超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第29話 次の指針

「……うん。これくらいかな。これで話はおしまいだよ」

 

ラステイションのとあるホテルのイツキが利用しているホテルの自室にて、イツキは自分の詳細について話した。と言っても、自分が異世界人であることは伏せて、ブランの直属の補佐官になった経緯についてはイツキ自身が設定をでっち上げた。

 

……のはいいのだが

 

「……そう。ごめんなさいね……辛いことを聞いて」

 

体力を使う為に既に女神化を解いた姿であるノワールは、イツキの話を聞いてから、イツキのこれまでの生涯を悲しむような、そんな感情を露わにしていた。それはノワールだけではない。

 

「……まさか、イツキが孤児だったなんて……」

 

「しかも、モンスターさんに襲われて記憶を失うなんて……辛すぎです……」

 

アイエフもコンパも、イツキの生い立ちに悲しみを隠すことが出来ずにいた。本当に自分のことのように悲しんでいた。

 

さて一方でこの話の提供者兼主役と言えば

 

(……ヤバイこの人達の凄い純真さのことを忘れていた……)

 

内心で嘘をついてあっさり騙されているノワール達に罪悪感を覚えていた。冒頭にも言ったがこのイツキの話は自分が異世界人であることを隠す為にでっち上げた嘘だ。でっち上げた内容を詳しく言うと

 

 

・モンスターに襲われていたところをブランに拾われた。

 

・目が覚めるころには多くの記憶を失っており、覚えていたのは自分の名前と親がいないこと。モンスターに襲われたことも覚えていない。

 

・ブランはそんなイツキをルウィー教会で保護する為に、イツキを直属の補佐官にしたと言うこと

 

 

3つに纏めるとこうなる。イツキとしてはあながち嘘ばなりではないとは思っていた。この世界に来た直後にモンスターに襲われたし、モンスターに襲われて記憶を失った訳ではないが、これまでの生涯の記憶は無い。あるのは前の世界の知識など。3点目に関しても嘘をついてはいない。

 

たがでっち上げた話の内容が重すぎたようで、現にノワールとアイエフ、コンパはイツキの話に感情移入をしてしまっていた。

 

イツキとしても多少は気遣われたりはするとは思ってはいたが、まさかここまで感情移入をするとは思ってはおらず、自分の嘘によってこんなに重苦しい雰囲気にしてしまったことを思うと、罪悪感は更に増した。

 

「あー……いや、皆気にしないでよ!これは過去の話だし、今はブr……ホワイトハート様の補佐官になって楽しくやっているし!」

 

「……あ、ごめんなさいね。気遣せてしまって……本当はこっちが気遣うべきなのに……」

 

「ごめんなさいイツキ……あまり話したくないことを話させてしまって」

 

(ごめんなさい嘘なんです!今更嘘なんて言えないけど嘘なんです!だからこれ以上僕の心を抉らないでよ頼むから!)

 

話をでっち上げた本人と言えば何とかその重苦しい雰囲気を解消しようとしたのだが、逆に気を遣われたと思われてしまい重苦しい雰囲気は解消されずにいて、心の中の罪悪感は増していくばかりだった。だが、そんな中

 

「もー!ダメー!何で皆そんな暗いのさー!」

 

そんな雰囲気は合わないと言わんばかりに声を上げる者が居た。ノワールと同様既に女神化を解いているネプテューヌだ。

 

「気持ちは分からなくもないし、わたしだってお兄ちゃんのことは可哀想だとは思うよ。だけどそれはもう本人は気にしていないって言ってるし、わたしたちが重く受け止め過ぎてお兄ちゃんに気を遣わしちゃ逆に迷惑じゃん!」

 

ネプテューヌとしてはこの雰囲気を何とか壊そうとしたのだが、人の受け取り方によっては悪い意味で受けとまれかねない言い方だったが、この場にいる者達にはそのようなことは特に無く、まだ人の過去に土足で踏み込んでしまったことに罪悪感を感じているような顔をしていたが、幾らか立ち直った。

 

