両親をなくした俺は、親戚に引き取られた。
親戚達は別に俺のことを煙たがったりはしなかったが、腫れ物に触れるのは避けるように、あまり俺とは関わらなかった。
親戚達は、俺の両親が死んだ時本当に悲しそうだった。血のつながりを持ち、会うこともあったのだから、当然と言えるが
でもこの人達でさえ、もういつも通りの日常を送っている。
そう、本当に何事もなかったかのように平穏に、静かに……
「だあぁぁぁりゃぁあああ!!」
全力で投合した丸型の機械が、宙に浮く、丸型の機械より少し大きめで背中にアンテナのようなものを展開している機械にぶつかり、爆発する。爆発自体は小規模なために周りを巻き込むことは無かった。
「…ビッ……ビー」
「!」
後ろから機械特有のアラートのような音が聞こえ振り返ると、丸型の機械が目前にまで接近していたことに気づき、咄嗟に全身硬化をする。
「…ビー!」
そして次の瞬間に耳が劈くような爆破音が目の前で起こり、爆破による突風が砂を巻き上げ、破片が自分へと降りかかる。が、硬化した体はその破片を全て弾く。
「……ふむ。やはり効きませんか。それにしても、ビットの自爆を受けても傷ひとつ無いとは、流石は危険種をほぼ1人で倒すことのできる実力の持ち主……と言ったところでしょうか」
土煙が晴れる頃、僕が無傷であることを目視したガナッシュは感心している。その感心する心の余裕があることに少し腹立たしく思う。が、そんなことを思う時間すら今はない。僕はすぐにガナッシュから視線を外し、またも下町を壊そうとするキラーマシンへと駆け出し、振り下ろされた大槌を持つ手を部分硬化した足によって蹴り出し軌道を逸らした後、的の大きい胴体を蹴り出し、少し仰け反ったキラーマシンにすぐに飛び乗り、硬化して地面に押さえつける。
一見僕は敵を圧倒しているように見えるが、正直に言うと僕は少し劣勢にある。と言うのも、このようなやり取りを既に何度もやっているのだ。具体的に言うと、ガナッシュの持つディスクから小型の機械が現れ、僕を攻撃し、その間にキラーマシンが下町を壊そうとする。それを防ごうとキラーマシンに駆け寄れば、さっき自爆した(ガナッシュはビットと呼んでいた)物と同一の機械が僕に肉薄し、自爆をしてくる。相手が機械と言うこともあり、相手の動きを読みにくいのも手こずっている要因だ。
爆発自体は小規模なのだが、爆発によってばら撒かれる破片が剣のように鋭く、さながら『破片手榴弾』のような役割を担っていた。よく映画などの表現では、手榴弾は爆発ばかりに目がいくが、あの爆発は誇張表現であり、本命はその爆発によってばら撒かれる破片なのだ。生身の人間が食らえば一溜まりもない。僕でも硬化無しで食らえば手足の1、2本はもぎ取られるだろう。
しかも、だ。ただでさえこの自爆ビッドだけでも手を焼くのに、キラーマシンのタフさも凄まじい。通常の部分硬化の攻撃をしてやっと動きを止める程度であり、機械そのものを停止できる程のダメージを与えられないのだ。もっと硬化の硬度を上げ、重力に乗せて攻撃すれば多少は効くかもしれないが、自爆ビットがある手前、そう安安と硬化のエネルギーを無駄には出来ない。しかし幾ら倒してもあのガナッシュの持つディスクから次々と兵器が現れて、硬化することを余儀無くさせるために、こんな調子じゃあと10分程度しかもう持たない。
そんな理由で未だに敵に決定打を与えられず、逆に少しづつ僕は追い詰められていた。
「では、今度は4体同時に。行け、R-4!ビット!」
ガナッシュはまたも手に持つディスクから兵器を呼び出す。それを見た僕は無駄だとは思うが念のために真下のキラーマシンを一発殴り、キラーマシンから飛び降りてガナッシュの元へと向かう。ディスクから現れた4つの兵器は僕を発見すると、それぞれが話し合うようにセンサーをチカチカ光らせると、所定の位置につく。
