的な男児には刺激が強いので、後ろを振り向き軽く耳を塞いだ。

 

そしてそれから数分経った後、

 

「着替え終わったわよ……って何で耳塞いで後ろ向いてるのよイツキ」

 

「……あ、着替え終わったのブランさん?」

 

耳を塞いでいたから少し聞こえにくかったけど、ブランさんに呼ばれて振り返った。

 

「……似合うかしら?」

 

少し不安気なブランさんの声を僕は聞き流していた。目の前にいるブランさんの巫女姿に目を奪われてしまったからだ。

 

白の小袖に袖や所々に僕の身につけている御守りの紅色と同じ色が施されており、スカートの部分には大小様々な紅葉がチャームポイントのようにその存在を目立たせていた。腕の部分には趣があると言うべきか、花札が着いており、いつでも着脱できる仕様のようだった。いつも被っていた帽子も今は抜いでおり、それだけでも大分印象が違った。

 

「……その、イツキ……あんまりジロジロ見られると恥ずかしいんだけど……」

 

「……あ!ご、ごめんブランさん!思っていたよりずっと可愛かったからつい見とれちゃって……」

 

「か、かわ……!?」

 

あ、何か余計な事を口走っちゃったか!?何かブランさん顔真っ赤にしてるし!

 

「い、いやホント可愛いよブランさん!いつもとは違う印象の可愛さが溢れているというか、巫女服がここまで似合っているとは思わなかったというか、とにかく可愛いよブランさん!」

 

「そ、そんな可愛い可愛い連呼すんじゃねえこの馬鹿イツキ!!」

 

「へブラッ!?」

 

何を間違ったのか顔を更に真っ赤にしたブランさんに、それはもう綺麗なストレートパンチを顔面に貰いました……何これ理不尽。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、悪いイツキ。ついうっかり本気で殴っちまった……」

 

「うん。僕だから良かったけど、一般の人が女神のフルパワーパンチ受けたらその時点で大怪我だから気をつけてねブランさん」

 

「う、うん……」

 

フルパワーで殴られても怪我一つ無くて良かった。でもとっさに強欲(グリード)で硬化しなかったら結構危なかったよ。こんなことで使うのもちょっとどうかと思うけど。

 

とりあえず会計を済ました僕たちは店を出た。既にブランさんはその服屋で買った服を着ている。いつも着ていた服とは違い、生地が薄そうだったので、寒いかと思ったが別段そんなことは無いようだ。……って、そう言えばルウィーって一面雪な割りには寒くはない気がする。

 

「……それで、さっさとプラネテューヌに行くの?」

 

「うん。あんまりルウィーに留まって、面倒なことになっても嫌だからね」

 

と足早に僕たちは道を歩いて行く。しかしブランさんと僕とでは歩幅が違うので時々ブランさんの方を見ながら歩数を合わせる。

 

と、ブランさんを見て少し何かが物足りないと感じた。多分いつも被っている帽子を被っていないから違和感を感じているのだろう。時々ブランさんは気にするように頭を触っているし、本人もいつも被っている帽子が無くて落ち着かないのだろう。

 

このまま落ち着かないような状態のブランさんを放置するのはいけないことだろうと思い、とりあえず僕は足早に進みながら周りを見て何か都合の良い店を探した。

 

「……あ、ブランさん。ちょっとここで待ってて」

 

「?急いで行かなきゃ行けないんじゃないの?」

 

「大丈夫。すぐ終わるから」

 

そうして僕は視界に入った露店に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんブランさん。お待たせ」

 

見つけた露店は思いの外品揃えが良くブランさんに似合うものを探すのに手間どってしまった。

 

「寄り道してまで、イツキは何を買いたかったのよ?」

 

「うん。あのさ、ブランさんいつも被っている帽子を今は被っていないからだろうけど、気にするようにさっきから頭を何回か触っているからさ、これをあげるよ」

 

僕はたった今露店から買ってきた、流星の形を象られた髪留めを渡した。

 

「え?これ、私にくれるの?」

 

「うん。そのつもりで買ったんだけど……もしかして、気に入らなかった……?」

 

本当は和風な塗り箸とか大和撫子とかの髪留めとかが良いと思ったんだけど、生憎と品揃えが良い割りにはその辺の和風なものは少なかった。その少ない種類の中から選んでも良かったのだけど、僕が目を引いた髪留めはこの流星の形をした髪留めだった。

 