「ん。ありがとうネプテューヌ。それじゃ、この話はお終いだ」

 

ここぞとばかりにイツキはネプテューヌに便乗し、無理矢理話を終わらせた。これ以上罪悪感が増すと体調不良にでもなりそうだったイツキであった。

 

「……でも、これ以上何か話すことがあるの?」

 

傷心から立ち直ったノワールはイツキに聞くが、それを聞いてイツキは少し迷うが、頭の片隅にあった聞きたかったことをここで聞くことにした。

 

「……ちょっと皆に聞きたいことがあるんだけどさ、僕はある人を探しているんだ。マジェコンヌ、もしくはコンベルサシオンって名前なんだけど」

 

「?その人名前が2つあるの?もしかして、コンベルサシオンと言うのは世を忍ぶ仮の名前であり、私の真の名はこの世界を混沌とさせる悪の魔女、マジェコンヌだー!的な痛い人?」

 

「……痛い設定はどうかは知らないけど、大体合ってる。表上はルウィーの宣教師コンベルサシオンなんだけど、本当の姿は魔女、マジェコンヌなんだ」

 

「ふーん……でその人がどうかしたの?どうしてお兄ちゃんはその人を追いかけているの?……まさか、夜逃げしたお兄ちゃんの奥さんとか!?」

 

「断じて違うわ!!あんなオバさんに興味は無いわ!」

 

皆の危惧していた通り、ネプテューヌは変身する前だと色々と話を拗れさせてしまう。だが、そんなネプテューヌとイツキのやり取りを見て、幾らか気はほぐれたようでアイエフやノワールは可笑しそうにクスクス笑っていた。

 

そんなノワール達を見て、イツキはネプテューヌはこうも簡単に重苦しい雰囲気を自然と吹き飛ばしてしまうことに少し驚いた。恐らく素でやっているのだとは思うが、これもネプテューヌ自身のいつも楽しそうな雰囲気が成す力なのだろう。

 

「それにしても、オバさんか……何かオバさんって聞くとプラネテューヌで会ったオバさんを思い出すわね」

 

「あいちゃん。それってあいちゃんと出会ったダンジョンに居たオバさんですかー?」

 

「ああー!そう言えば会ったね。やけに笑い声が古臭い上に悪趣味なメイクをしたオバさん!序盤にしては異常に強かったからビックリしたよ」

 

アイエフとコンパも完全に復調し、談笑に混じって来ていて、本人達は何と無く程度に話題にあげたのだが、イツキはネプテューヌの言った外見特徴を聞き逃さなかった。

 

「……ねぇ。そのオバさんってもしかして、魔女みたいな格好をしていて笑い声がハーッハッハッハ!ってやつで何もかもが時代遅れの悪趣味BBA?」

 

ちなみに、同時刻とある所で布教中のコンベルサシオンがクシャミをしたとか。

 

「時代遅れの悪趣味BBA……そう言えばネプ子もそう揶揄していたわね。確かに笑い声もそんな感じだったわよ。もしかして、それがマジェコンヌって奴なの?」

 

「……確証は無いけど、あのオバさんの悪趣味加減は凄まじいからアイエフさん達の出会ったそいつはマジェコンヌだと思う」

 

(やっぱり接触していたか)

 

イツキはコンベルサシオンと出会った初日、コンベルサシオンはプラネテューヌに行っていたと聞いた。その時にネプテューヌ達と接触したのだろう。目的はネプテューヌの女神の力。だが、これは失敗に終わったのだとイツキは考える。何故ならマジェコンヌがブランの力を手に入れた瞬間、こう言っていたのをイツキは覚えていた。

 

 

『アーッハッハッハッハッ!遂に、遂に私の悲願の第一歩だ!』

 

 

この言葉から、この時点で手に入れたのはブランの女神の力が最初だったと分かる。プラネテューヌでネプテューヌの女神の力を奪うことには失敗したのだろう。

 

「でもイツキ?その人がどうかしたの?どうしてイツキはその人を追いかけるのよ?」

 

ノワールのこの質問にイツキは答えようとはしたのだが、すぐに開きかけた口を閉じた。

 