2体のR-4と呼ばれた兵器達は僕を挟み撃ちにするように囲い、それぞれのR-4の傍らにはビットがついている。
そして2体のビットはR-4に触れ、電流を流していた。恐らく、パワーやスピードを無理矢理引き上げているのだろう。電流が止む頃にはR-4は時々痙攣するようにビクッと震えながら、標的である僕を捉えている。
「ビッ……ガガッ…ビー!」
やがて片方のR-4は僕にその両手のような形の銃口を僕に向けた。それを見た僕は咄嗟にバックステップをした。ここで硬化をして銃弾を弾き、力技でR-4達をねじ伏せる考えはあったが、相手の現時点での残りの戦力が分からない今、それは得策では無いと思い、硬化は自重した。瞬間R-4の2つの銃口からマズルフラッシュが次々と起こり、僕の元々いた場所を蹂躙する。バックステップをする僕を銃口で追うR-4を見て、周りの比較的遮蔽物になる大きな瓦礫の影に隠れた。
僕の隠れた遮蔽物に銃弾の嵐が降り注ぐ。が、瓦礫はそれら全てを弾いてくれた。鉄を貫通する徹甲弾じゃなくて良かったとホッとする。
しかしその安堵も束の間のだった。
「……ビー!」
「!?
気付けはあのビットが僕の隠れる遮蔽物を避けて、既に目の前にまで迫っていた。センサーが赤く点滅し始めているのを見るや否やすぐさま全身を硬化する。
いい加減聞き慣れそうな爆破音が、目の前で響いた。ビットが密接していために隠れていた遮蔽物が吹き飛ばされる。そして降りかかる鋭利な破片。肉体にダメージは無いが、着ている服は所々が破片より千切れ、爆発の炎によって焦げていたりもした。
「くっ……!」
遮蔽物が無くなったことにより、あのR-4は僕を確実に狙うことが出来る。もう片方のR-4からも援護射撃をされ、掃射をされては一溜まりもない。それを避けるために僕は爆風によって巻き上げられた土煙に隠れながら、別の遮蔽物を探そうとしたが、予想を裏切るように破裂音が響いた。
「なっ…くそっ!!」
銃声が聞こえた瞬間、僕は足をバネのようにして地面を蹴り、前に飛ぶ。自分のいた場所に多数の穴が出来上がった。
(……そうか。機械だから視覚で僕を追っているんじゃないのか。だからこんな視界の悪い中で正確に僕の位置を……)
恐らく、サーモグラフィか何かで僕を認識しているのだろう。だったら僕がこの土煙の中にいても、ただ僕が不利なだけだ。僕はその場でまだ壊されていない建物の屋上に飛び上がり、銃声が聞こえた方向に視線を向けた。未だに土煙は漂っているが、幸いにも建物の屋上までには届いておらず、土煙の外側にいるR-4をすぐに見つけることが出来た。
当然向こうはこっちを認識し続けているので、そのR-4は銃口をこちらに向けた。僕は向こうが発砲するまえにR-4へと高く飛び上がった。そして鳴り響く銃声。しかし狙った場所を打つ頃には僕は既に空中にいた。空中に僕がいることを感知したそのR-4は撃ちながら銃口を空中に向ける。だが、機械故か銃口補正スピードは遅く、向こうが銃口をほぼ真上に上げた頃には僕はR-4の後ろに着地していた。
「てりゃああ!!」
そして振り返ると同時に回し蹴りをR-4に決めた。空中に浮いているR-4はバランスを崩して銃撃を止められ一回転した。そして僕はバランスを崩しているR-4に対してハンマーナックルをして地面に叩きつける。
「ギ、ギギ……」
地面に叩きつけられたR-4はノイズのような音をし、機能を停止した。
「よし、次!」
僕はすぐにもう一体のR-4を探した。土煙が晴れているため、こちらに銃口を向けているR-4をすぐに見つけることが出来た。
「よっと!」
