超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第19話 渦巻く疑惑と信用

両親の通夜の時、周りの人は皆泣いていたり、悲しげな表情を浮かべていた。

 

それはそうだ。人が死んだんだがら、悲しいのだ。

 

例えそれが、虚構でも、悲しいフリをしなくちゃいけない。

 

それに腹が立つ。こいつらは所詮何も思っちゃいない。

 

本当に悲しんでいたって、数日経てば忘れてしまうだろう。

 

今こいつらがやっていることは俗に言う『空気を読む』と言う行為だ。

 

定型的な文にするなら『人が亡くなったので空気を読んで悲しんだ』と言うことだろう。

 

俺はその式の最中、ずっと無表情だった。

 

両親を亡くした。悲しいことだ。実際悲しいと思っている。

 

なのに、涙は出なかった。

 

悲しい筈なのに、悲しい証の涙は流れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒み切り、穴だらけの心には、他人のために泣くほどの余力は残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……」

 

ラステイションのとあるホテルの廊下で溜息をこぼしながら螺旋階段を登るその人間イツキは、自分の意味のわからない言動を会って間も無い少女達に喋ってしまった。

 

「何が塩飴の成るステキな木なんだ……僕は馬鹿なのか?」

 

山道の途中で生えていたらいいものなんて現実的に見ても山葡萄だろうと、そこはあまり関係ないことも考えていた。

 

今イツキはネプテューヌ達と共に行動はしていない。ネプテューヌ達はクエスト報告の後、どうやら外食に行くらしく、そこにイツキも誘われた。

 

その際ノワールはどうも煮え切らない態度を取っていて、最初こそその意味を別の意味(悪い方)で捉えていて少しヘコんでいたイツキだったが、外食する場所を聞いてすぐにノワールの態度の理由を理解した。

 

その外食をする食堂は下町にあると言う点だ。聞いた話では下町の人々はアヴニールの圧政のせいで商品が売れず、生活維持のために副業を兼業するところが殆んどらしい。つまりこの食堂は下町の工場の人間が副業としてやっていると考えられるだろう。

 

アヴニールの仕事を受けている以上、あまり下手な動きは出来ない。それこそ見られたら敵と判断され、今後依頼を受けることは出来なくなってしまうかもしれない。それにも関わらず下町に行くのには恐らくそれなりの理由があるのだろう。

 

例えば、アヴニールの依頼を受けての報告とか。

 

確かにアヴニールの手先と考えられている以上、あまりその場所に来られるのは良いとは思われないだろう。

 

ではイツキが1人でホテルに帰って来たのはそのお誘いを断ったからかと言われれば、答えはNOである。

 

当初イツキは適当な理由をでっち上げ、断ろうとはしていたが

 

『いいからいいから〜。今日一緒に仕事したんだし、お祝いしようよ!』

 

とか

 

『私お兄ちゃんと一緒にご飯食べたいし!』

 

等と宣ったのは言わずともわかるネプテューヌ氏である。何か目的があるのか、ただ気に入られたのかは分からないがやたらとイツキを誘っていた。

 

『別に無理にとは言わないけど、ご飯は皆で食べた方が美味しいわよ?』

 

『私もそう思うです』

 

アイエフとコンパも別にイツキが来ることに反対はしてはいなかった。

 

『そ、そうかしら?イツキは用事あるって言ってるし、別に無理して誘わなくてもいいんじゃないかしら?』

 

少し焦りを感じられる声でイツキの意見を尊重しようとしているのはノワール。因みにその理由はイツキの考えているものと同一である。

 

『えー?何でー?ノワールどうしてそんなこと言うの?何か理由でもあるの?』

 

『うっ……そ、それは……』

 

ネプテューヌの少し唇を尖らせたその言葉にノワールを息を詰まらせ、チラッとイツキを見ていた。当事者の前では言えないのであろう。

 

そして気がついたら既にイツキは共に外食することは確定事項となっていた。

 

では何故今イツキはホテルに居るのかと言うと、イツキは不必要な金銭を持ち歩くのには抵抗を感じ、最低限の金銭だけ持つと残りはホテルの自室の金庫に入れていたため、外食するには心許ないないので一度取りに戻ったのだ。

 

因みにここでバックレるという選択肢をイツキは一瞬考えたがすぐに否定した。

 