イツキがマジェコンヌを追いかける理由。それは主に2つだ。1つはマジェコンヌの目的を探ること、それはマジェコンヌが全ての女神の力を手に入れて何をしようとしているのかと言う、女神の力を手に入れた先の目的を探ること。それと、マジェコンヌはルウィーの教会を乗っ取った張本人であり、ルウィー教会を取り戻すためにマジェコンヌを追っているのである。

 

これらのことをこの場にいるネプテューヌ達に話せば、主に正義感の強いネプテューヌのことだ。率先してイツキとブランの手助けをしようとするだろう。イツキとしても、女神の力を持つネプテューヌの力を借りたいのは山々だ。

 

だが、イツキはブランの性格を知っている。プライドの高いブランは他国の、それもこれまで長い年月を掛けて戦ってきた女神の協力を良しとはしないし、向こうから協力を持ちかけられても拒否するだろう。それがイツキには分かっていた。

 

「……ごめん。それは言えない」

 

たがらイツキにはこの場では黙秘するしか行動が無かった。この後、何故話せないのか根掘り葉掘り聞かれるだろうとイツキは予想していた。

 

「あら、そうなの?なら仕方ないわね」

 

だが、意外にも帰ってきた言葉は妥協の言葉であり、その言葉を発したノワールにイツキは問う。

 

「え?……気にならないの?」

 

このイツキの問いに、ノワールはこう答えた。

 

「気になるわよ。だけど、今すぐにも聞きたい話でも無いし、誰にだって聞かれたいことの1つや2つあるでしょ?どうしても話したくないなら私は無理には聞かないわよ」

 

イツキはその言葉には聞き覚えがあった。と言うより、自分自身がノワールに対して言った言葉であった。ノワールの顔を見ればイタズラの成功した子供のように微笑んでいた。そんな様子のノワールにイツキも自然と笑みが零れた。

 

「ありがとう。ノワールさん」

 

「どういたしまして」

 

互いにそう言って、イツキとノワールは視線を一瞬だけ合わせると、またお互いに笑い合うのだった。

 

「……コホン」

 

「「……はっ!?」」

 

ここで大きな咳払いを聞き取ったイツキとノワールはそれが発せられた方を同時に見ると、そこには咳払いをしたアイエフと、居心地を悪そうにしているネプテューヌと、何故かニコニコ笑っているコンパがいた。

 

「あー……2人ともさ、ラブラブするのは構わないんだけど、TPOは弁えてよー」

 

「なっ!?ネプテューヌ!私は別にイツキとそういうことをしているんじゃないわよ!」

 

「ノワールさんとイツキさんは仲良しですね」

 

「コンパ!?あなたまでも!?」

 

「はいはいストップストップ。ノワールとイツキも自重して、ネプ子もあんまりからかわないの」

 

話し逸れまくりの状況を止めたアイエフはとりあえずその場を宥める。ノワールはまだ何か言いたげだったが口を噤んで我慢した。

 

「私としても、イツキが話したくなければ別に今は話してもらわなくてもいいわ。それよりも、聞きたいことがあるの。ネプ子、鍵の欠片を出して」

 

「はーい」

 

ネプテューヌはアイエフに答えて懐から何かの欠片のような物を取り出した。欠片と言うからにはバラバラになったパーツを元に戻せば形ある物に戻るのだろうが、ノワールとイツキにはその形は想像出来なかった。

 

「これ、鍵の欠片って言うんだけど、ノワールとイツキはこれと似ているような物を見たことある?」

 

「……いえ、私は初めて見るわ」

 

「僕もこんなアイテムは見たことがないな」

 

「そう……。イツキなら何か知っているとは思ったんだけど」

 

「?僕が?どうしてさ?」

 

「これ、イツキの言っていたオバさん……マジェコンヌだったかしら?そいつが落としたものだったのよ」

 

「!!それ、どう言う用途で使うの?」

 

