授業という名の苦行
「ああ、死ぬかと思ったぜ」
俺こと相澤康一は前回の夏休みの宿題+補習を一日で終わらせると言う苦行を果たし、その第一回目の授業を受けに行くところだ。全く最初からISの実習だなんて、運が悪い。
「実際に康一が鬼気迫るような顔を始めてみたな。」
俺が隣を歩いているのは織斑一夏。とりあえずその性質を簡単に紹介すると、鈍感系主人公の一言に尽きる。まあ、それなりに強くなる理由や天才設定などもあるが、それははしょる。
俺たちが歩くIS実習の為のアリーナに行く途中の廊下が、清掃員のおじさんに敬礼したくなるほどに蛍光灯の光が反射している。暇なことだ駄弁りながら歩いていこう。
「死にそうになったら誰でもそうなるわ。どうだ?泣くまでやっちゃろうかゴラァ」
俺は少しシャドーボクシングの真似事をした。喧嘩を売っていくスタイルであるのは間違いは無い。
「やめておく、俺より強い人が止めに来るから」
「まあ、そこまで本気じゃないし、次の授業に腕釣ったままIS乗るのは望ましくない。」
「それは当たり前だろ、と言うかこんな所に抜け道が有ったとは…………。」
「何時も授業に遅れそうになるお前を見越してな、いやぁ、大変だったぜ…………買収が。」
一夏の声真似をして即興BL演劇の音声を漫画研究会売りつけたり。ただ単に金とか写真とかな。
「なんか不穏当な言葉が聞こえたけど、どうした?」
「なんでもね、さて新学期初めてのIS実習、そして俺の始めての初陣だ」
どれだけ、戦闘を回避してきたと思っているんだ…………大体俺が真正面から戦って勝てる相手でもないだろうに。
「いっちょ気合入れて行きましょうや。」
「そうだな」
◆ ◆ ◆
さてと、今回は対岸の火事じゃないし。ちゃんと見ておくか。
最初にやるのは一夏VS凰、その次にオルコット嬢VSデュノアの娘っこ、ラウラVS俺という順番になっている。箒さんは専用機を持ったばかりということで待機。
「最初に専用機持ち達の実践を見てもらう、見ることも勉強だ」
管制塔から出てくるその担任の言葉に全員が首肯した。ここで首を振っても意味は無いのに、ここら辺は正直調教といっても良いレベルだろう。
「それでは、織斑、凰!始めろ。」
「「はい!」」
さて、ISを展開したな。
展開したISは凰の機体は近距離用格闘タイプの機体「甲龍」この機体のミソは特種兵装「龍咆」空間に圧力を掛けた見えない砲身砲弾を、威力を自由に変えながら撃てる優れもの。
なんか、初めてまともにISの説明したような気がするなぁ。
対して一夏の機体は「白式」極近距離格闘タイプの機体……………だったのだが、例の事件ISが暴走した時にセカンドシフト(つまりはパワーアップ)を果たしシールドに量子荷電砲、そしてクロー。他にはブースターが二つ程増えて、四個になっている。
元々ピーキーな機体に無理やり汎用性を持たせて逆にピーキーになっている不思議な機体だ。
そんな二人の試合展開は、凰のヒットアンドアウェイに一夏が喰らいつくといった感じになっている。…………しかし、一夏も強くなったもんだな。けど詰めが甘い。なんでピーキー機体なのに普通に扱ってんだよ。
あ、一夏が良いところまで行ったけどやられた。
次はオルコット嬢とデュノアの娘っこだな。
同じように展開して、そのまま上空へ。
オルコット嬢の機体は中距離射撃のオールレンジ攻撃の機体「ブルー・ティアーズ」これはアレだ、ピットとか言う特種兵装が売りだ、まあ、アレだファンネルだ。
デュノアの娘っこの機体は中近距離用の機体「ラファール・リバイブ」これはアレだ、あの親父のことだから魔改造を施されたISの皮を被った化け物だ。
実際の機体スペックは、器用な汎用機カスタムの域から出ていない。しかし、それを操る人物が問題だ、機体の持っている器用さを最大限に活かしきるラピットスイッチと言う技術。
通常ISは武器の呼び出しを行うのに少しのラグのようなものがあるのだが、それを人間が認識できるか出来ないかのレベルで行う、すると、武器の特性を切り替えつつ攻撃できるので非常に有利という寸法らしい。
と言うか、本当にここまでISのこと話すのは初めてなんじゃ?試合は、オルコット嬢の勝ちだ。
さて、次は俺の番か…………。
俺とラウラの出番になった。
「それじゃ、よろしくお願いしますよっと。」
「よろしくお願いします!!」
挨拶をしながら「カゲアカシ」と呟き装備した。このカゲアカシはオルコット嬢の専用機と同じ中近距離でオールレンジ攻撃が出来る。むしろ、推奨する用法で戦うとビットによるオールレンジ攻撃しか出来ない。しかし、謎技術でビット一つ一つのエネルギーを凝縮して放つものとか、ビットから出るビームサーベルがある。
とまあ、そんなステキ機体だが、今回は全然それを使わない!。
対して、ラウラの機体は「シュヴァルツェア・レーゲン」そうだな、これを一言で表すのであれば「ドイツの技術力は世界一ィィィィッ!!」だ、緊縛プレイの縄、プラズマ手刀、レールカノン、そして相手の動きを無条件で止めるAICなどがある。もちろんそれを操る腕も凄いのだ。
まあ、それ以外のものも有ったわけなんですが。
さて、始めるか。
「ほれ。」
俺は大量にスモークグレネードをばら撒いた。これは別にISの目晦ましになるとかそういうことではない、普通に
「何がしたいんですか?」
「こんなふうにするとさ…………あの馬鹿げた一撃が全部推進力に変わるんだよね。」
俺はゴセイヘッ○ーの取り付け口のような場所に、全15個のビットをくっ付けた。俺とラウラの距離は5mほど、それを。
「十五夜」
ドコン!!