「……後で何されるか……いや、何を引き起こすのか分からないしね……」

 

危険種を単独で倒す人間でも、あの集団視線攻撃には耐えられないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、皆ちょっといいかしら」

 

その頃イツキと別れ、道中を行くネプテューヌ達一行の中でノワールは皆に向けて話しかけた。

 

「んにゃ?何ノワール?私のスリーサイズだったら教えてあげないよ」

 

「誰も聞いてないし、聞きたいことがあるんじゃなくて聞いて欲しいことがあるのよ」

 

ネプテューヌのボケをさっさと振り払うノワール。その神妙な顔つきから話の内容を察したのはアイエフだ。

 

「……それって、イツキ関連のことかしら?」

 

「あら、貴方も彼のことについて考えていたの?」

 

「まあ、最初こそ疑いはしたけど……」

 

「……?2人ともイツキさんがどうかしたですか?」

 

アイエフとノワールの話始めた内容をコンパは理解できていないようで、唇に人差し指を当てて疑問を口にしていた。

 

「要するに、ノワールはイツキはアヴニールの関係者では無いのかって考えているのよ」

 

「えーー!?」

 

「ななななんですとぅー!?実はお兄ちゃんはどこぞのデイビッドな蛇の如く、敵地に単身侵入し、破壊工作しまくる諜報員(エージェント)だったの!?」

 

「それとはまた意味が違うわよ……そうね、この場合は密偵(スパイ)とか監視員(オブサーバー)ってところかしら?」

 

イツキへの疑惑が浮上し、一同は歩むのを止めて話題の提供者であるノワールに注目する。

 

「だってあの男、最初からあのアヴニールの2人の所にいたし、ガナッシュってやつからはそれなりに信用されているみたいだったわ。もしかしたら向こうは私達と同じようなことを考えている人がいるって、監視役をつけているんじゃないかしら?」

 

ノワールは皆の注目が集まった所で自分の意見を告げる。それに対しての3人の顔つきはそれはどうなのか?というその意見には賛同しかねるものであった。

 

「そうですか?私にはイツキさんは悪い人には見えなかったです」

 

「確かに私も最初はそれは思ったけど……長年の旅で築き上げた経験で分かるわ。イツキは悪いやつじゃない」

 

「お兄ちゃんは私にフルーツ牛乳を奢ってくれたから、悪い人じゃないよ!」

 

その3人の回答にノワールはやや呆れて両手を上げながら

 

「誰1人としてイツキがアヴニールとは関係が無いって確実なことは言えてないじゃない……」

 

「でもでもー、お兄ちゃんはアヴニールの関係者ってのはまだ疑われているって段階だよねー?」

 

「うっ、それは……」

 

ネプテューヌの珍しく的を得た論破に、またも声を詰まらせるノワール。そこにアイエフとコンパは援護を入れる。

 

「とりあえず、今は様子見でいいじゃないかしら?もしも何かあっても、皆でとっちめればいいじゃない」

 

「イツキさんはいい人ですよ〜」

 

「……仮に何かあったとして、どうするつもりなの?」

 

未だ不安を拭いきれないノワールはアイエフ達に不測の事態への対処法がどんなものか聞いた。

 

「そこは看護学生のコンパにお願いするわ」

 

「任せてくださいですあいちゃん。もしもの時は、この薬を使ってイツキさんに眠ってもらうです〜」

 

「……コンパって、思ったよりもちょっと黒いのかしらね……」

 

「?」

 

ノワールのつぶやきを聞き取れなかったコンパはただ疑問符を浮かべるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー」

 

ネプテューヌは元気な掛け声で店の敷居をまたいだ。その後にアイエフ達が続く。

 

「シアンー。武器のテスト終わったよー」

 

「お、意外と早かったな。それじゃ後で使い心地と改善点を400字詰めの作文用紙に5枚以上で纏めてくれ」

 

ネプテューヌの声に反応したその人は、見た目はどうも美少年のような外見だが、これでも歴とした女性であるシアンだ。

 

「えー!?私、作文とかデスクワーク的な作業は苦手なんだけど!?」

 

「ハハハ!冗談だよ。それで、アヴニールの方はどうだった?」

 

彼……いや彼女は下町のある1つの町工場の社長である。今回アヴニールの依頼を受けて現状を探るように頼んだのもシアンなのだ。

 