イツキはそのアイエフの言葉を聞いて驚き、次いでその鍵の欠片がもたらすものについて聞いた。その鍵の欠片をマジェコンヌが持っていたのなら、もしかしたらマジェコンヌの目的が何か分かるかもしれないと期待して聞いた。そしてその問いに答えたのは鍵の欠片をブンブン振り回しながら言ったネプテューヌだ。

 

「ふっふー!聞いて驚かないでよー!何と!この鍵は何処かにいると言ういーすんの封印を解くための鍵の一部なのだー!」

 

「「「「…………」」」」

 

高らかに言うネプテューヌは何も知らない人、つまりはノワールとイツキからすれば、それこそさっきネプテューヌが言っていた痛い人にしか見えなかった。辺りに満ちるネプテューヌを残念に思うために沈黙していた。

 

「……ねえ、この子頭大丈夫?」

 

最初に静寂を破ったのはノワールであり、そのノワールの呆れを皮切りに

 

「手遅れね」

 

「手遅れだね」

 

「?手遅れです?」

 

最後の人に関してはネプテューヌが鍵の欠片のことを知っているためか、何故ネプテューヌがこんな言われをされているのか理解は出来なかったが、何と無く回りに合わせた結果こうなったのである。コンパちゃんマジ空気読める。

 

「ちょっと!皆幾らなんでも酷いよ!いくらわたしでもそんなことを言われたら怒りを隠せないよ!遺憾の意だよ!」

 

「微妙に使い方があっていることがまた腹立たしいわね」

 

「うん。ノワールさんに同意」

 

「ムキー!!ノワールもお兄ちゃんも揃いも揃ってー!!」

 

両手を挙げてオーバーアクションで怒りを表現しているネプテューヌに、ノワールとイツキは更に呆れてしまう。

 

「はいはいちょっとネプ子。このプリンあげるからちょっと黙ってなさい」

 

「わーい!あいちゃんありがとう!!」

 

しかしアイエフがどこから持ち出したのか手に持っているプリンをネプテューヌに渡すとコロッと態度を変えて嬉しそうに近くのテーブルに座って美味しそうにプリンを食べていた。

 

「女神が餌付けされてる……」

 

「同じ女神として恥ずかしいわね……」

 

イツキとノワールにとって食べ物でネプテューヌを上手く話から外す光景はどう見ても餌付けであった。

 

「そう?私としては、餌付けで簡単にコントロール出来るくらいが丁度いいわ」

 

餌付けをした張本人と言えば全く悪びれていない。そんな様子のアイエフにイツキとノワールは苦笑いする。

 

「そう言えば、アイエフさんはナスも持っていたよね。こういう時の為にプリンも常備していたの?」

 

「いいえ。ナスは常備しているけど、流石にプリンは持ってはいないわ」

 

餌付けするからにはご褒美用(プリン)お仕置き用(ナス)を常備しているとイツキは思っていたのだが、予想外にもお仕置き用(ナス)しか無いらしい。当然、それでは今ネプテューヌが食べているプリンとは一体何なのか疑問が沸く。そのことをアイエフに聞いてみたところ次のような返答が

 

「あーあれ?ネプ子がさっき食べていた食べかけのプリンを渡しただけよ」

 

「「…………」」

 

アイエフの答えにノワールとイツキは黙りこくり、今も夢中でプリンを食べているネプテューヌを見た。何を思ったのかは本人達にしか分からないが、ただ2人はネプテューヌのことを哀れみのこもった視線で見ていたとだけ書いておこう。

 

「それじゃ、とりあえず今後のことを話しましょ。ノワールはこの後どうする予定なの?」

 

アイエフの言葉を聞き、とりあえずはネプテューヌから視線を外した2人。そしてノワールはアイエフの質問にはあらかじめ決められていたように淀みなく答えた。

 

「そうね。私はシアンの所で工場の復興の手伝いをするわ。それからアヴニールの調査ってとこかしら」

 

ノワールはラステイションの女神、ブラックハートだ。自国の問題を放って置くことは出来るはずが無い。当たり前のことであった。

 

「えー!?ノワちゃん一緒に来てくれないの!?」

 

「ノワちゃん言うな!」

 