一瞬でつめて推進力を打撃エネルギーに変え、それを腹に突き刺すように打つ。異常なまでの拳の加速についてこれず、肩の辺りから変な音がしたが、力で強引に押し戻す。
このままじゃ不味いどうにかしてベクトルを地面に向けて放たないと肩が脱臼するし、それ以前にラウラが滅茶苦茶くるしそうだ。
「やった!」
ベクトルを下に向けても痛い!?ヤバイ、壁に突き進んでく拳って、さっきは、抜けるような痛みがしたけど、今回は押され過ぎてヤバイ!あの「ラグナロクの一撃」よりかは痛くないけど、これは日常からしたらマジでいたい!脱臼しかけるような痛み!やるならやれ!
「あ、エネルギー切れた。」
全部のペトゥルのエネルギーが切れて拳の推進力が無くなった。それと同時に俺の肩の痛みもなくなってきた。ラウラ、気絶してるし。
「…………やっちまった。」
丁度スモークが晴れた。
「勝利か、物凄い後味が悪い。」
『そりゃ、まともに戦っていないからだよ。』
とりあえず、気絶したラウラを運んで俺の戦歴に白星がついたことを、ここに記しておこう。
◆ ◆ ◆
俺が勝利し、その後ワチャワチャと実習をして終えた授業と授業の間の休み時間だ。色々と勝利について先生たちの頭を悩ませたりしたがそんなことはどうでもいい、もうそろそろ
「お前、何やったんだ?」
「企業秘密です。」
大体勝てたのってカゲアカシのスペックとただの奇襲だ、むしろそれ以外で要因と言えばスモークグレネードだな、アレで注意力が散漫したんだ。
そんな話をしていると、不意に後ろから肩を叩かれ、そして振り向いた。
そこには、水色の髪の毛の赤みがかった目が特徴的な、何処かで見たことあるような気がしないでもない、まだあどけなさを残した女性の顔が目の前にあった。
その女性は唇に人差し指を当てて俺に黙っているように指示し、一夏の真後ろに立った。
それ、ゴルゴだったら死んでいるぞ?
そして、嬉々とした表情で手で視界を塞いだ。なるほど一拍置いたのは。
「ダーレダ!」
俺が野太い声で、そう言った。
「ええ!?……………だれ?」
ですよね、イタズラってとても楽しいですね。一夏が、手を振りほどいて、俗に言う「だーれだ」をした人を見た。
「本当に誰!?」
「引っかかったな~」
さて、俺はこの人間が一夏に気を取られているから逃げるか。逃げるが勝ち!
この、一瞬の出会いは…………かなりの命運を分けたんだ。
「……………全力で走っても時間には勝てなかったよ。」
完全に次の授業に遅れた。
「相澤、何か言い訳があるなら聞こう。」
殺気を出している、少し握りこんだ拳が鉄菱と呼ばれる握り方になっているほどには怒っている。こうなれば!
「変な女に絡まれたんで一夏になすりつけてきました!!!!」
ドムッ!!
「人間の……………クズが。」
「せめて反論できる悪口でお願いできませんかねぇ」
俺は腹を殴られ過呼吸になり足をプルプルと震わせながらそういった。てか衝撃を殺し切れなかったぞ。
「すみません!遅れました!!」
「良いんだ、災難だったな。さあ、席に戻れ。」
「一夏、貸し一な」
「えっ!?なにがあった?」
クソ、あれこの学校の生徒会長じゃねーか。なんだってあんな所に……………。
「それでは授業を始める。」
担任殿の号令で授業が始まり俺は震える脚で席についた。