夏休み……………なんて甘美な響きなんだ…………。と思っている時がありましたね。
「この夏休みの敵を倒すまではッ!」
ただ!夏休みの敵を終わらす為だったらこれだけ楽なことはない。だが!
「康一…………お前今日が夏休み最終日だぞ?」
「そうなんだよね。」
いろいろ。やってたからなぁ。
「って、どれだけ溜まってるんだ?」
「ほれ、アレじゃ。」
「……………アレ、積ん読じゃなかったのか?」
「俺がどれだけ本読むと思ってるんだよお前は。天井までそそり立ってるじゃねーか。」
俺の前に宿題の塔が建築されている。
「その量を全部やってないのか?」
「ああ、ものの見事に」
なんでやねん、本当にもうさぁ。どこぞの蛇のようにやった諜報行動とか知り合いに顔を出していたら長かった夏休みも塵芥だよもう。
「これも、これも、これもこれもこれも!全部やってねえじゃん!?」
「言っただろう?ものの見事に全部やってないと」
「お前、終わったな…………そうだ、康一昔話をしてやろうか?」
「フフッ、このような状況で光明が見出せるような話だったら大歓迎さ。」
と言うより、どうしてくれようか比喩でもなんでもないこの宿題の山は?
「それは、俺が中学二年生ぐらいの時だった。そのとき俺は、いつまでも帰って来ない千冬姉に苛立ちを感じながら待っていて、帰って来ないのが当たり前だった。そんな状況下で少し、そう少し羽目を外したときがあった。」
「夏の日の思い出だな」
俺も少々無茶をやらかした、今年の夏休みを振り返った。
「まあ、言うなればそうだ。そうしてある夏休みの時俺はお前と同じような状況になっていたんだ。そして…………運命の時がやってきた。
インターフォンが鳴った。俺は客人かと思った。その時はまだ、額から汗がにじむ夏の熱い空気が残っていて、夏バテした気だるい体を引きずり俺は玄関に出た。すると、いつもは顔を出さない千冬姉だったんだ。」
「それで?」
「夏の熱気が篭る玄関の中、何時ものように涼しい顔でこういったんだ。『ただいま』って。まあ、喜んださ。たった一人しか居ない肉親だ、お帰りと言ってスーツを渡すように手を差し伸べた。その時浮き足立ちながら、迎えようと麦茶を出そうとしたその瞬間」
「ゴクリ」
俺は固唾を飲み込んだ。
「『一夏。お前宿題はやったのか?夏休み中だろ?』次の日俺は、完璧な答案と三倍に膨らんだ顔を持って登校すこととなったんだ…………」
「一夏、お前誰が怪談をしろと言ったよ畜生!?」
おかげで俺の無い弾袋は縮み上がってるよ!?
ならば俺は、俺は生きる!生きて!ギャルゲと添い遂げる!!さあ!ペンを執れ!気合を入れろ!すべては、明日を生きる為に!!
「ウオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
生命の危機に瀕した時人間は走馬灯を見ると言う、その走馬灯の正体はその危機から脱する為に自身の持っている記憶を全て洗いざらい調べるのだ、それらが脳裏に浮ぶことを走馬灯と言う。
つまり、今の俺は完全な記憶を辞書のように調べられる…………光明が見えてきたぜ!!
「今更…………ウソとは言えないな。」
◆ ◆ ◆
夏の熱気が去りつつあるこの季節。IS学園1年1組の教室でその教室の担任、織斑千冬は教壇に立った。
「えー今日から夏休みも開ける。それにあたって、どうしても気が緩んだ者は出てくるだろうが、気持ちを切り替えろ。切り替えられなかった奴は私が直々に叩き直してやるから覚悟しておけ。」
「「「「「「「「「「「ハイ!!」」」」」」」」」」」」」
まるで調教された犬、もしくは軍隊のような合唱。それには似つかない高い黄色い声と形容されるような声で言った、つまりはここの慣例である。
その返事の余韻が残りそれが消えるか消えないかの時に、もう一人この教室の副担任、山田真耶が前に出て連絡事項を告げた。
「はい、それより。宿題ですよ。後ろの人が列の人みんなの分を持ってきてください。」
「俺は…………やりきったさ。」
「康一…………なんかおかしいと思ったらそれ全部補習だったのかよ!?それを一日とかポテンシャル高過ぎね!?」
酷くやつれきったような顔で、タワーを持っていた。