しかしその当たり前なことに気づかないネプテューヌはプリンを食べながらもあからさまに驚く。パーティに入った時点でずっと行動を共にすると考えていたようだ。最もこの考え方の先駆者はネプテューヌの隣で驚いているコンパではあるが、流石に事情のある人を無理矢理連れ出すようなことはしない。

 

「あのね、ネプテューヌ。さっきも言ったけど、あなた達に鍵の欠片を探すと言う目的があるように、私にもこのラステイションの女神としてやることがあるのよ。下町の工場の復興にしても、アヴニールのことも含めてね。それらを放って置くわけにはいかないわ」

 

「それじゃあノワールさんは、自分が女神であることをシアンさんとか下町の人たちに伝えるの?」

 

「まだそれは早いわ。アヴニールに権力を奪われた今、私の正体を明かしたところで不安を煽るだけだし。だから、もう少し自分なりに頑張ってみてから明かすことにするわ」

 

「何か作戦でもあるです?」

 

「そんなものはないわ。けど、少しずつでもこの大陸に住む人たちの為に尽くそうと思ってるわ」

 

「さすがラステイションの女神、ブラックハート様ね」

 

「様付けなんてしなくていいわ。さっきイツキにも言ったけど、これまで通りに接して欲しいわ。それで、アイエフたちはどうするのよ?」

 

と、そこでホテルの部屋の扉がギイと鳴り、一同は扉の方へと注目した。

 

「邪魔するよ。……っと悪い。取り込み中だったか?」

 

「大丈夫よ、シアン」

 

扉を開けて入って来たシアンは、上がり込んですぐにベットの方へと視線を向けると、既にそこには先ほどのような傷が嘘のように健康そのもののようなイツキの姿を見てシアンは安堵のため息をつく。

 

「イツキ、起きたのか……。良かった。あの時のお前は全然目を覚ますようには見えなかったからな。安心したよ」

 

「心配掛けてごめんなさいシアンさん。ところで、シアンさんはどうしてここに?」

 

「ああ。とりあえず、お前達に報告したいことがあってだな」

 

シアンはとりあえずイツキの許可を得て、イツキの腰掛けるベットの隣に座った。

 

「……それって、シアンの工場のこと?」

 

「シアンさん、工場は大丈夫なんですか?」

 

「俺の工場は大丈夫なんだけどな……下町の俺と同じ同業者の奴らの工場が幾つか……いや、結構多くやられちまって完全にお手上げ状態らしいんだ。そいつらには何度も世話になったことがあるし、当分はそいつらの工場の復興を手伝おうと思ってる。博覧会の武器改良は暫く後回しだ」

 

「……」

 

その報告を聞いたイツキは少し俯き沈んでしまった。イツキは責任感の強い人間だ。イツキはイツキなりに精一杯下町の工場を守ろうとはしたが、それでも守りきれなかった工場がある。それらを守れなかったのは己の実力不足とイツキ自身は考えていた。ビットの自爆を避けられなかったのは自分の不注意であり、キラーマシンを倒せたのだって自分一人の実力では無い。そうネガティブな思考に入り込み、イツキは落ち込みを隠せなかった。

 

「イツキ」

 

そんなイツキの様子に気づき、俯くイツキの頭にポンと手を置いたのは、シアンだった。

 

「そんなしけたツラすんなよ。責任感強そうだし、守りきれなかった工場のことを悔やんでいるんだろ?」

 

「……実際、僕の力量不足のせいだよ……」

 

どこまでもまるで自分のもののように責任を抱え込もうとしているイツキに、シアンはため息をついた。

 

「あのな、イツキ。確かに工場を壊されちまった所はある。だけど、無事だった所もあるんだ。お前がいなかったら、その無事な工場まで壊されちまった可能性があるんだぞ?」

 

そして俯くイツキの顔をシアンはゆっくりと持ち上げて、イツキの瞳をまっすぐに見つめた。

 