「ううん……私が帽子が無いことを気にしているのに気づいたのが意外だったから、少し驚いているだけ。早速つけてみるわね」

 

ブランさんはどうやらその髪留めを気に入らなかった訳では無かったらしいけど、僕ってそんなに人の機微に疎そうに見えるのかな……まあいいけど。

 

「つけたわよイツキ。似合ってる?」

 

ブランさんはその髪留めを横の髪に付けていた。帽子とも何も被っていない時ともまた違う印象を僕は受けた。

 

「うん。似合ってるよブランさん。可愛い……あ」

 

ついうっかり可愛いと言ってしまった。ま、マズイ!このままではまたもブランさんに殴られてしまう!だって本当にブランさんが可愛いんだ!

 

「かわ……!?」

 

案の定同じ反応をして来たブランさん。僕は咄嗟に腕をクロスして衝撃に備えた。

 

「……?」

 

だが一向に腕に衝撃が襲ったりはせず、僕はゆっくりと目を開けて状況を確認した。

 

「そ、そう……似合ってるならいいの。ありがとうイツキ。……ってどうしてあなたは腕をクロスしてガードを固めているのよ?」

 

ブランさんは別段僕の言ったことに怒ったりはせず、少し顔を赤くしてモジモジしているだけだった。怪訝そうにしているブランさんを前にして僕はすぐにガードを解くと

 

「いや、さっき可愛いって言ったらブランさん殴ってきたし、また殴られるかなって……」

 

「……幾ら私でもそこまでバイオレンスなことを2度もしないわ」

 

そもそも1度もして欲しくないと言うことを切に願う。

 

「それに、これはあなたからの初めてのプレゼントよ。そんなプレゼントを貰っておいて、殴るなんて持っての他だわ」

 

「……そっか。喜んでくれたのなら何よりだよ」

 

聞き方によってはブランさんのこの言葉は勘違いされかねないものだけど、あまり深く考えることもないだろう。

 

その時、僕のポケットの携帯電話が震え、契約をしてそのままのデフォルトの着信音が響いた。

 

「ごめんブランさん。ちょっと電話に出るね」

 

ブランさんに断りを入れて電話の画面を見ると、表示されたのは『アイエフさん』という文字と着信の旨を伝えるメッセージ。携帯なんだから別にさん付けで打ち込まなくてもいいとは思ったけど、何と無くさん付けで登録しておいたのだ。僕はすぐに応答のボタンを押し、携帯を耳に当てた。

 

「はいもしもし、イツキです」

 

この当たり障りの無い電話の受け答えは例え相手が親しく砕けた口調で話す時でも、一応行っている受け答えだ。誰かがアイエフさんの電話を借りている可能性も否めないからだ。……最もアイエフさんの携帯を使って僕に連絡をしてくる人に敬語を使う人はあまり思いつかないが。

 

『あ、もしもしイツキ?私よ、アイエフ』

 

「久しぶりアイエフさん。そっちの調子はどう?」

 

『まあ、いつも通りかしらね。……ネプ子がバカをするのはいつも通りの事だし』

 

電話越しでもアイエフさんが相当疲れていることが声から分かった。主にアホ行動するのはネプテューヌだけど、コンパさんもたまに、それも素で天然行動するから保護者ポジションのアイエフさんからしたらたまったものではないだろう。

 

「あー……ご愁傷様。ところでアイエフさんは僕に何か用なの?」

 

とりあえず僕は本題を切り出した。愚痴を聞きたくないわけではないが、このまま話を脱線させて長電話になってブランさんを待たせることはあまりしたく無かった。でも話を無理矢理切り上げられるのはあまり良くは思わないだろうし、顔を合わせたら幾らでも愚痴を聞いてあげることくらいはしてあげよう。

 

『あー、そのことなんだけど、イツキはもうプラネテューヌに着いちゃってる?』

 

何だかプラネテューヌに既に着いていたら困るような聞き方に少し疑問を感じるがとりあえず答えとく

 

「いや、まだルウィーだよ。そろそろプラネテューヌの渡航場所に向かおうと思っているところ」

 

『そう。ならギリギリまだプラネテューヌに着いてはいないのね?』

 

「?まあそうだけど……それがどうかしたの?」

 

『実は私たちリーンボックスに向かうことにしたの。出来ればイツキにもリーンボックスに来てもらって、そこで合流したいのよ』

 

……え?