「その話なんだけど、今回はハズレだったわ」

 

「わかったのは、アヴニールが新しい工場を建てようとしていることくらいね」

 

「あいつら、また工場を作るのか!?」

 

ノワールとアイエフの報告にシアンは座っていた椅子から立ち上がり驚いた。乱暴に立ち上がったために椅子は床と激突し甲高い音を響かせた。

 

「工場がどうかしたの?別に企業が工場を新設するくらい驚くほどじゃない気がするんだけど」

 

「お前らにとっては他人事かもしれないが、こっちはアヴニールが次々と工場を建てるせいで、自然破壊が深刻なんだ。あいつらのせいでこの数年間にいくつ森が伐採されたことか……!」

 

シアンは悔しげに拳を握りしめていた。悪いことが起こっていると理解してはいるが、何も出来ずにアヴニール凶行をただ見ているだけの自分の無力さを呪っているのだろう。

 

「このままじゃ、ラステイションが住みにくくなってしまうです」

 

「それを防ぐためにも、もう一度アヴニールの仕事を受けてみましょ」

 

「そうね。今回がダメでも、次で情報を手に入れられるかもしれないわ」

 

「……お前ら……」

 

悔しげにつぶやくシアンに、コンパとアイエフとノワールは慰め、シアンの力になろうと明言する。それに感銘を受けているシアン。店の空気は良い方向へと一体感を増していた。

 

が、

 

「でもってー、隙あらば秘密工作しちゃうもんねー」

 

「「「……」」」

 

空気読まないキャラのネプテューヌはいつもの調子で過激なことを言い、アイエフ達は頭を抱える。

 

「おいおい、あんまり過激なのはよしてくれよ……」

 

シアンも少し呆れ気味だったが、どうも毒気が抜けたようで少し微笑みも浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと……確かこの辺か……」

 

アイエフさんから聞いた外食場所は、僕がクエストからホテルに帰る道中の途中にある店だった。

 

こう言う『集合場所は帰り道の途中なのに一回家に帰らなくちゃいけない』みたいなことが起こるとどうも無駄なエネルギーを消費したような気分になる。最もそれが引き起きた原因は自分の余計なお金を持つことへの抵抗なのだから文句は言えないのだが。

 

「あ、あれかな?」

 

燃えるような夕焼け空がラステイションをほのかに照らしているにも関わらず、夜のような寂れた空気で満ちている下町の一角で、賑やかな声が少し聞き漏れている店があった。おそらく外食場所はあの食堂なのだろう。僕は足をその店に向けようとしたときだった。

 

「……?あれは……」

 

店の間の裏路地への道の入り口から人が現れた。恐らく店の中のネプテューヌさん達の会話を盗み聞きしていたのであろうその人物には見覚えがあった。

 

「ガナッシュさん……?」

 

そうアヴニールのガナッシュさんだ。ここに来ていると言うことは恐らくだがネプテューヌ達のことを疑い、追跡したのだろう。

 

ガナッシュさんは少し落ちていたメガネを人差し指で持ち上げ掛け直すと、携帯電話を耳に当てながら僕のいる位置から反対の方へと消えて行った。

 

「……」

 

こうなった以上アヴニールはネプテューヌ達のことを警戒、いや恐らく敵視するだろう。何かしらの対応はして来る筈だ。

 

これはアイエフ達に報告すべきことなのだろうが……僕は今日あったばかりの人物で、アヴニールの関係者と疑われいる以上、このことを伝えても罠か何かと勘違いされるかもしれない。

 

それに、ガナッシュの目的は恐らくネプテューヌ達だけでは無く……

 

「……まあ、とりあえず店に入るか」

 

思考状態に入ってそのまま抜け出せなくなるのは僕の悪い癖だ。この情報まとめはホテルに帰ってからにしよう。

 

僕は少し古びた戸を開けて暖簾をくぐった。

 

「おー。お兄ちゃん意外と早かったねー」

 

小さな古き良きと言う感じの店の中、開口一番に話しかけて来たのはネプテューヌだった。まだ料理は並んでいないから向こうも着いたのはついさっきぐらいなのだろう。

 

「何だ、お前らの知り合いか?」

 

僕のことを指して話しているその人はどうも中性的な顔付きで、声のトーンから辛うじて女性と分かる。頭にゴーグルを着けているせいで見た目だけでは男性と勘違いしてしまいそうだ。

