IS 化け狐と呼ばれた男 リメイク   作:屑太郎

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語尾に縛りプレイを入れるとなんか卑猥に聞こえる。

真っ暗な空間に人の気配が二つ、どちらも親友の再会を喜んでいるような喜色とは程遠い気配を放っていた。

そんな中、片方の気配が口を開いた。

 

「報告だが、ついに奴が動き始めた。」

 

男の重く苦しい、腹のそこから響く声がその空間に投げられる。

 

「そう…………私にも、影響が来るわね。」

 

その声を返したのは甲高いとはいえない、落ち着いた物腰の才女を思わせるような女の声だった。聞く者に切なげな印象を与える言い回しで、その声の主はそういった。

 

「どうする?」

 

「私のほうの問題はすでに解消済みよ。だけど、それを奴が知っているか知っていないか」

 

一瞬で、空気が切り替わった。

 

「お前が掴んだ奴の動向はどうした?」

 

「私からは音沙汰無しよ。腐っても暗部って所かしらね?」

 

「俺としてはそのまま腐り落ちて欲しいんだがな。まあ、いい。奴の最近の動向に…………」

 

「ちょっ、もう止めない?」

 

女の声がさっきの雰囲気から一変して、かなりフランクな口調になる。

 

「ええ?これからが楽しいのに。まあ良いや。」

 

どこからかカチッと言った音がした。するとその空間に電気が灯り二つの声の主が姿を現した。

 

「何やってるの康一?」

「ちょっと報告をな。まあ、なんにせよ久しぶり簪」

 

…………いや、ちょっと暗躍感を出したかっただけなんだ。

 

「んで、生徒会長さんがやり始めたのは、文化祭での全員参加型の催し物らしい。そのための準備が刻々と進んでいるらしい。」

 

「どうやってその情報を仕入れたの?」

 

「企業秘密」

 

「あっ、はい。私のお父さんに頼んで空にしたのね。」

 

「なんで分かるんですかねぇ(怒)」

 

「貴方の常套手段だし。」

 

「何時も使ったわけじゃないけどな。つまりはそういうことだ、たぶんこの後は一段落するだろう。その時はきっとそっちに飛び火する。」

 

「ああ、そう。そっちも頑張ってね。」

 

「俺も今回のことで狙われないとは思うが、用心しないとな」

 

実際は俺から当たりに行くんだがな。それは黙っていた方がいいだろう。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

「用心しないとなとか言っていたんですがねぇ」

 

「そうなの?だけど残念ね。」

 

「ええ、荒縄で俺の体をグルグル巻きにするようなヘンタイ趣味の人に拉致られるのは非常に残念ですね」

 

俺は今生徒会長さんに拉致られている。もっとスタイリッシュにやって欲しいもんだ。

 

「それより、なんですか?この状況?女王様の練習ですか?」

 

「よくもまあ、しゃあしゃあとそんなことを言えたわね?。」

 

口元で扇子を開く、そこには謎と書かれていた。俺も謎だよ。

 

「はて?何のことやら?」

 

心当たりとしては一つある、以前顔を見せた生徒会長は、あの日以来俺の身柄を確保しようと躍起になっているのだ。絶対に自衛の為の特訓とかやるんだろう(と言うより一夏が必死に練習していたのを見た)が、俺はそれ以前にやることがある。

 

「なんで、そこまで逃走技術があるのかしら?」

 

「ああ、いじめられていたんで、朝飯前ですよ。それに、強者の気持ちを読むのは長けているんです。」

 

上手く取り入るとか、怒らせるとか。まあ、本当の強者は怒らないが。

 

「確かに、人に溶け込むような…………いや、溶け込ませちゃいけないタイプね。」

 

持っていた扇子を閉じて、頬に当てる。よくそこらへんの癖を見ればウソも見破れるな。

 

「あらら。やはりそうですか。で?どうするんですか?この状況からでも入れる保険があるのであれば私は大歓迎しますがね。」

 

「私のコーチを受ける気はない?」

 

「ないですね。」

 

それよりやることがあるんだってば。

 

「このままだと死ぬわよ?」

 

「バカか。…………失礼。ですがそれは覚悟の上です。と言うかISなんて化け物を男の俺に放ってこられた時点で覚悟はしています。しかも、俺は後ろ盾が全くない。」

 

後ろ盾の部分はまったくのウソだ。

 

「母に復讐できるわよ?」

 

「良い者が発して良い言葉じゃないですね。それに、母は一度も会ったことはないので特に何も思っていません。」

 

俺の出自を調べたりして、やる気を起こす言葉を選んでいるのだろう。俺が動く理由って金ぐらいしか思い浮かばないし…………そうだな、この状況を打破する言葉は。

 

「君は弱いし、このままだったらすぐ死ぬわ。それでもいいの?」

 

「俺が弱くても誰が迷惑が掛かるわけでもあるまいし」

 

本当にその一言に尽きる。

 

「…………君が弱かったら、一夏君が助けようとするわ。あの子は確実に、どれだけ自分が傷付こうとも。」

 