銃声がまた鳴り響くが、僕はそれを空中にジャンプして避けながら同じ様な方法でR-4へと肉迫する。こちらのR-4も例外なく、銃口補正が遅いためか僕に銃弾は1つも当たらなかった。
「たあっ!!」
そして振り返りざまにもう一度右足で回し蹴りを決め、ふらついたR-4にトドメを刺そうと考えていた。
しかし、僕は忘れていたことがあることが、この時には気づかなかった。
振り返りってかました右回し蹴りが、丸い何かを捉えていた。それが何なのかを知っているからこそ、僕は凍りついた。
「ビー…ビー…ビー!」
無慈悲なアラート音と共に、けたたましい爆破音が、目の前で起こった。
◇
「あいちゃーん。出口まだー!?もー動けない!」
「私もヘトヘトですぅ……」
先ほどモンスターディスクから現れたモンスターを倒し、その元凶のディスクを壊したので、これ以上モンスターは増える筈は無く、さっさと脱出できると踏んでいたネプテューヌとコンパだったが、モンスターとのエンカウントは相変わらずであり、前より頻繁にはエンカウントすることはないのだが、一向に前に進めず、元々体力のない2人はへばってしまった。
「また?それと同じようなセリフをもう何度も聞いてるけど、あんたたち体力無さすぎよ」
「だってほら、わたしってゲーム大好きなインドア派だし。森ガールならぬ部屋ガールってやつ?」
「……ハァ…馬鹿言ってないで、少しはノワールを見習ったらどう?……って、あら?ノワール?」
アイエフはニート宣言をするネプテューヌに呆れ、まだ体力のあるノワールを模範として引きありに出そうとしたが、いつの間にかいないことに気づいた。
「ねえ、みんな。ちょっとこっちに来てくれない?」
その直後、ここからそう遠く離れてはいない場所からノワールの呼びかけが聞こえた一同
「ノワールから呼ぶなんて珍しいね。どうしたんだろう?」
ネプテューヌが言うように、ノワールはあまり人を呼ぶようなことはしなかった。とりあえずアイエフは座り込んでいるネプテューヌとコンパを立たせると、ノワールの声の聞こえた方に向かった。
「待たせたわね。どうかしたの?」
「この壁のやつ、もしかしたらさっきあなたが壊したディスクと同じ物じゃないかしら?」
ノワールが指差した壁。そこには確かにアイエフ達の見たモンスターディスクが取り付けてあった。
「……嘘でしょ。同じ場所に2枚もあるなんて」
「っていうことはー、他にもたーっくさんあるってこと!?プラネテューヌのは1枚だけだったのにこっちの方が多いなんてルール違反だよー!」
「はうぅ……。どうりでモンスターさんが減らないわけですね……」
モンスターが減らず、中々でられないことに納得したネプテューヌ達。1枚壊したことで多少出る数は減っても、これでは確かに進行スピードも遅れる物である。
「こんなもの見つけていつまでと放置できるものじゃないわ。壊すわよ」
アイエフは言うや否や壁のディスクを手に取り、両手で真っ二つにしようとした。
「あ、あいちゃん待って!」
「え?」
ネプテューヌの制止が聞こえる頃には時すでに遅く、バキッと言う音とともにディスクは真っ二つになった。それを見てネプテューヌは見るからにテンションがダウンしていく様子がわかる。
「あ、あー……そのディスク、割るんだったらわたしに割らせて欲しかったよ……」
「は?どうしてよ?」
「ほら、ディスクって、1回は割ってみたかったんだけど、自分の物だとなかなか抵抗があって、やったことがなくてさー。けど、このディスクなら、そこら辺抵抗なく、気持ち良く割れる気がしたんだけど……あいちゃん人の制止を振り切りるんだもん……」
何か気になることでとあったのかとアイエフは思ったが、ただ単純にストレス発散のような用途で、単純に自分が割りたかったと言うネプテューヌにアイエフは呆れた。