 

「そうだよシアン。今日一緒にアヴニールの仕事を受けたんだよ」

 

「へー、そうなのか。俺はシアン。お前は?」

 

「僕はイツキです。よろしくシアンさん」

 

「ああ、こちらこそ」

 

シアンさんは特に疑いもせず僕と握手をしてくれた。まあアヴニールの仕事受ける=悪い奴という結びつけをするのはネプテューヌくらいだろう。忘れてはいけないのはアヴニールは大企業。企業は顧客がいなくてはならないからアヴニールをラステイションの大衆は多分うけいれているのであろう。構図はあくまでアヴニールVS下町の工場達であるのだ。

 

「それじゃ、全員揃ったみたいだし少しおふくろの手伝いをしてくる」

 

シアンはそう言うと調理場であろう部屋の暖簾をくぐっていった。

 

僕はネプテューヌ達が座る6人掛けの大きなテーブルに座る。向かいにはノワールさんもアイエフさんとコンパさん、同じ席にはネプテューヌと今はいないがシアンさんが同席している。

 

「ねえねえお兄ちゃん?」

 

ネプテューヌはテーブルに伏せ、お冷を弄りながら横にいる僕に問いかけて来た。

 

「ん?何?」

 

「お兄ちゃんって、アヴニールの関係者なの?」

 

ドゴっ!と言う古めの木製のテーブルに、ヒビが入るのでは?と思う程の大きな衝音が2つほど鳴り響いた。その音に驚き向かい側の席を見ると、ノワールさんとアイエフさんがテーブルに突っ伏していた。

 

「ねねねねねネプ子!?ああああ、アンタ何言ってんのよ!?」

 

「そ、そそそそうよ!どうしてそんな核心に迫ること聞いてんのよ!?聞くならもっと外堀から埋めなさいよ!何いきなり本丸攻めてんのよ!!」

 

起き上がり、案の定頭から血を流しながらネプテューヌを問い詰めている。あまりのネプテューヌの爆弾発言に動揺して、ノワールさんに至っては自滅発言をしている。

 

「あー……2人とも」

 

「はっ!?い、イツキ!?何でもないのよ!今のはネプ子の独り言なの!」

 

「そ、そうよ!だからイツキのことをアヴニールの関係者とかって疑っているとか、もしアヴニールの関係者だったらちょっと眠ってもらおうとかそんなことは無いのよ!?」

 

……ノワールさんはテンパると、ドンドン墓穴を掘ってしてしまうようだ。

 

「ふ、2人とも落ち着くです!ま、まずは止血しますです!」

 

「頭に血を流しながら迫るのは、さすがの私も引いちゃうかな〜」

 

コンパさんは慌てて救急セットを取り出し、すぐ隣にいたアイエフさんの止血を始め、ネプテューヌはネプテューヌで少し身を引いていた。

 

「と言うかネプテューヌ!貴方が変なこと言うからこんなことになってるのよ!ネプテューヌの馬鹿!」

 

「な、何かこっちに飛び火して来たんだけど……」

 

「罰として生ナスをあなたの口に突っ込むわ!覚悟しなさいネプテューヌ!」

 

「ちょ!どこから取り出したのそのナス!助けてお兄ちゃん!」

 

「何故僕に助けを求める!?」

 

正直助けをもとめられたところで何かできるとも思わないんだけど……今のノワールさんの目は割と本気だ。

 

「さあ口を開けなさい!ネプテューヌ!」

 

「そう言われて開ける奴はいないよ!戦術的撤退だ!」

 

席から立ち上がり、店を飛び出そうとするネプテューヌ。しかしそれは思わぬ伏兵によって止められてしまう。

 

「待ちなさいネプ子……」

 

「うわ!あいちゃん!?何で私の腕を抑えてるの!?」

 

「今よ!ノワール!」

 

「でかしたわアイエフ!」

 

「ねぷっ!?まさかの裏切り!?」

 

「さあネプテューヌ!覚悟しなさーーい!!!!」

 

「ねぷぅううううううううううううううううう!!!!??!?」

 

後日談ではあるが、このネプテューヌの絶叫は下町全域に響き渡っていたらしい。迷惑甚だしいものだ。

 

 

 

 




えー……非常にダラダラやっております……

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