「別に後悔をするなとは言っていないんだ。お前が守りきれなかった物のことを悔やむなとは言わない。だけどな、お前が居たから無事な物もある。お前はその事を誇っていいし、守られたものから感謝をされる権利もあるんだ。だから、俺はお前に礼を言うよ。俺の工場を守ってくれてありがとな」

 

そのシアンの言葉はイツキの心に響いたようで、イツキから負の感情は少しづつ抜けていった。シアンの言葉に援護をかけるようにノワールやネプテューヌ達が続けて言葉を紡ぐ。

 

「そうよイツキ。ちょっとあなたは気負いすぎよ」

 

「そうだよお兄ちゃん!そんなに責任ばっかり感じていたら、風邪をこじらせてノイローゼになっちゃうよ?責任なんてその辺に放っぽって、気楽に生きようよ!」

 

「……ネプ子の言い分はちょっと極端だけど、アンタはシアンたちを逃げることなく守ったのよ。それって凄いことだわ」

 

「イツキさんは責められるようなことはしてないです。寧ろ、褒められることをしたですよ」

 

その場にいる者たちの励みを聞き、イツキの顔から落ち込む様子は消え、自然と顔を綻ばせた。

 

イツキ自身から、後悔の念が消えたわけでは無い。ただ、自分を励ましてくれる者たちの優しい思いを感じ、どこかくすぐったかたったのだ。

 

「……ありがとう。皆」

 

イツキは、今日は謝ったり感謝したりばっかしているなと感じたが、発した今のイツキの本心だった。

 

イツキの言葉を聞いて、誰も返答はしない。だが、皆イツキに微笑みかけていた。言葉なんて要らなかった。

 

そしてアイエフさんはまた1つ咳払いをすると、シアンの報告から自分たちのこの後の行動を決める。

 

「ま、とりあえずシアンにそういう事情があるのなら、私たちの仕事も当分はなくなるわね」

 

「すまないな」

 

「なら、私たちは一旦プラネテューヌに帰ろうかしら」

 

「そうですね。お仕事もなく、鍵の欠片の手がかりもないんじゃ仕方ないです」

 

「そういう訳だから、預かっていた武器は返すね」

 

とりあえず、ネプテューヌ、アイエフ、コンパの3名は一旦プラネテューヌに帰るという方向に決まり、ネプテューヌはシアンに頼まれていたモニター対象の武器を実体化させると、鞘に収めてシアンに渡した。

 

「おう。博覧会が近くなったら寄ってくれよ。その時にまた、武器のモニターをお前たちに頼みたいからな」

 

「それなら大歓迎だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえノワール?お兄ちゃん?本当に一緒に来てくれないの?」

 

ホテルをチェックアウトした後、ホテルの出口でネプテューヌは再度僕とノワールさんに問いかけていた。

 

「あのね……別に今生の別れじゃあるまいし、いつでも会えるわよ」

 

「僕もちょっとルウィーに戻って報告をするだけだし、連絡先はアイエフさんと交換したよ?」

 

そう。僕は1度報告にルウィーのレジスタンスの拠点に戻ることにした。ルウィーにいた頃に契約していた携帯電話はあったが、アヴニールがマジェコンヌの支配するルウィー教会と繋がっている以上、盗聴される可能性も考えてのことだった。と言っても、報告を終えたらすぐにプラネテューヌかリーンボックスに行く予定なので、その時にまたネプテューヌ達と合流することは伝えたのだが、ネプテューヌは最後まで我儘を言っていた。

 

「でも、せっかくノワールと友達になれたしお兄ちゃんとも奇跡の再開を果たしたと思ったんだけどなぁ……」

 

「……突っ込まないからね?」

 

……それにネプテューヌと一緒にいるとツッコミが大変だ。帰っているうちにスルースキルを身につけないといけないな。

 

「ねぷねぷ、わがままを言っちゃ駄目ですよ?まだラステイションの鍵の欠片も見つかっていませんし、また来ればいいだけです」

 

「そうね。他の大陸に行った後にまた来ましょ」

 

ネプテューヌの我儘を咎めるコンパさんとアイエフさん。その2人の言葉に渋々ネプテューヌは引き下がる。

 