理由が出来た。俺が腰を上げる理由が。ありがとう君が優秀じゃなかったら、こう上手くは行かなかったよ。笑みを今日食べる夕食のように殺した。

 

「そして、周りの人が手を貸すわ。巻き込んで巻き込んで、彼の人脈は凄いわよ?」

 

それは十二分に分かっていることだ。今、活かさなければいけない感情は悲痛、自身の力なさを恨むようなそんな感情。

 

「そうですね、俺とは比べるべくもない。」

 

正直、ここで流されて特訓エンドが一番楽であることは間違いないんだが、後がめんどくさい。だけど、泥を被るくらいなら出来る。と言うかうっ血してきて感覚がなくなってきた。

 

「だが、そんな俺をどうしてコーチしてくれるって言うんですか?」

 

「…………世界的にテロ組織にISが渡ると痛いのよ。それの自衛のために貴方を強くするの。」

 

まあ、予想は付いていたがな。ここ最近IS学園の事件といえば、4つ、無人機襲撃、ISの暴走×2、その内テロ組織『ファントムタスク』の介入が入っているのは3/2。ここまでやられているんだから事前策も必要だわな。つーか、俺程度が調べられる情報など俺以外の誰かには絶対に知っていると思うわ。

 

「あんた側の事情は分かりました…………ですが、条件、というよりお願いを聞いてもらってもいいか?聞かなければISを持って高飛びという強硬手段もとることは厭わないですよ?」

 

「させると思って?」

 

「フッ、出来るとお思いで?。」

 

「そっち!?。……………で?条件って言うのは?」

 

「俺を生徒会の小間使いにしてくれればいいです。それがコーチを受ける条件」

 

むしろ、俺に必要なのは情報だ、そこで一括で情報収集できれば俺がジタバタする必要はない。ここまで粘ったのはこの生徒会長へのキャラ付けだ。

 

「うーん、なんと言うか。貸しを作っているのか、借りを作っているのか分からないわね。それ」

 

確かに俺は借りを作ったとも言えるし、貸しを作ったともいえる。

 

「ええ、コーチつけるって言うことをして貰っているのに対して。俺が何もしないわけにはいかないですし…………そうですね、忙しそうだし文化祭の間くらいは小間使いになっても良いと思っています。」

 

「なにが目的なの?」

 

…………切り札。貰うぜ。その笑顔の化けの皮を剥がしてやる。

 

「更識簪」

 

一人の妹の名を言う。俺のではない、この目の前にいる生徒会長の妹だ。喰らいつけ喰らいつくんだ。

 

「なにが言いたいのかしら?」

 

「不仲なんでしょう?」

 

笑顔で言う、まるで口の中の飴玉を転がし楽しんでいるように。

 

「…………そうよ、それがどうしたというの?」

 

「学校の一大イベント文化祭だ。そりゃ、簪さんだって生徒、浮つくのも無理はない。」

 

「どうしたといっているんだけど?」

 

「それ、本気で言っているとしたら一夏レベルの鈍感ですよ?日常生活に支障が出るレベルで、病院にいくことを進めるますよもちろん、頭のね。」

 

「彼のことをどう評価しているの!?」

 

「最強のブラコン、もしくは鈍感系主人公ですね。……………話がずれました。俺が、貴女方の姉妹仲を改善したいと思っています、なにか文句でも?。」

 

むしろ、改善しろ。まだ救いようのある両親を持っているんだからよぉ。っち、マジで恵まれていることに感謝しろよ。

 

「なんで…………?」

 

「その理由まで話すのですか?」

 

早くしてくれ、そろそろ感覚が無くなって来た。それに、たぶんこの人は俺が簪と恋仲になり、書類をチョロチョロっと改変して一緒の部屋にしようとか考えているんじゃないだろうか?

 

「ええ。」

 

「…………俺は親と、あまり顔合わせたことがないんで。そんなんですから、どうにも家族というものが不仲になるといやな感じになるんですよ。」

 

「そう」

 

この場合、親と顔を合わせたことがないか真実で、それから後がウソだ。

 

「で?どうする?この条件飲む?」

 

「願ったりかなったりで嬉しい限りよ」

 

でも、それが怪しいのよ。と言葉には出さないが、その表情がそう物語っていた。まあ、手元に置いておくということは反乱もしくはそれに準じるような行動をしても、すぐに対処できると判断したからなのだろう。それ、正解。

 

「それじゃ、よろしくお願いしますね。」

 

「ええ、時間も惜しいし特訓。覚悟していなさい?」

 

こうして、生徒会長からのコーチを受ける事になった。

 

「で?名前聞いてなかったんで教えてもらえます?」

 

「知らなかったの!?」

 

「名前を呼んだことは一度もないんですが?」

 

「更識楯無よ。改めてよろしく。」

 

といって、踵を返した。その後姿は惚れ惚れするほどに美しいと思った。

 

「…………って、縄外せぇ!!」

 

「散々、私をコケにした罰よ」

 

いつの間にか開いた扇子には罰と書かれていた。…………そりゃねぇよ。

気付かれない程度に、俺は溜息を付いた。

 


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