「あのね、これは遊びじゃないのよ」
「けど、かの有名な格闘家のなんとか三四郎さんって人も真面目に遊ばない人には体で覚えさせるぞーって歌ってるよ。だから、遊び感覚でもいいと思うんだ!」
「……前々から思ってたけど、あんたの記憶喪失は時々疑いたくなるレベルね」
「それなのに……あいちゃん……」
「あー分かったわよ。適当に空のディスク幾つか、買ってあげるから、その泣きそうな顔をやめなさい」
「わーい!あいちゃんありがとう!あいちゃん大好きー!」
さっきまでのテンションの下がり具合はどこへやら。ネプテューヌは飛び上がって喜び、アイエフに飛び付く。そんな様子を見てノワールはアイエフをねぎらう。
「……手慣れてるわね」
「お陰様でね……」
「?」
このやり取りにコンパはクエスチョンマークを浮かべているが、何だかんだ言ってコンパもアイエフの手を焼かせる子であるのだが。
「ほらネプ子。喜ぶのは後よ。とりあえずここから脱出するのが先決よ」
抱きつくネプテューヌを宥め、一行はもう一度出口を探して奥へと進み始めた。まだディスクがある可能性はあるが、先ほどよりは進みやすくはあるだろう。
「……そう言えば、今イツキはどうしているのかしら?」
「そう言えばあなた、今朝シアンにイツキにこの場所に来るように伝言を頼んでいたわね」
アイエフはイツキにこの場所に来るように伝言をしていた。もしかしたらこの場所に来ているのかもしれないと考えた。
「うーん……来るかどうかは不確定だし、入り口から動き出しちゃったから、イツキがここに来てもあまり意味はないんじゃ無いかしら?」
「そうじゃなくて……その、何て言えばいいのかしら?何か引っかかるのよ……。何に引っかかっているのかはわからないんだけど……」
ノワールはここにイツキが来ている可能性があっても、あまり意味は無いことを指摘するが、アイエフはそれとは違う何か喉元に来てはいるが、それが何かのかはわからず、そんな不快な思いをしていた。
その言葉を聞きネプテューヌは
「あーあ、あいちゃん。ダメだよそんなことを言っちゃ」
「え?」
「だってさ?ただでさえあいちゃんはさっきフラグ踏んでいるんだよ?そんなあいちゃんがフラグめいたこと言ったら、悪いことが起きちゃうよ?」
◇
「っ……くっ…!」
土煙が舞う中、僕は血だらけの右足を抑え、貫くような痛みに耐えながら仰向けで倒れている。
あのR-4の影になっていて、近くにビットがいることに気づかなかった僕は、すぐさま全身硬化をしたが、回し蹴りを放ったことによりビットに触れていた右足には硬化が間に合わず、自爆の直撃を食らってしまった。至近距離で爆発したために右足は焼かれ、破片で切り裂かれ、今も土煙が落ち、傷口に触れるたびに痺れるような痛みが襲う。
「おやおや……。その様子では、もう右足は使い物に鳴らないでしょうね」
その場で長い間呻いていたために、既に土煙は全て舞い落ち、気の毒そうに言うガナッシュをこちらからも見つけることが出来た。
「それにしても、単身であの数の兵器を破壊するとは、さすがと言うべきですね。こちらの兵器も丁度切れてしまいました。危ない危ない」
ガナッシュは手に持っていたディスクを放り投げ、懐からデバイスを取り出し、操作をする。そしてガナッシュの後ろからキラーマシンが、のっそりと現れ、僕の眼前に現れる。
「しかし、あなたもここまでのようですね。……キラーマシン」
呼びかけられたキラーマシンは、それが何を示すのか分かっているかのようなスムーズさで、大槌を高く振り上げた。その目標は、動けない僕。
「やれ」
そのガナッシュの一言で、キラーマシンの腕が高速で僕に振り下ろされた。
大槌が、目の前に迫っていた。