「その時は喜んで歓迎するわ。……あぁ、それとネプテューヌ。自分が女神だってこと、あまり公表しないほうがいいわよ。他の国がどうかわからないけど、どの国もラステイション程ではないにしろ、問題は抱えているって聴いてるわ」

 

「そうね。自らトラブルの原因にはないたくないし、当分は女神であることは隠しておきましょ」

 

その辺はアイエフさんも理解しているようだ。これなら本人が理解をしていなくても問題は無いだろう。

 

「もう、そんなの分かってるよー。悪代官や越後屋を追い詰めた時に、余の顔を見忘れたかーって台詞と一緒にバラせばいいんでしょ?」

 

「「「…………」」」

 

口をポカンと開けて絶句した。アイエフさんもノワールさんも似たような反応をしていた。多分2人とも僕と同じで急激に心配になってきたのだろう。やはりついていった方がいいのだろうか?

 

「じゃあ、わたしは紋所をもって‘‘控えおろー’’ってやるです」

 

「あ、それいいよこんぱ!でもってあいちゃんが、‘‘この御方を誰と心得る!’’って続くんでしょー」

 

唯一ノリが良いのか素でやっているのか(恐らく後者)は分からないが、コンパさんもネプテューヌのお巫山戯に付き合っていた。

 

「……アイエフ、こんなパーティで大丈夫?」

 

「大丈夫よ、問題ないわ……って言いたいところだけど、不安しかないわ……」

 

「……あいつは人の話を聞かないからなぁ」

 

死亡フラグまで立ててしまったが、色んな意味でこのパーティのことが心配になってきた。

 

「……まあ、こっちはこっちで頑張るわ。それじゃあね。コンパ、ネプ子。行くわよ」

 

「はい!分かったです!」

 

「はーい!」

 

アイエフさんは2人に呼びかけると僕たちに背を向けて歩きだし、ネプテューヌとコンパさんもその後に続いた。

 

「それじゃ、僕もそろそろ行くよ」

 

「えぇ。また会いましょう」

 

ノワールさんとの短い挨拶を済ませ、僕もネプテューヌ達の進んだ方向とは逆の方向へと歩き出した。

 

「ノワーールーー!!お兄ちゃーーん!!」

 

ある程度進んだ頃に、後ろからこだました声が響き、振り返るとネプテューヌが両手を大きく振りながら叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会おうねーー!!!絶対だよーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再会の約束の言葉。別に、これから会うことが難しくなるわけでは無い。だから、ネプテューヌのこの言葉はいつでも会えるという意思表示なのだろう。それこそ、明日会えるような勢いの。

 

前を見れば視界に入るノワールさんも手を振ってネプテューヌに答えていた。

 

 

「ええ!また会いましょう!」

 

 

 

 

 

だから、僕は右腕を上げて

 

 

 

 

 

 

「ああ!また会おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕たちはそれぞれの目的のために、それぞれの指針を進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、目的は違えど、僕らは仲間であり、友達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからすぐにまた、再会できるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー 第ニ章 大罪人と女神の邂逅 完 ーー

 

 

 

 

……to be continue




はい。皆さん作者のアルテマです。こんにちわ。

やっとこさ第2章が完結しました。こんな調子では完結には百話以上は書く必要があるのでは……と、この頃思う作者です。

さてさて事務的連絡。実は作者は受験生。入試が近くなってまいりました。夏休みは何とかやりくりしていましたが、正直そろそろペースダウンする時期です。その証拠に書き溜めは既に尽きましたw

そんな訳で更新ペースは落ちますが、失踪はしないようにし、1日二千文字をペースに書こうと思います。

では最後に第3章でのヒロインにコメントをいただきましょう。それではよろしくお願いします。


ベール「はーい!皆さんこんにちは、私はリーンボックスの女神のグリーンハートこと、ベールでーー」


ブラン「次のヒロインは、私よ」


ベール「」


ブラン「フッ……幾らベールでも今回はサブ。メインに勝てる通りなど無いわ……(よし!勝った!)」グッ!


ではでは、次は第三章でお会いしましょう。


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