 

「な、何でそんな急に?僕たちもうプラネテューヌの渡航場所に向かってるんだけど?」

 

『でもプラネテューヌの渡航場所とリーンボックスの渡航場所って大した距離でも無いでしょ?』

 

「うぐっ……」

 

アイエフさんの言葉は確かなことだ。ラステイションの渡航場所からならともかく、プラネテューヌの渡航場所からリーンボックスの渡航場所は大した距離では無いし、今から方向転換しても十分間に合う。しかしだからと言ってそんないきなり行き先を変えられても困るものは困る。せめて理由くらいは教えてほしいのだが……

 

『それじゃ、リーンボックス行きの手続きとかあるから切るわね』

 

「ちょ!?ま、待ってよアイエフさん!せめてリーンボックスに行く理由くらい教えてよ!」

 

取りつく島も無いアイエフさんをなんとか呼び止めて理由を聞く。そこで少しの沈黙があったがそのあとのアイエフさんの答えはこちらだ。

 

『……私のグリーンハート様が、あんなにゲーマーなワケが無いのよ!!』

 

その言葉を最後に電話を切られ、ツーツーと言う通話終了の音が耳元で鳴っていた。

 

……理由になってない。というか意味が分からない。

 

しかしこうなってしまった以上、僕たちもリーンボックスに向かうしか無いだろう。幸いと言うべきか、僕たちは全ての渡航機許可書をフィナンシェさんから受け取っているし、リーンボックスも向かおうと思っていたところだ。

 

僕は携帯の着信終了ボタンを押すと、通話する際に少し離れたブランさんの元へと駆け足で向かう。

 

「……随分と驚いたりしていたけど、何かあったの?ネプテューヌが何かしたとか?」

 

ブランさんには既に向こう側にネプテューヌがいることは話しているし、ネプテューヌが記憶喪失であることも話している。長い間守護女神(ハード)戦争で戦ってきた相手の筈だか、その辺を理解して上でも僕について来ることを決めていたようだ。

 

そう言えばネプテューヌが記憶喪失であることを話した時に、『そっか……あの時の……』とつぶやきていた所からネプテューヌが記憶喪失であることを思い当たる節があるようなことを言っていたが、それはまた今度聞くとしよう。

 

「いや、ネプテューヌは何もしてないんだけど……ネプテューヌ達はリーンボックスに向かうみたいだから、僕たちもリーンボックスに来て欲しいって」

 

「ゲッ」

 

……今ブランさんあからさまに嫌な顔をしたよ。

 

「えっと、リーンボックスには行きたくないの?」

 

「……リーンボックスには、私の会いたくない奴がいるから……」

 

何だかブランさんの機嫌が悪くなってきた。声もいつもの声からキレモードへと移行しつつある。

 

……ブランさんは時々下界に降りるくらいだったらしいし、リーンボックスに行って会いたくない人といって思いつくのは……

 

「それって、リーンボックスの女神様のこと?」

 

「……」

 

だんまりをするブランさんを見て分かった。どうやら当たりらしい。

 

「うーん……困ったな。もう向こうはリーンボックスに行くことを決定してるっぽいし……」

 

多分今から電話しなおしてアイエフさんにリーンボックス行きを辞めるようにいっても無駄だろう。どうもやけにリーンボックスに行くことを主導しているのはアイエフさんっぽいし

 

「……まあ、変装すれば向こうにはバレないし……分かったわ。仕方ないけど、リーンボックスに向かうわ」

 

そう言ってブランさんは懐からメガネを取り出して目にかけた。変装と言うより大幅なイメチェンのようなものだが、パッと見なら正体を欺けるだろう。

 

「そっか。なら、リーンボックスに向かおうかブランさん」

 

僕たちはプラネテューヌへの渡航場所への道のりから方向転換し、リーンボックスの渡航場所へと向かう。ここからならダンジョンを通らなくても、大した時間は掛からない。

 

「……イツキ、リーンボックスの女神と会ったら、1つだけ命令かあるわ」

 

「?何?」

 

歩く途中でブランさんに急にそう言われて、僕は次のブランさんの言葉に耳を傾けた。

 

「そいつの胸を見た後、私の胸を見たら……コロス」

 

……ああ。いつか言っていたベールって人はリーンボックスの女神様だったんね。

 

 

 

……それにしたってラジカルすぎる。




ブランの服はアレです。VとかPPとかUのデフォルトの服に、帽子では無く大きめの流れ星の髪留めをしています。



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